2 / 17
1巻試し読み
1-2
しおりを挟む
翌日。
「父様」
朝食を食べるために家族一同がリビングに集まっていた。上座に父様、その隣に母様、向かい側に上座の方から順に、十一歳で長男のアルフォンソ、俺、三歳で三男のミケーレが並んでいる。
「なんだ? レンデリック」
「あの……村の外に行ってみたいのですが」
直談判である。
「ならん。前から言っているだろう? 子供だけでは危険だから十歳になるまで待て」
こういう答えは予想していた。
「ですが、護衛として誰か連れていけば大丈夫ではないでしょうか?」
「自分の息子だからといってそれを許可したら、村人に示しがつかん。それに、もしお前が傷つくようなことがあっては……」
父様は、まず第一に村全体のことを考える。そして次に、母様や俺たち家族のことを考える。
いつも村のことを最優先に考え、我が子だからといって優遇したりしないから、村人たちからの信望も厚い。
「しつこいぞ、レン!」
アルフォンソがいきなり立ち上がり、俺の胸倉を掴みあげて叫んだ。
「お前はいつもそうだ! いつも村の外、村の外!! わがままもいい加減にしろ!」
「にいたまー、おこっちゃダメだよ?」
「ミケーレも黙れ!」
「ひっ……」
ミケーレはアルフォンソの鬼のような形相に怯えて泣きそうになっている。ミケーレは関係ないだろと思い俺はアルフォンソを睨むが、アルフォンソは俺のそんな態度にますます腹が立ったようで。
「レン、お前、領主の子だという自覚をもっと持ったらどうだ! それができないような奴は、この家にいる資格はない!」
「おい、アルフォンソ!」
父様が窘めるが、アルフォンソはそれがまた癇に障ったようで、今度は父様に怒りの矛先を向けた。
「父様も父様だ! なぜ領主のくせに村人に交じって畑仕事なんかしてるんだ! 領主は領主らしくしていればいいだろ!? 見苦しいんだよ!」
「なっ……」
父様は絶句して、悲しそうな顔を見せた。
村人と一緒になって畑仕事をしているからこそ、彼らの人気を得て、政務もスムーズになるということをアルフォンソはわかっているのだろうか。領主だからといって、屋敷に篭って書類仕事さえしていればいいというわけではないのに。
「アル! いい加減にしなさい!」
それまで黙っていた母様の、堪忍袋の緒が切れた。普段は穏やかな碧い瞳で、アルフォンソを鋭く見据える。
「優れた領主とはまず民のことを考え、民と触れ合い、そして民の信頼を得る人だということが理解できないのですか!?」
「……フンッ」
アルフォンソは朝食を残したまま、俺を睨みつけてリビングを出ていった。
リビングには、ミケーレの泣き声だけが響いていた。
その日一日、屋敷の中は気まずい雰囲気だった。
自分の発言が原因だったから、俺はちょっと落ち込んでいた。
「レン、入りますよ」
自室でベッドに仰向けになっていると、扉の向こうから母様の声がした。母様が俺の部屋まで来るのは稀だったので驚き、すぐに起き上がって扉を開けた。
母様は金色に輝く長い髪を背後に揺らして入ってきて、ドレスに皺がつかないよう手で押さえながら椅子に座り、こちらをまっすぐ見て言った。
「レン、あなたの夢は冒険者になるか、あるいは世界中を旅することよね?」
「え?」
唐突な質問にポカンとする俺を見て、母様はクスクスと笑った。
「あなたがお父様の書斎に入り浸っていることは屋敷の中じゃ有名よ? それで私は、あなたが一体どんな本を読んでいるのか気になっちゃってねえ……。調べてみたら、S級冒険者ギルバートの苦難の旅の記録だったり、王都三つ星レストランガイドだったりするじゃない? 他にも似たような本が書斎のあちこちに何冊も散らばってるし……だから私はね、あなたがこの村を出て、世界各地を見て回りたいと思ってるんじゃないのかしら、と予想してたのよ」
やはりバレていたか。というのも当たり前で、あえてその手の本を散らかしておいて俺の意思をアピールしていたんだけどな。
「……あはは、そうです。僕は冒険者になって世界中を旅したいのです。いろんな場所に行って、いろんな人と出会って、話して、いろんな文化に触れて……そういうことに、無性に憧れるんです」
「わかるわあ、その気持ち」
母様はウンウンと頷いている。
「私も、結婚してこの家に嫁ぐ前は、冒険者として生活していたからねえ……。確かに、この村はのんびりしていて暮らしやすいわ。……でも悪く言えば、ここは閉鎖的なのよね。……村の外がどんなものなのかを知らないまま一生を終える人も多いし、そういう人は個人的には可哀想だと思っているのよ。だから、もしレンが世界中を見て回りたいって思うのなら、私はまったく反対しないわ。むしろ、応援するわよ?」
母様は聖母のような微笑みを浮かべる。
「……だから、アルフォンソの言ったことは気にしないで。アルの言動は頂けないけど、あの子の気持ちもわかる気がするの。だから今は心配しなさんな? ……もし、森に行くのなら、村の外れにある涸れ井戸を使いなさい」
「涸れ井戸……ですか?」
「ええ。その井戸の底には村の外の森に通じている、緊急用の隠しトンネルがあるのよ。……これは、私も最近知ったんだけどね。……だから、パブロとアルに感づかれないようにうまくやるっていうなら、私は何も言わないから、自由にいってらっしゃいな?」
母様……なんという良妻賢母。
「わかりました! では早速ですけど、今日行きます。どうすればバレずに家から出られるでしょうか?」
「あら、簡単よ? 深夜に行けばいいじゃない」
いやいやいや、何を言っているんだ!?
やっぱり良妻賢母ではないかもしれない。
別に俺は深夜に外に出るのが怖いわけではないが、七歳児に深夜の外出を勧める親がどこにいるのか。
「アドベンチャーよ、アドベンチャー。スリルがあっていいじゃない」
「……」
無言でジロッと睨むと、母様は慌てて自分の顔の前で手を振った。
「いやねえ、冗談よ、冗談! でも、深夜でもほんとにいいわよ?」
それから声のトーンを落として、内緒話でもするように囁いた。
「だって……レン、あなた魔法も使えるんじゃないの?」
「な、なっ……」
俺が魔法を使えることは家族の誰にも喋っていない。
この世界、魔法が使える者はそこまで多くないそうだ。だから魔法のことで注目されると面倒くさいと思ったし、何より、ひがみっぽい性格のアルフォンソが魔法を使えなかったからな。
「この前ミケーレが怪我した時に、私初めてレンの前で回復魔法を使ったけど、あなた全然驚いてなかったわ。普通、初めて魔法を見た人は、みるみる傷が塞がっていくのを見て仰天するものよ? だから私は、レンが魔法を使えるんじゃないかって思ったの。それに私、この前の夜中に見ちゃったのよねー、庭であなたが何やらブツブツ呟いて、闇の魔法らしきものを使っていたのをね」
母様は何でもお見通しってわけか? その洞察力には驚かされる。さすが母親だ。
「一応森の魔物は、強い個体は間引きされているからね。攻撃魔法が使えさえすれば、乗馬よりも安全よ?」
いやいや、乗馬と違って、魔物は死の危険があるんだが……。ああ、でも日本でも競馬の騎手で落馬して死んだ人がいるって聞いたことがあるし、大差ないかもしれない。
「違うわよ、馬は凶暴な肉食動物だから、そこらへんの魔物より厄介なのよねえ……」
なんと、ここでは馬は肉食動物らしい。さすがファンタジー世界。
でもそれじゃあ、乗馬の初心者はどうやって練習するんだろうな?
「初心者はまず草食動物のロバで練習するのよ。ロバはおっとり屋さんだから、スピードも遅いし安全でしょ?」
どうやら、母様もあのオッサンと同じく俺の心が読めるらしい。一体どうやってるんだろうか。
†
ということで……その晩。
俺は寝たふりをして、父やアルフォンソ、デボラも寝たであろう深夜に起きた。念のため書き置きを枕元に残し、ベッドの脚に固く結びつけたロープを窓から垂らして静かに降りた。帰りはこれを伝って部屋に戻る必要があるから、ロープはそのままにしておいた。真下は幸い窓もなく壁があるだけなので、誰かに発見されることもないだろう。
外は暗く、月の光だけが唯一の灯りだった。日本と違って、街灯も懐中電灯もない。松明は念のため持参したが。
だが、俺は怯えるどころか、魔物とのエンカウントを考えてワクワクしていた。
スキップしながら例の涸れ井戸にたどり着き、松明を灯して、持参したさっきとは別のロープを垂らし底へと潜っていく。
井戸の中は暗くジメジメしていたが、それでいて神聖な空気を孕んでもいた。おそらく、村の外から魔物が入り込まないように結界が張られているのだろう。そして、この神聖な空気というのが、いわゆる聖気というやつだ。魔力とは逆の存在で、聖職者にしか扱えないらしい。村の教会の神父様が結界を張ることができるというような話を、以前母様か誰かから聞いたことがあったな。
井戸の底に降り、横に延びるトンネルを二十分ほど進むと、木や土の匂いが強くなってきた。
そしてとうとうトンネルを抜けた。
そこは深い森だった。
密生した木々の葉の隙間からは、わずかに月光が差し込むのみ。歩く度に腐葉土の湿った香りが強く感じられる。林床はコケと落ち葉に覆われていた。
少し行ったところで振り返ると、涸れ井戸のトンネルの入り口が見える。洞穴のようになっているが、魔物の侵入を防ぐ結界が張ってあることを知っているからか、不気味には見えなかった。
俺は暗い森の中を少しでも照らそうと、松明に火をつけて高く掲げた。
何も見えない森の奥から、何者かに見られている気がする。聖気を嫌がって出てこない魔物だろうか。結界はトンネル内だけでなく、周囲にまで展開されているのかもしれない。
俺が使える魔法は初期レベル、すなわちLv1で使える、【暗黒魔法】の【暗黒弾】、【混沌魔法】の【混乱の闇】、【煉獄魔法】の【煉獄弾】の三つだ。
準備は万端。
俺は少しずつ、まっすぐに森の奥へと進む。
しばらくして、目の前の草むらがガサガサッと揺れ、小さな何かが現れた。
それは、体長五十センチメテルほどの、毒々しい色が混ざった空色の流動体。
ちなみにセンチメテルはこの世界の尺度で、名前からわかるとおり一センチメテル=一センチメートルだ。一メテルは、もちろん一メートルである。
顔も目も、手も足もない物体。だが完璧に俺を認識しているようで、迷わずこちらに向かってくる。体表からグボグボッと酸らしき泡をまき散らしていて、腐臭を放っている。体の奥に、紫色に光る小さな丸い石みたいなものが透けて見えた。父様の書斎にあった書物から得た知識によれば、あれが魔核だろう。
――目の前にいるのは、おそらくスライムだ。
目も口もなく、プルプルッとしておらず、人懐こい笑顔もない。だが、俺は目の前のモンスターがスライムだと確信していた。
俺は言いたいね。誰だ、スライムは可愛いなんて言った奴は! と。これほどまでにリアルで気色悪いとは、誰が予想しただろうか。
だが、今はそんなことを言っている場合ではない。まずは目の前の魔物をどうするかだ。
「――光を呑み込む暗黒より生まれし闇よ、小さな球と成りて敵を穿て――暗黒弾!!」
俺はすぐ前に迫ったスライムに向かってそう唱えた。俺の頭上にメロンほどの大きさの魔力のかたまりが現れ、スライムに向かって飛んでいく。
向こうもまさかこんな子供が魔法を使うとは思っていなかったのか、もしくは単に知能がないだけなのか、暗黒弾を正面から食らった。
スライムは暗黒弾に体を削られて縮んでいく。
うん、しっかり魔法が効いたようだ。今度は【煉獄弾】を使ってみる。
「――地獄の業火は煉獄なり。煉獄の炎よ、小さな球と成りて敵を焼き尽くせ――煉獄弾!!」
さきほどと同じく頭上に現れた炎のかたまりがスライムへ飛んでいく。
今度はスライムも避けようとしたが、煉獄弾のほうが速い。結局スライムは煉獄弾をまともに食らい、激しく燃えた。唯一残って点滅していた魔核も燃え、最後には灰になった。
「おお……」
俺は夢にまで見た魔物との戦闘と魔法の発動に、言い表すことのできない感動を覚えていた。魔法は詠唱に時間がかかるのがネックだが、それがファンタジーの醍醐味であり、初陣の興奮もあって今はそこまで気にならなかった。
しかし、MPを消費した感覚がない……いや、パラメータ補正【魔力最大量極大】があったから、初期レベルの魔法二発ぐらいでは消費したうちに入らないのかもしれない。これなら、何体でもいけそうだな。
しばらく森を進んでいると、二体目のスライムと遭遇した。
今度は【煉獄弾】、【暗黒弾】の順で攻撃し、やはり二発で倒した。
三体目のスライムは、【混乱の闇】を使用してから【暗黒弾】で攻撃した。【混乱の闇】で混乱状態にするとスライムは動かなくなったので、前の二体よりもさらに簡単に倒すことができた。
二時間ほどスライムを倒し続けていただろうか。
『――スキルがレベルアップしました。確認してください』
突然、ゲームでおなじみのそんなアナウンスが脳内に響いた。ステータスを確認してみると、【暗黒魔法】、【混沌魔法】、【煉獄魔法】がそれぞれレベルアップしていて、新しく【暗黒魔法】の【暗闇可視化】、【混沌魔法】の【無我の暗闇】、【煉獄魔法】の【煉獄の壁】が使えるようになっていた。
おそらく、普通の人はこんなに早くレベルが上がらない。もちろん、レベルが上がっていけば次第にレベルアップのペースも緩やかになっていくと思うが、たった二時間で1レベル上がるというのは恐ろしい話である。スキル〈極限突破〉のおかげだろう。
――何体目だろうか。
月光の下、現れたのはまたもやスライムである。月光を反射するヌメヌメとした空色の体表は、間違いなくスライムのもの。
だが、何かが違う。
酸の泡が沸き立っているはずの体表は、プルプルという擬音が聞こえそうなほどツルツルでテカテカしている。
そしてそのスライムは俺を見つめているかのように、じっとそこに留まっている。さっきまでとは明らかに雰囲気が違う。言うなれば、敵意を感じないのだ。
一つ、思い当たる節がある。
スキル【テイム】だ。確か、魔物にこちらの優位性を見せつければ仲間にすることができるというやつである。
ふむ、と小さく声を漏らす。確かに、この二時間で、両方の手足の指を使っても数え切れないほどのスライムを倒した。それにより俺の圧倒的な実力が示され、コイツに対して優位性を持つことになったのだろうか?
するとコイツはずっと俺を観察していた、ということなのか? もしかして森に入った時から感じていた視線は、コイツのものだったのか?
まあ……とりあえず、今は目の前のスライムに集中しよう。
「えーと、お前のことは……スライム、って呼べばいいのか?」
空色のソレは触手らしきものを伸ばすが、逡巡したように一度止め、それからまた動かして、宙に丸を描いた。
「……? それでOKってことか……? じゃ、スライム。俺と一緒に来るか?」
突如、ソレは高く跳躍し、ベチャッと音を立てて俺の胸に張り付いた。うわわっ、やっぱ敵だったのか、と慌てる俺だったが。
脳内に、アナウンスが響いてきた。
『――スライムのテイムに成功しました』
脳内で自分のステータスをスクロールして確認してみると、俺の名前の下に「????」と未詳の名前が追加されていた。
なるほど、張り付いたのは、仲間になる意思表示だったのか。
ぷるるんとして、しかもひんやりした感覚に少々驚いたのだが、なぜか不快には思わなかったし、ちょっと嬉しくもあった。
「やっぱり、新しく名前を付けないとな……スライムって呼ぶのもなんか違うし。ってか、もともと名前があったりするのかなあ」
何となくそう呟いたのだが、胸元のスライムは俺を見上げるようにモゾモゾと動き、触手を伸ばしてバツ印を作った。
名前はない、と言っているらしい。ステータスの「????」という表示は、名前がないということなのかもしれないな。
「よし、俺が名前を付けるぞ」
そう言うと、触手が勢いよくハートを描いた。思った以上にコミュニケーションがとれるようで、つい笑ってしまった。スライムには意外にもかなりの知能があるみたいだ。この個体が特別なだけかもしれないが。
他の種類の魔物にも、こんなふうに知能があったりするのかな? 楽しみだ。
「うーん、そうだなあ……体の色が水色だから……」
ふと、水色の髪をポニーテールに結んだ日本のアニメキャラクターが頭に浮かんだ。
……懐かしいな。あの子は可愛かったな。確か、小学生の設定だったけど。
そんなことを思い出し、俺はその、アニメの女の子の名前をスライムに付けることにした。断っておくが、俺はロリコンではない……と信じたい。
「スライム。今日からお前の名前は、ヴェロニカだ」
†
さしあたって、問題が一つ。
ヴェロニカが仲間になったわけだが、これからコイツをどうするかだ。多少知能があるといってもスライムだから、森に置いていくと他の魔物に襲われてしまうかもしれない。そうでなくても、スライムのように弱い魔物は、ふとしたきっかけで消滅してしまうこともあるらしいからな。
ちなみに、スキル【鑑定】でヴェロニカの能力値を勝手に見させてもらったのだが。
ヴェロニカ
魔物ランク:F
ATK:57
DEF:21
SPD:10
MP:13
LUK:48
俺の仲間にならなかったら他の魔物の餌食になっていたのではないか、と思われるほどの弱さだ。これは連れて帰るしかないかもな。
だが……。
魔物を家に入れるとなると、家族になんて言えばいいのだろうか。母様はわかってくれると思うし、父様も頼み込めば何とかなるかもしれない。問題はアルフォンソだ。煩わしいことを言ってくるに決まっている。
じきに夜も明ける。今、俺は非常に興奮していてハイテンションだが、さすがにまだ七歳なのでオールできる自信はない。
ヴェロニカは相変わらず俺の胸元に張り付いていて、時折モゾモゾと動くのが見ていて面白い。俺は当初の戸惑いも忘れ、目も口もない、粘性の高いただの流動体に愛着を覚え始めていた。
そんなヴェロニカを見ていたら、アルフォンソのことも、どうにかなりそうな気がしてきた。アルフォンソが何を言おうと、俺はもうヴェロニカを気に入っているからな。何とかヴェロニカの存在を誤魔化す方法を見つけないと。
村に戻るため、森を戻ってトンネルに入ろうとすると、ヴェロニカが震え始めた。魔物に本能的な恐怖を感じさせる聖気の結界が展開されているからだろう。
「大丈夫だ。怖くないから。安心して」
穏やかにそう言い聞かせると、ヴェロニカは鼠くらいのサイズに縮んで、俺の胸ポケットに入ってしまった。そこが一番安全だと思ったのだろう。プニプニしていて、思わず「うへへー」となってしまう。
体の一部をはみ出させてキョロキョロ動くので、なんだか母カンガルーにでもなった気分だ。
ほどなくして家に着き、垂れたままのロープを伝って誰にも見られることなく自室に戻ることに成功した俺は、部屋の隅にあったガラス製の花瓶を机の上に置いた。
「ヴェロニカ、しばらくこの中にいてもらえる?」
はい! と答えるように触手が元気よく丸を描き、ゆっくりと花瓶に入っていった。これなら誰が見ても、花瓶に水が入っているだけだと思うはずだ。透けて見える体内の紫色の魔核がちょっと目立つ気もするが、庭で拾ってきた黒っぽい小石も一緒に入れてカムフラージュしたから大丈夫だろう。
ここまで済ませると、俺はようやく安心し、睡魔に襲われて夢の世界へと旅立った。
†
翌朝。
「レン、起きて。話があるわ」
そんな声に目を覚ますと、母様が俺にのしかかっていた。まだ朝食前だ。こんな朝早くに何だろう? というか……。
「ぐへえ……お、重いです」
「ん? 何か言ったかしら?」
笑顔のまま膝十時固めを極めてくる母様。
「ごめんなさい母様っ、ギブっ、ギブううぅぅうう!!」
「母様は軽いです!」と俺が叫びながら謝ると、母様は膝十字固めを解いて机の前の椅子に座った。……くそ、この母親、子供にも容赦ねえな。まあ、いい匂いしたからいいけど。
実の母には違いないのだが、早くに亡くなったとはいえ前世の母と過ごした期間のほうが長いから、どうもこの母様を完全に母として見られないところがある。なんせ、超絶美人の類に入るからな、この人。……性格はアレだが。
「……母様、今日は朝からどうしたんですか」
「どうしたじゃないわよ、あの花瓶の中の、紫色の石のことよ。あれ、魔核でしょう。よく手に入れたわねえ……たいていの魔核は持ち主である魔物と共に消滅して、魔力は空気中に霧散してしまうのに」
まあ、それただの魔核じゃなくて、実際に生きている魔物だからな。ちなみに魔力の強い個体ほど、魔物が消滅しても魔核の状態で残るらしく、そうした魔核は非常に高値で売買されるのだと母様は補足してくれた。
「そうなんですね。……でも、魔核って、何に使われるのですか?」
母様は顔を少し傾けて、白く細い人差し指を自分の唇に当てた。何か考えているらしい。その仕草は上品で、「冒険者やってた時はかなりモテたのよ」とよく自分で言うのも頷ける。
「……そうねえ、装飾品として使われることが多いわね。武器や防具に嵌め込むと炎属性なんかに耐性がついたり、その持ち主も、何らかのスキルを獲得できたりするから。ネックレスとか、アクセサリーとして加工しても、同じ効果が得られるわよ」
RPGによくある要素だな。最近ではRPGだけでなく某狩猟系ゲームだったり、FPSなんかにも盛り込まれているようだけど。
「で、強力な魔物、つまり魔力最大量の多い魔物ほど魔核は安定しているから、体が消滅しても魔核が残りやすいのよ。そしてもちろん、そういった魔物の魔核ほど、身につけた際の効果も高い……言ってる意味、わかるわね?」
「はい、わかります。……魔核に、より多くの魔力が宿っているからですね?」
「そのとおりよ。レンは理解が早くて助かるわね……」
まあ、前世でのゲーム知識があるからな。一口に魔物といっても、魔力最大量によってまったく強さが違う。そこは某狩猟系ゲームの下位とG級みたいなもんだ。体の大きさはほぼ同じなのになぜここまで差が出るのかと、真面目に考察してみたりしたものだ。
そんなことを考えていたら、母様が、ビシィッと花瓶を指差した。
「で! 魔核のことは置いとくとして! この水の色は何よ! 見たことないわ! なんだか神秘的だし、一体どこで手に入れたの!?」
確かにとても綺麗だとは思う。スライムは、水色をしたジェル状の物質から成る流動性の生き物だ。そのため、光が複雑に反射して輝く。……うーん、あれはコロイド溶液だと思うんだけど、異世界補正がかかっているのかもしれない。
……それにしても母様は本当に鋭いな。よし、本当のことを話そう。のちのち誰かに見つかった時に理解者がいてくれたら助かるし、母様は元冒険者で無類のスリル好き人間だから、俺の話を楽しんで聞いてくれそうな気がする。
「えーと、母様、大事な話があります」
俺は椅子に座っている母様にまっすぐ向き直った。
「大事な話って?」
母様は花瓶の方を見ながら傾けていた首を、さらにコテンと傾けた。
「えーとですね、僕は、【テイム】を使えます」
「えっ……レアスキル【テイム】持ってるの!? ……羨ましいわあ、前にハーガニーの街で『ケット・シー』とか『クー・シー』を見た時は、【テイム】が欲しくて堪らなくなったわ。……で、それがどうかしたの?」
ちなみに俺のはただの【テイム】じゃなくて、最上級の特殊スキル〈テイムマスター〉なんだけど、本当のことを言う必要はないだろう。基本的な効果は同じだからな。ちなみに、ケット・シーは喋る小猫、クー・シーは喋る小犬だと思ってくれればいい。
それにしてもどう説明したものか……口で説明するより、見せたほうが早いかもしれないな。
俺は母様の質問には答えずに、花瓶に近づき、中に向かって呼びかけた。
「おーい、ヴェロニカー。出てきて大丈夫だぞ」
「レン……あなた、何やってるのよ? ……って、えっ!?」
母様が、「何この子一体どうしちゃったの花瓶に話しかけて」という表情になった直後、水色でツルツルのジェルが勢いよく花瓶から飛び出して俺の胸に張り付き、そのまま縮んで胸ポケットに入った。
それを見ていた母様は、目を見開いて口をパクパクさせた。
「母様、見てのとおり、花瓶の水は実はスライムなんですよ」
「……っ、な、なるほど、スライムをテイムしたのね? ……でもスライムって、こんなにツルツルテカテカだったかしら?」
一般的にはスライムは濁ったジェリー状の体で、腐食作用のある酸をまき散らし、腐臭が辺りに漂うほど臭いのきつい魔物である。
森で最初に見たスライムもそんな感じだった。だがスキル【鑑定】で読み取った情報によると、酸をまき散らすのは敵と認識した相手に対する威嚇としてらしい。威嚇すべき相手のいない時には、本当の姿――光輝く水色の流動体――を見せるようだ。
そのことを母様に説明すると、「なぜそんなこと知ってるのよ?」と聞かれたので「【鑑定】です」と答えた。すると今度は「何で、そんなにレアスキル持ってるのよ……」とまた羨ましがられた。ごめんなさい、冥界で金券を手に入れたから、とは言えないです。
「ほら、ヴェロニカ。この人は僕の母様だよ。挨拶して」
ヴェロニカに呼びかけると、胸ポケットから伸びた二本の触手が、母様の顔の前でハートを描いた。
「あらまあ……でもスライムって、こんなに知能高かったっけ……?」
「どうですかね……。僕の他に、スライムをテイムした人はいなかったんですか?」
「そうねえ、そういう人も話には聞いたことあるけど……。でも、そういうスライムは、その人の言うことをわずかに理解しているとか、それぐらいだったみたいよ? そもそもスライムってどちらかというと不人気な魔物だからねえ。わざわざテイムしようっていう人もあんまりいなくて、サンプルが少ないのよ。それにしたって、こんなにコミュニケーション能力があるっていうのは、聞いたことないわねえ……」
「……うーん、個体差ですかね……?」
双子でも性格が違うように、また、同じ勉強量でも成績に差が出るように、スライムにも個体差があるのだろう。スライムって総じて賢いのかなと考えたこともあったが、やはりヴェロニカが特別なようだ。
それにしても、母様は理解があるなあ。この状況を受け入れてくれているもんな。
でも……もっとも大きな問題が残っている。
「このこと……ヴェロニカのことも、僕の魔法やスキルのことも……母様と僕だけの秘密でお願いします。とくにヴェロニカのことは、父様は絶対心配するでしょうし、アルフォンソ兄様に至っては……」
「わかってるわよ。……でも、アルフォンソは仮にもあなたのお兄さんなんだから、少しは敬いなさいよね」
そうは言うものの、母様もアルフォンソには手を焼いているようだ。「初めての子供だったから、つい甘やかしてしまった私のせいかも……」と俺に漏らしたこともあった。そう考えると、母様は明らかに俺を七歳児扱いしていないのだが、俺は別に気にしていない。
「それで……えーと、ヴェロニカのことは、私に任せときなさい。もし何かあっても、私はずっとレンの味方よ」
「母様……ありがとうございます」
結論。母様はやはり良妻賢母だった。
†
「母様、せっかくですから魔物の生態について、教えてくれませんか?」
そのあと俺たちはしばらくの間ヴェロニカと戯れていた。ヴェロニカは嬉しそうに何度も触手を動かしていたが、やがて疲れたのか、花瓶に戻って大人しくなった。
母様が推測するには、知能の高いスライムは自分の体を触手状にすることができ、その中でも特に知能の高い個体は、その触手で意思表示ができるのではないかとのことだ。「ヴェロニカだからできて当然です」と答えたら、「それを飼い主バカって言うのよ」と笑われた。
いいじゃないか。
そりゃあ、ヴェロニカは目も口もないスライムだけど、それでも俺は無条件に可愛いと思ってしまう。まああとで、母様も「私も親バカなんだけどね」と言っていたが。
「魔物の生態ね……私は冒険者としての知識しか持ってないけど、それでもいい?」
俺が頷くと、母様は語り始めた。
「まず、魔物っていうのはね――」
魔物とは、魔力から生まれ、魔力を糧に生きる生物である。
その体は人間や他の動物と同じように、器官、筋肉などで成り立っている。違うのは、魔物の体には魔力が結晶化してできた魔核があり、この魔核が心臓のように常に体中に魔力を供給している点だ。
魔物は、他の魔物や人間など(人間にも微量ながら魔力がある。もちろん個人差はある)、魔力を持つ生物を屠ることでその生物の魔力を自分の魔核に蓄える。それによって魔核の魔力最大量が上昇し、体内を循環する魔力量が増えて、筋力や敏捷性が高まるのだ。
だが魔核の魔力量がある程度増えると、もともとの体ではその増えた魔力を効率的に使用することが難しくなってしまう。
そのため魔物は自らの姿を、より効率的に魔力を使用できる形態へと変化させる。
これが俗に言う「進化」である。
例えばオークという二足歩行の豚の魔物なら、下位個体から弱い順に、「オーク」「オークソルジャー」「オークジェネラル」「オークキング」というふうに進化する。その違いは体躯の大きさ、筋力、敏捷性などが中心で、サイズの違いはあれど外見はいずれもオークっぽさを残しており、その系統だとわかる。
逆に言えば、より多くの魔力を効率的に使用するためには、身体能力を上げればいいということだ。
だが、そのような法則に従わない個体も稀にいる。
そうした個体は、翼が生えたり腕が四本になったりと、通常では辿ることのない進化を遂げる。
こういった魔物を「変異種」あるいは「特殊進化個体」といい、それらは通常よりも遥かに強力なものがほとんどで――。
「――私も昔、ゴブリンの変異種が何千ものゴブリンを率いて現れた時に、冒険者ギルドの緊急招集を受けたわ。通常のゴブリンは、もう弱い小さい醜いの三拍子揃ってるんだけど、その変異種は目から灼熱や電撃、氷結の光線を放ってきて、私も肩や足を貫かれたの。最終的になんとか討伐したんだけど、死者がかなり多くてね……もう二度と、あんな思いはしたくないわ。回復魔法が中心の私が、誰も助けられないなんて……あまりにも無力で、とても辛かった」
母様は当時を思い出したのか、しんみりしてしまった。そしていきなり顔を上げ、落ち込んでいたのを誤魔化すように「たはは……」と力なく笑った。
「……辛気臭くなっちゃったわね。とにかく、私が知っているのはこのくらいかな? あまり詳しくなくてごめんなさいね」
――いやいや、詳しくないなんてとんでもない!
いつも思うんだが、母様はわりとスペックが高い。才色兼備、性格は明るくて優しい、料理はうまい(普段はデボラが作ってくれるのだが)、運動神経もいい。
……これ、「わりと」じゃなくて、「とてつもなく」高いんじゃね?
「母様は回復魔法中心の、いわゆる回復職だったんですね……」
「ええ、昔は『ハーガニーの聖乙女』って言われてたわよ」
「えっ、乙女? 誰が?」
「何か、言ったかしら?」
本日二度目の膝十字固め。
「ごめんなさい母様っ、ギブっ、ギブううぅぅうう!!」
お詫びして膝十字固めを解いてもらったあと、母様に指示されたデボラが花瓶のまわりを彩る飾り花を持ってくるまで、俺たちはしばらく雑談に花を咲かせたのだった。
†
「やあレン、おはよう」
朝食の時間になって、一階のリビングに下りると、兄のアルフォンソと弟のミケーレが先に席についていた。俺が椅子に座ろうとした時、昨日の怒りはどこへやら、すこぶるご機嫌な様子でアルフォンソが挨拶してきたのだ。
「おはようございます、兄様」
「なあレン、早速だけど、レンは冒険者になりたいのかい?」
「ええ、そうですが、どうしてそれを?」
「ああ、いや、ゆうべ母様が父様にそう言っていたのを、たまたま聞いてしまってね。……とにかく、そうするとレンは、この家を継ぐ気はないということだね?」
あれ、内緒だったはずだが……昨夜のうちに話していたのか。母様め。
「レン、どうなのかな?」
アルフォンソがもう一度聞いてくる。
この家を継ぐ……か。
確かに、貧乏とはいえ父様は辺境伯だからな。辺境伯は、貴族の中ではわりと重要なポストだ。ロイム村は小さいので、フォンテーニュ家はそこまでの地位ではないだろうが、それでも爵位には変わりない。
それでも俺の心の中では、冒険者になりたいという願望が勝っている。だからよほどのことがない限り、この家を継ぐ気はない。
「僕は世界中を旅してみたいんですよ。王都で美味しいご飯を食べたり、冒険者仲間と酒場でワイワイしたりとか。家を継ぐより、そういう夢を追いかけたいんです」
「そうか! よかった!」
アルフォンソはほっとした顔でそう言ったあと、こちらを見て、慌ててつけ加えた。
「……あっ、いや、何でもないぞ? 俺はレンが冒険者になるのを心から応援してるよ! はっはっはっはっ」
「レンにいたまー、りょうしゅ、ならないの?」
弟のミケーレが俺の顔をツンツンと指で突いて聞くので、俺は頭を撫でてやりながら答えた。
「ああ、俺は冒険者になるんだよー」
「そうとも! レンは冒険者になるのさ。そして領主になるのは、俺だよ! はっはっはっはっ」
アルフォンソが一人で笑うが、まだ三歳のミケーレはそもそも「領主」の意味を知らないらしく、「ふーん?」と首を傾げていた。
まあ、兄様の機嫌が直ったので、とりあえずほっとしたよ。
機嫌がよければ、わざわざ俺のことなんて気にしないだろうからな。
これでしばらくは、ヴェロニカの存在に気づかれる心配もなさそうだ。
名前:レンデリック・ラ・フォンテーニュ
年齢:7歳
職業:なし
種族:人間
特殊スキル:〈テイムマスター〉〈創造王〉〈体術王〉〈極限突破〉〈王の系譜〉
〈冥界の加護〉〈男は拳で語る〉〈牡のフェロモン〉〈絶倫〉
一般スキル:【テイムLv1】【鍛冶】【錬金】【調合】【建築】【王級工房】
【鑑定】【指揮】【暗黒魔法Lv2】【暗闇可視化】【混沌魔法Lv2】
【煉獄魔法Lv2】【甘いマスク】【精力回復】
「父様」
朝食を食べるために家族一同がリビングに集まっていた。上座に父様、その隣に母様、向かい側に上座の方から順に、十一歳で長男のアルフォンソ、俺、三歳で三男のミケーレが並んでいる。
「なんだ? レンデリック」
「あの……村の外に行ってみたいのですが」
直談判である。
「ならん。前から言っているだろう? 子供だけでは危険だから十歳になるまで待て」
こういう答えは予想していた。
「ですが、護衛として誰か連れていけば大丈夫ではないでしょうか?」
「自分の息子だからといってそれを許可したら、村人に示しがつかん。それに、もしお前が傷つくようなことがあっては……」
父様は、まず第一に村全体のことを考える。そして次に、母様や俺たち家族のことを考える。
いつも村のことを最優先に考え、我が子だからといって優遇したりしないから、村人たちからの信望も厚い。
「しつこいぞ、レン!」
アルフォンソがいきなり立ち上がり、俺の胸倉を掴みあげて叫んだ。
「お前はいつもそうだ! いつも村の外、村の外!! わがままもいい加減にしろ!」
「にいたまー、おこっちゃダメだよ?」
「ミケーレも黙れ!」
「ひっ……」
ミケーレはアルフォンソの鬼のような形相に怯えて泣きそうになっている。ミケーレは関係ないだろと思い俺はアルフォンソを睨むが、アルフォンソは俺のそんな態度にますます腹が立ったようで。
「レン、お前、領主の子だという自覚をもっと持ったらどうだ! それができないような奴は、この家にいる資格はない!」
「おい、アルフォンソ!」
父様が窘めるが、アルフォンソはそれがまた癇に障ったようで、今度は父様に怒りの矛先を向けた。
「父様も父様だ! なぜ領主のくせに村人に交じって畑仕事なんかしてるんだ! 領主は領主らしくしていればいいだろ!? 見苦しいんだよ!」
「なっ……」
父様は絶句して、悲しそうな顔を見せた。
村人と一緒になって畑仕事をしているからこそ、彼らの人気を得て、政務もスムーズになるということをアルフォンソはわかっているのだろうか。領主だからといって、屋敷に篭って書類仕事さえしていればいいというわけではないのに。
「アル! いい加減にしなさい!」
それまで黙っていた母様の、堪忍袋の緒が切れた。普段は穏やかな碧い瞳で、アルフォンソを鋭く見据える。
「優れた領主とはまず民のことを考え、民と触れ合い、そして民の信頼を得る人だということが理解できないのですか!?」
「……フンッ」
アルフォンソは朝食を残したまま、俺を睨みつけてリビングを出ていった。
リビングには、ミケーレの泣き声だけが響いていた。
その日一日、屋敷の中は気まずい雰囲気だった。
自分の発言が原因だったから、俺はちょっと落ち込んでいた。
「レン、入りますよ」
自室でベッドに仰向けになっていると、扉の向こうから母様の声がした。母様が俺の部屋まで来るのは稀だったので驚き、すぐに起き上がって扉を開けた。
母様は金色に輝く長い髪を背後に揺らして入ってきて、ドレスに皺がつかないよう手で押さえながら椅子に座り、こちらをまっすぐ見て言った。
「レン、あなたの夢は冒険者になるか、あるいは世界中を旅することよね?」
「え?」
唐突な質問にポカンとする俺を見て、母様はクスクスと笑った。
「あなたがお父様の書斎に入り浸っていることは屋敷の中じゃ有名よ? それで私は、あなたが一体どんな本を読んでいるのか気になっちゃってねえ……。調べてみたら、S級冒険者ギルバートの苦難の旅の記録だったり、王都三つ星レストランガイドだったりするじゃない? 他にも似たような本が書斎のあちこちに何冊も散らばってるし……だから私はね、あなたがこの村を出て、世界各地を見て回りたいと思ってるんじゃないのかしら、と予想してたのよ」
やはりバレていたか。というのも当たり前で、あえてその手の本を散らかしておいて俺の意思をアピールしていたんだけどな。
「……あはは、そうです。僕は冒険者になって世界中を旅したいのです。いろんな場所に行って、いろんな人と出会って、話して、いろんな文化に触れて……そういうことに、無性に憧れるんです」
「わかるわあ、その気持ち」
母様はウンウンと頷いている。
「私も、結婚してこの家に嫁ぐ前は、冒険者として生活していたからねえ……。確かに、この村はのんびりしていて暮らしやすいわ。……でも悪く言えば、ここは閉鎖的なのよね。……村の外がどんなものなのかを知らないまま一生を終える人も多いし、そういう人は個人的には可哀想だと思っているのよ。だから、もしレンが世界中を見て回りたいって思うのなら、私はまったく反対しないわ。むしろ、応援するわよ?」
母様は聖母のような微笑みを浮かべる。
「……だから、アルフォンソの言ったことは気にしないで。アルの言動は頂けないけど、あの子の気持ちもわかる気がするの。だから今は心配しなさんな? ……もし、森に行くのなら、村の外れにある涸れ井戸を使いなさい」
「涸れ井戸……ですか?」
「ええ。その井戸の底には村の外の森に通じている、緊急用の隠しトンネルがあるのよ。……これは、私も最近知ったんだけどね。……だから、パブロとアルに感づかれないようにうまくやるっていうなら、私は何も言わないから、自由にいってらっしゃいな?」
母様……なんという良妻賢母。
「わかりました! では早速ですけど、今日行きます。どうすればバレずに家から出られるでしょうか?」
「あら、簡単よ? 深夜に行けばいいじゃない」
いやいやいや、何を言っているんだ!?
やっぱり良妻賢母ではないかもしれない。
別に俺は深夜に外に出るのが怖いわけではないが、七歳児に深夜の外出を勧める親がどこにいるのか。
「アドベンチャーよ、アドベンチャー。スリルがあっていいじゃない」
「……」
無言でジロッと睨むと、母様は慌てて自分の顔の前で手を振った。
「いやねえ、冗談よ、冗談! でも、深夜でもほんとにいいわよ?」
それから声のトーンを落として、内緒話でもするように囁いた。
「だって……レン、あなた魔法も使えるんじゃないの?」
「な、なっ……」
俺が魔法を使えることは家族の誰にも喋っていない。
この世界、魔法が使える者はそこまで多くないそうだ。だから魔法のことで注目されると面倒くさいと思ったし、何より、ひがみっぽい性格のアルフォンソが魔法を使えなかったからな。
「この前ミケーレが怪我した時に、私初めてレンの前で回復魔法を使ったけど、あなた全然驚いてなかったわ。普通、初めて魔法を見た人は、みるみる傷が塞がっていくのを見て仰天するものよ? だから私は、レンが魔法を使えるんじゃないかって思ったの。それに私、この前の夜中に見ちゃったのよねー、庭であなたが何やらブツブツ呟いて、闇の魔法らしきものを使っていたのをね」
母様は何でもお見通しってわけか? その洞察力には驚かされる。さすが母親だ。
「一応森の魔物は、強い個体は間引きされているからね。攻撃魔法が使えさえすれば、乗馬よりも安全よ?」
いやいや、乗馬と違って、魔物は死の危険があるんだが……。ああ、でも日本でも競馬の騎手で落馬して死んだ人がいるって聞いたことがあるし、大差ないかもしれない。
「違うわよ、馬は凶暴な肉食動物だから、そこらへんの魔物より厄介なのよねえ……」
なんと、ここでは馬は肉食動物らしい。さすがファンタジー世界。
でもそれじゃあ、乗馬の初心者はどうやって練習するんだろうな?
「初心者はまず草食動物のロバで練習するのよ。ロバはおっとり屋さんだから、スピードも遅いし安全でしょ?」
どうやら、母様もあのオッサンと同じく俺の心が読めるらしい。一体どうやってるんだろうか。
†
ということで……その晩。
俺は寝たふりをして、父やアルフォンソ、デボラも寝たであろう深夜に起きた。念のため書き置きを枕元に残し、ベッドの脚に固く結びつけたロープを窓から垂らして静かに降りた。帰りはこれを伝って部屋に戻る必要があるから、ロープはそのままにしておいた。真下は幸い窓もなく壁があるだけなので、誰かに発見されることもないだろう。
外は暗く、月の光だけが唯一の灯りだった。日本と違って、街灯も懐中電灯もない。松明は念のため持参したが。
だが、俺は怯えるどころか、魔物とのエンカウントを考えてワクワクしていた。
スキップしながら例の涸れ井戸にたどり着き、松明を灯して、持参したさっきとは別のロープを垂らし底へと潜っていく。
井戸の中は暗くジメジメしていたが、それでいて神聖な空気を孕んでもいた。おそらく、村の外から魔物が入り込まないように結界が張られているのだろう。そして、この神聖な空気というのが、いわゆる聖気というやつだ。魔力とは逆の存在で、聖職者にしか扱えないらしい。村の教会の神父様が結界を張ることができるというような話を、以前母様か誰かから聞いたことがあったな。
井戸の底に降り、横に延びるトンネルを二十分ほど進むと、木や土の匂いが強くなってきた。
そしてとうとうトンネルを抜けた。
そこは深い森だった。
密生した木々の葉の隙間からは、わずかに月光が差し込むのみ。歩く度に腐葉土の湿った香りが強く感じられる。林床はコケと落ち葉に覆われていた。
少し行ったところで振り返ると、涸れ井戸のトンネルの入り口が見える。洞穴のようになっているが、魔物の侵入を防ぐ結界が張ってあることを知っているからか、不気味には見えなかった。
俺は暗い森の中を少しでも照らそうと、松明に火をつけて高く掲げた。
何も見えない森の奥から、何者かに見られている気がする。聖気を嫌がって出てこない魔物だろうか。結界はトンネル内だけでなく、周囲にまで展開されているのかもしれない。
俺が使える魔法は初期レベル、すなわちLv1で使える、【暗黒魔法】の【暗黒弾】、【混沌魔法】の【混乱の闇】、【煉獄魔法】の【煉獄弾】の三つだ。
準備は万端。
俺は少しずつ、まっすぐに森の奥へと進む。
しばらくして、目の前の草むらがガサガサッと揺れ、小さな何かが現れた。
それは、体長五十センチメテルほどの、毒々しい色が混ざった空色の流動体。
ちなみにセンチメテルはこの世界の尺度で、名前からわかるとおり一センチメテル=一センチメートルだ。一メテルは、もちろん一メートルである。
顔も目も、手も足もない物体。だが完璧に俺を認識しているようで、迷わずこちらに向かってくる。体表からグボグボッと酸らしき泡をまき散らしていて、腐臭を放っている。体の奥に、紫色に光る小さな丸い石みたいなものが透けて見えた。父様の書斎にあった書物から得た知識によれば、あれが魔核だろう。
――目の前にいるのは、おそらくスライムだ。
目も口もなく、プルプルッとしておらず、人懐こい笑顔もない。だが、俺は目の前のモンスターがスライムだと確信していた。
俺は言いたいね。誰だ、スライムは可愛いなんて言った奴は! と。これほどまでにリアルで気色悪いとは、誰が予想しただろうか。
だが、今はそんなことを言っている場合ではない。まずは目の前の魔物をどうするかだ。
「――光を呑み込む暗黒より生まれし闇よ、小さな球と成りて敵を穿て――暗黒弾!!」
俺はすぐ前に迫ったスライムに向かってそう唱えた。俺の頭上にメロンほどの大きさの魔力のかたまりが現れ、スライムに向かって飛んでいく。
向こうもまさかこんな子供が魔法を使うとは思っていなかったのか、もしくは単に知能がないだけなのか、暗黒弾を正面から食らった。
スライムは暗黒弾に体を削られて縮んでいく。
うん、しっかり魔法が効いたようだ。今度は【煉獄弾】を使ってみる。
「――地獄の業火は煉獄なり。煉獄の炎よ、小さな球と成りて敵を焼き尽くせ――煉獄弾!!」
さきほどと同じく頭上に現れた炎のかたまりがスライムへ飛んでいく。
今度はスライムも避けようとしたが、煉獄弾のほうが速い。結局スライムは煉獄弾をまともに食らい、激しく燃えた。唯一残って点滅していた魔核も燃え、最後には灰になった。
「おお……」
俺は夢にまで見た魔物との戦闘と魔法の発動に、言い表すことのできない感動を覚えていた。魔法は詠唱に時間がかかるのがネックだが、それがファンタジーの醍醐味であり、初陣の興奮もあって今はそこまで気にならなかった。
しかし、MPを消費した感覚がない……いや、パラメータ補正【魔力最大量極大】があったから、初期レベルの魔法二発ぐらいでは消費したうちに入らないのかもしれない。これなら、何体でもいけそうだな。
しばらく森を進んでいると、二体目のスライムと遭遇した。
今度は【煉獄弾】、【暗黒弾】の順で攻撃し、やはり二発で倒した。
三体目のスライムは、【混乱の闇】を使用してから【暗黒弾】で攻撃した。【混乱の闇】で混乱状態にするとスライムは動かなくなったので、前の二体よりもさらに簡単に倒すことができた。
二時間ほどスライムを倒し続けていただろうか。
『――スキルがレベルアップしました。確認してください』
突然、ゲームでおなじみのそんなアナウンスが脳内に響いた。ステータスを確認してみると、【暗黒魔法】、【混沌魔法】、【煉獄魔法】がそれぞれレベルアップしていて、新しく【暗黒魔法】の【暗闇可視化】、【混沌魔法】の【無我の暗闇】、【煉獄魔法】の【煉獄の壁】が使えるようになっていた。
おそらく、普通の人はこんなに早くレベルが上がらない。もちろん、レベルが上がっていけば次第にレベルアップのペースも緩やかになっていくと思うが、たった二時間で1レベル上がるというのは恐ろしい話である。スキル〈極限突破〉のおかげだろう。
――何体目だろうか。
月光の下、現れたのはまたもやスライムである。月光を反射するヌメヌメとした空色の体表は、間違いなくスライムのもの。
だが、何かが違う。
酸の泡が沸き立っているはずの体表は、プルプルという擬音が聞こえそうなほどツルツルでテカテカしている。
そしてそのスライムは俺を見つめているかのように、じっとそこに留まっている。さっきまでとは明らかに雰囲気が違う。言うなれば、敵意を感じないのだ。
一つ、思い当たる節がある。
スキル【テイム】だ。確か、魔物にこちらの優位性を見せつければ仲間にすることができるというやつである。
ふむ、と小さく声を漏らす。確かに、この二時間で、両方の手足の指を使っても数え切れないほどのスライムを倒した。それにより俺の圧倒的な実力が示され、コイツに対して優位性を持つことになったのだろうか?
するとコイツはずっと俺を観察していた、ということなのか? もしかして森に入った時から感じていた視線は、コイツのものだったのか?
まあ……とりあえず、今は目の前のスライムに集中しよう。
「えーと、お前のことは……スライム、って呼べばいいのか?」
空色のソレは触手らしきものを伸ばすが、逡巡したように一度止め、それからまた動かして、宙に丸を描いた。
「……? それでOKってことか……? じゃ、スライム。俺と一緒に来るか?」
突如、ソレは高く跳躍し、ベチャッと音を立てて俺の胸に張り付いた。うわわっ、やっぱ敵だったのか、と慌てる俺だったが。
脳内に、アナウンスが響いてきた。
『――スライムのテイムに成功しました』
脳内で自分のステータスをスクロールして確認してみると、俺の名前の下に「????」と未詳の名前が追加されていた。
なるほど、張り付いたのは、仲間になる意思表示だったのか。
ぷるるんとして、しかもひんやりした感覚に少々驚いたのだが、なぜか不快には思わなかったし、ちょっと嬉しくもあった。
「やっぱり、新しく名前を付けないとな……スライムって呼ぶのもなんか違うし。ってか、もともと名前があったりするのかなあ」
何となくそう呟いたのだが、胸元のスライムは俺を見上げるようにモゾモゾと動き、触手を伸ばしてバツ印を作った。
名前はない、と言っているらしい。ステータスの「????」という表示は、名前がないということなのかもしれないな。
「よし、俺が名前を付けるぞ」
そう言うと、触手が勢いよくハートを描いた。思った以上にコミュニケーションがとれるようで、つい笑ってしまった。スライムには意外にもかなりの知能があるみたいだ。この個体が特別なだけかもしれないが。
他の種類の魔物にも、こんなふうに知能があったりするのかな? 楽しみだ。
「うーん、そうだなあ……体の色が水色だから……」
ふと、水色の髪をポニーテールに結んだ日本のアニメキャラクターが頭に浮かんだ。
……懐かしいな。あの子は可愛かったな。確か、小学生の設定だったけど。
そんなことを思い出し、俺はその、アニメの女の子の名前をスライムに付けることにした。断っておくが、俺はロリコンではない……と信じたい。
「スライム。今日からお前の名前は、ヴェロニカだ」
†
さしあたって、問題が一つ。
ヴェロニカが仲間になったわけだが、これからコイツをどうするかだ。多少知能があるといってもスライムだから、森に置いていくと他の魔物に襲われてしまうかもしれない。そうでなくても、スライムのように弱い魔物は、ふとしたきっかけで消滅してしまうこともあるらしいからな。
ちなみに、スキル【鑑定】でヴェロニカの能力値を勝手に見させてもらったのだが。
ヴェロニカ
魔物ランク:F
ATK:57
DEF:21
SPD:10
MP:13
LUK:48
俺の仲間にならなかったら他の魔物の餌食になっていたのではないか、と思われるほどの弱さだ。これは連れて帰るしかないかもな。
だが……。
魔物を家に入れるとなると、家族になんて言えばいいのだろうか。母様はわかってくれると思うし、父様も頼み込めば何とかなるかもしれない。問題はアルフォンソだ。煩わしいことを言ってくるに決まっている。
じきに夜も明ける。今、俺は非常に興奮していてハイテンションだが、さすがにまだ七歳なのでオールできる自信はない。
ヴェロニカは相変わらず俺の胸元に張り付いていて、時折モゾモゾと動くのが見ていて面白い。俺は当初の戸惑いも忘れ、目も口もない、粘性の高いただの流動体に愛着を覚え始めていた。
そんなヴェロニカを見ていたら、アルフォンソのことも、どうにかなりそうな気がしてきた。アルフォンソが何を言おうと、俺はもうヴェロニカを気に入っているからな。何とかヴェロニカの存在を誤魔化す方法を見つけないと。
村に戻るため、森を戻ってトンネルに入ろうとすると、ヴェロニカが震え始めた。魔物に本能的な恐怖を感じさせる聖気の結界が展開されているからだろう。
「大丈夫だ。怖くないから。安心して」
穏やかにそう言い聞かせると、ヴェロニカは鼠くらいのサイズに縮んで、俺の胸ポケットに入ってしまった。そこが一番安全だと思ったのだろう。プニプニしていて、思わず「うへへー」となってしまう。
体の一部をはみ出させてキョロキョロ動くので、なんだか母カンガルーにでもなった気分だ。
ほどなくして家に着き、垂れたままのロープを伝って誰にも見られることなく自室に戻ることに成功した俺は、部屋の隅にあったガラス製の花瓶を机の上に置いた。
「ヴェロニカ、しばらくこの中にいてもらえる?」
はい! と答えるように触手が元気よく丸を描き、ゆっくりと花瓶に入っていった。これなら誰が見ても、花瓶に水が入っているだけだと思うはずだ。透けて見える体内の紫色の魔核がちょっと目立つ気もするが、庭で拾ってきた黒っぽい小石も一緒に入れてカムフラージュしたから大丈夫だろう。
ここまで済ませると、俺はようやく安心し、睡魔に襲われて夢の世界へと旅立った。
†
翌朝。
「レン、起きて。話があるわ」
そんな声に目を覚ますと、母様が俺にのしかかっていた。まだ朝食前だ。こんな朝早くに何だろう? というか……。
「ぐへえ……お、重いです」
「ん? 何か言ったかしら?」
笑顔のまま膝十時固めを極めてくる母様。
「ごめんなさい母様っ、ギブっ、ギブううぅぅうう!!」
「母様は軽いです!」と俺が叫びながら謝ると、母様は膝十字固めを解いて机の前の椅子に座った。……くそ、この母親、子供にも容赦ねえな。まあ、いい匂いしたからいいけど。
実の母には違いないのだが、早くに亡くなったとはいえ前世の母と過ごした期間のほうが長いから、どうもこの母様を完全に母として見られないところがある。なんせ、超絶美人の類に入るからな、この人。……性格はアレだが。
「……母様、今日は朝からどうしたんですか」
「どうしたじゃないわよ、あの花瓶の中の、紫色の石のことよ。あれ、魔核でしょう。よく手に入れたわねえ……たいていの魔核は持ち主である魔物と共に消滅して、魔力は空気中に霧散してしまうのに」
まあ、それただの魔核じゃなくて、実際に生きている魔物だからな。ちなみに魔力の強い個体ほど、魔物が消滅しても魔核の状態で残るらしく、そうした魔核は非常に高値で売買されるのだと母様は補足してくれた。
「そうなんですね。……でも、魔核って、何に使われるのですか?」
母様は顔を少し傾けて、白く細い人差し指を自分の唇に当てた。何か考えているらしい。その仕草は上品で、「冒険者やってた時はかなりモテたのよ」とよく自分で言うのも頷ける。
「……そうねえ、装飾品として使われることが多いわね。武器や防具に嵌め込むと炎属性なんかに耐性がついたり、その持ち主も、何らかのスキルを獲得できたりするから。ネックレスとか、アクセサリーとして加工しても、同じ効果が得られるわよ」
RPGによくある要素だな。最近ではRPGだけでなく某狩猟系ゲームだったり、FPSなんかにも盛り込まれているようだけど。
「で、強力な魔物、つまり魔力最大量の多い魔物ほど魔核は安定しているから、体が消滅しても魔核が残りやすいのよ。そしてもちろん、そういった魔物の魔核ほど、身につけた際の効果も高い……言ってる意味、わかるわね?」
「はい、わかります。……魔核に、より多くの魔力が宿っているからですね?」
「そのとおりよ。レンは理解が早くて助かるわね……」
まあ、前世でのゲーム知識があるからな。一口に魔物といっても、魔力最大量によってまったく強さが違う。そこは某狩猟系ゲームの下位とG級みたいなもんだ。体の大きさはほぼ同じなのになぜここまで差が出るのかと、真面目に考察してみたりしたものだ。
そんなことを考えていたら、母様が、ビシィッと花瓶を指差した。
「で! 魔核のことは置いとくとして! この水の色は何よ! 見たことないわ! なんだか神秘的だし、一体どこで手に入れたの!?」
確かにとても綺麗だとは思う。スライムは、水色をしたジェル状の物質から成る流動性の生き物だ。そのため、光が複雑に反射して輝く。……うーん、あれはコロイド溶液だと思うんだけど、異世界補正がかかっているのかもしれない。
……それにしても母様は本当に鋭いな。よし、本当のことを話そう。のちのち誰かに見つかった時に理解者がいてくれたら助かるし、母様は元冒険者で無類のスリル好き人間だから、俺の話を楽しんで聞いてくれそうな気がする。
「えーと、母様、大事な話があります」
俺は椅子に座っている母様にまっすぐ向き直った。
「大事な話って?」
母様は花瓶の方を見ながら傾けていた首を、さらにコテンと傾けた。
「えーとですね、僕は、【テイム】を使えます」
「えっ……レアスキル【テイム】持ってるの!? ……羨ましいわあ、前にハーガニーの街で『ケット・シー』とか『クー・シー』を見た時は、【テイム】が欲しくて堪らなくなったわ。……で、それがどうかしたの?」
ちなみに俺のはただの【テイム】じゃなくて、最上級の特殊スキル〈テイムマスター〉なんだけど、本当のことを言う必要はないだろう。基本的な効果は同じだからな。ちなみに、ケット・シーは喋る小猫、クー・シーは喋る小犬だと思ってくれればいい。
それにしてもどう説明したものか……口で説明するより、見せたほうが早いかもしれないな。
俺は母様の質問には答えずに、花瓶に近づき、中に向かって呼びかけた。
「おーい、ヴェロニカー。出てきて大丈夫だぞ」
「レン……あなた、何やってるのよ? ……って、えっ!?」
母様が、「何この子一体どうしちゃったの花瓶に話しかけて」という表情になった直後、水色でツルツルのジェルが勢いよく花瓶から飛び出して俺の胸に張り付き、そのまま縮んで胸ポケットに入った。
それを見ていた母様は、目を見開いて口をパクパクさせた。
「母様、見てのとおり、花瓶の水は実はスライムなんですよ」
「……っ、な、なるほど、スライムをテイムしたのね? ……でもスライムって、こんなにツルツルテカテカだったかしら?」
一般的にはスライムは濁ったジェリー状の体で、腐食作用のある酸をまき散らし、腐臭が辺りに漂うほど臭いのきつい魔物である。
森で最初に見たスライムもそんな感じだった。だがスキル【鑑定】で読み取った情報によると、酸をまき散らすのは敵と認識した相手に対する威嚇としてらしい。威嚇すべき相手のいない時には、本当の姿――光輝く水色の流動体――を見せるようだ。
そのことを母様に説明すると、「なぜそんなこと知ってるのよ?」と聞かれたので「【鑑定】です」と答えた。すると今度は「何で、そんなにレアスキル持ってるのよ……」とまた羨ましがられた。ごめんなさい、冥界で金券を手に入れたから、とは言えないです。
「ほら、ヴェロニカ。この人は僕の母様だよ。挨拶して」
ヴェロニカに呼びかけると、胸ポケットから伸びた二本の触手が、母様の顔の前でハートを描いた。
「あらまあ……でもスライムって、こんなに知能高かったっけ……?」
「どうですかね……。僕の他に、スライムをテイムした人はいなかったんですか?」
「そうねえ、そういう人も話には聞いたことあるけど……。でも、そういうスライムは、その人の言うことをわずかに理解しているとか、それぐらいだったみたいよ? そもそもスライムってどちらかというと不人気な魔物だからねえ。わざわざテイムしようっていう人もあんまりいなくて、サンプルが少ないのよ。それにしたって、こんなにコミュニケーション能力があるっていうのは、聞いたことないわねえ……」
「……うーん、個体差ですかね……?」
双子でも性格が違うように、また、同じ勉強量でも成績に差が出るように、スライムにも個体差があるのだろう。スライムって総じて賢いのかなと考えたこともあったが、やはりヴェロニカが特別なようだ。
それにしても、母様は理解があるなあ。この状況を受け入れてくれているもんな。
でも……もっとも大きな問題が残っている。
「このこと……ヴェロニカのことも、僕の魔法やスキルのことも……母様と僕だけの秘密でお願いします。とくにヴェロニカのことは、父様は絶対心配するでしょうし、アルフォンソ兄様に至っては……」
「わかってるわよ。……でも、アルフォンソは仮にもあなたのお兄さんなんだから、少しは敬いなさいよね」
そうは言うものの、母様もアルフォンソには手を焼いているようだ。「初めての子供だったから、つい甘やかしてしまった私のせいかも……」と俺に漏らしたこともあった。そう考えると、母様は明らかに俺を七歳児扱いしていないのだが、俺は別に気にしていない。
「それで……えーと、ヴェロニカのことは、私に任せときなさい。もし何かあっても、私はずっとレンの味方よ」
「母様……ありがとうございます」
結論。母様はやはり良妻賢母だった。
†
「母様、せっかくですから魔物の生態について、教えてくれませんか?」
そのあと俺たちはしばらくの間ヴェロニカと戯れていた。ヴェロニカは嬉しそうに何度も触手を動かしていたが、やがて疲れたのか、花瓶に戻って大人しくなった。
母様が推測するには、知能の高いスライムは自分の体を触手状にすることができ、その中でも特に知能の高い個体は、その触手で意思表示ができるのではないかとのことだ。「ヴェロニカだからできて当然です」と答えたら、「それを飼い主バカって言うのよ」と笑われた。
いいじゃないか。
そりゃあ、ヴェロニカは目も口もないスライムだけど、それでも俺は無条件に可愛いと思ってしまう。まああとで、母様も「私も親バカなんだけどね」と言っていたが。
「魔物の生態ね……私は冒険者としての知識しか持ってないけど、それでもいい?」
俺が頷くと、母様は語り始めた。
「まず、魔物っていうのはね――」
魔物とは、魔力から生まれ、魔力を糧に生きる生物である。
その体は人間や他の動物と同じように、器官、筋肉などで成り立っている。違うのは、魔物の体には魔力が結晶化してできた魔核があり、この魔核が心臓のように常に体中に魔力を供給している点だ。
魔物は、他の魔物や人間など(人間にも微量ながら魔力がある。もちろん個人差はある)、魔力を持つ生物を屠ることでその生物の魔力を自分の魔核に蓄える。それによって魔核の魔力最大量が上昇し、体内を循環する魔力量が増えて、筋力や敏捷性が高まるのだ。
だが魔核の魔力量がある程度増えると、もともとの体ではその増えた魔力を効率的に使用することが難しくなってしまう。
そのため魔物は自らの姿を、より効率的に魔力を使用できる形態へと変化させる。
これが俗に言う「進化」である。
例えばオークという二足歩行の豚の魔物なら、下位個体から弱い順に、「オーク」「オークソルジャー」「オークジェネラル」「オークキング」というふうに進化する。その違いは体躯の大きさ、筋力、敏捷性などが中心で、サイズの違いはあれど外見はいずれもオークっぽさを残しており、その系統だとわかる。
逆に言えば、より多くの魔力を効率的に使用するためには、身体能力を上げればいいということだ。
だが、そのような法則に従わない個体も稀にいる。
そうした個体は、翼が生えたり腕が四本になったりと、通常では辿ることのない進化を遂げる。
こういった魔物を「変異種」あるいは「特殊進化個体」といい、それらは通常よりも遥かに強力なものがほとんどで――。
「――私も昔、ゴブリンの変異種が何千ものゴブリンを率いて現れた時に、冒険者ギルドの緊急招集を受けたわ。通常のゴブリンは、もう弱い小さい醜いの三拍子揃ってるんだけど、その変異種は目から灼熱や電撃、氷結の光線を放ってきて、私も肩や足を貫かれたの。最終的になんとか討伐したんだけど、死者がかなり多くてね……もう二度と、あんな思いはしたくないわ。回復魔法が中心の私が、誰も助けられないなんて……あまりにも無力で、とても辛かった」
母様は当時を思い出したのか、しんみりしてしまった。そしていきなり顔を上げ、落ち込んでいたのを誤魔化すように「たはは……」と力なく笑った。
「……辛気臭くなっちゃったわね。とにかく、私が知っているのはこのくらいかな? あまり詳しくなくてごめんなさいね」
――いやいや、詳しくないなんてとんでもない!
いつも思うんだが、母様はわりとスペックが高い。才色兼備、性格は明るくて優しい、料理はうまい(普段はデボラが作ってくれるのだが)、運動神経もいい。
……これ、「わりと」じゃなくて、「とてつもなく」高いんじゃね?
「母様は回復魔法中心の、いわゆる回復職だったんですね……」
「ええ、昔は『ハーガニーの聖乙女』って言われてたわよ」
「えっ、乙女? 誰が?」
「何か、言ったかしら?」
本日二度目の膝十字固め。
「ごめんなさい母様っ、ギブっ、ギブううぅぅうう!!」
お詫びして膝十字固めを解いてもらったあと、母様に指示されたデボラが花瓶のまわりを彩る飾り花を持ってくるまで、俺たちはしばらく雑談に花を咲かせたのだった。
†
「やあレン、おはよう」
朝食の時間になって、一階のリビングに下りると、兄のアルフォンソと弟のミケーレが先に席についていた。俺が椅子に座ろうとした時、昨日の怒りはどこへやら、すこぶるご機嫌な様子でアルフォンソが挨拶してきたのだ。
「おはようございます、兄様」
「なあレン、早速だけど、レンは冒険者になりたいのかい?」
「ええ、そうですが、どうしてそれを?」
「ああ、いや、ゆうべ母様が父様にそう言っていたのを、たまたま聞いてしまってね。……とにかく、そうするとレンは、この家を継ぐ気はないということだね?」
あれ、内緒だったはずだが……昨夜のうちに話していたのか。母様め。
「レン、どうなのかな?」
アルフォンソがもう一度聞いてくる。
この家を継ぐ……か。
確かに、貧乏とはいえ父様は辺境伯だからな。辺境伯は、貴族の中ではわりと重要なポストだ。ロイム村は小さいので、フォンテーニュ家はそこまでの地位ではないだろうが、それでも爵位には変わりない。
それでも俺の心の中では、冒険者になりたいという願望が勝っている。だからよほどのことがない限り、この家を継ぐ気はない。
「僕は世界中を旅してみたいんですよ。王都で美味しいご飯を食べたり、冒険者仲間と酒場でワイワイしたりとか。家を継ぐより、そういう夢を追いかけたいんです」
「そうか! よかった!」
アルフォンソはほっとした顔でそう言ったあと、こちらを見て、慌ててつけ加えた。
「……あっ、いや、何でもないぞ? 俺はレンが冒険者になるのを心から応援してるよ! はっはっはっはっ」
「レンにいたまー、りょうしゅ、ならないの?」
弟のミケーレが俺の顔をツンツンと指で突いて聞くので、俺は頭を撫でてやりながら答えた。
「ああ、俺は冒険者になるんだよー」
「そうとも! レンは冒険者になるのさ。そして領主になるのは、俺だよ! はっはっはっはっ」
アルフォンソが一人で笑うが、まだ三歳のミケーレはそもそも「領主」の意味を知らないらしく、「ふーん?」と首を傾げていた。
まあ、兄様の機嫌が直ったので、とりあえずほっとしたよ。
機嫌がよければ、わざわざ俺のことなんて気にしないだろうからな。
これでしばらくは、ヴェロニカの存在に気づかれる心配もなさそうだ。
名前:レンデリック・ラ・フォンテーニュ
年齢:7歳
職業:なし
種族:人間
特殊スキル:〈テイムマスター〉〈創造王〉〈体術王〉〈極限突破〉〈王の系譜〉
〈冥界の加護〉〈男は拳で語る〉〈牡のフェロモン〉〈絶倫〉
一般スキル:【テイムLv1】【鍛冶】【錬金】【調合】【建築】【王級工房】
【鑑定】【指揮】【暗黒魔法Lv2】【暗闇可視化】【混沌魔法Lv2】
【煉獄魔法Lv2】【甘いマスク】【精力回復】
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる