【全3話/完結済】追放されて当然過ぎる!

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なりたいもの

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 ゴブリンを含め、魔物全般は主に町から十数分歩いた所に存在する魔の森を拠点としている。その森はまるでダンジョンのように、奥に行けば行く程強い魔物に出くわすことになるのだが逆に、森の浅瀬にはゴブリンのような弱い魔物しか生息していない。

 レナードが今回訪れたのは、そんな浅瀬である。

 ザシュッ、という音ともに、魔石付近に刺したナイフに勢いよく血が降りかかる。

 これで、5体目か。思ったより時間が掛かったな。
 まあ、前衛も後衛もいないとこんなもんか。

 <妖精の冒険譚>では戦士であるベルシャと剣士であるレインが前衛を担当しており、前衛が一筋縄ではいかないような敵はロイの支援魔術受けた前衛が時間を稼ぎフレイの攻撃魔術で対応する。
 万が一獲物が見つからない場合は、索敵担当である無令がものの数分で発見していた。ちなみに、レナードは後衛と前衛の橋渡しを行う中衛を担当し全体の指揮や後衛の護衛を担当していた。
 それぞれが一線級の力を持つこのパーティーに掛かればDランクの魔物であるゴブリン一体倒すには数秒も掛からなかっただろうし、それが八体になったところで難易度はたいして変わらずものの十数分でクエストは終了していただろう。

 たいして、レナードがゴブリン五体に掛けた時間は約二時間程である。もし、ゴブリンが密集していたならばレナードもこんなに時間は掛からなかっただろう。しかし、獲物を探し、仕留め、解体する。これらの工程を一人で繰り返しこなすとなると、パーティー所属時代の数倍以上の時間が掛かってしまうのは仕方がないことと言える。

「<我が血潮を用い増幅せよ<<視覚、聴力、嗅覚強化>>>」

 詠唱を終えると、レナードの耳は先ほどより十数倍に拡張された視覚、嗅覚、聴力を用いゴブリンの痕跡を探った。

 半径5メートル以内に魔物らしき痕跡はない。10メートルに広げてみるか。
 草を食べる音、動物特有の獣臭、どれも違う。場所を変えるか?

 レナードがその場を離れようとした瞬間、強化された嗅覚が魔物特有の悪臭を嗅ぎ取った。

 どこから、、、あそこか。

 現在位置から十数メートル離れた木陰に目当てはいた。
 レナードは気付かれないよう、気配と足音を殺し忍び寄る。目標まで2メートルを切ったところで足を止める。

 ここら辺が限界だな。あとは一気に距離を詰めて、ナイフを首元に切りつける。

「<我が血潮を用い増幅せよ<<脚力強化>>>」

「グギャッ」

 間抜けな声を発しつつ、ゴブリンは手に持っているこん棒を振り下ろす暇もなく倒れた。

 これで6体目。あと1体。

 それにしても、
「妙だな」

 レナードは足元の死体を見ながら、1人呟く。

 ゴブリンは基本的に3~4体程の群れで行動する。単独の個体は珍しい。だが、今日狩ったゴブリンは6体全部単独だった。
 それに、本来の体型は小太りなはずなのに、足元に転がっている死体は皮と骨しかないくらいにやせ細っている。
 しかも、探索専門でもない俺が6体も見つけている。それはつまり、素人でも見つけることができるくらい魔物がこの浅瀬に溢れているってことだ。

 ・・・今回みたいな事例はギルドで何回か聞いたことがある。自分達が住んでいる区域に、天敵が現れた際魔物達は今回のような事例に陥るのだと言う。
 魔物達にとっての天敵、それはつまり自分達が歯が立たない程強大な魔物ということだ。
 Dランクのゴブリンが逃げ出す魔物。おそらく、Cランクの魔物程度では逃げ出さないだろう。ゴブリンだって群れでは、Cランク認定だ。叶わない相手じゃないはず。つまり、ゴブリンが群れても勝てないと悟った相手。・・・Bランクか。

 浅瀬に出没するBランクというと、オークかウェアウルフあたりか。どちらにせよ、単独で勝てる相手じゃない。クエストの続きは明日にして、出くわさないうちに町に戻ろう。

 ゴブリンから討伐証明部位である魔石を心臓のあたりから取り出したあと、解体もそこそこに足早にその場を後にした。

 魔物には心臓が存在せずその代わり魔石という部位が存在し、冒険者はその魔石をギルドに奉納することで報酬を得る。ギルドはその魔石を魔石加工職人に依頼し得た魔道具を売ることにより貨幣を入手している。
 ちなみに、魔道具には炎を纏う剣などの冒険者用のものもあれば、魔力を通せば勝手に光が灯るランタンなど日常生活で重宝するようなものもある。

 また、魔石以外にも魔物の肉や血は食用や研究用に使われるのでギルドが積極的に買い取りを行っている。



 魔の森を抜け一息つこうとしたその瞬間ちり、と首筋が疼いた。
 レナードは首に手をやりながら、ぐるりと周囲を見渡す。

 嫌な予感がする。

 しかし、瞳が映すのは違和感のない情報ばかりだ。
 感覚を強化するため、詠唱を始めようとした瞬間ゴブリンとは比べられない程の血と臓物にまみれた悪臭が鼻孔に絡みついた。

 吐き気を押さえ、匂いがした方角に眼をやる。

「・・・ヴゥゥ、ア゛ア゛アアア゛ア゛アアア゛!」

 ・・・オークだ。

 不味い。不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い!
 周りには俺以外いない。気付かれたら間違いなく殺される。でも、町までの道には隠れる場所なんてない。嫌だ死にたくない、死にたくない!
 眦に涙が浮かぶ、歯がかみ合わない、全身に恐怖が伝播する。

 とにかく動かないと、隠れないと。

 ぶるぶると生まれたての小鹿のように震える足を引きずりながら、なんとか背後の木々に身を隠す。

 そうしてなんとか隠れたレナードであるが、オークが彼の方に目を向けることはなかった。なぜならば、オークの標的は既に決まっていたからである。


「<我が血潮を用い増幅せよ<<視覚、聴力、嗅覚強化>>>」
 木陰から様子を伺うと、レナードから左に十数メートル離れた辺りで他の冒険者らしき男女が襲われていた。

 男の方はいかにも安そうな鉄の剣をでたらめに振り回し、女の方は名残惜しそうに男の方を振り向いた後意を決したようにその場から駆けていった。

 あの剣筋に、装備、たぶん新人冒険者だな。
 何回目の冒険か知らないが、初級のうちにオークに出会っちまうとは。可哀そうに。だが、それも冒険者の宿命だ。

 ・・・待てよ、そういえばオークが向こうに気を逸らしてる今なら、逃げれるんじゃないか?
 魔法も併用して町まで全力で走れば5分以内に着ける。しばらくは目の前の獲物に夢中だろうし、奴が気付くまでには追い付けないであろう距離まで逃げられるだろう。
 新人冒険者を見殺しにすることにはなるが、まあしょうがない。冒険者をやっている以上あいつらも覚悟の上だろう。よし、そうと決まれば。

「<我が血潮を用い増幅せよ<<脚力強化>>>」

 詠唱を終えるとすぐにレナードは走りだした。注意深く左辺にいるオークを観察しつつ、森を抜けた先の草原を疾走する。

 やがてオークとの距離が数十メートルに広がったが、依然としてオークが気付く様子は見られない。レナードは肩をなで下ろし緊張の糸を解いた。

 どうやら、気付かれずに済んだみたいだな。っと、何か落としたみたいだ。充分離れたとはいえ、油断しないようにしないと。

 そうして足元に落ちたナイフを拾おうと屈もうとするも、刀身に映された自身の顔を見てレナードは固まってしまった。

 何だ、この顔は。

 そこに映っていたのは、薄ら笑いを携え醜悪さと卑劣さを一緒くたにしたような表情の男だった。

 これが、俺?これが、冒険者?
 でも、そうだ、新人を命惜しさに見捨てて必死に逃げる。それが今の俺だ。
 違う。違う、違う、違う!違っただろう。
 俺がなりたかった冒険者は、憧れた冒険者はそんな存在じゃなかった!
 ・・・でも、じゃあ俺がなりたかったのは、憧れたのは、どんな冒険者だったんだっけ。

 ナイフの刀身に映った自身の姿に絶望しきった男の耳に、必死に叫ぶ声が鳴り響いた。

 音のした方を見ると、先ほどの新人冒険者の男がオークと必死に戦っていた。見るからに限界の状態、立っているのもやっとに見える程ふらふらの状態でそれでも必死に戦っていた。
 
 何でそこまで必死になれるんだ。命も顧みず何でそこまで、、、

 「おおおおおおおお!絶対に守る、守るんだ!それまで、絶対に倒れない!」

 そう叫びながら少年は剣を振り回す。そして少年の先、町までの道を必死に駆け抜ける少女の姿があった。

 あれはさっきの、そうか。あいつを守るために必死に引き付けているのか・・・
 そういえば、こんな光景を子供の頃にも見た覚えがある。あれは、そう村で絵本を読んでいた時だ。
 あの時読んだ絵本の少年も、同じことをしていた。自分が弱者であろうと守る為ならば、果敢に強者へと立ち向っていた。キメラ、ヒュドラ、ドラゴン。例えどんな強敵が現れても、瀕死の重傷を負っても決して引かず勝利をもぎ取っていた。

 そうだ。俺は、そんな冒険者になりたかったんだ。

 覚悟を決めた男は、町ではなくオークのもとへ走り出した。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「うおおおおおおおお!」

 新人冒険者が剣を振り上げながら、必死の形相でオークへ斬りかかる。
 しかし、オークはそれを軽くかわすと攻撃を加えるわけでもなく醜悪な笑みを浮かべたままたたずむ。

 はあはぁ、クソッ、遊ばれ、てる。さっきから何十回も斬りかかってるのに避けるばかりで、手に持ってる斧を使うどころか素手ですら攻撃してこない。きっと、剣を当てることすらできずに無闇に振り回してる僕が疲れ果ててから、痛ぶり弄ぶつもりなんだ。

 それでも、たとえ命を落としても、アイナさえ生きていてくれればそれで・・・
 
 町へ駆けていく少女を見ながら、少年は疲れに震える全身に力を入れ直しまた魔物へと向かった。その瞬間ガッ、と鈍い金属音がする。

 やっと当たった?
 少年は顔を上げる。そこに映ったのは魔物の苦悶する表情等ではなく、この世の悪意の全てが凝縮されたような表情の化け物だった。

 怖い。恐ろしい。どうしたら、そんな表情が、、、ま

「待て!待ってくれ!!!!!」

 化け物が見つめる先にいたのは先ほど彼が見つめていた少女だった

 「それは!それだけは!」

 剣を振るのも忘れ、必死に叫ぶ。

 しかし、彼のそんな慟哭を聞き化け物はさらに醜悪な笑みを浮かべ、目にも止まらない速さであっという間に走り去り彼女の背後へ立った。

「ギャッギャギャ!」

 オークは少女を右手で捕らえると、大きく口を開き笑った。そして、少年に彼女を見せつけるように掲げながら舌で顔を舐った。

「ひッ」

 少女は体をビクッと震わせる。

「た、助けて、お、おね、お願いします、助けてください」

 唾液がびっしりとついた顔で、少女は必至に懇願する。

「い、いや、いや!し、死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない、助けて!」

 少女を掴んだオークロードの手に、暖かい液体が零れ落ちる。

「絶対にまも、るんだ」

 そう言い放つと、少年は力を再度振り絞り少女の元へ駆ける。先ほどまでの疲れを一切感じさせない彼の走りはしかし、オークに阻まれてしまう。

「ぐぅっ」

 腑抜けた声とともに、地面へ倒れ込む。

 なんだ、何か投げられた?

 足を見るとそこには、石が肉を突き抜け埋まっていた。

「う 、うああああああああ!」

 痛みと衝撃にその場で思わずうずくまる。

 痛い!痛い!でも、痛がってる場合じゃない。はやくアイナのもとに行かないと!

 少年は腹を地面に付けはいつくばりながら、前進する。

「ギィ?ギャギャギャギャギャ!」

 その様子を見ていたオークは、先ほどよりも大きく笑いながら手に掴んだ少女の服を引きちぎる。

 下着が露わになった少女とオークを見ながら、少年は声も思考も全てが止まりただ涙を流すことしかできなかった。



 ザッ。

「ギィ?ガッ!」

 緑色のゴツゴツした太い腕が少女の柔らかな肌に触れようとしたその瞬間、オークの首筋からどす黒い血霧が噴き出した。

「?何、が?」

 事の成り行きを全く理解できずに呆けている少年の元に、オークの首筋からゆらりと影が這い出てきてそして目の前に立った。

 ・・・血まみれの剣と服、この人がやったのか?

 たお、した?
 目の前の化物を誰かが倒してくれた、そう理解した瞬間全身が緩み力が抜けていくのを感じた。
 よかったぁ。
 助かった、僕もアイナも助かったんだ!
 そうだ、倒してくれたこの人に、恩人にお礼を言わないと。

「あ、あの、ありがとうござ」
「何してんだ!さっさと逃げろよ!!」
「えっ?なんで」

 だって、オークはさっき倒して、、、

 ゆっくりと焦点を目の前の冒険者から、オークへと移す。

 そこに映っていたのは、首を貫かれ横たわる死体などではなく首筋から血をドクドクと流しながらもこちらを血走った眼でこちらを見つめていた捕食者の姿だった。

「ひっ」

 緩んだ力が再び硬直するのを感じる。
 し、死んでない。刺さったのに、貫かれたのに、死んでない。な、なんで。いや、それよりもまた、アイナが!

 バッと少女の影を探す。

 しかし、先ほどまで捕食者に囚われていた少女は既に手から離れ付近の路上に放り出されていた。
 そして、その少女に夢中になっていたオークは傍らに放り出された人影には目もくれず一心に自分を穿った冒険者を見つめていた。

 オークは目の前のこの人に夢中だ。今なら、アイナを連れて離脱できるかもしれない。でも、そしたらこの人が・・・

 少しばかり逡巡した後、手から逃れてもなお苦悶する表情をした少女を見た瞬間少年は地面を蹴り上げ走りだした。

「すみ、ません」

 少年は悔しそうに呟いた後、少女の元まで走り駆け寄っていくと彼女を抱きかかえそのまま戦場を後にした。
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