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星屑の守護者
Episode.1:『フリージア・ノックス』
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フリージアの18歳の誕生日の夜、宿屋「星屑の灯」はひときわ賑わっていた。ミスリル鉱山の街の石造りの通りを照らすランプの光が、店内の木のテーブルに温かな影を落とす。フリージアはベージュのワンピースに白いエプロンをまとい、金色の三つ編みを揺らしながら、焼き鳥の串を客に配っていた。彼女の澄んだ青い瞳は、地下の街には似つかわしくない明るさで輝いていた。
「フリージア、今日で18歳だろ? 星空でも見に行けよ!」常連の鉱夫、ドリム・ストーンアックスがビールを片手に豪快に笑った。フリージアはくすっと笑い、いつものように答えた。
「星空、ね。いつか見てみたいな。」
地下の街で育ったフリージアは星空を知らない。女将のマリエが語る星の物語だけが、彼女の心に小さな憧れを灯していた。
2年前、マリエが鶏小屋で倒れていたフリージアを見つけたあの日を、彼女はフリージアの誕生日と定めた。フリージアの年齢はわからなかったが、マリエの幼い頃に亡くなった娘が生きていれば16歳だった。だから、マリエはフリージアを16歳として迎え入れた。あの日から2年、フリージアはマリエをお母さんと呼び、宿屋で家族のように暮らしてきた。彼女のボロボロの服に縫い取られていた「フリージア・ノックス」という名前以外、過去は誰も知らない。街の住人も、彼女をただ「フリージア」と呼ぶだけだった。
厨房では、マリエがフリージアと並んで串を焼いていた。
「フリージア、誕生日おめでとう。18歳か…あっという間の2年だったね。」マリエが柔らかく微笑み、フリージアの頭を軽く撫でた。
「うん、お母さんのおかげでここまでこれたよ。ありがとう。」フリージアは照れながら答えた。
マリエは少し目を細め、どこか遠くを見るように言った。「あんたは特別な子だよ、フリージア。まるで星屑みたいに、どこからか舞い込んできた。いつか、自分の光を見つけるんだ。」
フリージアは首をかしげたが、マリエの言葉にはいつも不思議な重みがあった。まるで、彼女の知らない過去を暗示するように。
夜が更け、客が減った頃、フリージアは厨房で一人、片付けをしていた。マリエは奥の部屋で休み、店内にはランタンの明かりだけが揺れる。突然、耳元でキーンという金属的な高音が響いた。フリージアは手を止め、耳を押さえた。だが、音は頭の中で増幅し、まるで何かが弾けるような衝撃が走る。
「…っ、なに!?」
彼女がよろめいた瞬間、頭に巻いていた布のヘッドバンドが滑り落ち、尖ったエルフの耳が現れた。厨房の磨かれた鍋に映る自分の姿に、彼女は息を呑んだ。青い瞳が驚愕に見開かれ、まるで別人のような顔。
「これ…私?」
記憶の断片が嵐のように押し寄せた。
星輝の森、射手座の星の使徒カウサの加護に浴した聖域。青々とした木々が星光に輝き、エルフの民が歌い、踊る。だが、炎が森を飲み込み、剣の響きがこだまする。「エランディル、封印を守れ! 逃げて…!」 誰かの叫び声が、彼女の心を刺した。彼女はエルフだった。数百年を生きた、封印の守護者。だが、なぜ記憶を失い、この地下の街に?
フリージアがカウンターにしがみつき、混乱に喘いでいると、宿屋の扉が勢いよく開いた。黒いマントの男が立っていた。フードに隠された顔は見えず、鋭い目だけがランタンの光に映る。腰にはミスリル製の細剣。
「フリージア・ノックス…ようやく見つけた。」男の声は低く、冷たく響いた。
「お前の中にある封印の鍵…今すぐ解放しろ。」
フリージアのエルフの耳がピクリと動いた。彼女は震える声で尋ねた。
「あなた、誰? 私の名前…どうして知ってるの? そして、私…どこから来たの?」
街の誰も彼女のフルネームを知らない。マリエ以外は。
男は一歩踏み出し、剣の柄に手をかけながら言った。
「時間がない。奴らがこの街に迫っている。封印を解かなければ、ミスリル鉱山は終わる。」
フリージアの心臓が激しく鼓動した。彼女は無意識に手にしていた焼き鳥の串を握りしめ、まるで武器のように構えた。
「説明して! 私は何者なの? どこから来たの? 封印って何!?」
男はフードを下げ、白い髪と金色の瞳を露わにした。
「俺はシルヴァン、エルフの生き残り。お前はエランディル、星輝の森の守護者だった。
かつて、エテルニアは13の星座の使徒の光に浴し、調和に満ちていた。
射手座のカウサが星輝の森を加護し、お前はその聖域で封印を守っていた。
だが、邪神ゼノスの力を利用する邪神教が星の使徒の力を奪い、世界を支配しようとした。
へびつかい座のステラは、エテルニアと使徒たちを守るため、12の使徒を封印し、自ら魔王インディゴと名乗って混沌を抑え込んだ。
だが、その代償で星の力は弱まり、エテルニアは闇に沈んだ。お前は封印の鍵を血に宿し、星輝の森から逃げ出した。
『ノックス』は人間の里で与えられた仮の名だ。なぜこのミスリル鉱山に流れ着いたのかは知らん。だが、封印を解かなければ、邪神教がゼノスの力を解き放ち、エテルニアは終わる。」
フリージアの視界が揺らぎ、記憶と恐怖が交錯する。星輝の森、カウサの加護、ステラの決断、邪神教の脅威…。彼女の服に縫い取られていた「ノックス」は、逃亡中に誰かが彼女を隠すために与えた名だった。マリエの「星屑」の言葉が、星輝の森の輝きと重なる。マリエは何か知っているのか? シルヴァンを信じるべきか? 彼女の過去と、ミスリル鉱山に迫る邪神教の影が、今、動き始めていた。
「フリージア、今日で18歳だろ? 星空でも見に行けよ!」常連の鉱夫、ドリム・ストーンアックスがビールを片手に豪快に笑った。フリージアはくすっと笑い、いつものように答えた。
「星空、ね。いつか見てみたいな。」
地下の街で育ったフリージアは星空を知らない。女将のマリエが語る星の物語だけが、彼女の心に小さな憧れを灯していた。
2年前、マリエが鶏小屋で倒れていたフリージアを見つけたあの日を、彼女はフリージアの誕生日と定めた。フリージアの年齢はわからなかったが、マリエの幼い頃に亡くなった娘が生きていれば16歳だった。だから、マリエはフリージアを16歳として迎え入れた。あの日から2年、フリージアはマリエをお母さんと呼び、宿屋で家族のように暮らしてきた。彼女のボロボロの服に縫い取られていた「フリージア・ノックス」という名前以外、過去は誰も知らない。街の住人も、彼女をただ「フリージア」と呼ぶだけだった。
厨房では、マリエがフリージアと並んで串を焼いていた。
「フリージア、誕生日おめでとう。18歳か…あっという間の2年だったね。」マリエが柔らかく微笑み、フリージアの頭を軽く撫でた。
「うん、お母さんのおかげでここまでこれたよ。ありがとう。」フリージアは照れながら答えた。
マリエは少し目を細め、どこか遠くを見るように言った。「あんたは特別な子だよ、フリージア。まるで星屑みたいに、どこからか舞い込んできた。いつか、自分の光を見つけるんだ。」
フリージアは首をかしげたが、マリエの言葉にはいつも不思議な重みがあった。まるで、彼女の知らない過去を暗示するように。
夜が更け、客が減った頃、フリージアは厨房で一人、片付けをしていた。マリエは奥の部屋で休み、店内にはランタンの明かりだけが揺れる。突然、耳元でキーンという金属的な高音が響いた。フリージアは手を止め、耳を押さえた。だが、音は頭の中で増幅し、まるで何かが弾けるような衝撃が走る。
「…っ、なに!?」
彼女がよろめいた瞬間、頭に巻いていた布のヘッドバンドが滑り落ち、尖ったエルフの耳が現れた。厨房の磨かれた鍋に映る自分の姿に、彼女は息を呑んだ。青い瞳が驚愕に見開かれ、まるで別人のような顔。
「これ…私?」
記憶の断片が嵐のように押し寄せた。
星輝の森、射手座の星の使徒カウサの加護に浴した聖域。青々とした木々が星光に輝き、エルフの民が歌い、踊る。だが、炎が森を飲み込み、剣の響きがこだまする。「エランディル、封印を守れ! 逃げて…!」 誰かの叫び声が、彼女の心を刺した。彼女はエルフだった。数百年を生きた、封印の守護者。だが、なぜ記憶を失い、この地下の街に?
フリージアがカウンターにしがみつき、混乱に喘いでいると、宿屋の扉が勢いよく開いた。黒いマントの男が立っていた。フードに隠された顔は見えず、鋭い目だけがランタンの光に映る。腰にはミスリル製の細剣。
「フリージア・ノックス…ようやく見つけた。」男の声は低く、冷たく響いた。
「お前の中にある封印の鍵…今すぐ解放しろ。」
フリージアのエルフの耳がピクリと動いた。彼女は震える声で尋ねた。
「あなた、誰? 私の名前…どうして知ってるの? そして、私…どこから来たの?」
街の誰も彼女のフルネームを知らない。マリエ以外は。
男は一歩踏み出し、剣の柄に手をかけながら言った。
「時間がない。奴らがこの街に迫っている。封印を解かなければ、ミスリル鉱山は終わる。」
フリージアの心臓が激しく鼓動した。彼女は無意識に手にしていた焼き鳥の串を握りしめ、まるで武器のように構えた。
「説明して! 私は何者なの? どこから来たの? 封印って何!?」
男はフードを下げ、白い髪と金色の瞳を露わにした。
「俺はシルヴァン、エルフの生き残り。お前はエランディル、星輝の森の守護者だった。
かつて、エテルニアは13の星座の使徒の光に浴し、調和に満ちていた。
射手座のカウサが星輝の森を加護し、お前はその聖域で封印を守っていた。
だが、邪神ゼノスの力を利用する邪神教が星の使徒の力を奪い、世界を支配しようとした。
へびつかい座のステラは、エテルニアと使徒たちを守るため、12の使徒を封印し、自ら魔王インディゴと名乗って混沌を抑え込んだ。
だが、その代償で星の力は弱まり、エテルニアは闇に沈んだ。お前は封印の鍵を血に宿し、星輝の森から逃げ出した。
『ノックス』は人間の里で与えられた仮の名だ。なぜこのミスリル鉱山に流れ着いたのかは知らん。だが、封印を解かなければ、邪神教がゼノスの力を解き放ち、エテルニアは終わる。」
フリージアの視界が揺らぎ、記憶と恐怖が交錯する。星輝の森、カウサの加護、ステラの決断、邪神教の脅威…。彼女の服に縫い取られていた「ノックス」は、逃亡中に誰かが彼女を隠すために与えた名だった。マリエの「星屑」の言葉が、星輝の森の輝きと重なる。マリエは何か知っているのか? シルヴァンを信じるべきか? 彼女の過去と、ミスリル鉱山に迫る邪神教の影が、今、動き始めていた。
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