VRゲームの世界から出られない話

酒屋陣太郎

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第二話

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 ライとファルは、ゲームの中の、リーナスの町の噴水にいた。
ライは相変わらず何か考えてるようで、真剣な顔で口を閉ざしたままだ。
「ねぇ、ライ、聞いてる!?」
ファルに話しかけられて、ライは我に返った。
「ん? あぁ……」
力なく返事するライ。
「あのね、私、思ったんだけど、他のプレイヤーと合流したらいいんじゃないかな? 他の人が何か知ってるかもしれないし、ね?」
「……そうだな……、とりあえず、今やれる事をやろうか……」
ライの表情は少し固くなっていたが、それに比べ、ファルは相変わらずだった。
とにかく、二人はこの町のクエストをやりながら、他のプレイヤーを探す事にした。

 リーナスの町のクエストも、似たようなものだった。
ゴブリン退治、オーク退治、コボルト退治など、クエストの報酬は初心者の村より良くなっていたが、やる事はモンスターの退治だ。
ファイターとヒーラーの組み合わせは良く、二人は簡単にクエストを達成した。
そうしているうちに空は赤くなり、間もなく日が落ちそうになった。
そんな時、二人は街の広場のベンチに座り、休んでいた。
「そういや、このゲームって何時までだっけ?」
「確か18時までだったかな? 次は翌日の9時からで合計五日間だよ」
「そうか、18時になったら、ゲームの外か……」
「どうしたの? やっぱり思い出せないのが気になる?」
「そりゃもちろん。これがバグとか不具合だったらいいな、と思ってた」
「そうだね、どうなるんだろうね~?」
ファルは楽天的だが、ライはまだ深刻な顔をしていた。
二人の間に沈黙が流れる……。
 すると突然、二人の目の前の空間に人が現れた。
その人はゆっくりと地面に落ち、倒れた。
髪の長い女性のようだが、顔は見えない。
ファルはその女性に近寄り、体を揺すった。
「大丈夫ですか?」
「いたたた……」
その女性は腰をさすりながらゆっくり起き上がった。
若い女性のようだ。その服装からして魔法を使うタイプの職業のようだ。
「回復魔法かけましょうか?」
ファルはそう彼女に聞いた。
「んっ、いや効果ないと思うよ。ついさっき死んじゃってさ~」
「えっ!? 痛くなかったのですか?」
「めっちゃ痛かったよ~。ゴブリンにボコボコに殴られてさ、一発は痛くないんけど、ゲームのキャラのライフが減ってゼロになるまでポカポカ殴られてたよ」
「えぇっ、それは大変でしたね……」
「うん? そこの彼は?」
彼女はライの方を見て言った。
「俺、『ライ』って名前です」
「あ~、ライ君ね、でこちらの……」
「私は『ファル』です。ヒーラーです。今までライと一緒にやってたんです」
「いてて……、私は『ルウラ』、魔法使いソーサラーよ」
ルウラと名乗った女性は、脇腹をさすりながら立ち上がる。
彼女は思ったより背が高く、ライと同じくらい背丈があった。
「やっぱパーティー組まないとだめかな、この手のゲームは」
「ルウラさん、良かったら私達と一緒にやりませんか?」
「うん、そだね~、でも時間かな?」
ルウラが空を見上げると、空の一部が暗くなってきたようだ。
町の中に〝リンゴーン、リンゴーン〟と鐘楼の音が鳴り響き、18時になったようだ。
「それじゃまた明日」
ルウラはそう言ってログアウトした。
「じゃあ、私も、またね~」
ファルはライに手を振って、ログアウトして行った。
(ログアウトしたら元に戻れるんだろうか……)
ライも疑問を感じながらも、ログアウトした。


 ……ライが目を開けると、そこはVRルームのソファーの上ではなく、どこかの粗末なベッドの上だった。
状況を把握しようと周囲を見るライ。
どうやらこの部屋は古い建物の部屋の中のようだ。
周囲には自分がいるベッドと同じものが三つあり、この建物の雰囲気は、ゲームの中の世界そのものだった。
ライはベッドから飛び上がり、部屋の窓から外を見る。
自分が今いるのは二階らしく、外はだいぶ暗くなっていたが、ゲームの中のリーナスの町で間違いないようだった。
(ログアウトできなかったのか……)
ライはそう思いつつ、部屋の扉を開け、廊下から階段を下りた。
そこはリーナスの町の宿屋の一階で、宿屋の女将のNPCがいた。
正面の両開きの扉は入り口だろうか、それにこの場所にはもう一つ扉がある。
ライはとりあえず、そこの扉を開けて入って行った。
 そこは酒場のようになっていて、多くのNPCに紛れて、ファルとルウラがいた。
二人はテーブルに掛けていて、ファルはライに気づくと手招きした。
ルウラはスクリーンを開いて、何かしているようだ。
ライは、二人ともログアウト出来なかったのか、と思いつつ、彼女達と同じテーブルに座った。
「やっぱライもログアウトできなかった?」
「ログアウトしたら宿屋のベッドだったよ……」
「私もだよ。おかしいよね、今ルウラさんが開発に問い合わせしてるんだって」
「ルウラでいいよ、今開発の返事待ち~」
「そうか……、困ったもんだよな……」
「どうしたらいいんだろうね~?」
ファルの喋り方は緊張とは無縁で、本当に危機感を感じてるのだろうか。
「昼にログアウトした時って、VRルームの外まで行けたよな?」
「そだね」
「でもVRルームの外でも、今と同じ服装だった」
「うん」
「ってことは、外のVRルームもゲームの中なんだろうか?」
「どうだろ? よく思い出せないんだよね」
「おっ、きたきた」
ルウラのスクリーンに、開発から返事が来たようだ。
彼女はそれを一読すると、頭の後ろに両手を回し、背中を伸ばしてため息をついた。
「どうしたんだ?」
「原因は調査中だってさ……」
「えっ! それだけ!?」
「何やってんだよ、開発は!」
「そうは言ってもね、直接文句言ってもスルーされるだけかな、これは」
「まったく……、あ~もう頭が痛くなってきたよ」
「このままゲームの中から出られなかったら、どうなるんだろ?」
「それは勘弁だな、ゲームなんかいつかは飽きるし」
「そうよね……」
ルウラはそう言って少し考えた後、続けて言った。
「あのさ、このゲームの中の世界の外側って、どうなってるんだろ?」
「今いる場所の外側?」
「そう、αテストだから、マップを全部作ってないと思うんだけど、マップの外まで行ったらどうなるのかな、って」
「う~ん……」
「とにかく、今日はご飯食べて寝よう!」
ファルは立ち上がりそうな勢いで、そう言った。
「食べるもの食べないと、明日動けないよ!」
続けてそう言うと、酒場のNPCに料理を注文した。
「そうだね、明日になれば状況が変わるかもしれないしね」
ルウラもファルの考えに同意して、食べ物を頼んだ。
「……それでいいのか……?」
ライは疑問を持ったままだが、腹が減ってきたことに嘘はつけない。
彼も結局、料理を頼んで、食事を取ることにした。
……こうして三人の一日は終わり、ここの宿屋のベッドで眠りに就いた。
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