クロステイルズ〜異世界兄弟冒険譚〜

犬原麗央

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1章 ブルーティヒ・ブルーダー(血塗れの兄弟)

命がけの脱出

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 どのくらいの時間が経過しただろうか。光に包まれてから数分だったような気もするし、数年がたったような気もする。
「俺、死ぬのかな……みんなのとこに行けるのかな……」
 父さんの顔を俺は思い出せない。俺は5年以上前の記憶がない。
「会ってみたいな、父さんは一体どんな人なんだろう」

 サラサラと音が響く。ピチョンという音がして、俺の顔に何か冷たいものが当たる。水のようなものだったが、冷たくはない。俺はそっと目を開けた。
「ここは……」
 視界に入る鮮やかなみどりが俺の視覚を刺激する。今までほとんど赤と黒と白の3色しか見てこなかったからか、緑色の無数の葉が俺に安堵感を与える。小鳥がさえずり、チロチロと小さな川が一直線に流れている。やはりあれは夢だったんだ。

 ここはどうやら森のようだ。どこの森なのかわからないのでスマホを開こうとした。
「あ、あれ、充電切れた」
 まあ、そのうち森を抜けるだろうからどっかの街で充電すればいいか。
「よっこいしょ」
 俺は立ち上がって異変に気付く。なんか俺の鼻が無性に長いし、人のそれじゃない。おまけに全身白銀の毛で覆われてるし、尻尾がついてる。
「えっ……これって……」
 白銀の毛の……狼……? あれ、俺人間じゃないのか?
 困惑する俺の後ろでヒュンと風を切る音がする。
「な、なんだ!?」
 音の先を見ると一本の矢が木に刺さっている。血の気が引くまでわずか3秒。
「な、なんで!?」
 戸惑いながらもここにいてはまずいと本能が告げる。その本能のままに駆け出す。こんなことなら尾上に誘われた時に一緒に運動してればよかった。体力ないから走るだけで息切れしそう。
「逃げたぞ。追え。殺すなよ」
 遠くに二人の人物を視認する。あれ、なんかすごく遠いのに会話が聞き取れる。
「森を焼き払えたら楽なんですけどね」
「馬鹿が。この村に逃げ込んだ王家の末裔と交換するための人質なんだ。死んでしまったら意味がなかろう」
「まあそうですよね。生け捕りですよね、わかってますよ」
 人質……?王家の末裔……?
「俺、この村とも関係ないんだけどなあ」

 まあ、とりあえず命は惜しいので逃げる。というか、なんでここにきて早々こんな命がけの手荒い歓迎を受けてるんだろう。飛び来る矢を狼の野生の勘で交わし、自然のトラップを踏み越え、木が生い茂る森を本能のままに走る。あれ、俺いつもより早く走れてるんじゃね?とか色々考えていると、木と木の間の暗く、死角になる場所に出る。

 そっと座り込み、乱れた呼吸を整える。同時にさっき気になったことを確かめる。
「……やっぱり、どう考えても狼だよな」
 近くにあった数日前に偶然できたと見える水たまりに自らの姿を写し、確認する。
 数分の沈黙。さして不自由はないと思うけど現実を受け入れるまでにこれぐらいの時間は必要だった。
「なんかここ数日ぶっ飛んだことが起こりすぎてるよなあ……まあいいや」
 今はとりあえず命が惜しい。追っ手をかわすことが先決だ。人間に戻れるのかは後回し、死んだら戻るも何もないのだから。
「……っ」
 痛みが走り、足を見やると数センチの切り傷ができている。どうやら逃げる途中どこかで切ったのだろう。

 刹那、ヒュンという音とともに、俺の右腕を矢が掠める。
「っ……」
 見つかった。息つく間もないな、と思いながら俺は駆け出す。ただひたすらに、前に、前に駆け出す。そして後悔した。
「えっ……」
 進んだ先は崖だった。引き返すこともできず、そのまま飛び出す。ええい、もうどうにでもなれ。
「う、うわああぁぁぁ」
 足を踏み外した俺は受身の態勢をとる。そして地面にぶつかり、そのまま流れの緩やかな川へと落ちる。それと同時に、ほんと今日はツいてねえなあ、と一言愚痴をこぼして、俺は再び意識を手放した。

「ちっ、もういい。引き返すぞ、ここから落ちたならもう助からんだろう、無駄な取ろうはしたくない」
「かしこまりました。此度は引き返しましょう」
 追っ手二人が森を抜け、自国へと戻ったのはそのすぐ後だったという。
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