日常短篇集

星乃ユウリ

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はい、もしもし?

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僕は最近、懐かしい喫茶店を見つけた。
名前は平仮名で「めろでぃ」という。

地元の高校に通っていた頃、
仲間たちと入り浸っていた喫茶店に作りがそっくりだった。
特に、階段の横に置かれている古くて黒い電話が懐かしい。
高校の頃はあのタイプの黒電話から、よく電話がかかってきたものだ。

「はい、もしもし?」
「あ、あたし。ねぇ?今なにしてるの?」
「別になにもしてないよ」
「ふーん。じゃあ、あたしもそっち行こうかな」

そんなたわいもない話をあの人としたものだ。
あの黒電話を見ると、
またあの人から電話がかかってくるような気がして、想像を膨らませてしまうのだ。

でも、この「めろでぃ」の黒電話は
一度も鳴ったのを僕は見たことがない。
そりゃあ、そうだ。
あの人がこの喫茶店を知るわけもないし、
かかってくるわけもないのだ。

「チリリリーン」
僕は振り返って黒電話を見る。
マスターが僕に
「お客さんに電話だよ」
「え?」
と僕が驚きながら、黒電話に向かう。
あの人ではないだろうと分かっていても、
少しだけ期待しながら。

「はい、もしもし?」
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