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第三章 悪役令嬢は学院生活を送る

106.悪役令嬢は王子の誕生日を祝うお茶会に出席する

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 翌日に女王キャロラインから正式なクリフト殿下の誕生日を祝うお茶会の招待状が我が家へ送られてきた。当然、我が家も参加する旨の返事を(お母様が)出した。さらに翌日、学院でパルプスト公爵令息であるアーネストに文句を言われたが、勝手な事をしていたクリフト殿下が悪いのだ、知った事かと私は適当に受け流しておいた。

 因みに私の周囲で招待状が来ていないのは下級貴族の子達のところだけで、いつもの面子には招待状が来てた事をサロンで報告を受けた。公爵から伯爵まで19家の家族同伴の大規模なお茶会となる。

 そして、当日となり私は家族と共に馬車に乗り王城へ向かった。

「エステリア、本日は無理にクリフト殿下の側にいる必要はありません。基本的には私の側にいるように、分かりましたか?」

 と、お母様が馬車の中で私に告げる。あ、そうなんだ。私ってば殿下の側で気配を消して過ごす準備を万端にしてたのに、ちょっと微妙な気分だわ。

「あら? 殿下の側の方が良かったのかしら?」
「いえいえいえいえ! お母様の側が一番安心です。ただ、こうするつもりだ。と、気合を入れていたので、少し肩透かしを食らった気分になっただけです」
「まぁ、何を準備していたのかしら?」

 何を――と、聞いて来るところ、お母様も意地悪な人ですわ。因みにちなんじゃうけど、今回は気配を小さくする魔道具を準備してみました。認識阻害まではいかないけど、そこにいるかは魔力探知能力次第になるという、ちょっとした悪戯心満載の魔道具です。

「私の予想だと、認識阻害だと判別するのが難しいから問題になりそうね。だとしたら、効果を薄くして気配を消す……とかかしら?」
「さすがですね。こちらのブレスレットの魔石に――」

 と、言ってお母様に見せると、お母様は小さく魔力を入れて術式のみを展開させる。

「よい術式ね。無駄が無いわ――合格よ。考えたのだけど、認識阻害の効果を一定の方向へ向かわせることで完全な別人に見せるみたいな魔道具も作れそうね」
「私も考えましたけど、それだとどういった人物かを術式内に組み込む事になると思うんですが、容姿や背格好などの情報ってどう扱ってよいか――」
「おいおい、君達。王城はもうすぐだよ。魔術談議は家にいる時に宜しく頼むよ」

 お父様が呆れたと言わんばかりに言ってくる。私とお母様はお互いに見合って小さく笑い合う。

「では、エステリア。貴女は今日はずっとその魔道具を使用しておくといいわ。色々と面白そうですし、術式をみたところでは貴女より魔力が同等以上で、且つ魔力探知に優れていないと見破れそうにないので、貴女を認識した人はそれなりの能力を持っていると分かるわよね?」
「そうですね。ただ、一部知り合いにも認識されないと思うと――」
「その時は解除すれば良いではないですか」

 確かにその通りだけど、それだと周囲に私がそこにいると気付けると思うのだけど、大丈夫なのだろうか?

 そんなやり取りをしている間に馬車は王城の外門を通り、王城の正門へ到着する。前方を行く公爵家の騎士が馬車の扉を開け、お父様を先頭に外へ出る。お父様は当然のようにお母様をエスコートする、って、私は今日誰にエスコートを受けるのかしら? と、思っていると騎士服を着た若い男性が近くにやってくる。

「おっと、間に合ったね」
「って、ディランお兄様? 学園の方からお戻りに――と、いうか何故騎士服を着てらっしゃるのかしら?」

 私の言葉にお兄様は悪戯っ子のように微笑みつつ、私に向かって手を差し出す。私はその手を取って小さく溜息を吐くと、お兄様はくくくっと笑った。

「ちょっと驚かしたかっただけだよ。それに騎士服と言っても上着だけだよ。あ、セスティニアンがほら、上着を持ってるでしょ」

 と、言って私が馬車から降りるのを確認してお兄様は上着を脱いで、従者のセスティニアンに渡し、上着を受け取ってその場で着替えた。

「悪戯が過ぎましてよ? でも、本当にお久しぶりですわお兄様」
「お父様もお母様も知ってるし、エステリアの可愛い顔が見れたから僕は本当に満足だよ」
「と、いうことはお手紙でのやり取りをしてたのですか?」
「まぁね。と、いうか今日はたまたま帰ろうと思ってた日だったんだよ。皆忙しそうだったら来週にするか、って話もあったんだけど、お父様がね――」

 ディランお兄様は愛嬌のある顔でウィンクをしてみせる。うん、なんて可愛い人だろうか……さぞかしモテるんでしょうね。

「そういえば、聞いたよ。今日の事……学園でも色々と噂が飛び交ってるよ」
「お兄様世代の方々はあまり関わってらっしゃらないみたいですけど?」
「まぁ、それは仕方ないね。でも、学園はずっと寮生活だろ? 兄弟、姉妹達の刺激的な噂は小話のネタだからね」
「まぁ、お兄様も私をネタにしてらして?」
「残念。僕はそんな馬鹿な真似はしないな。可愛い妹の事をもっと皆に知って欲しい気持ちもあるけど、出来れば皆には知らないで欲しいところだよ」

 そう言ってお兄様は楽しそうに微笑んだ。
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