涙の彼方、歌う星の光

medaka

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鉱山の街

ゼフェロスの過去

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ゼフェロスは魔界の名門一族、炎角家の末裔として生まれた。炎角家は魔界でも名高い貴族で、炎と闇の魔術を操ることで知られていた。ゼフェロスは一族の中でも特に赤い肌と小さなコウモリ羽が特徴的な若き悪魔だった。彼の角はまだ短く、魔力も未熟だったが、威厳ある言葉遣いだけは幼い頃から板についていた。「我、ゼフェロス!炎角家の名を継ぐ者だ!いずれ魔界を統べる偉大なる悪魔となるぞ!」と、子供の頃から大口を叩いては周囲を笑わせていた。

魔界でのゼフェロスの暮らしは優雅そのものだった。炎角家の城には豪華な宴会場があり、毎晩のように悪魔貴族たちが集まっては酒を飲み、踊り、魔術を競い合った。ゼフェロスは宴の中心で、威厳ある口調で自慢話を披露するのが日課だった。「我が炎の魔術、近日中の上達を見よ!このゼフェロス、炎角家の誇りだ!」と叫ぶが、実際には小さな火花しか出せず、貴族たちから「またか」と笑いものだった。それでも彼はめげず、「我の才能はまだ開花せぬだけだ!ハハハ!」とお調子者な態度で場を盛り上げていた。

ゼフェロスには、魔界の名物である「灼熱焼き鳥」が大好物だった。炎角家の厨房で焼かれるこの焼き鳥は、魔界の火山スパイスで味付けされており、彼にとっては至高の味だった。ある日、焼き鳥を頬張りながら、ゼフェロスは呟いた。「我、この焼き鳥のためなら魔界の王にだってなってみせるぞ!…まあ、王になるのは面倒だからやめておこう!ハハハ!」彼の気楽な性格は、炎角家の中でも異質だった。

◇◇◇

そんな優雅な暮らしが一変したのは、ある静かな夜のことだった。ゼフェロスは自室で灼熱焼き鳥を食べながら、魔界の詩集を読んでいた。すると突然、部屋の中央に紫色の魔法陣が現れ、彼の体が光に包まれた。「何!?我が優雅な時間を邪魔するとは何事だ!?」と叫ぶ間もなく、彼は魔法陣に吸い込まれた。

目を開けると、ゼフェロスは見知らぬ場所に立っていた。そこはミスリル鉱山のダンジョン下層——古代の遺跡が眠る階層だった。薄暗い空間には、壊れた石柱や苔むした床が広がり、遠くから不気味な唸り声が聞こえてきた。ゼフェロスは慌てて威厳ある口調で叫んだ。
「我は炎角家のゼフェロス!何者だ、この我を召喚したのは!姿を現すがよい!」しかし、返事はなく、代わりに巨大なゴーレムが姿を現した。ゴーレムは「侵入者…排除…」と呟き、ゼフェロスに向かって襲いかかってきた。

「我、こんな石の塊に負けるわけにはいかぬ!」と叫びつつ、ゼフェロスは炎の魔術を放ったが、彼の未熟な火花ではゴーレムに傷一つつかなかった。ゴーレムの拳が迫る中、彼は必死で逃げ出した。「我が優雅な人生、このような場所で終わるわけにはいかぬ!焼き鳥を食べるまでは死ねぬぞ!」と叫びながら、ダンジョンの上層へと駆け上がった。

ダンジョン上層にたどり着いたゼフェロスは、ミスリル鉱山の街に辿り着いた。ランプの光が温かく、住人たちが賑やかに暮らす街の雰囲気に彼は目を奪われた。酒場から漂う焼き鳥の匂いを嗅ぎつけ、「おお、この匂い!我が愛する焼き鳥ではないか!この街、我が新たな居場所とするにふさわしいぞ!」と笑顔になった。しかし、魔界での未熟な魔力しか持たない彼は、街を支配する力を十分に持たず、暴力や脅しでミスリルを奪うことで存在感を示すしかなかった。

威厳ある口調で「我が名はゼフェロス!この街の支配者だ!」と宣言し、住人たちを震え上がらせた。
ゼフェロスは街の中心にある宿屋「星屑の灯」に立ち寄った。そこは宿屋の女将とその娘が切り盛りする小さな宿で、旅人や鉱夫たちに愛されていた。ゼフェロスは宿の扉を開け、威厳ある声で言った。「我が名はゼフェロス!この宿の最上級の部屋を用意せよ!そして焼き鳥を出すがよい!」女将は怯えながらも焼き鳥を用意し、ゼフェロスは満足げに頬張った。「む、この焼き鳥、魔界の灼熱焼き鳥に劣らぬ美味さだ!我、この街を気に入ったぞ!」

◇◇◇

焼き鳥を食べ終えたゼフェロスが宿の広間でくつろいでいると、奥から一人の少女が現れた。彼女は金色の髪と澄んだ瞳を持つ、素朴で美しい少女だった。女将が彼女を紹介した。「これは私の娘、フリージアです。どうぞよろしく…。」フリージアは少し緊張しながらも、ゼフェロスに微笑んだ。「ゼフェロス様、ようこそおいでくださいました。焼き鳥、お口に合いましたか?」

ゼフェロスはフリージアの笑顔に一瞬言葉を失った。魔界の貴族たちとは違う、純粋で温かな美しさに彼の心は高鳴った。「そ、そなたがフリージアか…。我、ゼフェロス、炎角家の末裔だ!そなたの焼き鳥、実に美味であった!我が魔界での暮らしを忘れるほどの味だ!」彼の威厳ある口調には、どこか照れが混じっていた。フリージアは小さく笑い、「ありがとうございます。母と一緒に焼いたんです。喜んでいただけて嬉しいです」と答えた。

その夜、ゼフェロスは宿の部屋で眠れなかった。フリージアの笑顔が頭から離れず、彼は初めて感じる胸の高鳴りに戸惑った。「我、魔界の貴族として数多の美女を見てきた…。だが、このフリージアという娘、我が心を掴んで離さぬ…。我、彼女に一目惚れしてしまったのかもしれぬ…!」ゼフェロスは魔界での優雅な暮らしを思い出しながらも、フリージアの素朴な魅力がそれを超えると感じていた。

翌朝、ゼフェロスは宿屋の広間で再びフリージアと顔を合わせた。彼女が朝食の準備を手伝う姿を見て、彼はまた心を奪われた。フリージアが運んできた焼き鳥を手に、「フリージアよ、そなたの手作りか?実に素晴らしい!我、そなたの焼き鳥を毎日でも食べたいぞ!」と笑顔で言うと、フリージアは少し照れながら答えた。「毎日だなんて…。でも、そう言っていただけて嬉しいです。」ゼフェロスの心はさらに燃え上がり、「我、この娘、我が伴侶にふさわしい!」と確信した。

◇◇◇

ゼフェロスの恋心は抑えきれなくなっていた。彼はフリージアを自分のものにしようと、街の中心広場で威厳ある声で宣言した。
「我が名はゼフェロス!この街の支配者だ!宿屋の娘フリージアを我が嫁として差し出せ!さもなくば、この街を焼き尽くしてやるぞ!」住人たちは震え上がり、宿屋の女将はフリージアを抱きしめて泣き崩れた。「お願いだ…フリージアだけは…!」フリージアは母親にしがみつき、震えながらも毅然と言った。「母さん、私…怖いけど、みんなを守るためなら…。」

ゼフェロスは内心で葛藤していた。
「我、フリージアを脅してまで手に入れるのは本意ではない…。だが、我が心、彼女を愛するがゆえに我を抑えきれぬ…!」彼の未熟な魔力と魔界貴族としてのプライドが、恋心を暴力的な行動に変えてしまっていた。しかし、フリージアの涙を見た瞬間、彼の心に微かな後悔が芽生えた。「我、こんな形でそなたを悲しませたくはなかった…。」

その時、インディゴが広場に姿を現した。彼女の冷たいオーラにゼフェロスは動揺し、インディゴのへびつかい座の魔術で星の鎖に縛り上げられた。「我が魔力、まるで通用せん!貴様、何者だ!?」と叫ぶゼフェロスに、インディゴは冷たく言った。「愚かな悪魔…。住人を脅し、フリージアを無理やり奪うなど、許されん。」ゼフェロスはインディゴの圧倒的な力に屈し、「我が主、許してくれ!我、そなたに忠誠を誓うぞ!」と降伏した。

インディゴに仕えることになったゼフェロスは、フリージアへの恋心を胸に秘めたまま、インディゴ城で新たな生活を始めた。彼は「執事」として働きながら、いつかフリージアと焼き鳥を囲む日を夢見た。
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