夏が終わった、そのあとに〜吟遊詩人とすみれの恋〜

楢川えりか

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【PART4】3年生、夏と秋、冬の終わり

25. 夏休みの焼肉

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 こんなふうに冬が終わって春が来て、おれたちは三年生になって、あっという間に夏休みになった。
 八月の終わり。
 バイト代がやっと貯まったので、始めたばかりのピアノのレッスンのあと、おれは宮村と約束した飯に行った。焼肉。
「あー、佐野ちゃん、こっちこっち」
 先に店に入っていた宮村がおれに向かって手を振る。
 都真もついてきたいとおれに言っていたので、おれは彼と近くで合流していた。ふたりで一緒に席につく。
 横に都真、前に宮村で、おれはふたりの間に挟まる感じになる。
「聞いたよ、都真くんと付き合ってるんだって。トゥールーズで仲良くなって」
 宮村がビールを飲みながらおれに言った。実はこのあいだ都真から、宮村に付き合ってるって話していい? と聞かれたんだ。
「ああ、うん」
 おれは宮村ならいいよって言ったんだ。
 宮村はいろいろ世話になったし、なんだかんだ、いい友達だと思うし。たぶん知っても、おれが嫌なことは言わないだろうと思ったし。
 どっちかと言えば、宮村が知らないまま都真とふたりでフランスに留学するより、知っておいてほしい気もしたし。
「トゥールーズに誘った俺、キューピッドじゃん!」
 得意げな顔をする宮村に、おれは少しほっとする。
「まあそうです。ありがとう」
「めっちゃうれしい! 都真くん素敵でいいね、お幸せに」
 隣で都真もにこにこしていた。都真、宮村にいろいろのろけてそうだな。
「宮村、都真がフランスでモテないように見張ってて」
 おれが冗談っぽく言うと、都真が慌てる。
「絶対、一夜が心配するようなことはないって!」
「遠距離かあ……」
 気づいたように、宮村がしんみり言った。
「オレはもう覚悟はできてるから」
 都真はおれを見ながらそう言う。まあ、おれもそのつもりだけど。
「おれもだよ。都真と時差のない生活ができる宮村はうらやましいけどな」
 都真が日本を離れる日までカウントダウンできるようになってきて、本当は寂しい。でも焼肉屋であまり思いつめたような感じを出すのは、都真も宮村も迷惑だろう。おれは冗談っぽい口調で言った。
「ああ、時差かあ。佐野ちゃん、俺、都真くんの写真撮って送るわ。それ見て励まされて」
「えっ、変な顔とか送らないで。オレのチェック受けてから送ってよ」
 都真がふざけるような口調で言って、おれたちは笑った。
「そういえば佐野ちゃんは、進路どうするん? 就職?」
 宮村がおれに尋ねる。
「うん、進学はないかな。宮村も就職?」
 フランス語の勉強は続けているけど、やっぱりおれはそこまで勉強したり研究したりが好きな感じはない。
「うん、とりあえず金を稼がないと」
 宮村くらい勉強熱心なやつでも金を稼がないとだもんな。そこまで好きじゃないおれは、就職だよな。
「こないだ、就職活動用の性格診断テストを受けたよ。有料の、強みとか資質とか、オススメの仕事とかやめた方がいい仕事とか載ってるやつ」
 おれが言うと興味深そうに宮村がたずねた。
「どうだった?」
「保育士とか看護師とか、今さら無理だろっていうのも出てくるけど、参考にしてみる」
 うちの親は相変わらずで、おれのことを心配してくる。でもケンカした日以来、おれは性格診断のほかにも就職フェアを覗いたり、大学でOBGが来て話してくれるイベントに行ったり自分でいろいろ動いていて、その経過を親に報告はしている。
 なんにも共有しないと、またうるさいからさ。
 あと親の言うままもいやだなって思ったけど、公務員試験のテキストも買ってて親には内緒でこっそり勉強してて、秋から、やっぱり予備校に行こうと思うって言おうかな、ともなんとなく思ってる。やっぱり、おれはコツコツやる方が向いてるんだよな。
「あー、向いてそう」
 宮村が微笑んだ。
「そういえばそれでさ、おれはもっと他人と境界線が引けるといいなって書いてあったよ」
「だろ? 俺すげーなー」
 去年の夏、都真とまだ付き合ってなかったときに、宮村にそんなことを言われたんだよな。
「前に言われたときはさ、自分と他人の境目ってなんだろって思ったけど。なんとなくわかってきた」
「そう?」
 宮村は肉を取り上げながらおれを見る。おれは空いたところに肉を置いた。
「うん。恋愛しても、相手一色にならないこととか、親がおれに望むことがあっても、おれは別に叶えなくてもいいし、そのことで罪悪感を感じなくてもいいこととかじゃない?」
 自分は自分、他人は他人ってことだよな。この肉もおれ用にしよう。
 都真は、にこにことおれを眺めている。
 おれはそんなことを、都真と出会って学んだ気がした。都真が、今のままのおれが大好きって言ってくれたから。
「そうそう。佐野ちゃん、共感スキルのレベル高いからな。その分、自衛しないと」
「都真のおかげだよ」
 おれが言うと都真は満足げな笑顔で照れて、おれたちは宮村にからかわれた。
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