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21 繋がる心と離れた心 ★
しおりを挟むギシリと純太の部屋のベッドが軋む。
純太は緊張した面持ちでベッドに横たわる透子の顔をうっとりと眺めていた。
「緊張してる透子ちゃんも可愛い……」
「あ、あんまり見ないで下さい。……恥ずかしいです」
「無理。絶対見ちゃう」
そう言って純太は切なそうにハァと吐息を吐くと、透子の頬を優しく撫でながら、ゆっくり透子の唇に自身の唇を重ねた。
「ん……」
純太の柔らかな口付けに透子の身体がピクリと揺れる。最初は軽く。二回目はチュッチュッとまるで鳥のように啄むようなキスが雨のように降ってくる。
やがて徐々にキスは熱を帯び、その長さを増していく。
苦しさに透子が酸素を求めるようにハァッと吐息を漏らすと、その瞬間を狙って、純太の舌が口内にぬるりと侵入してきた。
驚いた透子が思わず舌を引っ込めようとするも、それを逃すまいと純太の舌が絡み付く。透子とのキスの甘さに純太は夢中で透子の口内を貪った。
舌で歯列をなぞり、唇を食む。ちゅぱちゅく、と透子を煽るように純太はわざといやらしい音を寝室に響かせた。
「ふぁ……っはぁ……」
キスをしながら、目を開けて自分を見つめる純太の熱い視線に気付いた透子は、恥ずかしさにカァッと顔を背けた。
「はぁ、……透子ちゃん」
恥じる透子に煽られた純太は、一旦透子から身体を離すと、自分が着ていたワイシャツと肌着を乱暴にベッドの下へと脱ぎ捨てた。
純太は上半身裸で透子を身体の下に組み敷くと、自分の口の端についていた唾液をペロリと舌で舐め取りながら、熱を孕んだ視線で透子を見下した。
それから余裕のない様子で口を開いた。
「ごめん、透子ちゃん。俺、もう気持ちも行為も止められない。今から透子ちゃんを滅茶苦茶抱き潰ちゃうかもだけど、出来るだけ優しくするから……」
純太の欲情した表情と引き締まった上肢を目にした透子はその色気に当てられ、直視出来ずに目を細めて、こくりと頷いた。
* * *
「ん……」
事後、純太は横になってぐったりする透子の身体を抱き締めながら、何度も深い口付けを落としていた。
「……ん、さいこー。……透子ちゃん、もう絶対離さないからね。覚悟して」
そう言って純太は名残惜しそうに透子から唇を離すと、もう一度透子の身体を強く抱き締めた。
純太の言葉通り、日付が変わるまで愛されまくった透子は掠れた声で純太へと言葉を返した。
「うん。純太君。……大好き」
抱き締められながら透子は素直な気持ちを吐露すると、心地よい疲労感にゆっくりと目を閉じた。
純太は行為の最中から、自分へと向けられていた透子の敬語が、いつの間にかほどけていることに気が付いていた。
ようやく、透子の全てを手に入れた。
純太は自分の腕の中で安心して眠りにつく透子の姿を愛しそうに眺めると、とてつもない幸福感の中で自分も眠りに着いたのだった。
* * *
母親の施設訪問を終えた新は、帰り道で透子の姿を目にして、思わず歩みを止めた。
髪の毛をアップにして、オフショルダーのドレスを身に纏い、ドレスアップした透子は息が止まるほどに綺麗だった。
結婚式か何かの帰りだろうか。
「透子…」
別れて以来、初めて目にする透子の姿に思わず新は声を掛けようと一歩を踏み出そうとしたが、透子の隣に立つ男の存在に気が付き、新はその歩みをピタリと止めた。
透子はその男の隣で、くるくると色んな表情を見せていた。新には決して見せたことのない透子の表情に新はついつい見入ってしまっていた。
楽しそうに笑ったり、時には男の行為に怒って、恥ずかしそうに睨んだり。
それが自分ではなく他の男に向けられている顔だという事実に、新の心臓がちりりと切なさに疼いた。
(……俺はどうして透子をもっと大事にしなかったんだろう。透子を愛して、その身体を抱いていれば透子のその表情は俺のものだったのに……)
不意に、透子の隣を歩く男が透子の顔を覗き込むように上半身を折り曲げる。
男はあろうことか人目を憚らず透子に口付けた。
(なっ……!? )
その光景に新は激しい衝撃と嫉妬の感情を覚えた。
男がゆっくりと透子から離れると、目を潤ませて男を見つめる透子の姿に、新はかつて自分も透子にキスした日のことを思い出した。
熱に浮かされ、扇情的な透子の表情に新の情欲が掻き立てられたが、今の新は遠くから彼女の姿を見つめることしか出来ない。
やがて透子と若い男はどちらからともなく手を繋ぐと幸せそうに歩き出した。
(透子の心に俺はもういない……)
新は激しい後悔と喪失感に苛まれたまま、これ以上他の男の隣で幸せそうに笑う透子の姿を見たくなくて、逃げるようにその場から立ち去った。
かつては理花への思いを断ち切ることに必死だった新だったが、今や別れた妻への未練に心がいつまでも囚われたままだった。
新しい職に就いたばかりの新は、仕事を覚えることに必死で理花を放っておく時間が増えていた。
そんな新に理花は不満の声を洩らす。
何もかもが透子とは違う。
(もしも、もう一度やり直せるのなら……)
新は間違いなく透子を選ぶだろう。
しかしそんな日は二度と来ないことを新は知っている。果てのない絶望感が新を襲う。
新は重い足取りで理花の待つ我が家へと帰るのであった。
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あらためまして、一気読みさせていただきました!
数名の登場人物でなんとも人間色模様が豊かなこと!そしてそれぞれ「ざまあみろ!」と言いたくなる終わりが良かったです。
赤城はきっと「自分でカッコいいと思ってんのか」とハゲ散らかす中年になっていくに違いないと思う同窓会での失敗(忘れてもらえん)の未来だろうし、新は益々やばげだし。。なにその、抱いてりゃよかった発言。。すぐ不倫して去られてたよ。唯一無垢なまま別れて良かった。。
kokekokko様
感想ありがとうございます!
新も赤城も、透子を「抱いてやる」的な上から目線で見ていたことがそもそもの間違いでしたね。
楽しんで読んで頂けたようで良かったです(^-^)v⤴️
そして、併せて誤字のご報告ありがとうございました。修正致しました!
とても素敵な作品でした!!長編とありましたが、疲れる程の長さでもなく、一気読みしてしまいました!!中に引き込まれる感覚を覚える本当に素敵でした。ありがとうございます。
mi-renren様
感想ありがとうございます。5万文字は短編~長編の中間ですよね。
中編表記があればいいんですけどね(^^;
楽しんで読んで頂けたようで良かったです!
見つけて一気に読みました、面白かった!
新、抱けば〜とか言っているけど、そもそも彼女の存在を蔑ろにして、誠意を表さず、歩み寄りもしないでいるのがおかしい。体のつながりだけじゃないから。透子を安い女に見ないで!
それでも新、DV男にはならないで!
こすや様
感想ありがとうございます⤴️
楽しんで頂けて良かったです(*≧∇≦)ノ
確かに新はちょっと色々指導が必要な男ですよね。