この大きな空の下で [無知奮闘編]

K.A

文字の大きさ
上 下
41 / 51
明日に向かって

ポストカード 1

しおりを挟む
「美奈ちゃん!ビール頂戴!」

いつもの定食屋でのいつもの風景。


美奈「ビールお待たせしました」

今日の店内は近くでアイドルのイベントがあったせいでかなり混んでいた。

妻「今日は忙しそうね」

私「コンビニも混んでたもんな、たぶん周辺のお店も混んでるんじゃないかな」


珍しくおねーさんがやってきた。

「あんたら!今日はお代わりはセルフでやっておくれ!二人じゃ捌ききれないよ」

私「あ、いいっすよ」

F「了解でーす」

「唐揚げ定食お待たせしました」

おねーさんと入れ違いに美奈ちゃんが定食を運んできた。

私「忙しそうだね」

美奈「次から次へと大変ですよ」

厨房に戻ろうとした美奈ちゃんが何かを落とした。

M「美奈ちゃん!生徒手帳落としたわよ!」

美奈「え?あ!すいません!」

M「へぇ、美奈ちゃん来週誕生日なんだ」
美奈ちゃんは生徒手帳を受け取りながら
美奈「あ、すいません。はい、来週で十七になります」
と、ニコッと笑顔を見せた。


私「すいませーん!ビール....」

妻「今日はセルフよ」

私「あ、そうだっけ!すいませーん!自分でやりまーす!」

他のお客さんの笑い声を聞きながらビアサーバーへ歩み寄る。

美奈「ジョッキはこれ使ってください」

と、よく冷えたジョッキを渡してくれた。

私「美奈ちゃん?そういえば」

美奈「はい?」

私「美奈ちゃんの好きな写真家って、ひょっとしてSK?」

美奈「はい!でもなんで知ってるんですか?」

私「俺も表紙だけなんだけど十七万円の写真集見てきたから」

美奈「そうなんですか?いいですよねぇ、あの写真集」

私「俺は写真の世界はよくわからないけど」

美奈「あれのおかげて毎日バイト頑張れるんです」

私「そっか、頑張れよ!」

美奈「はい!」



ビールが上手く注げたので上機嫌の私。

F「上手だねぇ」

M「ほんと、見本みたい」

J「あ、ついでに頼むよ」

私「あぁいいよ、ジョッキちょうだい」

....

私「はいよ!お待たせ!」



「おーい!お兄さん!」

私「俺?」

「そーだよ!ビール注ぐの上手いな!俺も頼むよ!」

妻「やってあげたら?」

Y「特技は披露してナンボでしょ」

私「わ、わかったよ」


「後で一杯サービスしてやるから働け!」

おねーさんの声が厨房から聞こえた。



....一時間後。

私「ビール注ぐだけでもかなりの重労働だな」

妻「お疲れさま」

Y「お疲れさま」

美奈「はいどうぞ、オーナーからです」
よく冷えたビールが運ばれてきた。

私「ありがと、ちょうど喉が渇いてたところだよ」

妻「御褒美の味はどう?」

私「うん最高だね!染み渡るよ!」


「じゃあまた忙しい時は頼んだよ」
忙しさから解放されたおねーさんが厨房から出てきてニヤリと笑う。

私「はいはい、おねーさんには逆らえませんよ」

妻「少しは売り上げに貢献できるかしら?」

私「さぁ、それはわからないな。あれ?Jは?」

妻「Mさんと一緒に帰ったよ」

私「何だよ、残念だな。折角の俺の勇姿を....」

妻「勇姿....そんなかっこいいものかしら?」

Y「まったく同感でございます」

F「可愛い女の子に運んでもらった方が美味しく感じるんだけどなー」

私「あ、そう?じゃあ今度Fには泡百パーセントのビールをご馳走するよ」

F「あー!K!ごめんよぉ!嘘だよ!嘘!」

私「まぁまぁ、そんなに遠慮するなよ。今日の手伝いでコツはバッチリ掴んだぜ!」

F「いやぁ!ごめんって!」


一同爆笑。



「ごちそうさま!またね!」

「ありがとうございました!」


定食屋を後にする。


妻「それにしてもビール注ぐの上手だったね」

私「いやぁ、あんなの誰にでも出来るだろ?」

Y「.....」

F「どうしたの?」

Y「...私、あれ苦手」

F「え?ごめん聞こえない」

Y「私、あれ苦手なの。居酒屋のバイト経験あるんだけど、どうしても上手く注げないの」

妻「そうなんだ、私も何回かはやった事あるけど、難しいよ」

私「じゃあ、美奈先生に教われば?」


......と言うと左右から女性二人の高速の肘が私の腕目掛けて飛んできた。


その時

私「あ!」

激しく閃いた。

妻「どうしたのよ!びっくりするじゃない!」

Y「うわぁ!なに?なに?」

私「あ、いや、ごめんごめん」

Y「へんなの」

妻「ねぇ」

なぜか肘打ちされたタイミングで思い出した。


なぜ写真に興味がない私があの写真家の事を知ってたのかを。
しおりを挟む

処理中です...