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第8話。
しおりを挟む男性が倒れていた。
柄の服を泥だらけにして唇を切って血が滲んでいる。
喧嘩に敗れたのだろう。光をうつしていない暗い死んだ目をしていた。
「……大丈夫ですか?」
するり、とそんな質問をしていた。
金髪で刈り上げの強面。不思議と怖いとは思わなかった。
誰にも心配されない、仲間。
僕はハンカチを出して男の血が滲んだ口元を拭いてやった。
なつみ、と僕を呼んだ哀れな一人ぼっちの男の姿と重なる。
「あ?天使か。ってことはここは天国?」
まさか声をかけられるとは思っていなかった男は目だけを動かして僕を見た。
「死んでないですよ。まだ生きてる。」
殴られたくらいではこの男性は死ななかった。丈夫なのだろう。
打ち所やタイミングが悪かったら人間は簡単に命を消す。
「じゃあ、未成年者とおっさんっていうヤバい状況じゃん。来んな、ガキ。俺は無実の罪でつかまりたくねーんだよ」
「元気そうですね。失礼します」
この喋りなら心配はいらないだろう。僕は立ち上がった。するり、と何かが揺れた。
「待て、お前は『猫』か。猫であった記憶があるか?」
普通の人間なら何をきかれているか分からないだろうけど、僕には分かった。
「あります。僕は猫でした」
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