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第一章 悪役令嬢は動き出す

10.悪役令嬢は術式分解を解説する

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「エステリア。術式の分解について説明して」

 お母様は何かを考えるようにそう言った。これは侍女長に聞いた話だけど、お母様は魔法のエキスパートで魔術に関しても相当な知識を持っているらしい。

「はい。魔法を使う場合。どういった魔法でそれを発動する為には何が必要か? と、いえばイメージと魔力です。それを術式に置き換えた場合、魔法陣を使用しますよね?」
「ええ、氷を生み出す場合はこういう術式になります」

 と、お母様は素早く魔法を発動させ30センチくらいの魔法陣を手のひらに浮かび上がらせる。魔術のよいところは術式構築をしても、効果発動をせずに一定の間維持出来ることだ。魔法陣の解析をする時にも実際に稼働させないと判断つかない場合があるし。

「はい、メジャーな術式ですが、お母様の場合は高速詠唱術式がベースになっていらっしゃますので、こちらを見ていただけますか」

 そう言って私も同じ効果の魔法陣を浮かび上がらせる。

「あら? 随分と違うわね。美しさでは私の魔法陣の方が上ですね……」
「はい、残念ながら美しさでは負けますが精密さではこちらの方が精密といえます。また、お母様の魔法陣でも魔法に比べて魔力使用量が掛からないですが、こちらの精密な魔法陣では魔力使用量はさらに少なくてすみます」
「確かにそうね……と、いうことは魔法陣の精密さと分解に関係があるのね」
「はい、お母様。魔法陣に記載されている術式というのは、様々な効果ある式を重ねることで魔法を再現しているのです。なので、詳細に記載されている術式を分解して、その術式だけ動かすことで、その術式の効果を確かめる事が出来ます」

 結構面倒な作業だけど、最も基本となる術式が複雑な理由がここにあって、高速詠唱術式はそれを簡略化する分、魔力量が必要となる。故に精密な術式をさらに分解して動かすことで必要となる魔力量を減らすことも出来る。

「ということは基礎魔法陣や発展魔法陣の共通項目は術式内で動かせない部分ということね……一般術式理論の証明にも利用出来そうね」

 この世界の魔術理論には一般式理論と変則式理論があって、一般式理論は基礎魔法陣、発展魔法陣に分けられている。基礎魔法陣はまさに私が一番初めに分解出来そうだと思った、細かい組み上げが必要になるけれど、一番初めに習う魔法陣だ。発展魔法陣は基礎魔法陣の術式を組み替えたモノで魔力量と制御技術が必要になるけれど、詠唱を飛ばしたり、威力を上げたりと様々存在する。

「今では術式理論というのはこういうモノだ……みたいなところがありますが、元々は魔法を理解する為に術式を編み出して幾つもの術式を組み合わせる事で魔法を再現する技術だと思ったのです」
「……なるほど。確かに今の魔術理論というのは漠然とした理論で魔法陣の組み合わせや発展みたいな研究はあれども、魔法陣を分解して魔法陣そのものを読み解き……と、いうことは逆もしかりなのね」

 お母様は答えに辿りついたみたい。昔の賢人はこの技を生み出すことで世界を変えて来たのだと私は思う。

「エステリア、ステファニー。どういうことだ?」

 お父様は興味津々の瞳を私とお母様に向ける。当然、他の面々も似たような表情をしている。

「エステリアが言ったことが正しいとするならば、私達は今ある魔術を向上させる以外に誰も思いつかなかったような魔術……魔法を超える術式を生み出せるかもしれません」
「新たな術式を作り出す? それは今までもやってきたことでは?」
「遥か昔、賢人サルバトーレによって魔法を魔術という形で再現し、後世に多くの魔法陣を残しましたが、今の魔術師達は完成された魔法陣と魔法陣を組み合わせる事は出来ても、その魔法陣の働きに必要な術式に関しては少しも分かっていなかった……と、いうことです。強い炎は生み出せても、強い炎を操作する……みたいなことは魔法には出来ても魔術には出来ない。でも、炎を操作するという術式が分かれば、それも可能となる。炎という部分が水に変わったとしても、理解出来ていれば、術式の組み換えだけでそれを行えるということになります」
「術式の作りが分かれば、新たな術式を生み出すことも出来る……と?」
「その通りよ、旦那様」

 と、お母様は楽しそうに微笑んだ。
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