母性愛、男子!

遊虎りん

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わくわくと心踊る本になかなか出会えない
沙原百花は小さくため息を吐いて指を引っ込めた。
今日も借りようとして出た白く細い手は本棚に届くことはなかった。
寝る前にやっぱりあの本を借りればよかったと少しだけ後悔する、そんな予感はあったけれど……。

最近、自分はどうも煮え切らないのだ。
うじうじと悩んでしまう。諦めて、どうせだめだと最初から希望を捨ててしまう。
今日だってどんな本でも一冊は借りようと思っていたのに、結局最初から諦めて出した手を引っ込めてしまった。

現実逃避の催眠を促す夢の薬の役割を果たしていた物語は色褪せている。

とても、不幸だ。

平凡な幸せを感じて満足することができない。
足りないものやひもじい思いをしていないのに、身も心も憂鬱で重苦しい。

いつからだろうか、思いっきり深呼吸して、太陽の日を浴びて、無邪気に笑うことができなくなったのは。

図書館を出ても、家に戻る気が起きない。
自分の身の置き場がどこかも見失っている。

百花は目眩を感じてその場に座り込んだ。
泣きたい気分であるが、涙が出ないほど心が疲れて枯れていた。




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