この大きな空の下で [無知奮闘編]

K.A

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勝ち取ったと思った日常

警察署にて

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後日、事情説明という事でMさんを伴い警察署に出向いた。
日程は私の都合を十分に配慮した日程に調整してもらった。


「いま担当の者が来ますので少々お待ちください」

会議室風の部屋に通される。

私「話はどこまで進んでるの?」

M「それが、全然話の辻褄が合わないそうです」

私「全然?」

M「昨日も来ていろいろ聞かれたのでまだ進展はないと思います」

私「困った人だねぇ、初犯なんだろ?」

M「いえ、会社が不祥事は困るってもみ消してたそうです」

私「バカだなぁ、それじゃ貰える弁当も貰えなくなっちゃうぞ」

M「弁当?」

私「警察業界の隠語だよ。執行猶予の事を隠語で弁当って言うんだよ」

M「詳しいですね」

私「でもそれしか知らない」

M「.......」

ぷっと噴き出したM
物知りな人だと思ったらそれしか知らないというのが可笑しかったらしい。

私「そんなに可笑しいか?」

M「えぇ、そりゃもう」


ガチャッと扉が開き、担当警官が書類を抱えて入ってきた。
その後ろから婦人警官がノートパソコンを携えて入ってきた。

「今日はわざわざ御足労頂きありがとうございます。この事件を担当していますIと申します」

「私はI刑事の補佐を任されましたSと申します」

私、M「よろしくお願いします」

I「ではまずは事件の概要からなんですが」
ノートパソコンを開き、同時進行でカタカタと記録を始めるSさん

I刑事に事の経緯を説明していく。
説明の途中で

I「ちょっと止めてください」

私「なにかおかしいですか?」

I「いや、この部分の話にズレがあるんですよね」

私「ズレ?」

I「えぇ、さらっと聞き流したら気づかないくらいの話なんですが、なんせ調書として記録・保管しなきゃいけないので...」

警察も何かある度に色んな方面から叩かれて大変なんだろうなぁ。

I「この部分は間違いありませんか?」

私「はい、間違いありません。その通りです」

I「わかりました。ではそっちで調整しましょう。それとMさん」

M「はい」

I「もう一度あなたが受けた被害をゆっくりでいいので細かく説明してください。ここも若干ですが話がずれてるので」

....Mさんの受けた被害って、性的なものもあったよな。

私「刑事さん」

I「はい?どうしましたか?」

私「私は彼女が受けた仕打ちの大半を本人から聞かされて知ってます。ですが、改めて聞かされるのも心が痛みます。すいませんが彼女の話が終わるまでの間だけでも席を外してもいいですか?」

I「お煙草お吸いになる方ですか?」

私「はい、喫煙者です」

I「じゃあ、Sさん、Kさんを三階の喫煙所に案内してあげてもらえますか?その間は聴取は止めますので」

S「わかりました、じゃあこちらへどうぞ」

I「Mさんのお話を伺った後でまたお願いします」

私「わかりました」


案内された三階の喫煙所。

六畳程度のスペースの真ん中に机があり、大きな灰皿が置いてある非常に簡素なものだった。
隅に自販機があり、なぜか商品の七割はコーヒーという偏りっぷりはさすがに笑えた。

パイプ椅子が数脚あったので、その一脚に座り、タバコをふかしながら携帯ゲームで時間を潰す。


....三本目のタバコを消した時、

「終わりましたのでお願いします」

Sさんが呼びに来た。

元の部屋に通される。

I「大体ですが話の帳尻が合ってきました、後はKさんのお話を聞かせてください、一部重複するかと思いますが気分を害さずに御協力お願いします」

私「わかりました」

I「では.....」

......

......

聴取時間は私の想像を遥かに越え、二時間に及んだ。

そして、ようやく

I「これでどうでしょうか、Sさん」

S「えぇ、これなら問題ないと思います」

どうやら落ち着いたらしい。

I「ではKさん、Mさん、長時間に及ぶ御協力ありがとうございました。ひょっとしたら補足でお話を伺うかもしれませんので、その時はまた御協力お願いします」

私、M「わかりました」

私「ところで」

I「なんでしょうか?」

私「奴はどうなりますか?」

I「うん....あのままじゃ執行猶予はないかも。なんせ取調室だけじゃなくて裁判所でも暴れちゃったからね」

私「なかなか往生際が悪いですね」

I「ほんとにその通りです。大人しくしておけば執行猶予は間違いないのに」

私「刑務所という一般人ではなかなか経験出来ない経験をしたいんじゃないですか?」

I「そうとしか思えないよ」

I刑事がネクタイを軽く緩めながら
「では、今日はありがとうございました。駅まで部下に送らせますね」

私「いやいやそれは....」

I「安心してください。車は覆面ですから」

私「あ、そうですか。びっくりしましたよ」

S「ではお車までご案内しますね」

私「では失礼します」
M「失礼します」


帰りの車内。

M「Kさん」

私「ん?どうしたの?」

M「私、Jさんのお世話になる事にしました」

私「そっか、じゃあ現場一緒かもな」

M「もしそうだったら.....」

私「また定食屋に飲みにくればいいさ」

M「Kさん.....」

私「ここで来るななんて言ったら、定食屋のババァに営業妨害で訴えられちゃうよ」

M「ババァって....」

私「あ、いけねぇ!ババァには内緒だぞ」

M「わかりました、でもうっかり口が滑っちゃうかもしれませんよ」

私「.....今度一杯奢るから黙ってろ」

M「あ、それなら口が滑る事はなさそうです」

....

駅に着いた。

「ありがとうございました」
送ってもらった覆面パトカーから降りる。

その時Mの携帯が鳴った。

M「あ、はい、Jさん?え、は、はい!ありがとうございます。わかりました、明日ですね!必ず行きますと伝えてください。では」

私「Jか?どうしたの?」

M「さっき話した口利きの話です、担当の方が明日空けておいてくれるそうです」

私「そりゃよかったな、徐々にだけど好転してきてるな」

M「えぇ、そのようです」

私「それじゃまたな、さすがに腹減った」

M「えぇ、また」

駅前でMと別れた。

この時私は無知とはいえ、色々やり過ぎてしまった事を深く反省させられる事になるとは知る由もなかった。
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