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20 純太の決意 ☆
しおりを挟む所謂お姫様抱っこされる形で会場を後にした透子は、自分の顔を誰にも見せないように両手で覆い隠しながら、酷く落ち込んでいた。
(し、死んでしまいたい……)
同窓生の前で二人の男から取り合いをされ、最悪なことに自分の痴態を晒してしまった。
純太に耳を舐められ、あろうことか感じてしまった姿を赤城にも、友人達にも見られてしまった。
「ああああ――!! 」
「うわ、びっくりした! 」
恥ずかしさに透子が思わず叫ぶと、透子を抱きながら歩いている純太もその声に驚いて声を上げた。
「さ、桜井さん、もう降ろして下さい」
透子が純太の手から逃れるように身体を捻る。
「あ、そうだね。ここまで来ればもう会場にも戻らなくていっか」
いけしゃあしゃあと純太が呟くと、漸く透子を自分の腕の中から解放した。
透子が恥ずかしさに悶え落ち込んでいる間に、結構な距離をお姫様抱っこで移動していたらしい。
透子は新な羞恥に襲われ、その場に身体を丸めるようにしゃがみ込んだ。
(もう、嫌だ……消えてしまいたい……)
そんな透子に純太が心配そうに声をかける。
「透子ちゃん、大丈夫? 結構お酒飲んだ? 酔いが回った? 」
「誰のせいだと思ってるんですか! 」
見当外れの心配をする純太に、思わず透子は声を荒げて非難した。
「うわ、ぷりぷり怒ってる透子ちゃんもレアで可愛いっ……! 」
純太が涙目で怒る透子の姿に口元を抑えて歓喜する。
(本当に嫌だこの人……)
純太は透子に告白した日から自分の気持ちを隠すことなく、透子に熱烈にアプローチを続けていた。
それでも、離婚したばかりの透子の気持ちを第一に考えてくれていた為、純太は傷心の透子に手を出すことは一切なかった。
純太が透子の信頼を得るために、目一杯の誠意をもって関わってくれているのが透子には充分に伝わっていた。
(それなのに……)
「元はといえば、桜井さんが選んでくれたこの服が原因で……」
「透子ちゃん、さっきは『純太君』って初めて名前で呼んでくれたのにまた名字呼びに戻ってる」
透子の話の途中で、残念そうに純太が地面に蹲る透子の顔を覗き込む。
純太の顔が目の前ギリギリに近付いて、透子の心臓がドキリと跳ねた。
「あ、あの時はつい。桜井さんの突然の登場に驚いたから……」
「名前で呼んで。お願い」
純太の寂しそうな表情に怯んだ透子は覚悟を決めて純太の名前を口にした。
「……じ、純太……くん」
「はー、マジで幸せ!! 」
純太は大袈裟な素振りで両手で顔を覆うと、叫びながら空を仰いだ。
(この人、こういう所がなければカッコいいのに……)
透子は残念な生き物を見るように純太を静かに見つめていた。
「でも、今日の透子ちゃん本当に綺麗。目一杯着飾った透子ちゃんを他の連中にも見せたくて、透子ちゃんに似合うドレス選んだけど、思った以上に男共を刺激しちゃったみたいだね。透子ちゃんの恥ずかしがる顔も見られちゃったし、あの元カレ君始め、今夜何人の男が透子ちゃんをオカズにして抜くのかと思うと、俺嫉妬でどうにかなりそう……」
「お願いだからそれ以上なにも言わないで下さいっ……! 」
初な透子の前でとんでもないないことを口にする純太に、透子は再び自分の痴態を思い出し、純太に口を閉じるよう懇願した。
そんな透子を見下ろしながら、純太は少し考え込んだあと、しゃがみ込んだ状態の透子の身体をそっと労るように立たせると、真面目な顔で透子と正面から向き合い、口を開いた。
「あのさ。俺、透子ちゃんが離婚してからずっと側で見守ってきたんだけど、それ、もうおしまいにしてもいいかな? 」
「え? 」
突然の純太の別れにも取れるような言葉に、透子の心臓がギュッと締め付けられる。
純太の優しさに甘えすぎていた。
純太だっていつまでもバツイチで手がかかる女の世話なんてしたくないだろう。
つい先程まで恥ずかしさで赤くなっていた透子の顔色が、純太が離れて行ってしまうという寂しさと不安から、徐々に血の気が引いて青ざめていく。
「い、今迄ご迷惑をお掛けして……」
それでも、純太に感謝の言葉を述べようと透子がヒリつく喉から声を絞り出す。
謝罪の言葉を述べながら、今にも泣き出しそうな様子の透子の顔を見て、純太は慌てて言葉を訂正した。
「透子ちゃん、ごめん。そうじゃなくてっ! 」
違う違うと、純太が透子の目の前で首と手を何度も振る。
純太は自分を落ち着かせるためにはーっと大きく深呼吸をした後で、真剣な表情で透子の目を見つめた。
「俺、真剣に透子ちゃんと付き合いたい。勿論、将来的には結婚も考えてるけど、それは透子ちゃんがしたいと思ったタイミングで全然構わないし。透子ちゃんと一緒にいられれば俺はそれだけで充分幸せだから……」
「え? 」
純太が言った言葉を透子が思わず聞き返す。何を言われたのか分かっていない様子の透子に、更に純太は言葉を続けた。
「絶対透子ちゃんを幸せにする。この先、透子ちゃんだけしか見ない。っつーか、透子ちゃんしか見えない! 俺の愛、めっちゃ重いけど受け取ってくれる? 」
呆然とする透子の頬に純太の指が優しく触れる。
透子は自分でも気が付かない内に涙を溢していたらしい。そんな透子に純太の気持ちが加速する。
「好き。大好き。何度言っても足りないくらい、透子ちゃんが愛しくて堪らない」
純太の蕩けるほど甘い愛の囁きと眼差しに、透子は胸がいっぱいになる。
ずっと透子が欲しかった言葉。
自分だけを見てくれる存在を透子はようやく見つけた。
「よ、よろしくお願いします……」
透子は涙を流しながら純太の告白を受け入れた。
泣きながら純太の想いを受け入れてくれた透子を、純太は堪らず抱き締めた。
「はぁ、やっと透子ちゃんを手に入れた」
嬉しさに純太は腕の中の透子の頭頂部にチュッとキスを落とした。
それからはもう愛しくさが溢れて、何度も何度も透子の髪の毛にキスをする純太に、透子が慌てて顔を上げる。
「純太君、ここ、外……んむっ」
顔を上げた透子の口に純太がすかさずキスをする。
最早透子しか見えていない純太は、周りの目を気にすることなく、透子の唇を貪った。
「んん――っ! 」
またもや純太にがっしりと抱き締められて身動きが取れない透子は、僅かに動く手でバンバンと純太の胸を叩き、その行為を必死で制止する。
透子の制止を渋々受け入れた純太は、名残惜しげに透子から顔を離すと、熱を孕んだ茶色の瞳で透子を見つめた。
「……限界。透子ちゃんの全部を俺に頂戴? 」
純太の切なる願いが透子の身体をも熱くする。
その意味をしっかりと受け止めた透子は、真っ赤な顔でこくりと頷いた。
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