この大きな空の下で [無知奮闘編]

K.A

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突然のトラブルとサイレントマジョリティー

これも経験値なのか

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ようやく慣れてしばらくした頃に同じ勤務時間の人とトラブルになった。
原因は仕事上での些細な事なんだが、普通にまだ教わってない部分を尋ねたら、いきなりキレられたというのが大まかな原因。
言葉使いにも気を使って話をしたので問題はないはず、落ち度があったなら直接言ってくれれば頭のひとつでも下げて次から気を付ければいいだけの話。
言い争いは怒鳴り合いにはなったが結局殴りあいには発展せず、周囲に止められて事なきを得たが話はそれだけでは終わらず、事は予期してない発展をみせた。

次の日から誰も私の挨拶に返事を返さなくなった。
「あー、どこにでもあるのか」
以外と冷静だった、とりあえずの状況を把握せねばと事務所に入る。
引き続きノートを開くと、昨日の晩の出来事が次の日に引き継がれていたのだ。
引き続きノートは誰でも閲覧できたので、それでハイスピードで周囲が周知するに至ったらしい。
誰もノートを見てない時に内容を見ると、なんと揉めた相手が相当な脚色でいろいろ書き連ねている、もちろん自分自身の落ち度は一切書かれていない。
何も事情を知らない人がこれを見たらどう思うだろう、と考えると孤立した意味がはっきり判った。
後で改ざんされないように携帯で写メを撮る、ちゃんと日付も入れて。
でも、やり口がシカトなんて幼稚すぎる。
けど、じわじわとメンタルにダメージを与えるやり方だなと思った。
だからなくならないんだな、シカトってやり口は。
とりあえずそんな空気なので足掻く事はせず、どうなるのか自分のターンが来るまで様子を見る事にした。
これはパチンコ店や麻雀店で勤務していた時に自然と身に付いたもので、後手に回らない程度に相手の様子を見ながら自分にとって最良の方法、最良のタイミングを模索していく。
昨日揉めた相手は当然挨拶も返さず私に見せつけるように他のメンバーと仲良さそうに会話している、時に私の方をチラチラ見るのが陰険でいやらしい。
ここまでは幼稚園児とそんなに変わらない。
別に会話できるのが羨ましいとは全く思わないし、極端な話だけど[黙ってろ]と言われたら数日黙っててもストレスなんて感じないような性格だから、逆に作業に集中できるだけ楽かもしれない。
それでもしつこくこちらの様子をチラチラ見ながら薄ら笑いを浮かべてやがる。
どうせこの状態で白旗上げたら更に増長されるのは目に見えてる、でもまだ動く時じゃない。

でも、これはさすがに体調ベストじゃない中で頑張ってる妻には言えない内容である。

何とか自分で解決せねば、でもどうする?孤軍で抗うにしても限界があるし、何より味方がいない。

ここは我慢だ。

強く自分に言い聞かせ、ダメ出しを受けない様に作業をこなし、帰路につく。
次の日、予期してないタイミングで反撃の機会を得る事になる
その月は「挨拶励行月間」だったらしく、作業前のミーティングで職長からその話があった。
職長がひとりひとりにちゃんと挨拶してる?挨拶は大事なコミュニケーションだからね。
なんてのを訊いてきた。
これは私に挨拶が返ってこなくなって4日目の事。
職長「君はどう?」
これを逃すと次はないな、そう確信した私は
私「皆さんからは一切挨拶は返ってきませんが、私は必ず皆さんに聞こえるように大きな声で挨拶をしています」
一瞬時が止まる、それは想定内。
職場全体を敵に回しかねない博打を打ったのだから大半の事は想定できる。
職長の目を見ながら次の一手をどうするかと思案する。
空気が凍るような感覚をわずかながら感じ、職長の表情が強張る。
職長「それほんと?」
私「はい!間違いありません!」
職長「どういう事なんだよそれ?ちょっと話を聞かせてくれ。ミーティング終わったらに事務所に来なさい」

みんなの視線が私に一斉に注がれる。
それは感じていたが職長の目を見る事で辛うじて回避していた。

....ひんやりとした空気の中ミーティングが終わる。
一部は私を睨み付けている。
「来なさい」
職長が一言だけ発信し、私を促す。
事務所に通される、定位置に置いてある引き続きノートが目に留まった。
「まぁそこに座って」
その一言から職長の事情聴取が始まった。
私は引き続きノートを手に取り、事の発端から今日に至るまでを細かく説明した。
幸いにも改ざんの痕跡はなかった。
それからいろいろ根掘り葉掘り聞かれた、気がつけば1時間半が経過していた。
その間、職長はずっと強張った表情を崩さず私の言葉に耳を傾け、それを克明に記録していた。
すべてを話終わると職長は
「わかった、作業に戻って。また呼ぶかもしれないけどそれまでは作業してて」
と私に告げる。
そして、私が事務所を出ようとした背中に
「あ、ちょっと待って、○○君(揉めた相手)事務所に来る様に言ってくれる?」
「わかりました」
それから、その日はほとんど仕事にならないくらい出勤していたメンバーがひとりずつ事務所に呼ばれ、出てきては呼ばれ、全員呼ばれたであろう頃にまた私が呼ばれた。
なぜか職長の表情が穏やかになっていた。
「事情はみんなからあくまで匿名でという条件で聞く事ができました。
一応派遣作業者同士の揉め事で、当事者同士で解決出来ないのであればこちらとしても考えなきゃいけない、わかるよね?
それと、これは派遣会社に報告して早急に是正してもらわなきゃいけない案件だという事、これもわかるよね?」
私は頷いた。
と同時にこれは中立の立場にいなきゃいけない人が言う言葉なのかな?そう思った。
そもそも両成敗の扱いにするなら揉めた相手も同席させて両方に促すように話すはず。

「でもどうする?このまま一緒には作業させられないから。やはりそこはチームプレイだからね、日々のノルマもこなさなきゃいけないし。部署の異動をするにしても総務を通さなきゃいけないから。」
たぶん「どうする?」と問いかけられたのは私だけだろう。
私「それは極端な話、私だけが悪いという結論と受け取ってよろしいですか?」
職長「そうは言ってないよ」
私「では、なぜ今後の話をするというのに○○さんを同席させないのですか?そこで揉め事の原因を究明して、私に非があるのならちゃんと謝罪して、今後の関係を構築していきなさいと言われたら頭も下げるし指示にも従います。それって明らかにおかしいですよね?」
職長「それはね.....」
職長が言葉に詰まった
「わかりました、ご迷惑おかけして大変申し訳ないのですが今日はこのまま早退させてください。気持ちの整理をつけて明日の朝に事務所に出向いて今後の身の振り方を話してきます」
職長もそれで納得してもらい、帰宅した。
ここでこれ以上突っ張っても損はあっても得する事はない。
ここで差が出るのが[仕事の習熟度]
まだ研修中の名札を付けてる私と既に研修終わって作業している○○さんとでは仕事での信頼度が違う。
言ってる事が正しい正しくないに関わらずだ。




特筆すべきは[物言わぬ多勢]がこんなにいた事。
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