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第41話 弱いからだよ

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「お前達、さっきから何を盛り上がっているんだ?」
「え? 何って……ナニ?」

 明良からの問い掛けに恒がなんとも言えない感じで返す。

『本当に僕が言うの?』
「「「頼む(みます)!」」」
「なんだ?」
「アキラ、どうしたの?」

 俺達の様子に何かあったのかと明良が俺達に寄ってきたので、ミリーも何があったのかと気になったみたいだ。

 そして、覚悟を決めたミモネがゆっくりと深呼吸をすると明良の正面に立つ……というか、止まっている。

『アキラ、いい? これから言うことをちゃんと聞いて欲しいのなの』
「あ、ああ。分かった」
『じゃあ、言うね。あのね、私達はこの町からそろそろ出ようと思っているのなの』
「お、そうか。じゃあ『アキラはダメなの』……は? そりゃどういうことだよ! 恒! お前が言わせているのか!」
「……」
「なんとか言えよ!」

 恒達が町から出ると言うのに「お前はダメだ」と言われた明良は激昂し、恒の胸倉を掴みかかる。

「明良、落ち着いてよ!」
「そうよ、ちゃんと私達の話を聞いてよ!」
「アキラ、まずはワタルを離せ」
「お前達もグルなのかよ!」

 明良の問い掛けに由香達は黙って頷く。

「そうかよ! 俺だけ除け者かよ!」
「待てよ、明良! 話はまだ終わってない!」
「何が終わってないんだよ! 終わりだよ! もう、お前達とも今限りだ!」
「ふぅ~だから、話を聞けと言っている」
「ぐっ……」

 明良は自分だけが除け者にされたと思い、恒から手を離すと踵を返し部屋から出ようとするが、恒から話が終わっていないと呼び止められる。だが、明良は自分を除け者にして話が進んでいることに対し、もう恒達との関係は終わりだと恒の呼び掛けに答えようとしなかったが、そこをドリーに抑えられ恒達の前に戻される。

 ドリーに力で勝てるはずもなく大人しく恒達の前に戻るしかない自分が明良は恥ずかしく思ってしまう。

「明良、ちゃんと話を聞いてくれ」
「分かったよ。ふん、話だけは聞いてやろうじゃないか。さっさと話せよ!」
「ありがとう。その前に……」

 恒は由香と久美に目配せすると、二人は黙って頷きミリーの手を取り部屋の外に行こうと促す。だが、ミリーは激昂した様子の明良のことが心配で、この場を離れるのをイヤだという。

 そんなミリーの様子を見て、明良が優しく笑う。

「ミリー、これは男同士の話だ。心配するな大丈夫だ。ケンカなんかにはならないよ」
「ホントだよね? ワタル、ホントだよね?」
「ああ、ケンカじゃないから心配しないで。由香、久美お願い」
「うん、分かってる」
「任せて。ちゃんと言うのよ」
「ああ、分かっている」

 ミリーを連れて由香達が部屋を出るのを確認してから、明良が口を開く。

「さあ、聞かせて貰おうか。なんで俺を除け者にするんだ!」
「じゃあ、誤魔化さずに直球で言うよ。それはね、明良が弱いからなんだ」
「……弱い。そうか、お前は強いもんな。そんな風に俺を見下していたのか」

 そう言って明良は席を立とうとしたが、恒はそれを止める。

「だから、ちゃんと話を聞いてよ!」
「聞いたさ! 俺が弱いから、なんだよ! 俺はお前と違ってチートもないからな!」
「だから、ちゃんと聞けって言ってるだろ!」
「お、おお……」

 普段から怒ることがあまりない恒が明良に対し怒っているのがハッキリと分かるくらいに声を荒げる。その勢いに明良も驚き、黙って椅子に座り直す。

「怒鳴ってゴメン」
「いや、いい。でも、珍しいなと思ったよ」
「そうか。珍しいか」
「ああ、お前あまり怒らないもんな」
「そう……なのかな」
「ああ、あまり知らないっていうか、見たことないかもな」
「ゴメンね」
「いや、いい。俺も悪かった。だけど、ちゃんと説明してくれるんだろ」
「うん、それは当然。あのね……」

 恒は明良がようやく聞く態度になってくれたので、さっき由香達と話し合ったことを話す。

 曰くミリーが世界崩壊の切っ掛けになるのは違いない。だから、一緒にいた方がいいだろうと旅へ同行させるつもりだ。
 だけど、そうなるとミリーを守るのはドリーだ。由香と久美は恒が守る。そうなると明良を守るのがいない。

 恒が守れないのかと言えば、同時に三人は無理だとなり明良はどうしてもあぶれてしまう。

 だから、明良の身を守る為にもこの町に残って貰うのが一番だと考えた。でも、明良が一人でこの町に残るのはイヤだと言うのならば、今のままではダメだということになる。

「分かったよ。それで俺が強くなれば万事OKなんだな」
「……そういうことになるかな」
「ワシが稽古をつけよう。それにお前達三人のギルドランクを上げるのも手伝おう」
「ふぅ~『引くも地獄進むも地獄」か。なら、一緒にいられる地獄を選ぶしかないな」

 明良はそう言うとニヤリと笑って見せた。

「だがな……」
『バキッ!』

 明良は椅子から立ち上がると、そのまま恒の左頬を打ち抜く。

「あ~イッテェ~」
「明良……」
「お前、ちっとは痛そうにしろよ! これだからチート様はよ」
「ごめん……」

 明良は殴った右手をヒラヒラさせながら、痛みが引くのを待っている。そして、恒を見据えながら言う。

「さっきのは友達を置いてけぼりにしようとしたことへの俺からの一発だ」
「うん」
「ホントは俺を除け者にして話を進めたことにもう一発食らわせてやりたがったが、今の俺じゃコレが精一杯だ」
「うん、うん。ゴメンね」
「だから、謝るなよ。謝られると俺がミジメだろうが!」
「うん、うん、うん、そうかもね。ははは」
『ワタル、そんなに痛かったの?』
「いや、痛くはないよ」
「ふん、ちっとは痛そうにしろよ」
『あ! なんでアキラも泣いてるの。そんなに右手が痛いの?』
「な、なに言ってんだよ。なあ恒」
「そうだよ、ミモネ」
『でも……』
「そこまでにしてやれ」
『ドリー、でも「そこまでだ」……へんなの』

 恒と明良は互いの顔を指さしながら笑っているが、その頬を伝うものがあった。
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