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第三章 遺跡の役目

第16話 スーパーなんとかになったりするのかも

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『ご報告します。例の地脈への干渉ですが、どうやら失敗したようです』
「ふむ、詳しく聞いても?」
『はい。あの場所には黒龍を用意したのですが、その反応が消えました』
「なんだと! では、黒龍は討伐されたのか!」
『はい。確証はありませんが、地脈への干渉もなくなりましたし、黒龍の気配も消えたとなるとそうとしか思えません』
「そうか。そうだな、分かった。報告ありがとう」
『いえ。では失礼します』
報告者の気配が消え、一人になった部屋で腕を組み、次の策略について考える。
「さて、どうするかな」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「う……う~ん、ふぁ~あ、どうやら、寝てしまったみたいだな」
「ソルト、気が付いたみたいね」
目を開けたソルトを覗き込むレイにソルトは少し驚くが、今の自分が置かれている状況を確認しようと体を起こす。どうやら、ソルトはレイに膝枕をされていたようだ。
「起きて大丈夫なの?」
「ああ、問題ないみたいだ。レイ、俺が倒れた時のことを教えてくれるか」
「うん、いいわよ。あのね……」

ソルトがレイから聞いた話は……ソルトが好奇心からレイのナイフに付いた黒龍の血液を舐めたことが原因で急に意識を失い、その場に倒れ込んだソルトをゴルドとレイで抱きかかえ、木の根元に場所を移し、レイの膝枕で寝かされた……ということだった。

レイから話を聞いたソルトは立ち上がろうとするが、上手く立てずにフラついてしまう。
「大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だ。単なる立ちくらみだろ」
木にもたれながらなんとか立ち上がるが、何かがおかしい。
何度も目を擦り確認するが、やはりおかしい。
「なあ、レイ。気のせいだと思うが、お前縮んだりしてないよな?」
「はぁ? 何言ってんの。そっちがデカくなったの! なんでほんの一,二時間で背が伸びるのよ!」
「え?」
レイに言われたソルトは木の幹に自分の頭の一番高いと思われる位置から水平に掌を動かし幹に当てると、その位置で幹に少しだけ傷を付ける。そして、一歩引いた位置でその傷の位置を確かめると確かに百九十センチを超える位置にあった。
「どういうこと?」
不思議に思い腕を組もうとすると、そこで下着一枚だったことに気付く。
「え? なんでパンイチ? まさか……レイが?」
「バカ言わないでよ! なんで私がそんなこと……そりゃ、全く興味がないわけじゃないけど」
レイが憤慨しながらも教えてくれた内容によると、寝ている間にソルトの体が段々と大きくなり、次第に服が耐えられなくなり四散したと。だけど、パンツだけが破れないのは不思議だね。

「へ~そう言われてみれば、体もガチムチ系になったみたいだね」
「随分、他人事なのね」
「だってね、自覚がないからさ」
「そうなのね。じゃあ、早くシーナに連絡してやって。さっきから、迎えに来るはずのソルトが来ないし、念話も通じないってうるさいのよ」
「あ! そうだった。迎えに行かないと」
それだけ、言うとソルトは転移していった。

「あの格好でいっちまったのか?」
「そうみたいね」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「お待たせ!」
「ソルトさん! 遅いです! どうして念話に出てくれないんですか! きゃ! ソルトさん、その格好は?」
シーナが顔を両手で覆い隠しながら、聞いてくる。

「この格好はちょっと訳ありでね。じゃ、取り敢えず皆の元に転送するから」
「え? もうですか?」
「そ! じゃ、行くよ『転送』」

シーナを転送し、後は自分の服をなんとかしようとソルトはまずはとキャサリンの店へと転移する。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「よし、誰もいないな」
「居るわよ! で、いきなりパンイチで現れた変態さんはなんのご用かしら?」
「あ、キャサリン。ちょうどよかった。実はさ……」
「待って! だから、あなたは誰なの? 私にはパンイチで歩き回る変態に知り合いなんていないから!」
「え? 分からない?」
「分からないわよ! 私の知り合いとでも言うの?」
「非道いな~ソルトだよ。ソルト」
パンイチの変態がソルトと名乗るのを聞いて、キャサリンが一歩近付き、ソルトの顔を覗き込む。

「確かに面影はあるけど、ソルトって子は百六十センチそこそこなのよ。あんたは私より少し高いじゃないの!」
「そうだよね~小さかったよね~」
「ふん! まあいいわ。ソルトの知り合いなら、用件を伺いましょうか」
「やっと、話を聞いてくれるんだね。ならさ、前と同じ様に普段着と冒険者用のを見繕ってよ。お願い!」
「前と……同じ……えっ! 本当にソルトなの?」
「だから、さっきからそう言ってるじゃん!」
ソルトがそう言った瞬間にキャサリンが抱き着いてくる。
「ちょ、ちょっと、キャサリン?」
「ちょっと待って。もう少しで思い出せそうだから! スゥ~ハァ~スゥ~ うん、ソルトね」
「どういう覚え方だよ!」

ソルトからしてみれば納得は出来ないが、キャサリンがやっと本人だと信じてくれたので、服や下着を一通り揃えてもらい、その場で着替えと支払いを済ませ、店を出る。

「今度は履き物だな」
バイスさんの靴屋に向かい、キャサリンと同じ様にソルトだと説明するだけで疲れたが、なんとか信じてもらえたので、その場で購入したブーツを履き、革サンダルも今のサイズに合わせた物を購入し、皆の元に転移する。

「あ! 来たわね。へ~なるほど。コレがソルトなんだね」
「なんだよ、エリス。お前まで疑うのか?」
「別にそういう意味じゃないわよ。ただね、レイからの話じゃ外見だけでしょ? それで、ソルト自身にそうなった原因は思い当たることがあるんじゃないの?」
エリスにそう言われ、ソルトはナイフについた黒龍の血を好奇心から舐めたことを告白する。

「はぁ~バカなんじゃないの!」
「いやだって、『能力向上』って言われたら試したくなるじゃない」
「『じゃない』じゃないでしょ! 劇薬なのよ! 劇薬! 分かってるの!」
「はい、十分に身をもって理解しました」

ソルトの返事にエリスが頭を掻きながら、はぁ~と嘆息し、ソルトを見る。
「それでなんともないのね? 変わった所は外見以外にないの?」
「ちょっと待って。え~と、あ! なんか増えてるね。『龍魔法』? 『第一レベル解放』?」
「なにどうしたの?」
「いや、別に……」
ソルトはエリスに変わったところがないかと聞かれ、いくつかの差異を見付けるがなんとなくエリスには言わなかった。

「そう。で、これはどうするの?」
エリスが地面に横たわっている『魔素注入棒』を差す。
「どうしようか」
ソルトがそう言って、何気なく棒に触れる。まずいと思い急いで手を放すが、魔素が吸収される感覚はない。
「あれ?」
さっきの感覚を確かめてみようと、ソルトはもう一度、ゆっくりと棒に触れるが、やはり魔素が吸収される感覚はない。
試しに土魔法で発現した土を近付けると吸収されることから、棒としては生きていることをソルトは確認する。

「もしかして今の自分ならいけるかも」
ソルトはそう思い、棒に触れ無限倉庫へと収納してみる。すると、『魔素注入棒』はパッと目の前から消える。
「出来た……」
「なんだ。出来たのか」
「ゴルドさん」
「スマンが、正直まだ慣れないな」
ソルトを見たゴルドが済まなさそうに言う。
「ゴルドさんまで……でも、しょうがないか。まあ、適当に慣れてよ。だから、先に報告よろしくね」
そう言ってゴルドの両肩を掴んだソルトが申し訳なさそうに言う。
「またか……」
「ゴメンね。じゃ『転送』」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

執務机に座るギルマスが不意に何かを感じると『来る』とだけ呟き、部屋に置かれているソファを見つめると、そこにゴルドが現れる。
「よう、ギルマス」
「ゴルドか。お前がここに来たということは……終わったのか?」
「ああ、終わりだ。その報告の為にまた俺だけ飛ばされた」
「そうか、分かった。なら報告してもらおうか」
「いいけど、これから話すことは全部事実だからな。先にそれだけは言っておく」
「別にわざわざ念をおさなくてもゴルドの言うことを疑うつもりはないぞ」
「そうか。でも、話を最後まで聞いてもそう言ってもらえるといいがな」
「まあ、アイツらのことだ。信じられないことがあるんだろうな。分かったよ。ちゃんと聞くから話してくれ」
「じゃあ、話すぞ。いいな。再度言うが、全部真実だからな」
「分かったって、くどいぞ」
「なら、魔の森を抜けて、地脈が乱れている地点に着いたと思ったら……」

ギルマスに話し終えるとギルマスが一言、「嘘だろ」と漏らす。
「だから、最初に全部真実と言っただろ」
「そうだが……」
「信じられないのは分かるが、アイツらが帰ったらいくらでも聞けばいいさ。その問題の人物も連れてくるだろうしな。まあ、俺が言えるのはここまでだ。じゃあな」
「ああ、分かった。報告ありがとうな」
ゴルドは軽く手を上げるとギルマスの部屋を後にする。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「それで、その見知らぬ女性は誰?」
「すっかり変わってしまったソルトに言われるのも不思議だが、彼女はヂヌシの君だよ」
サクラがそう言って、綺麗な黒髪の女性を前に出す。
黒龍が人化スキルを使って人の姿になった、その姿は万葉集に出てくるような長く艶のある黒髪に細く華奢な体だが、出るところは出て、引っ込むところは引っ込むいわゆるボンキュッボンな体型で身長は百七十センチに満たないというまさにモデルのような体型だ。
そんな風に黒龍に見蕩れていると黒龍がソルトを見る。
「お前は私に話しかけていた少年なのか? 随分と変わったようだが……」
「まあね。俺も知らない内に変わったからね。証明と言われても困るけどね」
「ん? んんん? 少年、お前からは私と同族の臭いがする。フンフン……やっぱりだ。どういうことだ? 説明してもらおうか?」
「あ~実は……」

黒龍に迫られ全てを話す。
「お前は……」
そう、呆れられるが、もう済んだことは戻せない。
「面白いな」
ソルトが黒龍に話していたのを黙って聞いていたサクラがニヤリとする。
「黒龍でそこま変わるのなら、もしかして白虎の血でも変わるのかな?」
サクラはそう言うと左手の人差し指の先を少しだけ囓り血を滲ませると、それを口に含んだかと思うと、徐にソルトを抱き寄せ口づける。
急なことに抵抗する間もなかったソルトだが、今の体型ならサクラに負けることもないので、慌てて引き剥がす。

「サクラ、いきなり何を?」
口を拭いながら、ソルトは憤慨するが、頭の中で例のルーではない誰かの声が響く。
『条件を達成しました。第二レベルまで解放します。肉体レベルは十分なのでスリープモードへは移行しません』


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