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第三章 悪役令嬢は学院生活を送る

114.悪役令嬢は旅行する その2

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 王都のハーブスト公爵邸から一度、王城へ向かう。そこで待つアリエルとウィンディを回収して、王都を離れる。朝早い時間でも王都となると、多少の人や馬車の行き交いがあった。

「って、いうか――この馬車なに?」

 アリエルが不思議そうな顔をする。馬車と言えば、お尻が痛くなるくらいに揺れるし、座席のクッションも無いから長時間乗ると本当に大変なのだ。だから、馬車でも快適に過ごせるように色々と手を尽くしてきた結果がここにある。

 まず、数年前に板バネ式のサスペンションを開発した時も驚かれたのだけど、今回は他の工業用技術からスプリング式のサスペンションにすることで、さらに快適になりました。因みにタイヤも魔物の素材なんかを使用することで前世のゴム製のタイヤよりも、より柔軟性と強度に優れたタイヤを開発することに成功した。

 さらに、スプリングの技術が向上したので、座席に使用するクッション部分にも魔物の素材で作ってあるスプリングを入れ、柔らかさと反発力のバランスが良い座面を作った。お尻をガッチリと守ってくれる素敵な乗り心地を体感出来る。

「色々と開発してきた技術のフィードバックなんかもあるけど、中々に良い物が出来たと思っているわ」
「私も欲しいんだけど?」
「あら、女王陛下には既に納品済みよ」
「お母様用じゃない……私専用のヤツは?」

 アリエル、これ作るのにどれくらいのお金が掛かっていると思っているのかしら? まぁ、現状は完全に技師による手作り品になるから高額ってのもあるけど、それでも前世でいう数千万クラス――いいえ、軍事兵器クラスなのよね。しかも、我が家でも5台しか所有していないのだ。

 実際に造った台数で言えば7台、試験用車が1台、両女王への献上品として1台、我が家所有の物が5台。その内、今回の冒険旅行で3台出してきた。その辺りも含めてアリエルに説明すると彼女は深い溜息を吐いた。

「いやぁ、さすがにお金掛けすぎじゃない? 簡単に造ってよって言えないじゃん」
「その為に説明したんですけど?」
「ウィンディ、エステリアが意地悪するー」
「って、私に振らないでくださいよぉー、そんなの私にどうにか出来る話じゃないじゃないですかぁー」

 ウィンディは可愛らしくサイドテールの髪の毛をパタパタとさせてアリエルに向かってそう言った。ま、確かにウィンディにどうこう出来る問題じゃないよね。

「じゃ、誕プレは?」

 なるほど、そう来たか。確かにアリエルの誕生日に――と、いう理由でアリエル用の車両を贈るのは可能ね。しかも、魔剣と比べれば安いと言えるでしょうから文句があってもゴリ押し出来る。うーん、一応、お父様とお母様には確認が必要案件よねぇ。

「善処します」
「うわぁ、政治家っぽい発言!」
「ってのは、冗談だけど。一応、お父様とお母様に相談の上で検討するわ」
「ま、そうなるのは仕方なし」

 そんな話や雑談をしているまに王都の出口に差し掛かる。普通、馬車や人が出入りする場合、王都の門で止められて通行証などの確認を行うのだが、すでに門兵へ通達が出ているので、そのまま止められることなく、王都から出て行く。

「そういえば、エステリア様は馬車の改良以外に乗り物自体を造る気は無いんですか?」

 と、ウィンディがふんわりサイドテールを揺らして訊いて来る。

「車とか?」
「そうです、そうです!」

 子犬のようにピョコピョコしているウィンディの姿は見えない尻尾をブンブンと振っているようにも見える。

「んー、面倒じゃない? 特に車とかさ、ある程度のスピードが出るじゃない。すると、今の道だとダメだし、そうなると街道整備が必要になるし、国の法制上の整備とかも必要でしょ? 開発する思いはあっても、今はやりたくないかなぁ……って、感じ」
「確かにねぇ。道なんてレンガや石畳でしょ。車で通ったら地獄なレベルで揺れるだろうし、滑るだろうし、やっぱりアスファルトとかコンクリじゃないと大変だろうしねぇ」
「うーん、そうなんですねぇ。車があったらもっと楽に移動できそうな気がしたんですけどねぇ。ほら、舗装してない道路でも走れるオフロード車とかもあるわけじゃないですかー」

 確かに、オフ車ならアリかナシかを言えば、アリよね。でも、走破性とかを考えると4WDとかじゃないとダメなんじゃない? ってか、詳しい機構を知らないから何とも言えないんだけど、まぁ、何となくでもある程度の物は作れちゃうんだよね。そう言う意味でも魔術ってのは便利だわ。

 でも、将来的に生産量を増やす方法論みたいなのも考えて行かないと、特に魔物系の素材はどれくらい継続して管理取得が出来るのか――とかね。
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