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一話 開発

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 ーーピピッ

「最終起動チェック完了……これより識別認証に移ります」

 とある会社の地下施設で大掛かりな装置、機械に囲まれ大勢の人が黙々と作業していた。

 現在最終調整に入っているのは《アイシア》と言う次世代型VRMMORPGの新技術の開発だった。

 中央には巨大なモニターがあり、そこには映像が映し出されている。
 そのモニターの前ではVENUS DRIVERーーベノスドライバーという装置を頭につけ椅子のような装置に座っている一人の女性がいた。

「識別認証開始……認証完了……」

「じゃあ、行ってみるわ」

 女性はつけていたドライバーを上にあげ、ニコっと笑ってみせると一人の男性が近づき話しかける。

「志帆、あまり無理はするな。今日はあくまでもシステムの最終チェックの為のダイブだ」
「わかってるわ、じゃあサポートよろしくね」

 志帆と呼ばれた女性は頭に上げていたDRIVERを下げゆっくりと目を瞑る。

「DIVE!《ダイブ》」

 そう言うとまるで力が抜けたように椅子にもたれかかり意識はそこで消えた。

 ◆

 澄み渡る青空、まるで宝石でも散りばめているかのようにキラキラと光る海に囲まれる水上都市アイルダム。その入り口に雷鳴轟き地面に降り立つ一つの影。

 砂埃が晴れるとそこには一人の女性とも見える白い鎧をきた者が立っていた。一見人の姿のようにも見えるが背中には巨大な天使の羽とも思える物がついている。

 それは、先程の志帆だった。

「ーーーーふぅ、上手く行ったみたいね」

 ゆっくり辺りを見渡すとアイルダムの中へと足を進める。中に入ると片手で目の前の景色に触れると何やら画面が表情される。


 ーー管理者システム起動

 管理者システムとはこのゲームを開発したチーム、もしくは調整やサーバーの運営側が使えるシステムツールの事である。
 この管理者システムツールを使えば、モンスターの製造、配置、除去はもちろん全ゲーム内アイテムや装備といったものまで自分の好きにできるツールだ。

 言わばチートのような代物だが、あくまでも管理者側の仕事で使うシステムであり、それ以外で使う事は当然禁止されている。

「ふぅ…ここまでは問題ないわね」

 そう言うと耳元に手をやり通信機能をオンにする。

「全NPCを出現させて」
「かしこまりました」

 辺りを見渡すと徐々にNPC達が出現し始める。
 都市の中を走り回る子供達、様々な商人達があちらこちらで店を出している。
 もちろん、従来のNPCではプログラムによって組み込まれた行動、会話しかしないのだが今回最終チェックと言っていたのはここからだ。

(そろそろかしらね)

「VENUS System作動開始」

 志帆はそう言うと身につけていた鎧が光り身体から消えていくと共に姿、形が人ではない物へと変貌していく。

 その姿はまさに《悪魔》その物だった。

 漆黒の羽を広げ、頭には二本の長い角、肌は白く、その瞳は紅。

 志帆は片腕を伸ばし手の平を広げるとそこから円状の六芒星魔導陣の様な物が出現しバチバチと電流のような物がでている。

「ーーエル・ディエル・ダークネス」

 発生さた魔導陣から幾多もの漆黒のレーザーのような物が建物に向かい飛んでゆく。

 そして無惨にも建物は崩れ去りその下には多数のNPCの死体が散乱している。
 それを見て悲鳴とも言える声が幾つも聞こえ、辺りは騒然となっている。
 NPC達は何が起こったのかわからずにいた。

 それも当然だ、本来NPC達には精神がない。

 プログラムであるが故に毎回同じ行動しかしないのだがこのVENUS Systemを使えばNPCに命を吹き込む事ができる。
 つまりNPCが、一プレイヤーと同じように自分で物事を考え、行動する事ができるわけだ。

 だからと言って全部の行動ができるのは今の段階ではまだ厳しい。
 サーバーのデータ量の問題もある。多くの事ができるということはそれだけサーバーにも影響を与え、ゲーム自体重くなるという現象が出てくるのだ。

 通常であれば街を破壊、NPCが死ぬといったことはプログラムを組み、そう言うストーリー作りをしてしまうという事になるが、この《アイシア》の一番の売りはNPC達が一プレイヤーと同じ皆意思を持っている事だ。

 それによりまさにプレイヤー側が違う異世界へ来ていると
 いう感覚になるという事が可能になるわけだ。

「実験完了、破壊した建物及びロストしたNPCの再構築をお願い」
「了解いたしました」

(ふぅ……検証だけならわざわざ私が手を出さなくても良かったかしらね)

 確かに志帆が直接破壊しなくともツールを使えば即時破壊が可能だった。

(ツール使うとリアリティーに欠けるのよねぇ……)

 恐らくプレイヤー達はゲームと言えどそこに何かしらリアリティーを求めやっているだろう。

 異世界を冒険したい人もいれば、未知なるモンスターとの戦いを楽しむ人、現実では出来ない事がゲームでは可能になる。

 だがそこにリアリティー感を出すにはやはりNPCが意思を持ち行動する。これが大前提なのだ。

 志帆はツールを起動し、自身のステルス化を解くとゆっくり破壊された建物付近まで翼を広げ飛んでゆくと、それを見ていたNPC達は一斉に逃げ惑い、悪魔だー!や化物だー! など言っている。

 志帆は近くまでいくと姿を人型タイプに変化させツールを使い色々情報収集を始めた。

「終わったようだな、志帆」

 通信が入り聞こえてきたのは先程の男の声だった。

「状態はどうだ?」
「システムに関しては問題ないわ NPC達は皆独自に考え、行動してる」
「そうか、ご苦労だった」

 通信が終わると壊れた建物は元に戻り、死んだはずのNPC達は皆また普通に動いていた。

 志帆が現実世界へ戻ろうとした時、小さな少女が近づき、志帆を見上げている。興味本位からなのだろうか。

 志帆はそっと少女の頭を撫でるとふと思った。

(実際に頭を撫でているかのようなこの感触……とてもバーチャルだとは本当に思えないわね……)

 志帆は急に嫌な不安とも呼べるなにかが心の奥底にある気がしていた。
 ここまで、リアリティーを追求して作られてきたゲームだ。
 リアリティーすぎるために何かしら問題が起きるのではないか? と思ってもいた。

「お姉さん、だぁれ?」

 急に少女が問いかけてきた。

 志帆はニコっと笑いながら少女に言った。


 ーー私は


 ーーgame master よ
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