この大きな空の下で [無知奮闘編]

K.A

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勝ち取った権利と覚書

久しぶりのパチンコという余暇 2

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まだ、開店までは数分あるようだ。
今日は土曜という事もあってか既に数人が開店を今か今かと待っていた。

私「イベの割には並び少なくない?」

F「いや、こんなもんでしょ」

私「さて!何を打とうかな」
この時間が実に楽しい。

J「パチ?スロ?」

私「スロ!朝イチは高確探しからかな」

F「だね」

開店した。
皆、小走りで各々目的のシマへ向かう。
ここから勝負は始まっていると言っても過言ではない、ついつい目つきが鋭く慎重になる。

私は運良く二台目で高確を射止め、早くもチャンスゾーンに突入している。
信頼度の高い演出も頻発している。

このタイミングで席を立ち、仲間の様子を見に行く事に。

Yがパチンコで既に当たっていた。
私「お!早いなぁ!」

Y「三回転目で当たったよ!凄くない!」
私「じゃあ、今日の飲み代はYにゴチになるかな」
Y「えー」
Fが隣で頷いている。
F「Kはどう?」
私「うん、高確からチャンスゾーンに入ったところ、これからだよ」
F「いい感じだね」
私「うん、じゃあまた」

妻は前から羽根物が好きで今日も羽根物のシマにいた、こちらも既にドル箱半分くらい玉を持っていた。
私「いきなり調子よさそうだな」
妻「うん、イベって本物みたいね、鳴きが凄くいいよ」
釘はたしかによさそうだ。
妻「スロはどうなの?」
私「無事高確ゲット!」
妻「やったね!」
私「うん、久しぶりだからガッツリ出すよ。じゃあ後でまた来るよ」
妻「うん、頑張ってね」
軽く手を振り、自分の台に戻る。
なぜかJが隣の台にいた、道理で見当たらないはずだ。

J「このシマ当たりかもね」
シマを見渡すと大半の台が当たりをモノにしていた。
私「当たりっぽいね」
J「ところでさぁ」
私「ん?」
J「FとYの事なんだけど」
私「うんうん、あ!確定出た!」
J「おー!」
手早くボーナス絵柄を揃える、ここからが勝負だ。
私「んで?FとYが何だって?」
J「最近メチャメチャ雰囲気いいんだよね、あの二人。Kはどう思う?」
私「んー、単に仲いいだけじゃないの?」
J「そうかなぁ」
私「別に恋愛に発展するならそれも悪くないんじゃない?」
J「まぁそうなんだけど」
私「そんな事言ってるから小役取りこぼすんじゃない?」
明らかな目押しミスである。
私「でも、恋愛ってタイミングとハプニングだからね」
J「深いねー」
私「そうでもないよ、俺もそうだし」
J「へぇーっ」
私「そんな事よりFと折半とはいえ、ランチ代稼いでおかなきゃいけないんじゃない?」
J「やべぇ、すっかり忘れてた」

私の台はその後も順調にメダルが増えていく。
Jはといえばかなりの時間下皿プレイで箱になかなか手が届かない。

私「ちょっとトイレ」

ついでに妻の様子を見に行く。
既に足元に二箱積んでいて、三箱目もあと少しで一杯という状況であった。

そっとしておこう。

トイレから戻るとJがようやく下皿プレイを脱していた。
私「モミモミ長かったね」
J「ようやくだよ」

そのタイミングでFとYと妻が様子を見に来た。
「そろそろお昼にしない?」


五人で向かったのはパチンコ屋の隣にある定食屋。
店構えは古いが隣がパチンコ屋ということもあってか、客は途絶える事がないようだ。

店に入り、座敷席に座る。
テーブル席がメインなんだが、残念ながら四人掛けだ。

「いらっしゃいませ、お決まりになりましたら呼んでください」
慣れた手つきでお冷が出てきた。
写真はないが、種類は豊富なメニュー。
周囲を見渡すとなんとなく人気メニューが見えてきた。

「すいません!注文お願いします」

飯を頬張りながら途中経過を報告し合う。
Fがちょい凹み、あと四人はプラス域。
特筆すべきは、とにかく妻の台が絶好調で既に四箱目に突入しているという事と投資金額がわずか千円だという事。

報告しながら飯を食い終わる。
充分満足、満腹だ。

定食屋を後にし、後半戦の始まり。
ところがJの台が突如別物のように大きくはまり、一箱あった出玉をペロッと飲み込んだ。
これだからスロットは恐い。
飲み込んだだけでは足らないのか、とにかくはまりが止まらない。
Jも少しアツくなってる。

二万円を入れてちょっとしただろうか、ようやく当たりを得る。
J「長かったぁ!」
私「ようやくだね」
J「まだ時間はある、ここから仕切り直しだ」
私「コーヒーでも飲もうか」
席を立ち、自販機に向かうついでに妻の様子を再度見に行った。

ん?五箱?
妻の台は絶好調そのものをキープし続けている。
データを見てもハマリがどこにも見当たらない。

妻「このお店いいね、また来ようよ」
満面の笑みの妻、まぁこんな日も悪くない。

自分の台に戻る。
私「はいよ、ブラックだよね?」
そう言いながらJにコーヒーを渡す。
J「うん、ありがとう」

淡々と打ち続ける中、
J「Kはこの現場はずっと続けるの?」
私「うん、そのつもり。資格も取ったしね」
J「ふーん」
私「ふーんって。Jはどうなの?」
J「ん?もちろん満期までやるつもりだよ」
私「問題はその後だよね」
J「そこなんだよね、次も楽しくやれるとは限らないし」
私「でも今から考えてもねぇ」
J「ねぇ」
私「あ、また入った!」

しばらく経っただろうか妻とYがやってきた。
「ねぇ、何時までやるの?」
時計を見る、七時を少し回ったところだ。
私「じゃあ八時に切り上げて飲みに行こうか」
「オッケーわかった」
そう言うとクルッと背中を向けて自分の台に戻っていった。


八時なった。
私「J、そろそろ止めようか」
J「そうだね、何とかチャララインまで持ってこれたかな」
店員を呼び、出玉を流してもらいレシートを受けとる。

私は約三千五百枚
Jは千四百枚だった。
J「千五百円の負け。あのハマリを考えたら上出来か」
私「だね。私は投資四千円だから....大体六万六千円の勝ちかな」
J「Kの台はほとんどハマらなかったからね」
私「久々の大勝利!」

他のメンバーも切り上げてカウンターの景品をあれこれ眺めていた。

換金を済ませる。
結局大ハマリしたJとYの隣で運を吸い取られたと吠えているFが負け、私と妻とYが勝利という結果になった。

妻、Y「あー楽しかった!」

F「そりゃそうでしょ、あれだけ当たれば」

Y「そう拗ねないの、飲み代奢るから」

F「ふっ...俺に慰めはいらないぜ」

Y「あっそう、じゃあいいね?」

F「いや、それは勘弁してくだせぇ」

私「いくらやられたの?」

F「二万八千円、単発ばかりで全然連チャンしなかったんだよ」

私「そりゃ災難だ」

Y「でも奥さんパチンコ上手だね、あんなに出しちゃうなんて」

妻「私もあそこまで出ると思ってなかったから」

Y「いやいや、五箱半も出せれば凄いよ」

妻「へへへ、ありがと」
妻はわずか千円で三万近く勝っていた。

J「結局K夫妻の大勝利だね」

K「久しぶりだったから今までの運を使いきったかも、じゃあ、飲みに行きますか?」

J、F、Y、妻の四人が私の顔をじっと覗き込む。

「.......」

「.......」

私「わかったよ!飲み代出すよ!」

F「さすが!太っ腹!」

妻「惚れ直すわ」

私「好き勝手言いがって、いいよ行こう」


ぞろぞろと向かったのは昨日の居酒屋。



いらっしゃい!
おぅ!連日来てくれるなんて嬉しいねぇ!

大将の威勢のいい声に迎えられる。

大将「御注文は?」

私「生ビール人数分」

大将「あいよぉ!純ちゃん!生五杯よろしく!」

純ちゃん「はーい」

程なくして生ビールが運ばれてきた。

純ちゃん「あれ?昨日のスーツの年配の方、さっきまでカウンターで飲んでましたよ」

私「へぇ、そうなんだ」

純ちゃん「一時間くらい大将と話しながら飲んでましたよ」

F「今日も泊まりなのかな?」

大将「はい!刺身大皿盛り合わせお待ちぃ!」
お通しと共に刺身盛り合わせが運ばれてきた。

妻「え?頼んでないですけど?」

大将「次長さん?だっけか。さっき飲みに来て[昨日の若い連中に食わせてやってくれ!]ってお代置いてったぞ」

訳がわからないが相当気に入られたらしい。

私「折角だから頂こうか?あ!ちょっと待って!」

店員を呼ぶ。
さっきから純ちゃんと呼ばれてた店員が笑顔を携えやってきた。
「刺身盛り合わせを囲んで写真を撮ってもらえないかな?メールで送るから」

純ちゃん「あ、いいですよ」

カメラモードにした携帯を渡す。

純ちゃん「あ、この機種なら操作知ってるので大丈夫です。それじゃ撮りますよぉ」

刺身を五人で笑顔で囲んでハイチーズ!

私「ありがとうね」

純ちゃん「どういたしまして」

昨日頂いた名刺に次長個人の携帯アドレスが書いてあったので、さっそく写真と共にメールを送った。


ものの二分くらいで返事が来た。

 たて続きに着信が来た。

私「ごめん、次長からだ」

席を立ち店の外に出て、電話に出る。

私「お疲れ様です。刺身盛り合わせありがたく頂きます」

次長「お疲れ様、いや構わんよ。それと君の名前で焼酎入れておるからね」

私「え?あ、はい」

次長「あ、あとねぇ、君たちの飲み代として大将に一万円預けてあるからたらふく飲みなさい。それじゃ!」

私「何から何までありがとうございます。ありがたく頂きます!」

電話を切る。
ちょっと引いた。
でもすぐ落ち着く。

店内に戻る。
大将「次長さんかい?えらい気前のいい方だね」

私「ですね」

テーブルに戻ろうとした時に視界の隅に見た人がいる。

.....担当とMさんだった。
カウンターの隅で何やらコッソリ飲んでいる。

見なかった事にしてテーブルに戻る。

私「ちゃんとみんなの分もお礼言っておいたからね」

既に焼酎の栓が開いている。

J「これも次長さんからだって!」

私「それだけじゃないよ」

Y「え?まだあるの?」

私「大将に俺らの分って飲み代を一万円預けてあるってさ」

一同「はぁ?一万円?」

私「俺もびっくりしたよ」

妻「すごいね」

私「ありがたや、折角のお気持ちだから頂こうよ」

Y「だね!」

その時だった。


「あれ?Kさんじゃない!」

担当だった。
「ここで飲んでたんだ」
親しそうに話ながら座敷の隅に当たり前の様に座ろうとする。

私「なんでしょうか?」

担当「なんか態度が冷たいねぇ」
私「そんな事ないですよ」
担当「いやいやいつもと全然違うよぉ」
隅に座って話を続けようとする担当。
私「すいません、今はプライベートなので」
担当「いいじゃない!Mさんも一緒に来てるからさ、折角だから一緒に...」
私「いえ、勘弁してくれませんか?」
担当「だからそれが冷たいって言ってるの」
私「冷たくても何でもいいから勘弁してくださいって言ってるんです」
担当「一緒に酒くらいいいだろうが!」
私「わかりました、ごめん、みんなちょっと席外すね」
一同「わかった」
妻が手を出しちゃダメだよ目配せする。

上着を羽織り、飲んでいたジョッキを持って立ち上がった。

私「お望み通り一緒に飲みましょ!」
担当「そうだよそうだよ!そうこなくっちゃ!」
担当が靴を脱ごうとした瞬間に
私「あ、靴は脱がなくて結構ですよ」
担当「え?だって一緒に飲むっ....」
私「ええそうですよ、こっちでね」

靴を履き、担当を連れて入り口に向かって歩き始める。
担当「おい!こっちって....」
私「私と一緒に飲めればいいんでしょ?さぁどうぞ」
酔ってはいるが、戸惑う担当

「おい!寒いぞ!早く閉めろ!」
他のお客さんの怒鳴り声が聞こえた。

私「ほらぁ怒られちゃった。早くどうぞ」
渋々外に出る担当。
思惑通りMさんが一緒に出てきた。

私「さぁ!飲みましょう!まずは乾杯しますか!」
担当「おい、待てよ。ここで乾杯するのか?」
私「当たり前じゃないですか!さぁ!グラス構えて!」
担当「なぁ、中で飲もうよ」
私「私の仲間が飲んでる席はダメですよ。あそこは私の完全プライベートですから」
担当「いや、それにしても」
私「たしか他に空いてる席はなかったはずですよ。だから気を利かせてお店の邪魔にならないようにここにしたんです」
担当「紹介してくれてもいいじゃないか」
私「紹介?わかりました。それならここでもできますよ。私の向かいに座っていたのが....」
担当「そうじゃなくて!」
私「え?じゃあどうしろと?寒いんで早く乾杯しませんか?」
担当「いや、さすがに寒いから中に入らないか?」
私「乾杯もしてないのに?わかりました、じゃあ中に入りましょ」

中に戻る。
担当とMさんは当たり前の様に真っ直ぐ同期が座ってる座敷に向かう。

さすがに頭に来た。
私「そっちじゃねぇだろ!!!もう一回表に出るか!おい!」

店中に響いてしまった。

びっくりした顔の担当とMさん。

担当「だって君達が飲んでるのはこの席じゃ.....」


「お客様、すいませんが」


割って入ってきたのは店員の純ちゃんだった。

担当とMさんに向かって
「楽しくお酒を飲めないようですね、すいませんが他のお客様の御迷惑になりますのでお帰り頂けますか?今日の代金は結構ですので」
と、啖呵を切った。

担当「うるせぇ、こっちは客だぞ!店員風情がガタガタ言ってんじゃねぇよ!」

「何こら!ウチの純に文句あるのかこの野郎!帰れと言ってるのがわかんねぇのか!」
大将が厨房から包丁を持ちながら飛び出てきた。

大将「上等じゃねぇかこの野郎!おい!明日からこの町で飲める店はねぇと思えよ!」

担当「何だと!この野郎!」

酒癖悪いなぁ。

担当に常連客がそっと
「大将には逆らわない方がいいよ、ここの商店会の会長だから。この店で出禁くらったらマジでこの町で飲める店はなくなるよ」
と、教えたんだけど

担当「けっ!会長?上等だよ!ふざけんな!」

と言い放つと上着を持って店を出ていった。

....ひとり取り残されたMさん。


「おねーちゃん、悪いこと言わねぇから頭下げとけって!今ならまだ勘弁してくれっから!」
良かれと思って常連さんが言葉を投げ掛ける。

M「......お騒がせして申し訳ありませんでした。今日は大人しく帰ります」

大将「おねーちゃんはアイツの連れか!おねーちゃんは頭下げたから勘弁してやるけど、アイツは出禁だ!二度と連れて来るな!」

M「わかりました、伝えておきます。ほんとにすいませんでした」

そう言うとMは静かに店を出ていった。


「みんな、ちょっとごめん」
私はMさんの後を追い掛けた。
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