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第二章

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とくん、とくん、とくん。落ち着いた心臓が脈打つ音が聞こえる。それは自分の命が続いている証拠である。ティアは安堵した。あのまま冷たい雨の中、一人で死ぬのはやっぱり寂しい。せめて、太陽のしたで、深い眠りにつきたい。うとうとと、目を閉じてぼんやりとしていた。暖かな肌触りがよい心地よさが身を包み込んでいる。(ふわふわ、べっとで、ねている、ゆめ?)自分は夢の中にいるのだろう。いつも寝ているベットは固くてずっと寝ていると腰が痛くなるのだ。ティアは口元を綻ばせた。すりすりとベットに足を擦り付けて感触を楽しむ。このままずっとこのベットで寝ていたら幸せだろう。ティアの熱が柔らかなベットや毛布に伝わりあたたかい。それはまるで、顔を知らぬ母親に抱き締められている、ような心地好さである。想像力は豊かでティアはいつも夢を楽しんでいた。ティアにとって初めてのぬくもりだった。さらりと何かが頭に触れた。擽ったい。毛並みを整えてくれているのだろうか?夢の中ではたくさんの女友達がいる。だから、きっと誰かが頭の毛繕いをしてくれているのだろう。
「……?」
ティアは目蓋を震わせて夢の中で起きることにした。丸く円らな瞳に男の顔がうつる。ティアを心配してくれている、と分かる表情を浮かべている。男の顔に見覚えがあった。銃に撃たれ怪我をしていた人間。ティアを化け物と叫んだ人間。
覚えているが、何故、その人間が悲しそうな顔をしているのだろうか?と気になった。
「どうした、の?さみ、しいの?」
人間の仲間とはぐれて寂しいのだろうか、もしそうなら可哀想だ。寂しいのはとても辛い。化け物のティアでも分かる、と胸が痛くなった。男の言葉に耳を傾ける。慰めないと。ティアの声が聞こえると頭を撫でる手を止める。生まれたばかりのような美しい、無垢な瞳に見つめられ男は胸が熱くなった。そして、この純粋な魂を傷付けてしまった事を深く後悔した。
「お前は俺を手当てしてくれたのに、あんな酷い言葉で傷付けてしまって、すまない。お前は俺の命の恩人だ。助けてくれてありがとう」
ティアは驚いた。目を真ん丸にして男の顔を凝視する。いっぱい嬉しいことを言われた。
「ティア、うれしい、ありがとう」
天に上るような気持ちだ。ありがとう、ありがとう、頭の中でお礼の言葉を反芻させる。なんて、幸せな夢なのだろう。
「礼をさせてくれ」
「ティアに、なまえ、おしえて」
お礼はさっき貰ったから、男の名前が知りたい。
「俺の名前はレミィザロ・ガウス。お前の名を教えてくれないだろうか」
ティア、だろうと思ったが敢えて名前を訊ねる。それが礼儀だと思ったからだ。この世界では『レミィ』は勇敢、『ザロ』は男という意味を持つ。レミィの親の願いが伝わりティアは微笑んだ。
「ティアよ、よろしくね、レミィ」
「ああ、よろしく、ティア」
こうして、ティアとレミィは知り合ったのだ。


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