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第二章 悪役令嬢は暗躍する

64.悪役令嬢は専属メイドと話をする

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 お母様とのやり取りを終えて、私は私室に戻って来た。

「お嬢様、お茶の方はいかがいたしましょう?」

 私が自室のソファに腰を掛けるとエルーサがそう聞いてきた。先程もお茶を飲んだところだし、お茶ばかり飲むのもどうかと思い、水だけでいいので入れて欲しいと言うと彼女は水差しからガラスのコップに水を入れてテーブルに静かに置いた。

「申し訳ないけど、少し私の話に付き合って貰えるかしら?」

 正直、一人で考えてもいいのだけど、他社の意見を聞くことで自身では気付かない事も見えてくることもある。当然、前世云々の話は出来ないけれど、今重要なのは分かっている事実とこれからの国内情勢を踏まえて、私自身が何が出来るかを考えるだけだ。

「私で役に立てるのでしたら」

 と、エルーサがそう言ったので私は向かいのソファに座るように促す。エルーサは即座に拒否するが、私は「命令でも?」と、いうと小さく溜息を吐いて彼女は席に座る。

「仕方ありませんね……ですが、あまり宜しくはありませんよ?」
「気にしないで、何か言われたら全部私の所為にしておけばいいのだから」
「それを諫めるのも私の仕事なのです」
「大丈夫だってば、誰も問題にはしないわ。特に貴女は信頼されていのだと思えばいいのよ」

 私は強引にそう言ってから、水を口に含む。ほんのり果実の香りがしている。レモーネを漬けている。前世の檸檬に比べると少し甘味が強いのが特徴だ。果実水に比べると薄味だけど、さわやかな味が全員に染み渡るようでなかなか良い物なのだ。

「さて、エルーサは私とお母様や女王陛下との話はどこまで把握してるのかしら?」

 これは家内の者達で特に専属達が話を聞いているかどうかの確認だ。

「お会いになって誰にも話せないお話をしているのは理解しております。ただ、その内容までは私には分かりません。もし、知っていたとしたら私はお嬢様の専属として相応しくは無いと判断されてしまうでしょう」

 もし知っていたとしても、誰にも絶対に話さない。もしくは話せない。と、いうことかしら? ただ、視線の動かし方とかを見る限りは本当に何も知らない。と、いうことね。

「なるほどね。では、少しだけ秘密の話をしましょう」

 と、私はいつもの魔道具を使う。エルーサの動揺は見て取れるけど、正直なところ、私には本当に信用できる協力者を持っと多く作る必要がある。これからも彼女には最も近い位置で私と接するのだから、情報共有した上で味方してもらうのが一番いいと私は考えている。

「一体……どんなお話を……」
「そうね、色々と話しておきたいわ。今後の事を考えてね」

 前世に関しては一切話さない。言ってもあまり意味は無いと思っている。現状、私の中でもゲームのことは参考程度にしか思っていないし、前世の知識については自衛の為に誰にも話さないと決めているから。

 ともかく、彼女と相談するのは女王キャロラインとの話と、条件達成についての相談だ。私はエルーサにクリフト殿下との婚約に関してと、婚約破棄の条件について話をした。

「そのような事が……しかしながら、王家との婚姻は良い事ではないのでしょうか? お嬢様が王家との婚姻を望んでいないというのは重々承知ではありますが、それほどに魅力のない結婚なのでしょうか?」
「ハッキリ言って魅力なしね。何よりも私が王族に向いていない。と、いうのも大きい。んで、女性を見下してるアレが義弟になるのよ? 最悪じゃない?」

 ゲームでの第二王子はまだマシだった気がするんだけど、変な拗らせ方しちゃってるよね。まぁ、一生引き籠って出てこないでいいかも。まぁ、貴族的な価値観で言えば家と家の結びつきというのは非常に重要な事だから、否定すのは普通疑問に思うよね。前世の記憶を元に断罪回避したいってのが一番だから、正直なところを言えば王家だろうとなかろうと、ゲームのエステリアのようにクリフト殿下に対して執着心を持つような事なんて、まずありえないんだよね。

「それに、そもそも女王陛下は婚約破棄しても良いと言っているのだから、乗らないわけにはいかないでしょ?」
「そういうとことろはお嬢様らしいのですが、婚約破棄……で、よろしいのですか?」
「うん、破棄じゃないと、解消だった場合は第二王子と! って話が出てきそうなんで、それしか無いのよ」

 と、私がいうとエルーサは「なるほどです」と、苦笑した。

「問題は条件を満たす為には国内の政争を収める事ですが、他国の思惑や間諜が入っている事を考えると、難易度が非常に高いと思うのです」

 一番の問題点はそこよねぇ。今回の件って相当根深い問題が孕んでるのは確かなんだよね。しかも、周辺国との関係ってここしばらくは何もないだけで、以前は幾度も戦争してたわけだし、ゲーム内の歴史からいっても絶対に戦争が起こるハズだ。

「それに――私はあまり詳しくはありませんが、南方貿易の国々は特殊な宗教観を持った人達でしたよね」

 確かにミストリア含めて大帝国は大神として太陽神ミラリアがいるけれど、それ以外にも多くの神々が住まう土地で、前世のいうところ八百万の神々が住まう地なのだ。古くから多神教の国である大帝国では一神教の国とは宗教観が全く違う。

 私も資料程度でしか見ていないけれど、教会カテドラルという組織が一神教を布教しているらしい。のだけど、ハーブスト公爵領の港でもその話は聞いたことが無いので、実のところよく分からない。

 ただ、様々な勢力が入り乱れる中で人々の価値観が変化していっている時代と言えるかもしれない事を考えると、より精度の高い情報が必要となりそうだ。
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