この大きな空の下で [無知奮闘編]

K.A

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神経のすり減らし方

安らかな日々を勝ち取るために 2

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今日も昼まで洗浄を担当することになった。
も、というのもこれはリーダーの計らいだ。

勤務四日の内、どこか一日は交代で洗浄を担当するんだけど私の気持ちを察してか数日洗浄を担当することになった。

.....気持ちがここにないのを感じる。

今朝は妻が玄関まで見送ってくれ、気合い入れで
バシッ!と背中を叩かれ、
妻「今日はおいしいお酒が飲みたいね」
と同期三人との飲み会参加も快く返事してくれた。

あとはやるだけ。

工場に着き更衣室に向かう。
着替えを済ませたが、なぜか喫煙所に向かう足が止まる。

あとはやるだけ。

そう思ってはいるものの、いざ今日が本番となると足がすくむ。
あの重厚な扉をくぐり、各部署の役職が一堂に会する真ん中で孤軍よろしく自分の正当性を主張し続け、自分の権利を自分で勝ち取らなければならない。

「どうした!しっかりしなよ!」
後ろから勢いよくFが体当たりしてきた。

私「ああ、Fか。おはよ」
F「おはよ、じゃないっしょ!今日は美味い酒飲みに行くよ!」
私「当たり前だ!」

「喫煙所行こうよ」
と、Fが肩を組んできた。

....洗浄は思った以上に動きがハードなので三つの洗浄機をバランスよく使っていかないと、要洗浄トレーがあっという間に溜まってしまう。
基本、プレスから一人検査から一人の計二人で洗浄機を回していく。
検査からはたまたまYさんが今日の洗浄担当だった。

Y「次は二号機に入れようか?」
私「......」
Y「ねぇ?聞いてる?」
バン!と作業台を叩く。

ちょっとビクッとしながら
私「えっ?えっ?何?」
少し呆れた表情で
Y「だから!次は二号機でいいよね?」
私「あ、うん、いいよ」

Y「....大丈夫?」
私「ん?大丈夫だよ」
と言いつつ、まだ完全に腹が括りきれてない自分がそこにいた。

昼になった。
刻一刻と迫ってくる審議会開始時刻。

食欲が全くと言っていいほど感じられない。

少しだけでもと、テーブルの隅っこでそばをすすっていると

「ボチャン」

と私の食べかけのそばの器の中に唐揚げが飛び込んできた。
J「腹が減ってちゃ戦には勝てないよ」
F「そうだそうだ、それとも何か?一個じゃ足らないか?」
Y「あーっ!ダメじゃないの!テーブル汚しちゃ!」
唐揚げが飛び込んだ勢いでそばつゆがバシャッと派手に跳ねたのだ。

私「いや...これはさぁ....」
Y「男がいちいち言い訳しないの!さ!早く拭きなよ」
なぜか私が怒られてる様を見てクスクス笑ってるJとF

そんなやり取りをしてる最中に
「Kさん」
と呼ばれた、職長だった。
「ちょっと休憩短くなっちゃうけど四十五分までに事務所に来てね」
と言うとクルッと背中を見せ、食堂を出ていった。

黙ってる私に対してFが肩を組みながら
「別に命までは取られないんだろ?だったら腹括って男見せて来いよ。そんで....」

「今日の飲み会は祝勝会にしようぜ!」

時間が迫る。

私「わかった、ありがとう。せいぜい祝勝会は派手に頼むよ」

そう言って食堂を後にした。
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