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Season 1
第一話:アリス、異世界を走る
しおりを挟む桜ノ宮アリスは、ブラック企業のOLとして、果てしない過労の日々に埋没していた。朝は栄養ドリンクを煽り、昼はコンビニの菓子パン、夜はまたドリンク。睡眠は3時間あれば良い方。過労でぼやける視界、震える手。心臓の動悸は、ドリンクの過剰摂取のせいか、ストレスか。健康も夢も、書類の山に押し潰されていた。学生時代、運動とは縁遠く、体育はいつも見学。走るなんて、考えただけで息切れしそうだった。
その夜、残業を終えたアリスは、冷たい雨の路地をよろめいていた。カバンの中で、栄養ドリンクの空き缶がカタカタ鳴る。頭は霧のように重く、明日のタスクがぐるぐる回る。と、その瞬間――
「グオオッ!」
巨大なカピバラが、猛スピードで突進してきた。どこから現れたのか。考える間もなく、アリスは地面に叩きつけられ、意識が闇に落ちる。
朦朧とする中、低い声が響いた。
「アリスよ、走りなさい…鍵を握り、運命を切り開くのです…」
走れ? 何? 誰? 混乱の中、声は消えた。
目を開けると、青々とした草原が広がっていた。風は甘く、遠くの山脈が朝日を浴びて輝く。アリスは立ち上がり、呆然とした。
「ここ、どこ…?」
近くの小川に映る自分の姿を見て、息を呑む。そこにいたのは、若い頃の自分。肌は透き通り、髪は輝く。まるで時間が巻き戻ったかのよう。だが、鏡のような水面に映るのは、ブラック企業で憔悴した自分ではない。震えも動悸も消え、身体は軽い。
「夢? 死んだ…?」
ポケットに手を入れると、冷たい金属の感触。取り出したのは、金色に輝く古めかしい鍵。複雑な模様が刻まれ、触れると微かに脈打つ。表面には、判読できない文字のような紋様。
「何か文字のような…。クロノスの鍵…?」
なぜかその名が浮かんだ。この鍵が自分をここへ連れてきた。そう直感した。だが、なぜ? あの声は誰? 不安が胸を締め付ける。
周囲を見回すと、遠くに深い森、近くに川が流れる。ブラック企業の蛍光灯とは別世界の美しさ。だが、食べ物もお金もない。カバンには、ドリンクの空き缶だけ。
「どうすれば…」
そのとき、再びあの声が響いた。
「走りなさい、アリス。川沿いを下りなさい。」
「え、誰!?」
あたりを見回すが、誰もいない。心臓が跳ねる。怖いのに、なぜかその声は頼りになる気がした。ブラック企業で、誰も助けてくれなかった。叱責と締め切りだけが世界だった自分にとって、こんな「導き」は初めてだ。
「…分かった、走るよ。」
アリスは戸惑いながら、川沿いの道を走り始めた。すぐに息が上がった。栄養ドリンク漬けの体は、若返っても弱い。足が重く、肺が焼ける。汗が額を伝い、膝が笑う。それでも、声に従うしかなかった。
「走りなさい…もっと速く…」
「う、うるさいな…! なんで走るの…?」
文句を言いつつ、アリスは走った。風を切る感覚は、知らない自分を引き出すようだった。ブラック企業では、走るなんて自殺行為。なのに、この世界では、身体が動く。声が導く。
やがて、視界に街が現れた。色とりどりの屋根、尖塔がそびえる幻想的な風景。石畳の道には、魔法の光を放つ屋台や、ドラゴンの革を売る商人が並ぶ。絵本から抜け出した美しさに、アリスは目を奪われた。
「ここなら、生きていける…?」
街の入口の石碑には「エリクサの街」と刻まれていた。この世界での最初の拠点だ。通りには、革の鎧や魔法の杖を持つ冒険者たち。杖から火花を散らす者、浮遊する荷車を引く者。異世界らしい光景に、アリスの心は高鳴った。だが、現実は厳しい。財布もスマホもない。
「お金もないのに、どうやって…」
困惑するアリスに、親切そうな中年男性が声をかけた。ローブに身を包み、腰には短剣を下げている。
「見慣れない服だな。旅人か? 仕事なら冒険者ギルドへ行ってみな。広場をまっすぐだ。」
「ありがとうございます!」
アリスは礼を言い、急いだ。クロノスの声は黙ったまま。ギルドなら、この世界のルールが分かるかもしれない。
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