始まることの前に

高城

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うたうおどるはだれのため

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儀式だ。この村に古くから伝わる儀式。この村はずっと童歌にとらわれている。

鬼女がいたよ。若い女の血をすすり、若い男の夢を見る。夢見た男の子を殺す。鬼女がいたよ。避けなきゃみんなとられるよ。

くだらない、けどもこの村ではそれを恐れ、毎年、儀式を欠かさない。

儀式はまず、若い男の夢を壊す。指と目と耳を切り取る。
次に、若い女の血を抜き取る。死なないように、長い時間をかけて。

最後に血を抜いた女、夢を壊された男、二人を倉の中に置く。

朝、倉を開けるとどちらも死んでいる。その死体の傍らに、赤ん坊が座っている。泣くこともなく、ただ、倉を開ける誰かを待つように、じっと、扉の先を見ている。

私もその儀式で生まれた。もうすぐ、この村は私たちで溢れる。もう私たちしかいない。鬼と蔑まれたあの頃を思い出す。

もう、ここには私しかいない。もつ鬼はどこにもいない。
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