孤独なもふもふ姫、溺愛される。

第六章

☆5

ごろごろ、ティアはベットで寝転んでいた。レミィはちょっと出掛けてくると言い残し部屋を出ていった。
太陽が沈み部屋が薄暗く微かに夜の匂いが滲み始める。

ティアはベットの上で丹念に毛繕いをする。
今日も平和な１日だった。
そろそろエメラルドが夕食を運んでくる頃だろう。今日はカレーを作るわよ！とさっき、洗濯物を取りに来る時言っていた。この洋館には、お手伝いさんがいるがティアの面倒はエメラルドがしてくれている。シャンプーが絶妙なのだ。さすが、愛猫家。

『……何よっ、あなた達！ルティア！』

突然、引き付けられる声が耳に届いた。
ティアの耳がぴくん、と動く。ティアという子供を失った女性の声だ。切羽詰まった悲鳴。
胸がざわざわと不穏にざわめく。ティアは窓からその声がする方向へと手と足を使い走る。家の屋根から屋根へと飛び移る。
冷たい空気がピンとしたティアの猫髭を撫でる。

どくん、どくん、どくん

怖い。怖い。怖い。

でも、行かないときっと、あの声がまた絶望に変わる。
あの声は聞きたくない。あの人の悲しい声を聞きたくない。

やっとティアが天国に行ったのを受け入れたのに。愛する旦那さんとゆっくり歩き始めて、元気な子供を産んだのに。
頑張ったのに。

それが踏みにじられるなんて許さない！

どくん、どくん、どくん

自分の心臓が大きく脈打っている。

今は、夢の中にいる、わけじゃない。
現実なんだ。

また、悲鳴が上がる。ティアは窓を蹴り飛ばし躊躇いもせずに家に入る。
そこには、スキンヘッドの厳つい男と痩せっぽっちの顔色が悪い男が女性と女の子を床に押さえ付けていた。頭から血を流し倒れている男の人も確認する。

「……お、お前なんなんだ！」

突然現れたティアを見て二人の強盗が驚愕する。ニタニタ不気味な笑みを浮かべながら女性の頬に突き付けていた刃物をティアに向けるが刃先はぶるぶると震えていた。

月の光でティアの白銀の毛が光輝き、蒼い瞳がキラキラと輝いていた。二本の足で立つ美しい獣が露になる。

「ばけもの、だよ」

ティアはニィと口を大きく開いて牙を見せて笑った。

「ひぃいい！」

痩せっぽっちは情けない声をあげてその場に座り込む。
泣いているが、ちっとも可哀想だと思わない。
幸せな家族を踏みにじろうとした。金や自分の欲望だけのために。
許せない。ティアは怒りに燃えていた。