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第三章 悪役令嬢は学院生活を送る

107.悪役令嬢はお茶会で潜む

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 会場入りするまでお兄様にエスコートされ、お茶会が始まってからはお母様の側で魔道具を使って存在を薄くしつつ周囲の様子を見ながら過ごす。

「あら、ハーブスト公爵夫人こちらにいらしたのね」
「リフィール侯爵、ご無沙汰していますわね」
「クリフト殿下のところに婚約者であるお嬢様がいらっしゃらないようなので、様子を見に来たのだけど、どこにいらっしゃるのかしら?」

 この人はそこまで魔力探知は得意では無いようね。全く私の存在に気付いていないわ。お母様も「あら? どうしたのかしら?」みたいにスッとぼけてるわ。なんというか、ちょっと面白い。

「婚約者の誕生日だというのに、傍に居ないというのは如何なものでしょうか? まぁ、私の娘が傍にいるので、立場を変わってさしあげても宜しくってよ?」

 と、いうかこの人、お母様の方が立場的には上だと思うのだけど、なんて言いぐさなんだろうか。うーん、まさにリリアーナ嬢のお母様。と、いう感じだわ。現状の政治的な云々がなければ、リリアーナ嬢が婚約者に選ばれる可能性は高かったと思わなくもないけどね。でも、クリフト殿下は可愛い系の娘が好みなのよねぇ、残念ながらリリアーナ嬢はキツイ系の顔立ちだし、性格もどちらかと言えば好みでは無いと思うのよね。

 などと思うと、少しクリフト殿下が可哀想に思ったりもする。ただ、私もクリフト殿下は元々タイプじゃないのよね。

「おほほ、では、精々婚約者という立場を取られないように頑張ってくださいますよう、お嬢さんにお伝え下さいませ~」

 そう言って何故か勝ち誇ったようにリフィール侯爵は去って行く。お母様はニッコリ笑顔だけど、怖いわ……アレは怒ってるわ。そんな事を考えているとディランお兄様が食べ物を私に差し出しながら言った。

「あのご婦人……と、いうかリフィール侯爵家はなんだか我が家をずっと敵視しているみたいだよ。お母様も学園時代から仲が悪いのは有名だったそうな」
「あの人はね、不敬という言葉をどこかに忘れてきている残念な人よ。侯爵家の当主になれたのも色々と運が良かったとしか――」

 と、お母様はこちらを見ずに扇で口元を隠しながらそう言った。残念な人なんだ――と、私の脳内メモリに書き込まれた。ただ、お母様の雰囲気はバカにしているという感じでは無かった。

「一応、気を付けないといけないわね。リフィール侯爵家は要注意としてディランも気を付けなさい」
「りょーかい」

 お兄様は軽くそう返事をしながら、食べ物を口へ運ぶ。

「うん、この肉は我が領から運んできた物かな。サシが随分としっかりして、甘味が強い。さすがのクオリティだね」
「ビッグホーンの最高級の希少部位も含めて、今回かなりの数を急遽納入したと聞いています」
「なるほどねぇ。商会の方は随分と儲かっているみたいだね。兄さんの方からも色々と聞いているけど、最近は他領や他国からも移住者が増えてるみたいだし」
「変なのが入ってこないか心配ですけど、移住者が増えるのは良いですね」

 そんなやり取りをディランお兄様としながらも魔道具がキチンと機能している事が確認出来て少し安心する。

 会話をしていても、周囲の人達には全く見向きもされず、会話にもされていない。こちらを魔力で探知や盗み聞きするような愚か者もいないし完璧と言える。

 そうしていると新たな人物がやって来る。

「エステリア嬢がこのような場にいて問題ないのですか?」
「ええ、私が娘に側にいるように、と、言い聞かせているので。で? クーベルト辺境伯はどうしてこちらへ?」

 と、お母様は涼しげな表情でそう言った。閣下は少し周囲を見回し視線を会場の王族がいる方へ向ける。

「兄上から、ハーブスト公爵家の様子を伺っておくように――と、申し付けられてます。まぁ、他にも挨拶をしておかねばならない人もいましてね」
「あら、ランパード様も娘がクリフト殿下の側にいない事を不快に思っているのかしら?」
「あー、いえ、私には分かりません。先程、公爵閣下は挨拶に来ていたようですがね」

 今回はお父様が代表でクリフト殿下へ挨拶に向かったのだけど、他にも挨拶周りをしているのかお友達のランパード閣下とおしゃべりをしているのか、まだこちらへは戻ってきていない。

「ええ、旦那様が我が家代表として挨拶に向かいましたわ。他にもお友達と少し話をしてくると言ってましたので、ここで待たせて貰っているのです」
「なるほど。私はしばししたら屋敷に戻る予定ですので――」
「あら、そうなの? でしたら、後でエステリアも連れて帰って貰えます?」
「は???」

 ちなみに、この「は?」の疑問の声は私とクーベルト閣下がハモった声である。と、いうか私が閣下と出て行ったら色々と問題になるのでは???

「僕が送って帰ってもいいんだよ?」
「ディランが一人で帰る場合は周囲が不振に思う可能性もあるでしょ? その点、彼なら誰も一人で帰るのは気にならないでしょ」
「それはそうかもしれないけど……」
「まぁ、もしかすると途中で変わった人物が声を掛けてくる可能性はあるけれど」

 お母様はまた意味深な事を言ってくる。と、いうか私が此処に居ても何か不都合でもあるのかな? うーん、考えても分からないけどいう事を聞いておくのに越したことは無いのかな。
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