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第1章

21 好きなもの、嫌いなもの

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「王子様、…あの!」

「はい!…って、なんだよ」

くいっと翠に服の袖を掴まれ振り向くライゼ。
不意を突かれ思わずいい返事をしてしまった。何だか恥ずかしくなって羞恥心を誤魔化すように舌打ちする。そして、舌打ちをしてしまったことを後悔した。
無闇に怖がらせてしまったかも、と翠の様子を見る。未だに緊張はしているがライザの舌打ちで怖がった様子はなく安堵した。

「…り、りりりりんごは好きですか!」

翠は顔を真っ赤にして勢い任せに質問した。
ライゼは突然の質問に驚いて目を丸くして絵にかいたようなわかりやすいキョトン顔をした。

「林檎?まあ、好きだな」

「嫌いな食べ物は何ですか!」

「特に食えないモノはないが、酢を使った料理は苦手だ」

「……お酢を使った料理!ドレッシングは苦手ですか?お野菜は生で食べる派ですか!」

「あ、ああ…素材の味をそのまま楽しみたいからなってさっきから何だよ、お前は食べ物アンケートの係員か何か」

畳み掛けるように食べ物関係の質問を次々とし続ける翠。顔は茹でダコみたいに真っ赤でおまけに涙目である。それはもう必死な様子だった。
ライゼは翠の勢いに圧倒されつつ質問に答えた。
そして我に返り突っ込みを入れる。

「ぼく、挨拶しても返してもらえないことが多くて……でも王子様がさっき、宜しくって言ってくれたから。…嬉しくて……家の近くに林檎がなってて林檎が好きだったら、ジャムとか作ったら王子様食べてくれるかな…なんて」

翠が熱で魘されるように低く唸りながら頭の中でごちゃごちゃしながらも答えた。
そして、翠はライゼをまっすぐ見つめた。

「ぼくは、生まれた世界で友達がいなかったから。王子様が同じ年で、男の子で…ぼく、考えてみれば話しかけてなかった。挨拶も、声が小さくて聞こえなかっただけかもだし…」

ライゼは翠に何て声をかけたらいいか分からなかった。

「ご、ごめんなさい!ぼくの話なんかしちゃって!……ふあ!…頭冷やしてきます!アンケートのご協力ありがとうございました!」

「え、…おい!どこに行くんだよ!」

翠は頭がぐるぐるとして自分で何を話しているのか分からなくなり、おまけに変な声をあげてしまい、居たたまれなくなってその場から逃げるように走り去った。
ライゼが呆気に取られ止めるのが遅れてしまった。
ぽつん、と一人その場に残される。

「…ったく、…しょーがねぇやつ」

ガシガシ、とライゼは後頭部を掻いてため息を吐き出した。翠が走り去った方角はスライムが大量発生している沼とは逆の方向である。
ライゼは翠の後を追い掛けた。
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