【全3話/完結済】追放されて当然過ぎる!

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冒険者

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 少年の悔しそうな表情とは裏腹に、レナードは微笑んでいた。

 これでいい。これで、当初の目的は達成した。あとは時間稼ぎするだけでいい。それであいつも助かるし、目の前のでかぶつも倒れるはずだ。

 ふっと息を吐きだし、剣を前に突き出す。
 相手の一挙手一投足を見逃すまいと、全神経を研ぎ澄ます。

 一触即発の緊張状態が、2人の間を支配する。

 先に動いたのはオークであった。

「ヴァァァァァァァァ!」

 大地を割るような叫び声とともに、人の頭ほどある斧を片手に突っ込んでくる。
 そして、上段からその凶器を振り下ろした。

 しかし、レナードはそれをギリギリの所で躱す。

 再度オークは斧を振るも、それもギリギリの所で躱される。

 オークとは何度か戦ったことがあるが、やっぱり攻撃が大振りだ。しかも、刺されたことへの怒りでますます単純な太刀筋になってやがる。このまま避けきって、勝つ。

 続く攻防、レナードはオークの攻撃をことごとく避けてみせた。
 その精度は攻撃のたびに正確性を増し、最初こそギリギリで躱していたがやがて十分な余裕を見せながら躱わすことができるようになっていた。

 そして、攻撃が続くにつれ変化が見られたのはレナードだけではなかった。

 目の前のオークは、ぜえぜえと息を切らしながら正確性を欠いた攻撃を行っている。だが、見られる変化というのは疲労だけではない。首筋から流れていた血は、今や鼻や口からもこぼれいる。

 その後、しばらく攻防が続いた後オークは大きく吐血し膝を崩した。

 やっと効いてきたか。

 首筋に剣を立てれば大抵の魔物は死ぬ。しかし、その大抵が適用されないのがCランク以上の魔物だ。だから、即死は諦めてじわじわと削っていくしかない。例えば、毒で。

 最初に付き刺したあの瞬間、レナードの剣にはたっぷりと毒が塗られていたのである。

 ゴブリンならちょっと掠っただけで即死だが、さすがCランク。だが、これで終わりだ。

 止めを刺そうと、オークの懐に入るレナード。その瞬間、オークの顔がぐにゃりと歪んだ。

 ッ、今まで見えていた疲れは演技!

「しまッ」

 瞬間、砲弾のような速度のパンチをオークが叩き込んだ。

「ガハッッ」

 血を吐きながら、背後の木に背中を叩きつけられる。そして、仰向けに倒れた。

 視界が歪む。全身が悲鳴を上げている。痛い。苦しい。何が起きたんだ。

「ギャギャギャッ!!!」

 楽し気に嗤いながら近づいてくるオーク。

 あいつにやられたのか。・・・殺されるのか、このまま。
 死にたくない!クソ、だから嫌だったんだ!!あのまま逃げてれば!!!

 そんな後悔を振り払うように、レナードは血と涙に塗れぐしゃぐしゃになった顔で息をすうっと吸い込んだ。

 ・・・後悔しても、もう遅い。やるしかないんだ。
 それに、俺の憧れた冒険者は誰も逃げ出さなかった。倒れなかった。どんなにぼろぼろになろうとも、瀕死であっても、目の前の敵を倒してみせた。
 そうだ、俺は今度こそ憧れになるんだ。
 
 剣を地面に突き刺し支えにしつつ、レナードは全身に痛みに耐え立ち上がった。

 そうだ、彼らならここで諦めたりしない。ここで下を向いたりしない。前を向き、剣を握り目の前の敵を討ったはずだ。
 いい加減覚悟を決めろ!ここで逃げたら、もう一生届かない!

「俺はこいつを倒して、冒険者になるんだ!」

 先ほどの衝撃のせいか剣はひび割れていた。
 それでも少年は腹の底から叫び、ひび割れたその剣を構える。

「なんとかして懐に入る」

 そう呟くと、レナードは懐に忍ばせた文瓶の中身を口に含む。
 そして、勢いよく駆けだした。

 目の前の気迫に押されたのか、オークは先ほどとは比べものにならない程の速度で確実に仕留めようと斧を振り下ろした。
 走る速度に合わせ的確に脳天をめがけて放たれたそれは、頭に届く前に彼が急速に加速したことによりわずかに後頭部を掠めるに終わった。
 レナードはあえて半分の力で走り、オークに辿り着く寸前で全速力を出すことにより攻撃を回避したのであった。

 そして、見事懐に入り込んだレナードは全身の力を籠め両手に握った剣でオークの心臓を貫く。
 否、貫こうとした。ひび割れた剣は、オークの固い肉に阻まれ完全に砕け散ってしまったのだった。
 それを見たオークは、勝ちを確信したのかにやりと笑いゆっくりとした動作で獲物を捕らえようと腕を動かした。
 しかし、その手が触れる前にレナードは目にも止まらぬ俊敏な動きで背中に回り込み腕と足で固定しそのまま張り付いた。
 そして、首の傷に口を付けると口腔の液体を思い切り注入した。

「ヴァァァァァアァァァァァァァァ!!!!!!!!!」
 地面がひび割れる程の絶叫を上げながらオークが暴れ回る。口からはどす黒い血霧を吹き出し、目、鼻、耳、体中の穴からも血がどくどくと流れ出ている。

 毒を入れることができた。これで勝てる。
 だが、このまま離れ距離を取ったとして今のこいつの攻撃をいなせる体力はない。だから、背中に張り付いたこの状態を維持する方がまだいい。

 腕を振り回し、地団駄を踏み、絶叫しながらも必死に背中から引きはがそうとするオークと引きはがされまいと必死のレナード。
 苦悶の表情を見せていたオークであったが、冷静さを取り戻したのか一瞬落ち着いたような表情を見せると背後に木に思い切り背中を打ちつけた。
 たまらず飛びのけるレナードを、オークは逃がすことなく捉え両の手で思い切り抱きしめたまま固める。

「ごはッ」
 今度はレナードが血を吐く。
 両手に込められた力は増していき、骨がみしみしと音を立てる。

 このままだと俺が先に死ぬ。

 酸素が行き届かず、全身が息を求めている状態でレナードは理解する。

 これは殺し合いだ、命のやり取りだ。俺とこいつどっちが死ぬかの戦いだ。
 生き残りたいのなら、また夢を見たいのなら、例え今ある生を手放してでも目の前の敵を殺すしかない。
 倒せ、命を懸けて。倒せ、血を吐いて。倒せ、また夢を歩くために!

 レナードはオークの首筋になんとか手を伸ばすと、詠唱し魔法を発動した。
「我が血潮を変質させ生み出せ<ウインド>!」

 風は首筋から体内に入っていき、内側から肉体を切り刻んでいく。
 たまらず絶叫をあげるオーク。しかし、腕の力を弱まるどころかさらに増した。

「我が血潮を変質させ生み出せ<ウインド>、我が血潮を変質させ生み出せ<ウインド>、

 両者ともが生き残りを掛け、血を吐きながら必死に最後の力を振り絞っている。
 永遠とも思える時間が流れた後、先に倒れたのはオークであった。
 掴んでいた腕から力が抜け、膝を付きバタンと倒れる。

 そして、地面に放り出されるレナード。

 ・・・やった。勝った。勝ったんだ!
 喜びを噛み締め、思わず笑みがこぼれる。

 しかし、全身に痺れが周り骨にひびが入った状態のレナードは勝鬨をあげるどころか立ち上がることすらままならぬ状態であった。

 クソ。やっぱりか。口に毒が残ってる、そんな状態で詠唱しようものなら体内に毒が入らないわけがない。それに、オークから受けたダメージも甚大だ。

「ちくしょう。せっかく、また見つけたのに」

 悔しそうな表情を浮かべながらそう呟くと、意識が闇の底に沈み途切れた。




 眼を覚ますと、木造の天井が網膜に映る。

 俺の泊まってる宿舎じゃない。どこだ?というか何だ?何がどうなってるんだ?

 眼の次に鼻、耳と機能を取り戻していき、やがて意識が覚醒する。

 そうだ。オークと戦って、その後意識を失ったんだ。

 ゆっくりと体を起こし、周囲を確認する。
 すると、扉付近で椅子に腰かけながら本を購読するエルフの少女を発見する。

 どこかで見た覚えがあるな。それに、あの制服は・・・そうだ。今朝依頼を受けにいった時にいたギルド職員だ。

 彼女はこちらが起きたのを視認すると、膝元の本を閉じゆっくりと歩んできた。
 そして、ベッド近くの椅子に腰かける。

 ほっそりと尖った耳に澄んだ緑玉色の瞳。腰のあたりまで伸びた金髪は光沢を帯び左右に振れている。
 完璧に整えられた顔のパーツはもはや幻想であると言われた方が納得できる程であった。

 受付の時には気付かなかったが、さすがエルフ。この世のものとは思えない程綺麗だ。

「起きたみたいですね。無事で何よりです」

 見惚れているレナードをよそに、少女は業務報告をするように淡々と述べる。

「私はギルド職員のエレナ・ガーデナントと申します。そして、ここはギルド運営の宿舎になります。
 あなたが魔の森で倒れているところを他の冒険者の方が運んできてくれたんです。
 そして、その後に治療を受け療養も兼ねてここに寝かせられていました」

 そうか、あの後誰かが運んでくれたのか。
 ・・・後で礼を言いにいかないとな。
 そいえば、さっき治療したって言ってたな。ということは、多分教会の奴らを読んだんだろう。高いんだよなぁあそこ。

 今後の支払いに頭を悩ませていると、エレナがさらに悩みの種を増やすことを無機質な表情と声で業務的に述べる。

「レナードさんのランクはCランクですが、ソロの為Dランク以下の魔物との戦闘しか認められていません。ですので、いくら冒険者を助ける為だったとはいえ今回の戦闘はギルド規約に抵触しておりオークの魔石は半額買い取り。また、1週間の停職処分となります」

 あ、あああああ。
 規約に触れるだろうことは分かっていたから、ある程度の処分は覚悟していた。だけど、あんな死ぬ思いをしたのに半額!それに停職!
 この先どうやって生きていけばいいんだ。

 レナードが絶望していると、エレナが先ほどまでとは異なり少し嬉し気な声色で話し始める。

「オークに襲われた新人冒険者ですが、命に別状はなく今は体調も回復しています。回復次第是非お礼に伺いたいと言っていたので、目覚めたみたいだと伝えておきますね」

 話を終えると、すっと立ち上がる。

 どうやら報告は終わりみたいだ。かなり最悪なことも告げられたが、まああいつらの命も助かったみたいだし、それになにより夢を思い出せた。
 それでも総合するとまだマイナスだが、まあよしとしよう。よしだと思うことにしよう。

 立ち上がったエレナはそのまま場に止まり、出ていく動きを見せない。

 何か言い残したことがあるのか?また、嫌な報告されそうだし早く出て行って欲しいが。

 すると、エレナは先ほどまで無機質な仮面のような表情を崩し柔らかな表情を浮かべる。

「今から話すことは、ギルド職員としてだけではなく1人の人間としての言葉です」

 そう言い終わると、エレナは頭を下げた。

「彼らを助けて頂き本当にありがとうございました」

 お礼を言うと、頭を元の位置に戻す。その目には少量の涙が滲んでいた。

「新人の冒険者の死亡率は3割程度です。さらに、冒険途中で自分より上位の魔物に出会ってしまった時の生存率は絶望的です。それに、運よく生き残ったとしても心や体、そして仲間に犠牲が出てしまうことがほとんどです。担当冒険者であるあの子達が、欠けることなく戻ってきてくれたのはあなたのお陰です。本当にありがとうございました」

 そう言って、再度頭を下げる。

 その様子に、レナードはぽかんとした間抜けな表情をみせる。
 感謝の言葉など久しく受けていなかった彼は、人の好意にどう反応すればいいのか忘れてしまっていたのである。

「当たり前のことを当たり前にしただけだぜ」
 その結果、昔読んだ冒険譚の主人公の台詞を一言一句そのまま発した。
 そっぽをむきつつ、少し照れながら。

 台詞がおかしかったのか、様子がおかしかったのか、それともその言葉が冒険譚の台詞そのままだったからか、エレナは唇を震わせくすくすと笑った。

 一拍置き、深呼吸をしながら落ち着きを取り戻す。

「今後は、できる限り無茶はしないでくださいね」

 頬を緩ませ微笑みながらそう言うと、エレナは扉を出て去っていった。

 しばらくエレナの美麗な顔から繰り出された笑顔に茫然自失していたレナードであったが、正気を取り戻すとこれまでの出来事を思い出しながら再度ベッドに横たわった。

 追放されて、死ぬような目に遭って、でもまた夢を見つけて。
 総合してもやはり割には合わないが、それでもこれからの夢を叶える過程を想像すると自然と笑みが零れる。

 一度確かに間違えた、見失った。だからもう、間違えない、失わない。
 人を助け、魔物を倒し、誰かの笑顔を守る。そんな冒険者に、冒険譚で語られるような存在に今度こそなる。
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みんなの感想(2件)

ほりした
2026.01.03 ほりした

ぺるしゃ

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ほりした
2026.01.03 ほりした
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