如何にもなヒール役の悪役令嬢が大変なことになるお話です(仮)

黒住八雲

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風変わりな旅人~その3~

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私室に戻ると、クロナがお茶の準備をして待ってくれていました。お城の
中は基本的に薄暗いものですけれど、この時間だけは、部屋の中が優しい
光でいっぱいにあふれています。一日の内で最も心が安らぐ時間であり、
場所です……ので、このバクバクとした動悸もすぐ治まることでしょう。

「レプリオーネ様、おかえりなさい~」
「さあ、どうぞ。領主の部屋といっても、そう広くありませんけれど――
ごめんなさいクロナ、急なお客様をお呼びしましたの」

彼を部屋へと招き入れます。本当は私室に他人……それも男性を呼び込む
なんてまず無いことなのですけれど、その、あまりに風変わりなかたです
ので、緊急にお話を伺うためなのです。仕方ありません。

「あ」
「あ~! えっと。ヤマカワさん! その後お元気でした?」
「昨晩のメイドさん! ありがとうございます。ええ、すっかり」
え? 二人は顔を合わせるなり、打ち解けた様子で話しはじめました。

「えっと、このかたと面識ありましたの?」
「はい! 昨晩の結構遅く、サロンでオルディさんと雑談していましたら
玄関を叩く音がしてですね。鍵を開けてあげると、行き倒れそうになって
いらっしゃったお客様だったんです」
「いやほんと、ありがとうございました! 怪我を治してもらった上に、
もう食堂が閉まっているからと、ご自分の食べ物まで分けていただいて。
今朝改めてお礼を言おうと思ってたんすけれど、名前を聞き忘れてました
せいでなかなか見つかんなくて」
「いえいえ~。それよりも、お城の食堂の使い方は大丈夫でした?」
「ええ。大体教えてもらった通りでした。それに、丁寧に教えてくれる人
がたくさんいました。にしても、本当にお金なくても食べさせてもらえる
んですね。ここに来てから、ずっと親切な人にしか会ってないすね……」

オルディは確か、年配の家令の一人でしたわね。今日から長めのお休みを
とっていたはず……なるほど。そのような経緯で、中央城にいらしてたの
ですね。旅人さんですのに、謁見の間への報告が来なかったことの理由が
見えてきました。つまり今朝クロナが話そうとしていたのも、このかたの
ことでしたのね――それにしても今、気になる言葉がありましたわね。

「あの、お金がなくてもって? 金属の食器のことかしら?」
「あ。またやっちゃったか……えっとですね」
信用札クレジットみたいなもの、でしたっけ。元のお国では食事にも必要だったと
おっしゃってましたよね」
「ああ、どうも! ええ、そうなんですよ」
「食事に信用札が必要って、どこの国ですの!?」
まさかミューテリ……あの領主にして、すわ国が傾きかけていたりして!
「あっ。あの、とりあえず二人ともお座りになってはいかがでしょう~。
私はこのままで構いませんので、さあ、どうぞ」
クロナが思い出したように、椅子を勧めます。
「ええ。ありがとう」
「えっ いえいえ! 俺が立ったままで構いませんよ。そこってえっと、
クロナさん? の席なんすよね」
「いえいえ~。お客様が大事ですので」
「いやいや、本当俺、迷惑かけてばかりっすから」
「ん。でしたら私が……とは申しませんわよ? そうね、クロナはベッド
横にあります軽い椅子を使ってくれるかしら」
「あっ はーい。ありがとうございます」
彼と向かい合って座ってから、クロナの勧めるままにまずは私が、そして
私に倣って彼もお茶を一口すすり、ほっと一息をつきました。……椅子の
ことよりも、クロナの分のカップが無いことの方が問題だった気がします
けれど……本人はニコニコしてますし、ヤマカワユーマさんも気がついて
なさそうですし、もう良いですわよね。

「ふぅ。えっと、もうぶっちゃけて言いましたら俺、多分異世界転生とか
そういうのをしてきたみたいなんすよね。あ、いや、鏡を見た限り、俺は
俺のままだったから転生じゃないのかな……異世界転移? それでお城の
ことばかりか、この世界のこと自体がまだ何にも分かってないんです」

次にヤマカワユーマさんから出てきました話は――言葉の意味こそ分かり
ますものの、ちょっと理解が追いつかないお話でした。

「えーと……ちょっと何を仰ってるのか分かりませんわね」
「そうっすよねぇ」
「でもよろしいですわ。続けて下さい」
「えっ――はい。えっと俺が住んでいたのは、日本のサイタマってところ
でした。なんでこの別の世界に来てしまったのかは全く記憶になくて……
あ、でも会う人会う人皆日本語が通じるから、逆にこれはただの外国じゃ
ないなとはすぐ分かったんすけど。あと、魔法とかもあるみたいですし、
そうそう、髪の色もですね。まあ、ピンクも東京なら偶にいたけど……」

――髪の色! 「あ」と思わず私の声が、食いついてしまいました。

「そ、そういえば、その話の続きでしたわね。私の髪の色は、領主として
特別に変化したものです。私も元は普通の金髪でしたのよ? 公爵継承で
選ばれた日に、この色に変わったのですわ!」
「え。今俺、一番大事な話をしたつもりだったんすけど、そっち行っても
いいのかな……日本って何? とか、サイタマってどこだよとかそういう
反応かとばかり思ってました」

う。だって……知らない地名のことを今ここで伺っても仕方ないのです。
それよりも、私室に到着します直前の廊下で、あなたがぼそっと「あの、
その髪すごい綺麗ですね。もしかして地毛っすか?」なんて、おっしゃる
のが良くなかったのですわ。「ええ。とりあえず座ってからお話します」
とそっけなくを装ったのですけど、ああ、やっぱりまだ鼓動が……この人
やっぱり、声もお顔も良い感じでした。それにお話は突拍子もありません
けれど……嘘をついているようにも見えませんからね。

「大丈夫ですわ。もちろん、あなたを信用しましたら次に伺うべきことは
異世界でない、あなたの世界のお話なのは間違いありませんけれど。まず
『与えられるより与えよ』です。先に、あなたの分からないことをお教え
しましょう――まずは魔法と、この世界の成り立ちについての"オトギ話"
からでよろしいかしら」
「おお、RPGっぽいっすね……すいません、お願いします」
私は少しもったいぶって、カップをお皿に戻してから口を開きます。

「……。やっぱりごめんなさい、RPGって何かしら?」
果たして気になり、先に訊ねてしまいました。ずるりと場がこける感じも
しましたけれど、だって確か二回目ですもの。気になるに決まってます!
「ああ。ええと、ロール・プレイング・ゲームの略のことっすね。人々が
自分の役割を演じて遊ぶ……という意味から転じて、異世界の人間を操作
してモンスターを倒したり、世界を救ったりする遊びの呼び方でした」
ええ!?

「モンスター……大きな獣は分かりますけれど、世界を救うのが遊びって
――すごい世界でお過ごしでしたのね」
「あ。いえいえいえ、そうじゃなくて、あくまでゲームというか、仮想、
想像の中でだけの話ですよ!」
む、やっぱり良く分かりませんわね。異世界の人間を操作するというのも
かなりやベー響きに聞こえたのですけど勘違いかしら。それにしても――

「それにしても、別世界なんて本当にあるんですね。言葉が通じない世界
も中にはあるんでしょうか……でもヤマカワさんは、ちゃんとお話できる
世界の人で良かったですねぇ」
ええ、本当そうですわね。ふいに、私の今の考えを半分読んだかのように
割り込んできましたクロナに返して、私も続けます。

「ですわね。それにお話を伺っています限り、ただの口語だけではなくて
随分と、ハナタカ語にもお詳しいのが面白いですわね」
「ハナタカ語!!!?」
ヤマカワユーマさんが急に素っ頓狂な声をあげました。え、そこですの?

「え……遊びをゲームとか、獣をモンスターとかすらっとした言葉へ呼び
換えることをハナタカ語って言わないのです?」
「あー。って、文語とか古代語とかじゃないのか……」

どうやら、別世界とはやはり文化に違いがあるようです。
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