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1章 ブルーティヒ・ブルーダー(血塗れの兄弟)
雪の降る夜に世界は終わる
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静寂に包まれた暗闇の中に今俺は一人佇んでいる。右も左もどっちを向いても、そこには何もない。
「…………ょ」
俺は後ろにふと人の気配を感じ取る。ふと俺は後ろを振り返る。
「ん?」
そこにいたのは人ではなかった。いや、正確にいうならば、二足歩行の狼とでも言えようか。銀色の毛で覆われたその姿形は美しく、俺は思わず息を飲む。
「犬神家の末裔よ」
末裔というのは俺のことを言っているのだろうか。
「間も無く死の雪が降り、お前には絶望と苦痛の試練が与えられる。耐え抜け、そして生きよ」
試練……?なんのことを言っているのかさっぱりわからない。俺の身に何かが起きるということだろうか。俺は自分の身にどんなことが起こるのかを聞こうかと迷ったが、不思議と声が出ない。
「あっ……まっ……」
みるみるうちに視界に広がっていた闇が消えていく。我に返って振り向けばさっきまでいた男の姿はなかった。
「狼也、起きろ~、講義終わったぞ」
隣でけたたましい目覚まし時計が俺の耳元で騒いでいる。どうやら俺は講義中に寝落ちたらしい。
「ん、あれ、寝てたのか俺」
「試験は今回のとこから70%分出るってさ」
「マジで……?」
「おう、ノート貸しとくからそれ写しときな、これでこないだ見せてもらった分、プラマイゼロな」
「それは助かる」
そういえばこないだ逆の立場でノート貸したっけ、などと思いながら、俺はノートを受け取り、カバンに入れる。
「もうすぐ冬季休業だな。2ヶ月あるけどどっかいく予定ある?」
「寒いの嫌だしひきこもってたいな、いくつか試作した発明品もあるからそれを完成させたりしたいし」
こたつに入って……何か作りたい。なんか役に立ちそうな便利なものを。
「マジかよ、さすがは『29世紀の発明王』なんて言われてるだけあるよな。でもさ、せっかくの休みなんだしどっか行こうぜ、例えばそうだなあ、スキーとか」
「おいおい、お前、俺の運動嫌い知っててわざと言ってるだろ」
ははは、と笑う友人にしかめっ面を見せた後、俺もつられて笑った。この男とはよくこうやってふざけあってる。
「まあ、どっかで一回行こうぜ、後一年で卒業だしな。思い出作りってことで」
「ああ、まあどっかでな。予定決まったら連絡してくれ、都合つけるから。じゃあ、俺は今日これで終わりだから帰るよ」
「俺も今日はこれで終わりだ、5限の講義が休講だからな」
こいつとは途中まで帰り道が同じだったので、俺たちは途中まで一緒に帰ることにした。
血、血、その上にさらに血。かつて黒いアスファルトだった場所がおびただしい量の血液で赤く染まっている。
道路の両端に等間隔に植えられていた全ての木々は枯れ果てており、その黒く殺風景な情景が道と思しき場所を塗りつぶす真っ赤な鮮血とのコントラストで筆舌しがたい異様な恐怖感を駆り立てる。かつて建物だったものはその多くが潰れ、残骸の破片があちらこちらに飛び散っている。いくつか原型を留めたものもあるが、そのガラスは砕けて粉々になっており、とてもじゃないが人が住めるようなものではなかった。
その地獄宛らの光景を眺めて俺はボーッと立ち尽くす。何も考えない。何も考えられない。思考がしばらく停止した。
「一体……何が起きたんだ」
ようやく落ち着いたものの、何一つ思い出せない。気がついたらここに横たわって倒れていた。
「…………っ!?」
俺は自分の右足が瓦礫の下敷きになってることに気づく。
「痛ってえなぁ……このっ」
左足で瓦礫を蹴り飛ばし、ようやく抜け出す。
「何がどうなってるんだ」
俺はこの光景にどこか不自然な感じを覚えた。何がおかしいのかは……よくわからない。
「誰か、誰かいないか!?」
俺は可能な限り声を張り上げ、周りに人がいないかを確認する。
「おい、誰かいたら返事をしてくれ、誰か!」
そして俺は違和感の正体に気づく。
どこを見渡しても血は飛び散っているのにその根源の死体がないのだ。背筋が凍りついた。
「なんで……どうしてだ!?」
どんなに周りを見渡せど、やはり残骸と血はあるがあるべき死体がそこには一つもなかった。
死体がないということは周りに生存者もいない確率は高い。ここに生き物の気配は何一つない。
暗黒の空から白いものが舞い散る。雪が舞った。白く、儚く、美しく。そして赤い地面に落ちて消えた。
「死の雪……?」
俺は夢の中で会った狼の男が言っていたことを思い出す。試練とはこのことなのだろうか。
雪が消えていく地面を俺は見つめた。物音が一つもしない。鳥の鳴き声も、虫の羽音も、人の声も、何もかも消えてしまった。
「俺は……」
この世界にただ一人残されたのだろうか。
「な、なあ、嘘だろ?誰かいるよな。この世界で一人きりなんて……嘘だと言ってくれよ」
消え入りそうな声で俺は呟く。誰かが一言返事を返してくれれば俺はそれだけでいい。頼む、誰か返事をしてくれ。頼むよ。
誰もいないこの世界で残りの余生を生きていくなど考えただけでおぞましい。
思考が現実に追いつかない。否、思考が現実を受け入れない。仲間を気遣う余裕などない。誰でもいい。誰でもいいから返事をしてくれ。
「なあ……誰か、誰か……いないの……?」
返事がないのだから誰もいないことは頭の片隅ではわかっている。それでも探さずにはいられない。赤の他人でも、嫌いだった知人でも、誰でもいい。一人は嫌だ……。
「なあ……」
返ってこない返事を求めて俺は人を探し続けた。
どれだけの時間が経ったのだろうか。徒らに消えていく時間の経過とともに、俺の思考も現実を受け入れ始める。最初は目を背けた血も今では見慣れた。
「……そうだ、思い出した」
現実離れした不思議な事象の連続。なぜこの世界から生命が全て消えたのか。何故血だけが飛び散り大元の死体がないのか。そしてなぜ俺だけが生きているのか。
冷静になって考えた途端、俺はここまでの経緯を思い出す。数時間前の話である。
それは俺たちが大学の3号館のキャンパスを出た時に起きた。
「なあ、狼也、あれなんだろう?」
「ん?どうした?」
不思議そうに首をかしげた友人の指差した先を見た。そして俺は目を見張る。
空から青白い何かが燃え尽きることなくゆっくりと一直線に落ちてくる。
「なんだろあれ、飛行機かな……?」
「いや、もっと細長いな」
それは近いもので例えるならば巨大な「槍」だった。どう見ても人の作り出せるものではない。
「えっと……落ちてきてるよな?」
引きつった顔の友人。無理もない。俺もおそらくは同じような表情をしていただろう。
「ああ、落ちてきてるな、そして、あんなものがここに落ちれば地球は終わりだ」
俺はもう一度隣にいる友の顔を見る。落下への恐怖と槍そのものへの興味を同時に抱いたようで、少し興奮気味だ。ただし決していい意味ではない。
ゆっくりと落下していく槍が地上と接した時だった。
突如、バリンバリンという音とともに大学中の、周りの全ての建物のガラスが粉々に砕け散り、空に舞い上がると雨のように地面に落下した。
「危ないっ」
「建物の中に退避しろ、急げ」
それを受けた人々はパニックになり、悲鳴をあげた。待たずして爆風とも呼べそうな強く生暖かい風が外にいた人々に吹き付けた。その風を受けた俺と友人は別々の方向へと飛ばされていく。
「狼也あああああぁぁぁぁ」
友人が俺を呼ぶ声をかすかに聞きながら、遥か彼方へと弾き飛ばされ、俺の意識はそこで途切れた。
全てを思い出した俺はじっと空を仰ぐ。あの青白い槍はもうどこにもない。落下とともに消えたのかもしれない。
「おそらくあいつももういない。俺は……また一人になってしまったんだな……ああ、そうか」
頭が痛い。また一人になってしまった。この先どうやって生きればいい……? いっそのこと俺もみんなの後を追おうか。一人はもう嫌なんだ。父さん、母さん、尾上……今いくよ。待っててくれ。
今にも消えそうな意識の中で俺は親友の最後の顔を思い浮かべ、目を閉じた。
再び暗闇の中に俺はあの男を見つける。
「試練は始まったばかりにして、汝死すること能わず。しばし時を待て、この世ならざる地にて汝が闘いは始まる」
ただ一言、そう言い残して男は消えた。
しんしんと音もなく降り続く雪が俺の体温を奪っていく。ふと気がつくと俺は直に雪の上で寝ていた。
「夢から覚めたら元どおりになってたなんてことはないんだな」
こんな非現実なこと全部夢オチだったらどんなにいいだろうかと思ったがどうやら現実だったようだ。
「弱気になっちゃダメだな、あいつだって、もしかしたら生きてるかもしれないし」
俺は首をブンブンと横に振り、立ち上がる。何の気なしにポケットに手を入れてみたら、スマホがあった。
「あれ、まだ動くかな」
電源を入れて見ると、電池がかろうじて残っていたようでホーム画面になった。俺はすかさずマップをみる。現在地は東京を指している。
「あれ、そんなに飛ばされてないのか……あ、あれ……?」
だいぶ歩いてきたとは言っても十数キロぐらいだが、視界の先に見覚えのあるものがかすかな残骸として残っている。校名を記した石が柵の前に落ちていたことから確信した。ほぼ更地になってしまったが、ここは俺の通っている大学だ。
ふと空を見上げると雪が降り止んでいた。惨たらしくも全ての生命を打ち砕き滅ぼしたそれが降り止んだ。
「時が来るまで待てってあの人言ってたけどなんのことなんだろう」
そう呟いた刹那、俺の後ろから黄金色の光が俺を包み込む。逃げることもできず、俺はその光に吸い込まれた。
「な、なんだ!?うああああぁぁぁぁぁ」
俺はそのまま吸い込まれ、流れに身を任せた。どうせ誰もいないんだ、いっそこのまま……。
この日以来俺は二度とこの死の星と化した地球の土を踏むことはなかった。
この世界の終わりがこれから始まる絶望と悲愴の冒険の始まりになるなど俺は知る由もなかった。
「…………ょ」
俺は後ろにふと人の気配を感じ取る。ふと俺は後ろを振り返る。
「ん?」
そこにいたのは人ではなかった。いや、正確にいうならば、二足歩行の狼とでも言えようか。銀色の毛で覆われたその姿形は美しく、俺は思わず息を飲む。
「犬神家の末裔よ」
末裔というのは俺のことを言っているのだろうか。
「間も無く死の雪が降り、お前には絶望と苦痛の試練が与えられる。耐え抜け、そして生きよ」
試練……?なんのことを言っているのかさっぱりわからない。俺の身に何かが起きるということだろうか。俺は自分の身にどんなことが起こるのかを聞こうかと迷ったが、不思議と声が出ない。
「あっ……まっ……」
みるみるうちに視界に広がっていた闇が消えていく。我に返って振り向けばさっきまでいた男の姿はなかった。
「狼也、起きろ~、講義終わったぞ」
隣でけたたましい目覚まし時計が俺の耳元で騒いでいる。どうやら俺は講義中に寝落ちたらしい。
「ん、あれ、寝てたのか俺」
「試験は今回のとこから70%分出るってさ」
「マジで……?」
「おう、ノート貸しとくからそれ写しときな、これでこないだ見せてもらった分、プラマイゼロな」
「それは助かる」
そういえばこないだ逆の立場でノート貸したっけ、などと思いながら、俺はノートを受け取り、カバンに入れる。
「もうすぐ冬季休業だな。2ヶ月あるけどどっかいく予定ある?」
「寒いの嫌だしひきこもってたいな、いくつか試作した発明品もあるからそれを完成させたりしたいし」
こたつに入って……何か作りたい。なんか役に立ちそうな便利なものを。
「マジかよ、さすがは『29世紀の発明王』なんて言われてるだけあるよな。でもさ、せっかくの休みなんだしどっか行こうぜ、例えばそうだなあ、スキーとか」
「おいおい、お前、俺の運動嫌い知っててわざと言ってるだろ」
ははは、と笑う友人にしかめっ面を見せた後、俺もつられて笑った。この男とはよくこうやってふざけあってる。
「まあ、どっかで一回行こうぜ、後一年で卒業だしな。思い出作りってことで」
「ああ、まあどっかでな。予定決まったら連絡してくれ、都合つけるから。じゃあ、俺は今日これで終わりだから帰るよ」
「俺も今日はこれで終わりだ、5限の講義が休講だからな」
こいつとは途中まで帰り道が同じだったので、俺たちは途中まで一緒に帰ることにした。
血、血、その上にさらに血。かつて黒いアスファルトだった場所がおびただしい量の血液で赤く染まっている。
道路の両端に等間隔に植えられていた全ての木々は枯れ果てており、その黒く殺風景な情景が道と思しき場所を塗りつぶす真っ赤な鮮血とのコントラストで筆舌しがたい異様な恐怖感を駆り立てる。かつて建物だったものはその多くが潰れ、残骸の破片があちらこちらに飛び散っている。いくつか原型を留めたものもあるが、そのガラスは砕けて粉々になっており、とてもじゃないが人が住めるようなものではなかった。
その地獄宛らの光景を眺めて俺はボーッと立ち尽くす。何も考えない。何も考えられない。思考がしばらく停止した。
「一体……何が起きたんだ」
ようやく落ち着いたものの、何一つ思い出せない。気がついたらここに横たわって倒れていた。
「…………っ!?」
俺は自分の右足が瓦礫の下敷きになってることに気づく。
「痛ってえなぁ……このっ」
左足で瓦礫を蹴り飛ばし、ようやく抜け出す。
「何がどうなってるんだ」
俺はこの光景にどこか不自然な感じを覚えた。何がおかしいのかは……よくわからない。
「誰か、誰かいないか!?」
俺は可能な限り声を張り上げ、周りに人がいないかを確認する。
「おい、誰かいたら返事をしてくれ、誰か!」
そして俺は違和感の正体に気づく。
どこを見渡しても血は飛び散っているのにその根源の死体がないのだ。背筋が凍りついた。
「なんで……どうしてだ!?」
どんなに周りを見渡せど、やはり残骸と血はあるがあるべき死体がそこには一つもなかった。
死体がないということは周りに生存者もいない確率は高い。ここに生き物の気配は何一つない。
暗黒の空から白いものが舞い散る。雪が舞った。白く、儚く、美しく。そして赤い地面に落ちて消えた。
「死の雪……?」
俺は夢の中で会った狼の男が言っていたことを思い出す。試練とはこのことなのだろうか。
雪が消えていく地面を俺は見つめた。物音が一つもしない。鳥の鳴き声も、虫の羽音も、人の声も、何もかも消えてしまった。
「俺は……」
この世界にただ一人残されたのだろうか。
「な、なあ、嘘だろ?誰かいるよな。この世界で一人きりなんて……嘘だと言ってくれよ」
消え入りそうな声で俺は呟く。誰かが一言返事を返してくれれば俺はそれだけでいい。頼む、誰か返事をしてくれ。頼むよ。
誰もいないこの世界で残りの余生を生きていくなど考えただけでおぞましい。
思考が現実に追いつかない。否、思考が現実を受け入れない。仲間を気遣う余裕などない。誰でもいい。誰でもいいから返事をしてくれ。
「なあ……誰か、誰か……いないの……?」
返事がないのだから誰もいないことは頭の片隅ではわかっている。それでも探さずにはいられない。赤の他人でも、嫌いだった知人でも、誰でもいい。一人は嫌だ……。
「なあ……」
返ってこない返事を求めて俺は人を探し続けた。
どれだけの時間が経ったのだろうか。徒らに消えていく時間の経過とともに、俺の思考も現実を受け入れ始める。最初は目を背けた血も今では見慣れた。
「……そうだ、思い出した」
現実離れした不思議な事象の連続。なぜこの世界から生命が全て消えたのか。何故血だけが飛び散り大元の死体がないのか。そしてなぜ俺だけが生きているのか。
冷静になって考えた途端、俺はここまでの経緯を思い出す。数時間前の話である。
それは俺たちが大学の3号館のキャンパスを出た時に起きた。
「なあ、狼也、あれなんだろう?」
「ん?どうした?」
不思議そうに首をかしげた友人の指差した先を見た。そして俺は目を見張る。
空から青白い何かが燃え尽きることなくゆっくりと一直線に落ちてくる。
「なんだろあれ、飛行機かな……?」
「いや、もっと細長いな」
それは近いもので例えるならば巨大な「槍」だった。どう見ても人の作り出せるものではない。
「えっと……落ちてきてるよな?」
引きつった顔の友人。無理もない。俺もおそらくは同じような表情をしていただろう。
「ああ、落ちてきてるな、そして、あんなものがここに落ちれば地球は終わりだ」
俺はもう一度隣にいる友の顔を見る。落下への恐怖と槍そのものへの興味を同時に抱いたようで、少し興奮気味だ。ただし決していい意味ではない。
ゆっくりと落下していく槍が地上と接した時だった。
突如、バリンバリンという音とともに大学中の、周りの全ての建物のガラスが粉々に砕け散り、空に舞い上がると雨のように地面に落下した。
「危ないっ」
「建物の中に退避しろ、急げ」
それを受けた人々はパニックになり、悲鳴をあげた。待たずして爆風とも呼べそうな強く生暖かい風が外にいた人々に吹き付けた。その風を受けた俺と友人は別々の方向へと飛ばされていく。
「狼也あああああぁぁぁぁ」
友人が俺を呼ぶ声をかすかに聞きながら、遥か彼方へと弾き飛ばされ、俺の意識はそこで途切れた。
全てを思い出した俺はじっと空を仰ぐ。あの青白い槍はもうどこにもない。落下とともに消えたのかもしれない。
「おそらくあいつももういない。俺は……また一人になってしまったんだな……ああ、そうか」
頭が痛い。また一人になってしまった。この先どうやって生きればいい……? いっそのこと俺もみんなの後を追おうか。一人はもう嫌なんだ。父さん、母さん、尾上……今いくよ。待っててくれ。
今にも消えそうな意識の中で俺は親友の最後の顔を思い浮かべ、目を閉じた。
再び暗闇の中に俺はあの男を見つける。
「試練は始まったばかりにして、汝死すること能わず。しばし時を待て、この世ならざる地にて汝が闘いは始まる」
ただ一言、そう言い残して男は消えた。
しんしんと音もなく降り続く雪が俺の体温を奪っていく。ふと気がつくと俺は直に雪の上で寝ていた。
「夢から覚めたら元どおりになってたなんてことはないんだな」
こんな非現実なこと全部夢オチだったらどんなにいいだろうかと思ったがどうやら現実だったようだ。
「弱気になっちゃダメだな、あいつだって、もしかしたら生きてるかもしれないし」
俺は首をブンブンと横に振り、立ち上がる。何の気なしにポケットに手を入れてみたら、スマホがあった。
「あれ、まだ動くかな」
電源を入れて見ると、電池がかろうじて残っていたようでホーム画面になった。俺はすかさずマップをみる。現在地は東京を指している。
「あれ、そんなに飛ばされてないのか……あ、あれ……?」
だいぶ歩いてきたとは言っても十数キロぐらいだが、視界の先に見覚えのあるものがかすかな残骸として残っている。校名を記した石が柵の前に落ちていたことから確信した。ほぼ更地になってしまったが、ここは俺の通っている大学だ。
ふと空を見上げると雪が降り止んでいた。惨たらしくも全ての生命を打ち砕き滅ぼしたそれが降り止んだ。
「時が来るまで待てってあの人言ってたけどなんのことなんだろう」
そう呟いた刹那、俺の後ろから黄金色の光が俺を包み込む。逃げることもできず、俺はその光に吸い込まれた。
「な、なんだ!?うああああぁぁぁぁぁ」
俺はそのまま吸い込まれ、流れに身を任せた。どうせ誰もいないんだ、いっそこのまま……。
この日以来俺は二度とこの死の星と化した地球の土を踏むことはなかった。
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