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第一章 悪役令嬢は動き出す

35.悪役令嬢はこの国の不思議を思う

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「不思議ですよね。気候的にはこの国でも作れると思うのですが、主食は小麦、大麦、後は豆類などが中心となっています」

 リンリィ嬢はそう言ってお茶を啜り、満足気に息を吐いた。緑茶もいいけど、私的にはほうじ茶の方が好きだ。

「そうね、食事に関しても塩や山椒、幾つかハーブ類もあるけど、味付けや調理方法などが発展していない感じが強いわ。私、数週間の間、寝込んでいた時があるのだけど、その時に日々マズいドロドロスープを飲んでうんざりしたもの」
「最近、肉類がハーブスト公爵領の方から多く入ってきていると聞いていますけど、畜産と言っていましたよね?」
「ええ、リンリィ嬢は肉派なのかしら?」

 意外な感じだけど、肉好きなんだね。目が輝いてる。

「おかげさまで、鶏、ボア、ホーンの肉を楽しませて頂いてます。鶏は鶏だったので奇妙な感じでしたけど……」
「それは私も思ったわね。リンリィ様は何がお得意なのかしら?」
「それは私も気になっていた。真面目そうな雰囲気はアーマリア侯爵家といった感じだけど」

 アリエルの言葉にリンリィ嬢は苦笑する。アーマリア侯爵家っぽいというのは結構な人に言われているのかもしれない。

「あ、悪気はないので気を悪くしたのなら謝るわ」
「い、いえ殿下に謝られても困りますから。っぽいと、よく言われます……けど、実際、私は生真面目な人間だと思います。えっと……よくある内政系のアレとか、魔術系のアレは全くありません。あ、でも計算とかは得意です」
「計算が得意なのは凄いです!」

 そこに喰いついたのはウィンディ嬢だ。多分だけど、リンガロイ伯爵家はこの国ではあまり数が無いのだけど、有名なダンジョンが存在する。しかも、伯爵家はダンジョンを取り囲むように領都を作り、冒険者や冒険者ギルドに商売する、かなーり変わった領だ。

 絶対に彼女は戦闘系だ。例の資料で魔物の素材を扱っている理由辺りも関係しているに違いない。

「ウィンディ様は魔物を狩るのが得意そうだけど?」
「いえいえ、それほどでも……」

 おつむの方は残念系……っと。それにしても、『とにキラ』の世界はなんというかアンバランスな感じがする。幾つもの王国があるのに、実は帝国の傘下みたいな感じで……ん? あれれ?

「リンリィ様は不思議に思わなかった? この国ってミストリア王国だよね?」
「エステリア様、訂正してもよいでしょうか。国名でいえばミストリアです。王家が存在していても王国と付かないのが聖イーフレイ帝国という大帝国の基本です。そもそも、国と認められ、自治権を認めるのも天帝のお仕事です」
「なるほど……妙な違和感がずっとあったのよね『とにキラ』の頃から」
「エステリア様、私もそれに関しては同意です。ちなみに皆様は全シリーズ制覇されている方はいらっしゃいますか?」

 全シリーズって、どういう範囲なのだろう……私が知っているのは1作目、2作目、ノベライズ、1作目リメイクとそれのDLCまでだ。

「私は1、2とノベライズ、あとソシャゲかなぁ」

 そう言ったのはウィンディ嬢だ。と、いうかソシャゲあったの?

「私はアニメから1作目のリメイク版ですね」

 と、リンリィ嬢。

「私は1、2、ノベライズ、リメイク版までね。エステリア様も同じだったわよね」
「ええ、アリエルもそうよね」
「DLCは?」

 アリエルが首を傾げてそう言った。リメイク版やってDLCやってない勢がいるのか。

「殿下はやってない勢?」
「残念ながらやってないわ」
「皆様、1作目はやっている感じですね。ウィンディ様だけ、ソシャゲをやっている……と」

 視線がウィンディ嬢に集まる。そもそも私はアニメ化されていたのもソシャゲで出ているのも知らない。

「え、えっと、据え置きのタイトルはフルコンプしてなくて一部ルートだけって感じで、でもソシャゲは結構頑張りましたよ」
「どんなゲームだったの?」

 アリエルがやや食い気味にウィンディへ訊いた。ウィンディはよくぞ聞いてくれましたというドヤ顔でニヤリと笑う。

「フフフ、皆さんにお話しましょう。ある意味地獄とも超絶泥沼と言われた伝説のソシャゲの話を!」

 ええ!? その言い方だとクソゲーじゃないの?

 私のそんな事を思いつつ、ドヤっているウィンディ嬢の話を聞くのであった。
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