この大きな空の下で [無知奮闘編]

K.A

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突然のトラブルとサイレントマジョリティー

激昂

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作業場を後にする。

そのタイミングで休憩のチャイムが鳴る。

その時、背後から「おーい」という声がしたが気にしないことにした。
下駄箱に向かい靴を変えようとした時に再度「おーい」と聞こえた。

構わず靴を変え、外に出た。
その時「おいって呼んでるだろ」と背後から肩を掴まれる。

敢えて無言で振り返った。
そこには男が二人。
同じ工程で仕事していた私より後に配属されてきたメンバーだ。
(仮にSとYと仮称する)

私「何?別れの挨拶変わりにぶっ飛ばしにでも来たの?」
S「そんなんじゃないよ」
私「じゃあ何?」
Y「謝ってさ、許してもらおうよ」
私「それ本気で言ってる?」
SY「本気だよ!」
私「ごめん、じゃあ尚更断る」

彼らは事の外側だけを見て悪いのは私の方だと感じてるんだろう。

SY「なんでだよ!」
私「話にならないからだよ」
SY「どこが?」
私「どこがと言われたらほぼ全部」
SY「全部?」
私「うん、全部。それじゃね」

帰ろうとする私を遮るように二人が立ちはだかる。

私「もぅなんなのさ!」
S「だから謝れって!」
なぜか激昂している。
もうこういうのもめんどくさくなってきた。
私「じゃあ質問、謝れって誰に?何に?何で?」
SY「........」

言葉に詰まる二人
そりゃそうだ、トラブルが発生したのは彼らが配属される前日の出来事。
彼らがトラブルがあった事自体は知ってるが、事のいきさつやら重要な事は何も知らない。
唯一得られる情報は引き継ぎノートに書かれた一方的な内容のみ。
よくこれだけの情報量で人に謝れなんて怒鳴れたものだ。

私「あのさぁ、二人を見てふと思った事があるんだけど」

SY「?」

激昂から瞬時にキョトンと表情が変わる。
私「わからないでしょ?」
Y「わかんねぇよ!何だよ!」

私「この工場には正義はなかったって事だよ」
SY「何だと!もう一回言ってみろ!」

揃ってなぜか激昂している。
Sなんて顔真っ赤にして激しく怒ってる。
それが人を引き留める態度か?少しでいいから学習して欲しい。
間違いなく煽ってるのは私なんだけど。
自分達が働く工場に正義はあると思い込んでるんだね、果たしてそんなのがあるのかないのか、仮にあったとして、それがどんな形をしてるのかも判らないんだろうな。

可哀想に。

私「何度でも言ってやるよ、この工場に正義はない!」
SY「ぶっ飛ばされたいのか!」
私「やるならやれよ!じゃあ君達の行動は間違ってないんだな?正義に基づいて行動してるんだな?そんなものないさ!そんなのないから俺がこんな目に会ってるんじゃないのか?」
SY「.....」
私「それに君達の話は最初から私が全面的に悪い事になってるけど、それはどこから得た話で判断してるんだよ?トラブル後に配属されてトラブルの発端も内容も何も知らない君達になんでそういう判断されなきゃいけないんだよ?なんでそんな君達にヤイヤイ言われなきゃいけないんだよ!言ってみろよ!」

押し黙る二人

私「あれだけ怒鳴っておいて答えられないのかよ!」

SY「引き継ぎノート」
ほんとに小さな声でボソッと言った。

私「だからここには正義はないって言ってるんだよ!わかったか!」

只でさえ明日からも面倒が待ち構えてるのに次から次へとほんとに面倒くさい。

私「わかったらもう二度と話しかけないでくれ!せいぜいアイツに顎でこきつかわれてくれ!それじゃ!」

SY「おい......」

聞こえないふりをした、というか集中しないと聞こえないくらいのトーンだった。


......帰り道のコンビニで発泡酒を買い、勢いよく喉へ流し込みながらふと考える。

明日の事。
仕事の事。
これからの夫婦関係の事。

タバコに火を点ける
ゆらーっと煙が立ち上る

今考えてもいい案は出ないな
多少は頭に昇った血が下がってきたみたいだ、若干ではあるが気持ちが落ち着いてきた。
こんな時はやっぱり一服に限る。

そう思いながらタバコを靴の裏で揉み消し、帰宅の途についた。
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