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第三章 遺跡の役目
第10話 やっぱり絡まれるよね
ソルトの体の一部が反応しないことにルーがなぜか謝るが、ソルトが気にすることはなく二週間が過ぎた。
その間にリリス達の服を用意し、人化スキルのレベル上げや、人の姿での魔法の行使や武器を使った訓練などをこなし、リリス達は様々なスキルを身に付けていく。
ソルトもニックの所へ卸に行ったりと動いていたが、ある日サクラに提案される。
「ソルトよ。娘達……カスミ達の人化も完璧になったことだし、そろそろ屋敷の外に出してもいいと思うんだが、どうだ?」
「そうだね。ギルドへの登録もあるし、うん。いいんじゃない!」
「「「「本当!」」」」
喜ぶリリスやカスミ達を見ると、ソルトはやっぱり早まったかなと思う。
「う~ん、どうすっかな~」
「なに? ソルトはなにが心配なの?」
「レイ。なにが心配って、リリス達の容姿だよ。顔は隠せても体を隠すのは難しいだろ。絶対に絡まれるよ。あ~もう、どうすればいいんだよ……」
「変なの。ソルトってば、まるでお父さんみたいね」
「お父さん……」
「だって、そうでしょ。娘が可愛くて他の男に声を掛けられるのを極端に嫌がっているお父さんそのものじゃん」
「ふふふ、そうね。レイの言う通りね」
「エリスまで……」
「なにを言う。カスミは私の娘なんだから、旦那であるソルトの娘でおかしくはないだろう」
「「「イヤイヤイヤ……」」」
可笑しな言い合いをしているレイ達を余所にティアがソルトに話しかける。
「ソルト君、リリス達を心配するのは分かるけど、いつまでも屋敷の中に閉じ込めておくことは出来ないのよ。それは分かる?」
「ティア、それは分かるんだけど……」
「それにソルト君の身内だと今の内にハッキリさせとくいい機会じゃないの!」
「俺の身内だと、なにかいいの?」
「え? 本気で言ってるの? だって、『殲滅の愚者』ってソルト君のことでしょ。そんな人の身内に手を出そうなんて思う人は、余程のバカか命知らずでしょ」
「『殲滅の愚者』……」
「あれ? ソルト君のことじゃなかった?」
「いや、凄く不本意だけど合ってるよ」
「なら、安心じゃないの。早いとこ身内宣言して手を出さないように言い含めなさいよ。それに彼女達だって、そういう手合いを振り払うことぐらいは出来るんでしょ」
「それは出来るっていうか、やり過ぎるっていうか」
「もう、いつまでもグダグダしてないで、さっさと行ってきなさい! ほら、リリス達ももう、準備は出来てるわよ」
ティアが言うようにレイと一緒にリリス達が準備を済ませ、玄関の前でソルトを待っている。
「ティアの言う通りだな。よし、行くか!」
「もう、ソルト遅いよ」
「どうしようもない、お父さんですね」
「そこが旦那の優しさだけどな」
「ソルトさん!」
「ソルト!」
「兄さん!」
「兄貴!」
いつの間にか、リリスがお兄様から『ソルトさん』と呼び方が変わっていることにソルトは気付くが、これは言っちゃダメだと思いリリス達と一緒に屋敷を出る。
ギルドに行くのにボードを出すが、そう言えばリリス達には作ってなかったなとソルトが気付き、ボードをしまうとレイ達に先にギルドに行って、サクラ達の登録をお願いする。
「ソルト。それぞれに好きな色があるだろうから、一緒に木工所に行こうよ」
「え?」
「私はソルトさんが勧める色ならなんでもいいですよ」
「私は選びたいかな」
「僕はね~」
「俺は金がいい!」
皆のそれぞれの意見を聞いたソルトがリリスに諭すように言う。
「リリス。こういう時はちゃんと自分の意見を言わないとダメだ。とりあえず、木工所に着くまでに何色にするかは決めといてね。じゃ、木工所に行こうか」
「「「「はい!」」」」
木工所ではそれぞれの好みの色を指定し、サクラの分も合わせて五台のボードの作成を依頼し、武具に防具に履き物とこれからの冒険者稼業に必要な物を揃えていく。
そして、やっとギルドへと辿り着くと、中にいた冒険者の視線がソルトを通り越し、後ろに並ぶリリス、カスミ、サクラへと絡みつく。
「あ~やっぱり、こうなるよな~」
「ソルト君、ちょうどよかった。ギルマスが呼んでるから。入って入って!」
「あ、いや、俺は、この子達の登録に来たんだけど……」
「いいよ。私達がやっとくから、終わったら適当にしているから」
「信用していいんだよな?」
「なに? 疑うの?」
「だって、レイだし……」
「ソルト、私もいるんだから。ほら、余計な心配しないで。ほら、早く済ましてきなさい」
「……」
エリスの言葉に渋々とギルマスの部屋へと向かうソルトを見て、サクラが言う。
「旦那は随分、心配性なんだな」
「そうね。私とリリス達への扱いが随分と差があるんだけどね」
「レイはしょうがないよね」
「そうだな」
「サクラまで……」
「ほら、いいから。先に登録しちゃいなさい。サクラからね」
「ああ、分かった」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ギルマスの部屋に通され、いつものソファに座る。
「ちと、待ってろ」
ギルマスがなにやら書類と格闘しているのを見ながら、ソルトはなんで呼ばれたのか理由を考えていると、部屋のドアがノックされゴルドが入ってくる。
「ゴルドさんも呼ばれたの?」
「呼ばれたの? じゃないだろ」
ソルトの横に座りながら、ゴルドがそう応える。
「あれから、二週間経った。再開するなら、いい頃合いだろ」
「ああ、そっか。それもそうだね」
「もしかして、お前……忘れていたとかないよな?」
「え? まさか……」
ソルトの顔を見ながらゴルドがあやしいと漏らす。
「あ~終わった。待たせたな」
ギルマスが執務机から顔を上げると立ち上がり、ソルト達の対面にドスンと座る。
「で、いつ再開するんだ?」
「ギルマス。こいつは忘れていたみたいだぞ」
「ゴルドさん! そ、そんなことは……ないですよ……」
「そうか、忘れていたと。まあ、それはいい。で、いつ再開するんだ?」
ギルマスから忘れていたことはいいから、いつ再開するんだと問われたソルトは、自分をジッと見つめるギルマス達の視線を感じながら、考える。
「それは……」
言いかけた所で、部屋のドアが乱暴に開かれ、職員が慌てて飛び込んでくる。
「ギルマス! 大変です!」
「なんだ? なにがあった?」
「いいから、早く来て下さい!」
「そういや、連れが一緒だったな」
ギルマスがそう言って、ソルトを一瞥すると職員に連れられて部屋から出て行く。
「まさかとは思うが……」
「ゴルドさん。その先は言わないで! 俺もそうじゃないかと思っているんだから……」
そんな風にゴルドと話していたソルトにギルマスの呼び声が聞こえる。
「ソルト! 聞こえているんだろ! さっさと来い!」
「やっぱり……」
「お前、なにをしたんだ?」
「俺じゃないって……」
「ソルト! まだか!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ソルトがギルマスに呼ばれ、部屋から出るとギルドの受付カウンターで予想通りにリリス達が若い冒険者に絡まれていた。
「やっと来やがったか」
「すみません。それで、騒ぎの原因は?」
「そんなもん見ての通りだ!」
「ソルトさん!」
「ソルト!」
「リリスにカスミ。ん? レイ達は平気なのか?」
「あ~私達には用がないみたいでね」
「そうね。その子達はリリス達の方が好みみたいよ」
そう言われて、ソルトはリリス達を自分の背中に隠し絡んでいた冒険者達を見る。
「なあ、どっちに掛ける?」
「バカ! 掛けになるかよ! 掛けるなら、秒数だろ!」
「でもよ、秒数って言っても、あの兄ちゃんだろ? そんな、0か1かの違いなんて誰が分かるんだよ! ったく賭が成立しないんじゃ興醒めだな。もう、いいから早くやられてしまえよ」
絡んでいた冒険者にも聞こえない筈がなく両拳をグッと握っているのがソルトが見ても分かる。
「で、なんで暴れているの?」
絡んでいた冒険者達にソルトが優しく問い掛ける。
「なんだよ! お前は!」
「俺? 俺はこの子達と同じパーティメンバーだけど?」
「なら、その子達を俺達に寄越せ!」
「そうだ! その子達は俺達と一緒の方がいい!」
「そうだな。その子達なら、色々と……」
絡んでくる冒険者達の視線に辟易しているソルトの視線に少しだけ落ち込んでいるサクラが目に入る。
「ねえ、カスミ。サクラはどうして落ち込んでいるの?」
「ああ、私がお母さんって呼んで閉まったので『オバさんに用はない!』って、言われてしまって……」
「ああ、そういうこと。また、面倒な……」
「おい! さっきからなに言ってんだ! さっさと寄越せよ!」
冒険者達の声にリリスはビクッとなり、ソルトの袖を掴む。カスミはなにも気にしていないようだが、少しだけ震えているのが分かる。
「やっぱり、訓練とは違うか。よし、ならこいつらを利用させてもらおうか。ちょうど都合よく五人だし」
「おい! 聞いてるのか!」
「聞いてる、聞いてる。よし、訓練場に行こうか」
「な、なんでだよ。そんなことはいいから、早くそいつらを寄越せよ」
ソルトが嘆息しまだ若いその冒険者の目を見ながら、言い聞かせるように話す。
「いいかい? さっきから言っているけど、この子達は俺のパーティメンバーだ。それを寄越せと言われて、はいそうですかと差し出す訳がないだろう。それは分かるよな?」
「な、なにをゴチャゴチャと! いいから、さっさと寄越せよ。寄越さないと言うなら、力尽くで奪うまでだ!」
「こんなこと言ってますけど、ギルマス?」
「あ~殺さないなら、なにやってもいいぞ」
「ふん! だってよ。命拾いしたな!」
冒険者がギルマスの言葉に反応しソルトを挑発するが、回りの冒険者達はそれを聞いて失笑する。
「誰か教えてやらないのか?」
「なんでだよ。折角、盛り上がってきたのに。なら、お前が教えてやれよ」
「ヤダよ。あ、そうだ。今の内に場所取りしとこ」
「あ! 汚ね! 俺も場所取りしとこ」
絡んできた冒険者達がどうやら、自分達の置かれている立場を段々と理解し、この場をどうやって乗り切ろうか、リリス達のことををどうやって納めようかと考え、『あの……』とソルトに声を掛けようとするが、その前にソルトが口を開く。
「分かった。じゃ、対抗戦だね。リリス達もそれでいいね」
「「「「「え?」」」」」
「ほら、折角この子達が相手をしてくれると言うんだから、練習に付き合って貰おうよ。ね?」
「でも、ソルトさん……」
そう言ってソルトの服の袖を掴むリリスの手はまだ震えている。
「リリス。今の自分の状態は分かっているよね?」
「はい……」
「なら、それを克服するためにも、今はやるべきだと言うのも分かるよね」
「はい。ですが、私は……」
ソルトの服から手を放したリリスは自分の服の胸の部分をぎゅっと掴む。
「リリス。残念だけど、絡まれるのはこれで終わる訳じゃない。このギルドでは最後かもしれないけど、これから色んな所に行く度にコレと似たような連中に絡まれることはあると思う。その度にリリスは誰かに助けて貰うつもりかい?」
「……」
「それに俺達はこんな連中と比べようもないくらいのまだ見たこともないような連中を相手にしなきゃいけないんだよ。もし、こんな連中に躓くようなら、このままリリスを連れて行くことは出来ないよ」
「そんな、ソルトさん。あんまりです!」
ソルトに拒絶とも言える言葉を投げ掛けられ、反発してしまうリリスに対しソルトが優しく話しかける。
「いいかい。君は自分が思っているより、強いんだから。あんな連中に怯える必要はないんだよ。もし、気にするのなら、やり過ぎて殺さないことくらいだから」
「私が……ですか?」
「そうだよ。リリスだけじゃなく、カスミもショコラもコスモだって、そうさ。あの屋敷で訓練していたでしょ。だから、十分に強いんだから。その証拠に俺だけじゃなく、レイもエリスも誰も心配してないでしょ」
「あ……そう言えば、そうですね。あれ? 私はなんであんな連中に怯えていたんでしょ?」
「ああ、多分だけど、単純に悪意とかじゃなく嫌悪感が分からなくて不安だったのかもね」
「嫌悪感?」
「そう、触られるのもイヤ、話しかけられるのも勘弁って感じと言えば分かる?」
「ああ! それです! 今、感じていた不快なものの正体が分かりました。これが『嫌悪感』なんですね!」
「そう、いわゆる『生理的にイヤ!』ってヤツだね。詳しくはレイに聞けば分かるよ」
「そう、そう言うのは私に任せなさい! って、なんでよ!」
「ふふふ。そうですね。分かってしまえばなんてことありませんね」
リリスから緊張が解け、絡んできた冒険者達を見つめ、自分がこんな連中のせいでソルトからもう少しで呆れられることだったことを考えると、フツフツと怒りが湧いてくる。
「いいでしょう。彼らには練習台になって貰いましょう」
リリスの雰囲気が変わったことに気付いた冒険者達がソルトに対し、許しを請うように土下座するが、ソルトは気にすることなくすごく優しい笑顔で彼らに言う。
「ほら、手を貸すから訓練場に行こうか」
「そうね。ほら、立って立って」
絡んできた冒険者達をソルト、レイ、エリス、ゴルド、それにギルマスがそれぞれ介助しながら訓練場へと運ぶ。
「なあ、俺達が悪かった。だから、頼む! 許してくれよ! なあ、後生だから!」
「ええ~俺に言われても困るな。それに彼女達を寄越せと言ったのは君たちなんだし。力尽くを選んだのも君たちでしょ。今更、ナシは無理だよ。大丈夫、息してれば治せるから……多分だけど」
「イヤ~~~~~!!!」
その間にリリス達の服を用意し、人化スキルのレベル上げや、人の姿での魔法の行使や武器を使った訓練などをこなし、リリス達は様々なスキルを身に付けていく。
ソルトもニックの所へ卸に行ったりと動いていたが、ある日サクラに提案される。
「ソルトよ。娘達……カスミ達の人化も完璧になったことだし、そろそろ屋敷の外に出してもいいと思うんだが、どうだ?」
「そうだね。ギルドへの登録もあるし、うん。いいんじゃない!」
「「「「本当!」」」」
喜ぶリリスやカスミ達を見ると、ソルトはやっぱり早まったかなと思う。
「う~ん、どうすっかな~」
「なに? ソルトはなにが心配なの?」
「レイ。なにが心配って、リリス達の容姿だよ。顔は隠せても体を隠すのは難しいだろ。絶対に絡まれるよ。あ~もう、どうすればいいんだよ……」
「変なの。ソルトってば、まるでお父さんみたいね」
「お父さん……」
「だって、そうでしょ。娘が可愛くて他の男に声を掛けられるのを極端に嫌がっているお父さんそのものじゃん」
「ふふふ、そうね。レイの言う通りね」
「エリスまで……」
「なにを言う。カスミは私の娘なんだから、旦那であるソルトの娘でおかしくはないだろう」
「「「イヤイヤイヤ……」」」
可笑しな言い合いをしているレイ達を余所にティアがソルトに話しかける。
「ソルト君、リリス達を心配するのは分かるけど、いつまでも屋敷の中に閉じ込めておくことは出来ないのよ。それは分かる?」
「ティア、それは分かるんだけど……」
「それにソルト君の身内だと今の内にハッキリさせとくいい機会じゃないの!」
「俺の身内だと、なにかいいの?」
「え? 本気で言ってるの? だって、『殲滅の愚者』ってソルト君のことでしょ。そんな人の身内に手を出そうなんて思う人は、余程のバカか命知らずでしょ」
「『殲滅の愚者』……」
「あれ? ソルト君のことじゃなかった?」
「いや、凄く不本意だけど合ってるよ」
「なら、安心じゃないの。早いとこ身内宣言して手を出さないように言い含めなさいよ。それに彼女達だって、そういう手合いを振り払うことぐらいは出来るんでしょ」
「それは出来るっていうか、やり過ぎるっていうか」
「もう、いつまでもグダグダしてないで、さっさと行ってきなさい! ほら、リリス達ももう、準備は出来てるわよ」
ティアが言うようにレイと一緒にリリス達が準備を済ませ、玄関の前でソルトを待っている。
「ティアの言う通りだな。よし、行くか!」
「もう、ソルト遅いよ」
「どうしようもない、お父さんですね」
「そこが旦那の優しさだけどな」
「ソルトさん!」
「ソルト!」
「兄さん!」
「兄貴!」
いつの間にか、リリスがお兄様から『ソルトさん』と呼び方が変わっていることにソルトは気付くが、これは言っちゃダメだと思いリリス達と一緒に屋敷を出る。
ギルドに行くのにボードを出すが、そう言えばリリス達には作ってなかったなとソルトが気付き、ボードをしまうとレイ達に先にギルドに行って、サクラ達の登録をお願いする。
「ソルト。それぞれに好きな色があるだろうから、一緒に木工所に行こうよ」
「え?」
「私はソルトさんが勧める色ならなんでもいいですよ」
「私は選びたいかな」
「僕はね~」
「俺は金がいい!」
皆のそれぞれの意見を聞いたソルトがリリスに諭すように言う。
「リリス。こういう時はちゃんと自分の意見を言わないとダメだ。とりあえず、木工所に着くまでに何色にするかは決めといてね。じゃ、木工所に行こうか」
「「「「はい!」」」」
木工所ではそれぞれの好みの色を指定し、サクラの分も合わせて五台のボードの作成を依頼し、武具に防具に履き物とこれからの冒険者稼業に必要な物を揃えていく。
そして、やっとギルドへと辿り着くと、中にいた冒険者の視線がソルトを通り越し、後ろに並ぶリリス、カスミ、サクラへと絡みつく。
「あ~やっぱり、こうなるよな~」
「ソルト君、ちょうどよかった。ギルマスが呼んでるから。入って入って!」
「あ、いや、俺は、この子達の登録に来たんだけど……」
「いいよ。私達がやっとくから、終わったら適当にしているから」
「信用していいんだよな?」
「なに? 疑うの?」
「だって、レイだし……」
「ソルト、私もいるんだから。ほら、余計な心配しないで。ほら、早く済ましてきなさい」
「……」
エリスの言葉に渋々とギルマスの部屋へと向かうソルトを見て、サクラが言う。
「旦那は随分、心配性なんだな」
「そうね。私とリリス達への扱いが随分と差があるんだけどね」
「レイはしょうがないよね」
「そうだな」
「サクラまで……」
「ほら、いいから。先に登録しちゃいなさい。サクラからね」
「ああ、分かった」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ギルマスの部屋に通され、いつものソファに座る。
「ちと、待ってろ」
ギルマスがなにやら書類と格闘しているのを見ながら、ソルトはなんで呼ばれたのか理由を考えていると、部屋のドアがノックされゴルドが入ってくる。
「ゴルドさんも呼ばれたの?」
「呼ばれたの? じゃないだろ」
ソルトの横に座りながら、ゴルドがそう応える。
「あれから、二週間経った。再開するなら、いい頃合いだろ」
「ああ、そっか。それもそうだね」
「もしかして、お前……忘れていたとかないよな?」
「え? まさか……」
ソルトの顔を見ながらゴルドがあやしいと漏らす。
「あ~終わった。待たせたな」
ギルマスが執務机から顔を上げると立ち上がり、ソルト達の対面にドスンと座る。
「で、いつ再開するんだ?」
「ギルマス。こいつは忘れていたみたいだぞ」
「ゴルドさん! そ、そんなことは……ないですよ……」
「そうか、忘れていたと。まあ、それはいい。で、いつ再開するんだ?」
ギルマスから忘れていたことはいいから、いつ再開するんだと問われたソルトは、自分をジッと見つめるギルマス達の視線を感じながら、考える。
「それは……」
言いかけた所で、部屋のドアが乱暴に開かれ、職員が慌てて飛び込んでくる。
「ギルマス! 大変です!」
「なんだ? なにがあった?」
「いいから、早く来て下さい!」
「そういや、連れが一緒だったな」
ギルマスがそう言って、ソルトを一瞥すると職員に連れられて部屋から出て行く。
「まさかとは思うが……」
「ゴルドさん。その先は言わないで! 俺もそうじゃないかと思っているんだから……」
そんな風にゴルドと話していたソルトにギルマスの呼び声が聞こえる。
「ソルト! 聞こえているんだろ! さっさと来い!」
「やっぱり……」
「お前、なにをしたんだ?」
「俺じゃないって……」
「ソルト! まだか!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ソルトがギルマスに呼ばれ、部屋から出るとギルドの受付カウンターで予想通りにリリス達が若い冒険者に絡まれていた。
「やっと来やがったか」
「すみません。それで、騒ぎの原因は?」
「そんなもん見ての通りだ!」
「ソルトさん!」
「ソルト!」
「リリスにカスミ。ん? レイ達は平気なのか?」
「あ~私達には用がないみたいでね」
「そうね。その子達はリリス達の方が好みみたいよ」
そう言われて、ソルトはリリス達を自分の背中に隠し絡んでいた冒険者達を見る。
「なあ、どっちに掛ける?」
「バカ! 掛けになるかよ! 掛けるなら、秒数だろ!」
「でもよ、秒数って言っても、あの兄ちゃんだろ? そんな、0か1かの違いなんて誰が分かるんだよ! ったく賭が成立しないんじゃ興醒めだな。もう、いいから早くやられてしまえよ」
絡んでいた冒険者にも聞こえない筈がなく両拳をグッと握っているのがソルトが見ても分かる。
「で、なんで暴れているの?」
絡んでいた冒険者達にソルトが優しく問い掛ける。
「なんだよ! お前は!」
「俺? 俺はこの子達と同じパーティメンバーだけど?」
「なら、その子達を俺達に寄越せ!」
「そうだ! その子達は俺達と一緒の方がいい!」
「そうだな。その子達なら、色々と……」
絡んでくる冒険者達の視線に辟易しているソルトの視線に少しだけ落ち込んでいるサクラが目に入る。
「ねえ、カスミ。サクラはどうして落ち込んでいるの?」
「ああ、私がお母さんって呼んで閉まったので『オバさんに用はない!』って、言われてしまって……」
「ああ、そういうこと。また、面倒な……」
「おい! さっきからなに言ってんだ! さっさと寄越せよ!」
冒険者達の声にリリスはビクッとなり、ソルトの袖を掴む。カスミはなにも気にしていないようだが、少しだけ震えているのが分かる。
「やっぱり、訓練とは違うか。よし、ならこいつらを利用させてもらおうか。ちょうど都合よく五人だし」
「おい! 聞いてるのか!」
「聞いてる、聞いてる。よし、訓練場に行こうか」
「な、なんでだよ。そんなことはいいから、早くそいつらを寄越せよ」
ソルトが嘆息しまだ若いその冒険者の目を見ながら、言い聞かせるように話す。
「いいかい? さっきから言っているけど、この子達は俺のパーティメンバーだ。それを寄越せと言われて、はいそうですかと差し出す訳がないだろう。それは分かるよな?」
「な、なにをゴチャゴチャと! いいから、さっさと寄越せよ。寄越さないと言うなら、力尽くで奪うまでだ!」
「こんなこと言ってますけど、ギルマス?」
「あ~殺さないなら、なにやってもいいぞ」
「ふん! だってよ。命拾いしたな!」
冒険者がギルマスの言葉に反応しソルトを挑発するが、回りの冒険者達はそれを聞いて失笑する。
「誰か教えてやらないのか?」
「なんでだよ。折角、盛り上がってきたのに。なら、お前が教えてやれよ」
「ヤダよ。あ、そうだ。今の内に場所取りしとこ」
「あ! 汚ね! 俺も場所取りしとこ」
絡んできた冒険者達がどうやら、自分達の置かれている立場を段々と理解し、この場をどうやって乗り切ろうか、リリス達のことををどうやって納めようかと考え、『あの……』とソルトに声を掛けようとするが、その前にソルトが口を開く。
「分かった。じゃ、対抗戦だね。リリス達もそれでいいね」
「「「「「え?」」」」」
「ほら、折角この子達が相手をしてくれると言うんだから、練習に付き合って貰おうよ。ね?」
「でも、ソルトさん……」
そう言ってソルトの服の袖を掴むリリスの手はまだ震えている。
「リリス。今の自分の状態は分かっているよね?」
「はい……」
「なら、それを克服するためにも、今はやるべきだと言うのも分かるよね」
「はい。ですが、私は……」
ソルトの服から手を放したリリスは自分の服の胸の部分をぎゅっと掴む。
「リリス。残念だけど、絡まれるのはこれで終わる訳じゃない。このギルドでは最後かもしれないけど、これから色んな所に行く度にコレと似たような連中に絡まれることはあると思う。その度にリリスは誰かに助けて貰うつもりかい?」
「……」
「それに俺達はこんな連中と比べようもないくらいのまだ見たこともないような連中を相手にしなきゃいけないんだよ。もし、こんな連中に躓くようなら、このままリリスを連れて行くことは出来ないよ」
「そんな、ソルトさん。あんまりです!」
ソルトに拒絶とも言える言葉を投げ掛けられ、反発してしまうリリスに対しソルトが優しく話しかける。
「いいかい。君は自分が思っているより、強いんだから。あんな連中に怯える必要はないんだよ。もし、気にするのなら、やり過ぎて殺さないことくらいだから」
「私が……ですか?」
「そうだよ。リリスだけじゃなく、カスミもショコラもコスモだって、そうさ。あの屋敷で訓練していたでしょ。だから、十分に強いんだから。その証拠に俺だけじゃなく、レイもエリスも誰も心配してないでしょ」
「あ……そう言えば、そうですね。あれ? 私はなんであんな連中に怯えていたんでしょ?」
「ああ、多分だけど、単純に悪意とかじゃなく嫌悪感が分からなくて不安だったのかもね」
「嫌悪感?」
「そう、触られるのもイヤ、話しかけられるのも勘弁って感じと言えば分かる?」
「ああ! それです! 今、感じていた不快なものの正体が分かりました。これが『嫌悪感』なんですね!」
「そう、いわゆる『生理的にイヤ!』ってヤツだね。詳しくはレイに聞けば分かるよ」
「そう、そう言うのは私に任せなさい! って、なんでよ!」
「ふふふ。そうですね。分かってしまえばなんてことありませんね」
リリスから緊張が解け、絡んできた冒険者達を見つめ、自分がこんな連中のせいでソルトからもう少しで呆れられることだったことを考えると、フツフツと怒りが湧いてくる。
「いいでしょう。彼らには練習台になって貰いましょう」
リリスの雰囲気が変わったことに気付いた冒険者達がソルトに対し、許しを請うように土下座するが、ソルトは気にすることなくすごく優しい笑顔で彼らに言う。
「ほら、手を貸すから訓練場に行こうか」
「そうね。ほら、立って立って」
絡んできた冒険者達をソルト、レイ、エリス、ゴルド、それにギルマスがそれぞれ介助しながら訓練場へと運ぶ。
「なあ、俺達が悪かった。だから、頼む! 許してくれよ! なあ、後生だから!」
「ええ~俺に言われても困るな。それに彼女達を寄越せと言ったのは君たちなんだし。力尽くを選んだのも君たちでしょ。今更、ナシは無理だよ。大丈夫、息してれば治せるから……多分だけど」
「イヤ~~~~~!!!」
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そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
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小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
スーパーのビニール袋で竜を保護した
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竜は、災害指定生物。
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ビニール袋から始まる、異世界保護ファンタジー。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
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王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
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充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~
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「充実した人生を送ってください。私が創造した剣と魔法の世界で」
唯一の肉親だった妹の葬儀を終えた帰り道、不慮の事故で命を落とした世良登希雄は異世界の創造神に召喚される。弟子である第一女神の願いを叶えるために。
人類未開の地、魔獣の大森林最奥地で異世界の常識や習慣、魔法やスキル、身の守り方や戦い方を学んだトキオ セラは、女神から遣わされた御供のコタローと街へ向かう。
目的は一つ。充実した人生を送ること。