終わりなき進化の果てに──魔物っ娘と歩む異世界冒険紀行──

淡雪融

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第一章 ギルドマスター・グラノイアス


俺、竜胆冬弥りんどうとうや(十八歳)は、ある日交通事故で命を落とした。
その後やってきた冥界めいかいで、「フハハハ」と笑う謎のオッサンにどういうわけか気に入られて特殊スキルをいくつも授かり、念願だったVRMMOそっくりの異世界――オーギュスタットに転生させてもらった。
生まれ変わった俺の新しい名は、レンデリック・ラ・フォンテーニュ。元冒険者の両親の下ですくすくと成長した俺はある日、魔物を味方にできるレアスキル【テイム】によって一匹のスライムを仲間にする。このスライムがなんと特殊進化を遂げ、人型の少女ヴェロニカとなったんだ。
ヴェロニカという相棒を得た俺は、この世界で最強の冒険者になることを目指し、父様や母様に教えをいながらひたすら修業を積んだ。
そしてついに、ヴェロニカ――今はヴェルと呼んでいる――と一緒に、故郷ロイム村を旅立ったんだ。
そうしてまず向かった先は、大都市ハーガニーである。そこの冒険者ギルドに登録した俺たちは、初級冒険者として出向いた近郊の森でいきなり難事件に遭遇そうぐうしてしまう。そこにいるはずのない、異常な進化をした魔物ネビュラス・コーボルトに襲われたのだ。
突然の事態に驚愕きょうがくしながらも、何とかこの魔物を退治した俺とヴェル。
そんな俺たちの前に、白い髪と肌を持つ美女が現れた。
キルケと名乗ったこの美女は、ヴェルと同じく人型に進化した元コーボルトだった。
俺たちはキルケを仲間に誘い、彼女はこれを受け入れた。
こうして俺はヴェルとキルケ、二人の「魔物っ娘」と共に、ハーガニーの街に戻ることになったのだった――。

「さて、じゃあ街に戻るとするか。……って、その格好じゃまずいか」
ハーガニー近郊の鬱蒼うっそうとした森――「暗い森」の入り口で、俺はキルケを見て言った。
裸で俺とヴェルの前に現れたキルケ。目のやり場に困った俺はひとまず自分のシャツを貸したのだが、いざ街へ、しかも人でにぎわう大都市ハーガニーへ連れていくとなると、裸にシャツ一枚という彼女の服装はさすがにまずい。
ならば……。
ヴェルが俺を見る。
「【王級工房】だね、レンっ」
うなずく俺。そのとおりだ。
「ああ。【王級工房】で服を作る。初めて使うスキルだからどんな具合になるかちょっとわからないが……その服よりはいいものが作れると思うよ」
俺が言うと、キルケは嬉しそうに笑う。
「すみません、お手数をおかけして。……でも、楽しみです」
ヴェルも嬉しそうだ。
「ね、楽しみだね。どんな服ができるんだろっ」
うーむ、そんなに期待されるとちょっとプレッシャーだが……。
「よーし、早速取りかかるとするか」
俺はスキル【王級工房】を発動する。
すると目の前に、扉が出現した。
きらびやかで重厚な見た目の扉だけが宙に浮かんでいる格好だ。「工房」というからには小屋のようなものが登場するものと思っていたので意外だった。
おそらく……。
俺は取っ手に手をかけ、扉を開けた。
その奥に広がる光景は、まさしく「工房」だった。
前世の学校の教室より一回り小さいくらいのスペースに、所狭しと並べられた、鍛冶かじ裁縫さいほうの道具。
手前にはご丁寧に椅子やテーブルがあり、奥には火のかれた炉まである。
一度外に出て扉の裏側に回り込んでみるが、そこにはハーガニーへと続く街道と、そのはるか先に街の灯りが点々と光っているだけだ。
工房は異空間に存在し、扉はその空間とこちらの世界をつないでいるのだろう。異空間に物を収納したり取り出したりできる【次元魔法】と同じような原理なのだと思う。詳しくはわからないが。
俺は工房の中に戻った。
ヴェルとキルケには外で待っていてもらうことにする。服の出来を楽しみにしている二人には、「じゃじゃーん」と完成品を披露ひろうしてやりたかったからだ。ここはすでに森の外だから魔物が出る恐れはなさそうだし、仮に出たとしてもまったく心配いらない。
何せ触手を武器に圧倒的な実力を誇るヴェルと、本当は森の大木並みの巨体を持つキルケだからな……そんじょそこいらの魔物ではまったく相手にならないだろう。
二人を残して工房の中央に進み、そこにある椅子に腰かける。
「さて、と」
作るのはキルケのシャツとスカートだ。さっき渡した俺のシャツは返してもらえばいい。
衣服の作り方など知らなかったが、工房内に現れるコマンドを適当に選んでいると、作り方のレシピが脳内に表示された。
「素材」の指定を指示されたので、さきほど獲得したばかりのネビュラス・コーボルトの毛皮を選択した。とびきりの剛毛だが、まあ丈夫ということで問題ないだろう。
そのレシピに従って作業を進めていくと、三十分ほどで黒のスカートと白いシャツが完成した。スカートの制作に時間がかかってしまったので、二人をあまり待たせるのもよくないと思い、シャツはとりあえず無地の一番手軽なものにした。
工房を出て、俺は近くの倒木に腰かけて話していた二人に声をかける。
「ごめんお待たせ。できたよー」
何の話をしているのか、楽しそうに笑っていた二人が俺を見た。
「ほら、これだよ」
俺はシャツとスカートを披露する。
二人は「わあ」とか「すごーい」とか言ってはしゃいだ。こうして見ると、普通の女の子である。
「ありがとうございます! じゃあ着替えてくるので……少し待っててください」
シャツとスカートを手にして近くの大木の陰に向かうキルケ。
「レン! 覗いたら、めっ、だからねっ」
彼女に付き添うらしいヴェルが俺にそんなことを言ってくる。
「わかってるよ」
俺はヴェルに答えてから二人に背を向け、これから帰るハーガニーのほうを眺めた。
遠くに点々と、それでいて存在感のある街の光が安心を与えてくれる。
ここからハーガニーの街までは、基本的に街道とだだっ広い草原しかない。だからだろう、たとえ遠くにでも街の光が見えると安心する。俺はしばらくの間、その優しい光を黙って見つめていた。

「お待たせしました!」
小走りに駆ける足音と元気な声に振り向くと、恥ずかしそうな表情のキルケがいた。
白いシャツに黒いスカートという地味な服装でも、彼女の美貌びぼうは少しも損なわれていない。むしろ地味な服装により、キルケ自身の美しさが際立って見える気がする。
「おお、よく似合ってるよ」
俺は心からそう言った。
「ありがとうございます!」
キルケも満面の笑みで答える。これだけ喜んでもらえると作った甲斐かいもあるな。
するとヴェルが手をあげて、ハーガニーの方角を指した。
「それじゃ、行こっか!」
「はい!」
キルケとヴェルは仲良く手を繋ぎ、ハーガニーに続く街道を歩き出した。俺も二人について行く。
夜を迎えてから、かなり時間が経っていた。
この森からハーガニーの街まではけっこう距離がある。早く帰って寝たいと思いつつ、今日の冒険の疲れを考えると急ぐのも億劫おっくうである。
それに、今夜は俺たちの拠点である宿屋「麦穂亭」には戻れないと思う。
というのも、ハーガニーには検問システムがあるからだ。
河港都市ハーガニーは、外側を二重の市壁で囲まれていて、それぞれの壁に検問所が設置されている。
基本的に外側の検問はよほどのことがない限り引っかからないらしい。
反対に内側は検問が徹底されており、治安などの問題から夜間は検問所を閉じ、完全に閉鎖しているという。
もともとはこの内壁しか存在しなかったそうだが、街に入れなかった者たちが外敵の目にさらされ、盗賊や魔物に襲われることもしばしばだった。だから人々の身の安全のため、壁の外側にもう一つ、市壁が建設されたというわけである。
つまり、急いで戻っても内壁の中にある宿にはたどり着けない。よって俺たちはのんびり歩いて帰ることにした。

  †

二時間後――。
「ふむ、男一名に女二名か。見たところ冒険者のようだな。通ってよし」
「お疲れ様です。ありがとうございますっ」
外壁の検問所に立っていた検問官に挨拶あいさつして、俺たちはそこを通過した。
俺はこのオーギュスタットの人々となるべく挨拶するようにしている。
昔から、俺はRPGに出てくるモブキャラ全員に話しかけないと次に進めないタイプだった。挨拶によって良好な人間関係を築いておくと後々得だ、などという打算ではなく、そうしないと気が済まない性分なのだ。
さて外壁の検問を通過した俺たちはそこからかなり離れた、内壁に続く道を歩いた。二つの市壁を繋ぐ道沿いには、宿屋や酒場など、人々が休息するための場所がいくつも並んでいる。
このハーガニーの内壁と外壁の間は一種の観光名所となっており、この場所を見るためだけにわざわざハーガニーを訪れる人までいるらしい。
周囲を見回すと、街の内部ではなくその途中の街道だというのに、そこらじゅうで人々が腰を下ろし思い思いに酒を飲んだりお喋りしたりしている。
どこかで肉でも焼いているのか、香ばしい香りまで漂っている。辺りの風景とも相まって、バーベキューで盛り上がるキャンプ場のような印象である。
……満天のこの星空の下、ヴェルたちとバーベキューなんてできたら、きっといい思い出になるだろう。
うーむ、やりたいな。
だが今夜は……とりあえず横になりたい。
「それじゃ、宿屋に行こっか」
「りょーかいっ」
「わかりました」
ヴェルとキルケが賛成する。
外壁を通過したあと、俺たちは一応内壁まで行ってみた。だがやはり壁は閉鎖されていて通ることはできなかった。
わかっていたことだが麦穂亭には戻れない。俺たちはこの辺りの手頃な宿屋で夜を過ごすことに決めた。
さっき内壁のほうへ行った時、検問所のところに昨日も会った検問官がいた。検問所は閉まっていても、警備のために職員が立つらしい。「今日は夜のシフトでね、朝までここに立ってなきゃらならないんだ」と退屈そうにしていた彼だったが、俺たちが一晩泊まる宿を探していると話すと快くおすすめの宿屋を教えてくれた。比較的新しい店らしいのだが、なかなか飯が美味いのだという。
内壁から街道を少し戻ったところに、その宿屋はあった。
中に入り、カウンターに座っていた女性に声をかけた。
「こんばんは。今晩お部屋空いてますか?」
「あら、こんばんは。ええ空いてるわよ」
女性は麦穂亭の女将おかみさんと比べてかなり若い。だが居ずまいに妙に貫禄かんろくがあるので、この宿の女将さんなのだと思う。どちらかというと「女将」より「コンシェルジュ」という感じだが。
「よかった。じゃあ三人、二部屋でお願いします」
「はーい、じゃあこれ、鍵よ。そこの階段を上がって左奥の二部屋ね」
俺は鍵を受け取った。
「もう遅いけど、夕食はどうする?」
女将さんに聞かれ、後ろのヴェルとキルケを振り返る。
「食べるーっ」
「私も、ぜひ」
二人が答える。俺は女将さんのほうへ向き直って頷いた。
「オーケー。見たところ荷物もないみたいだし、お風呂はあとでいいんならこのまま食堂にいらっしゃい。すぐに出してあげるから」
「よかった、ありがとうございます」
俺の謝辞に続いて、ヴェルとキルケも頭を下げる。
女将さんに案内されて俺たちは食堂に入り、入り口手前の大きなテーブルに着いた。
深夜であるにもかかわらず、他のいくつかのテーブルでは商人らしき人たちが雑談に興じている。情報収集でもしているのだろう。
食事はすぐに運ばれてきた。湯気と共に立ちのぼってくるいい匂いが鼻腔びこうをくすぐる。
それにしても速い。いつ客がやってくるかわからない宿屋ならではだな。
早速いただくことにしよう。
俺は食事を前に少し背筋を伸ばした。
「では、与えられた天地の恵みに感謝いたします。いただきます」
ヴェルが笑ってキルケに耳打ちする。言われたことを理解したのか、キルケもにっこり笑い、二人は顔を見合わせ頷いてから言った。
「「いただきますっ」」
俺の実家であるフォンテーニュ家では、食事の折にまずこうして儀式めいた挨拶をする決まりになっていた。貴族ながらいかにも辺境の領主らしく、マイペースであまり形式ばったところのない両親だったが、この挨拶だけは俺も兄のアルフォンソも弟のミケーレも、そして途中から俺たちの家族になったヴェルも、しっかり守らされた。
ちなみに父様パブロと母様エレーネは二人ともかつては凄腕の冒険者で、ここハーガニーでも知らぬ者はないほどだったらしい。俺が最強の冒険者を目指すようになったのは、ひとえにこの二人の影響だ。
話がれてしまったが、この食事前の挨拶はすっかり身に染みついてしまっていて、実家を出た今でもこうして欠かさずおこなっている。
ヴェルに教わったキルケも気に入ったのか、俺とヴェルが食べ始めたあとにもう一度「いただきます」と微笑みながら言った。群れ社会を大切にすると言われるコーボルトだったとはいえ、人間のこういうマナーを新鮮に感じたのかもしれない。
検問官が言ったとおり食事はとても美味おいしかった。長い一日で腹ぺこになっていることも作用してか、麦穂亭に迫る味に思えた。
夢中になってがつがつ食べていると、ふいに、商人たちの雑談の中から興味深い話題が聞こえた。
「そういや、西街道に出没したレッドキャップの討伐隊、明日出発するらしいな」
「ええ、その話題はついさきごろ私も知ったばかりで。神聖皇国アドロワへ繋がる交易ルートが閉ざされているというのは、何かと不便ですからねえ」
「俺はコーデポートに向かう予定だから、そのルートが封鎖されてても困らないんだが……あんたはアドロワ方面に向かう予定だったのか」
「そうです。しかたがないので封鎖が解かれるまでハーガニー観光でもしようかと思っていますよ」
「まあ、何にせよ討伐隊が帰ってくるまでの辛抱しんぼうだな。なあに、たかだかDランクのレッドキャップなんざ、一日あれば片づくだろうよ。討伐隊には守備兵団も参加するって話だしな」
「確かに」
俺は食事をとりながら、商人たちのそんな話に耳を傾けていた。俺の向かいの女性二人は聞いていないのか、キャッキャと楽しそうに笑っている。
レッドキャップの討伐隊、か。
討伐隊には、今日冒険者ギルドで俺にいろいろ教えてくれた、あのワズナーも参加するはずだ。
商人たちはまだ話を続けている。
「明日は、討伐隊が出発するまで俺たち一般人は壁の外に出られないらしいな」
「そのようですね。討伐隊の邪魔にならないように、というわけですな。私はせっかくですから討伐隊の勇姿を見送ろうと思っていますよ」
「ほう。確かにそりゃ面白おもしれぇかも。俺もそうしようかな」
じゃあ俺も、と言いたいのをこらえつつ食事を口に運ぼうとしたのだが、俺のフォークは皿の底にカツンと当たっただけだった。
どうやら彼らの話を聞いているうちに完食してしまっていたらしい。
女性陣が食べ終わるのを待って、俺は二人にある提案をした。
「ヴェル、キルケ、明日俺たちも討伐隊の見送りに行かないか?」
「見送り? うん、行こっ!」
「まだよく事情がわからないですが、私も行きます」
二人は話を聞くまでもなく快諾してくれた。
「ありがとう」
それじゃあ、明日の予定を少し変更するとしよう。
討伐隊は西街道に向かうということだから、見送りは街の西門に行けばいいだろう。
それを済ませたあと冒険者ギルドに行き、今日のクエスト達成と、ネビュラス・コーボルト出現の報告をしよう。
できれば今日中に冒険者ギルドに戻って報告を終え、見つかればワズナーにも同じことを伝えようと思っていたのだが、まあ明日でもいいだろう。というか、今夜は街に入れないのだからどうしようもない。
そういえばギルドの受付係、レヴィーはどうしているかな。
Fランク冒険者である俺とヴェルがEランク指定の今回の依頼を受けることを容認してはくれたものの、最後まで不安がっていたからな。俺たちがクエストから戻ってこないことを心配しているかもしれない。
ここまで戻ってきているのにそれを知らせないというのは、何だかものすごく申し訳ない。
どうにかして俺たちが無事でいることを伝えるべきだ。俺はそう思った。
ちなみにさっきの商人たちの話にも出ていたが、「ランク」というのはこの世界における強さの格付けのことである。「冒険者ランク」と「魔物ランク」があるがどちらも内容は同じで、SSS・SS・S・A・B・C・D・E・Fの九段階あり、SSSが最高、Fが最低となっている。著名冒険者だった俺の両親はAランク、先日冒険者になったばかりの俺とヴェルはFランクだ。
「あら、きれいに食べたわね。じゃあ下げさせてもらおうかしら」
俺たちのテーブルに女将さんがやってきて、食器を下げようとした。
「ごちそうさまでした、美味しかったです。……あの、お忙しいところすみません、女将さん。一つ聞いてもいいですか?」
「もちろんいいわよ、別に忙しくないしね。どうしたの?」
仕事の邪魔になると悪いなと思ったのだが問題ないらしい。だがあまり時間をとるのも申し訳ないので、単刀直入に聞いた。
「あの、できれば今晩中に、ハーガニーの冒険者ギルドと麦穂亭に俺たちが無事だと伝えたいのですが」
「ああ、そういうことね。そうしたがるお客さんはたくさんいるわよ、こういう場所だから。カウンターに電話が置いてあるから自由に使って」
「よかった。ありがとうございます!」
「あ、電話の使い方はわかるわね?」
「はい、大丈夫です。それじゃ早速やってきます。おやすみなさい」
「ええ、おやすみ」
女将さんに挨拶して食堂を出た俺たちは、その足でカウンターに向かった。
電話はその隅に置いてあった。
電話といっても、前世のものとは見た目も使い方もまったく違う。
カウンターに置かれているのは紫色の水晶。
これが電話である。
俺は水晶に手を置く。
そして、冒険者ギルドハーガニー支部のカウンターを脳内に思い浮かべた。
「はーい、こちら冒険者ギルドハーガニー支部……って、レンデリック君!? それに、ヴェロニカちゃんも!」
電話に出たのは受付係のレヴィーだった。
「連絡がないから心配してたのよ? でもその様子じゃ大丈夫だったみたいね」
水晶にレヴィーの安堵あんどの表情が映し出される。やっぱり心配していたらしい。
「ごめんなさいレヴィーさん。いろいろあって少々手間取ってしまって……。でもクエストは達成しました。帰りが遅くて内壁の検問所が閉まってしまったので、今夜は内壁と外壁の間の宿屋に泊まります」
「そう、わかったわ。とにかく無事でよかったー。今回のクエストを認めた私にキミたちを怒る資格はないけど……でも、これからは検問の門限に間に合わないようなら、早めに連絡だけは入れるようにしてね」
「心配かけてすみませんでした。今後は気をつけます。……ところで、一つ報告がありまして。重要な話なので、できればギルドマスターに直接伝えたいんですが」
俺がそう言うと、レヴィーの顔がみるみる困惑したものになった。
まあそうだよな。
俺みたいな駆け出しのFランク冒険者がギルドマスターに話したいなんて言えば、誰だって不審に思うだろう。
俺たちはレヴィーに目をかけてもらってるから困惑されただけだが、たとえばそう言ったのがあの酔っ払いの、かつて神童と呼ばれたらしい「寝取り男」ゾイドだったら、彼女ももっと冷淡な反応を見せたことだろう。
だがそんなことはどうでもいい。これは本当に重大な報告なのだ。
俺たちが遭遇したネビュラス・コーボルトはBランクの魔物であり、基本的にEランク相当の魔物までしかいない「暗い森」に出没するはずがなかった。
さらには、ネビュラス・コーボルトは一般的には「未確認」、つまり新種の魔物なのだ。
新種の魔物は、冒険者などによって発見されるとまずギルドに報告される。それをギルドが確かめ新発見であることを認められたのち、「魔物名鑑」と呼ばれる本に登録され、その情報が公開されるのだ。
この本は非常に高価らしいのだが、ハーガニーでもトップクラスの冒険者だった俺の両親が現役時代に購入していて、今でも実家の本棚に飾ってある。
実家にいた頃、俺はそれをワクワクしながら読み、載っているすべての魔物を暗記した。
前世の世界で、小さな男の子が乗り物や昆虫の図鑑に夢中になってそうするように。
そしてその「魔物名鑑」に、ネビュラス・コーボルトは載っていなかった。
FやEなどの低ランクであれば急ぐ必要はないが、この魔物はBランクだ。一般人はもちろん、かなりの腕がある冒険者であっても太刀打ちできないと見ていい。これ以上被害が出ないように、迅速じんそくに情報を展開する必要がある。
俺は困った顔をしているレヴィーに言った。
「というのも、『暗い森』で新種と思われる魔物と遭遇したんです」
それを聞くと、レヴィーは驚きの表情を一瞬見せたあと、真面目な顔になった。
「そう……それならキミのその頼みも頷けるわ。だけど、ギルドマスターはとーっても忙しいのよ? それに今夜はもう遅いし――」
「その心配はいらん」
突然、男性の威厳いげんのある低い声が水晶から聞こえてきた。
レヴィーの声ではない。
誰だろうと思っていると、ふいに声のぬしが水晶に映し出された。
豊かなしらひげたくわえた、圧倒的な威圧感を誇る初老の男性。
──ギルドマスター。
ハーガニー、いやこのハルヴェリア王国が誇る、伝説の冒険者だ。
「ギ、ギルドマスター!?」
驚くレヴィーの問いに答えずに、ギルドマスターは彼女が使っていた水晶に手を伸ばした。
そして水晶を持ち上げ、彼の突然の登場にあわてているレヴィーの肩をぽんぽんと叩く。
「レヴィー、すまないが電話を少し借りるよ」
そう言ってギルドマスターは水晶を持ったまま移動する。
「は、はい! 了解しました!」
レヴィーの声が聞こえてきた。
ギルドマスターは階段をゆっくりと上がって二階へ行き、廊下を右へ進んだ。
紫色の水晶越しに映る世界は、俺たちが普段見ている世界よりもかすかに色づいている。
俺はギルドマスターの手の上にあるその水晶を通して、目の前に続く廊下を眺めていた。
ギルドマスターも俺も無言だ。
彼の足音だけが廊下に響く。
何か喋ろうにも言葉が出てこなかった。この人は、俺などはもちろん、Aランクである俺の両親よりも遥かな高みに到達した、生ける伝説なのだ。
顔に深く刻まれたしわと、幾千もの戦場を乗り越えてきたあかしたる傷跡。そして全身から発せられる強者の存在感。威圧されているわけではないはずなのに、緊張してしまって軽々しく声をかけることができない。
ギルドマスターは一言も喋らないまま、突き当たりにある執務室らしい部屋のドアを開けて中に入った。
部屋の奥にえられた大きな机に水晶が置かれる。
そしてギルドマスターは黒光りする革張りの椅子に腰を下ろし、その豊かな髭を撫でながらこちらを見つめ――口を開いた。
「さて、何から話そうか。ふむ……まずは自己紹介をすべきかな。知っていると思うが、私はここ冒険者ギルドハーガニー支部をまとめている、グラノイアス。皆からはギルドマスターと呼ばれておるがね」
白い髭の下の口から発せられる、低い声。
その声には耳にした人がどうしてもそちらを向かずにはいられないほどの異様な深み、強烈な存在感が宿っているように感じられた。
「ところで……君は確か、レンデリックと言ったかな?」
俺が名乗るより先に言われてしまった。
「はい、レンデリックです。昨日、ギルドに登録しました」
なぜ俺の名前を知っているのだろうか。
俺は昨日冒険者になったばかりの駆け出しなのに。
「どうして私が君の名を知っているのか聞きたそうな顔をしているね。ギルドマスターといっても、もちろん登録されているすべての冒険者を把握しているわけではない。だが昼に一階に下りた時、偶然君の姿が目に入ってね。知り合いにとても似た顔だったから驚いたよ」
知り合い?
それってまさか、俺の両親か?
ハーガニーでその名を知らぬ者はいないとまで言われたあの二人であれば、ギルドマスターと親交があっても不思議はない。というか、知っていて当然だろう。
「それで気になって君の登録情報を見せてもらったというわけだ。そちらのお嬢さんは、ヴェロニカという名だったね」
「はいっ! ヴェロニカといいますっ、よろしくお願いしますっ!」
俺と一緒に水晶を眺めていたヴェルが元気よく返事をする。
それを見たグラノイアスが微笑んだ。
「ふむ、快活そうなお嬢さんだ。その元気さをいつまでも忘れることのないように。……ところでそちらの女性はどなたかね? 昼は見かけなかったが」
グラノイアスの視線が、俺の後ろに立っていたキルケを捉える。
俺は振り返ってキルケに頷き、それから場所を譲った。
白い髪をふわりとなびかせて一歩前に出たキルケは、水晶に映るグラノイアスに向かって言った。
「わ、私はキルケ、と申します。お初にお目にかかります」
そして深々と頭を下げる。
「こちらこそ初めまして。キルケ殿は冒険者ギルドに登録しておいでかな?」
「い、いえ、私は非力なので、冒険者なんてとても……」
どの口がそれを言うのか。
「おや、キルケ殿からはその二人に劣らない強者の雰囲気を感じるのだがね。私の勘違いだったかな?」
「あっ……」
キルケの動揺した様子に、グラノイアスは何かを確信したような笑みを浮かべる。
俺もどうフォローすればいいかわからず、黙っているしかなかった。
「ふむ、まあいい」
グラノイアスはそうとだけ言い、それ以上追及してこなかった。
だがその目は好奇心で輝いているように見える。
ばれたか?
キルケが魔物っ娘だということが。
いや、さすがにそれはないだろう。だが彼女が只者ただものでないということだけは気づかれたに違いない。
これが吉と出るか、凶と出るか……。
まあいいか。
あれこれ心配してもしょうがない。
それより――。
ギルドマスターが、俺のことを「強者」だと認めてくれていたとは。
確かに俺はいくつものスキルを与えられて転生したわけだから、いわゆるチート的な存在だ。
でも、だからといって必ずしも強者になれるとは限らない。
いくらチートスキルがあっても、強くなるために訓練は絶対に必要だ。
俺はそう信じて己を鍛え続けてきた。
幸運によって授かったチートに慢心まんしんしていたら、俺は今頃あのネビュラス・コーボルトに敗れていたはずだ。そして奴に肉を食らわれ、はらわたを噛みちぎられ、誰にも知られることなく骨ごとこの世界から消え去っていただろう。
そうならなかったのは、やはりこれまでの鍛錬の賜物たまものだと俺は信じている。
だから強さを認めてもらえたことが嬉しかった。
「ギルドマスター、これからもよろしくお願いします!」
気づくと俺もキルケのように深々と頭を下げていた。考えるより先に体が動いてしまったのだ。
「ふはははは……。君たちとは長い付き合いになる気がするよ。だが今回は、こちらがよろしくお願いするほうだ」
「……というと?」
軽く有頂天になっていた俺がグラノイアスの言葉の意味を図りかねていると、水晶に映る彼が真面目な顔つきになった。
「おや? 新種の魔物を発見したのではなかったのかね?」
言われて、俺は用件を思い出した。
そうだった、浮かれている場合ではなかった。
「そうでした、その件でお話が! ……今俺たちは内壁の外の宿屋にいるんですが、人に聞かれる恐れのない場所に移ったほうがいいですか?」
さすがにBランクの新種の魔物が近郊に出没したと聞いたら、一般の人々は大騒ぎするだろう。
まあ、といっても暴れていたのはすでに討伐済みだし、同種で生き残っているのは俺のそばに立つキルケだけなのだが……噂というものはあれこれ尾ひれがついて伝播でんぱしていくものだからな。用心するに越したことはない。
「いや、その必要はない。すでに妨害魔法を展開してある。我々が何を喋ろうとも、他の誰にもれることはない」
高性能の電話には知覚妨害の魔法をかける機能が内蔵されている。シークレットな会話をしたい時にこの機能を使えば、指定された人物以外には聞こえないようになるのだ。
そういう機能の存在は話には聞いていたが、実家の電話には内蔵されていなかったので馴染なじみがなかった。
それにもう真夜中だ。食堂に数人の商人と女将さんがいるだけで、宿のカウンターと廊下には誰もいない。
宿泊客はみんなすでに眠っているのだろう。
満天の星々の煌めきが、窓越しに床に影を投げかけている。
誰かに聞かれる心配などないのに、深夜であるためかつい声を落としてしまう。
「『暗い森』でコーボルトの群れを討伐するクエストの最中に、新種の魔物を発見したんです。犬型の魔物で、体長は森の木々よりやや高く、ランクはおそらくですがB相当と思われます」
グラノイアスは真剣な顔つきで髭をでている。
「ふうむ……。その話がまことであれば、確かに急を要するな。魔物の詳細な情報は、明日レンデリック殿のギルドカードから読み取れるだろう。それにしても、森の木々より大きい魔物となると他の誰かに見つかっていてもおかしくない。だがそんな報告は今まで一つもなかった。つまり、どこか別の場所からやってきたか、もともと森にいた魔物が突然の進化を遂げたかのいずれかだろう。私が思うに、おそらく後者だ。別の場所ですでに存在していればそれほどの巨体、必ず人の目につく。……その魔物、犬型と言ったね?」
「ええ」
「……コーボルト系統と見て間違いない。通常、コーボルトの最終進化形態はキングコーボルトで、個体差はあれ、あの森の木より巨大化するなどとは考えにくいのだが。それにしても……今こうやって私と話せているということは、君たちはその魔物を討伐したということかね?」
俺はもう一度、黙って頷いた。
グラノイアスは「ふむ」とだけ言ってしばらく黙っていた。何か考えているらしい。
邪魔してはいけないと思いつつ、俺は参考になればと追加情報を伝える。
「それから、コーボルトの群れ、特に族長をはじめとするおすたちに異常行動が見られました」
俺はその行動のすべてを目にしたわけではない。あくまでキルケから聞いただけだ。
だが彼女が嘘をつくとも思えないし、かといってキルケがそれを目撃したとグラノイアスに伝えるわけにもいかないから自分が見たことにした。それに、俺も実際に見ていたのだ。コーボルトの姿で逃げるキルケを、つまり仲間を、口元を不気味に歪ませながら狩りたてるコーボルトを。
「ふむ、異常行動とは?」
「共食いです」
「共食い……群れを何よりも大切にするコーボルトには考えられぬ行動。確かに異常だ。ふうむ……」
グラノイアスは真面目な表情を崩さずに、俺たちには聞き取れない声で何かぶつぶつとつぶやいている。俺たちは水晶越しにじっと彼を見つめていた。
しばらく黙考したあと、俺たちを待たせていることを思い出したのか、グラノイアスがふいにこちらに目を向けて口を開いた。
「……詳しい話はまた明日聞くとしよう。ひとまず私のほうで『暗い森』に調査隊を派遣する。調査結果を確認するまで『暗い森』での依頼はめておいたほうがいいな。それでは悪いが明日、ご足労願うよ。一階の受付に声をかけてくれ、手配はしておく。……急ぎの報告、感謝するよ。今晩はしっかり体を休めるように。ではおやすみ」
「おやすみなさい。お疲れ様でした」
「うむ」とグラノイアスが頷くと同時に、水晶に映っていた向こう側の映像が途切れた。
少なくとも今日中に伝えなければならないことは全部伝えた。
それにしてもネビュラス・コーボルトの出現が特殊進化によるものだとすると、原因は何だろうか?
特殊進化が自然発生的に起こるとは考えにくい。
何らかの要因があるはずだ。
その要因が、キルケの群れの族長と一部の雄に特有のものであったなら、もう脅威きょういはないと見ていい。だがそうではなく、たとえば「暗い森」という場所に関わるものだったとしたら……第二、第三の「ネビュラス・コーボルト」が現れる可能性がある。
森に調査隊を送るのは当然の判断だろう。それ以上の対策が必要かどうかは、調査の結果を見てから決めることになる。
だが……嫌な予感がする。
今回の一件ももちろんなのだが……。
――レッドキャップ討伐隊。
今回の件とは関係がないはずなのに、俺はなぜか一抹いちまつの不安を感じている。
隊に参加するワズナーに何も起こらなければいいが。
今日ギルドで知り合っただけの仲と言えばそれまでだが、向こうがどう思っているにせよ、俺は彼のことをヴェル以外で初めてできた冒険者仲間だと思っている。
だからワズナーには無事に帰ってきてほしい。
「とりあえず、今日はもう寝ようか」
俺はヴェルとキルケにそう言った。
「うんっ」
「そうしましょう」
二人が答える。
「了解」
食堂の女将さんに電話の礼を伝え、俺たちは二階に上がった。
「じゃあ、俺はこっち。ヴェルとキルケはそっちの部屋で」
突き当たりの部屋の前で、俺はそれぞれの部屋を示す。
ふとキルケを見ると、困惑したような表情で俺を見つめている。
いやあ、そんなに見つめられると困っちゃうなあ……。
え? 違う?
……いや、このネタを一回はやってみたかったんだよ。他意はない。
「でもそれだと、レンさんとヴェルちゃんが別々の部屋になってしまいますよ?」
「それはそうだけど……いいんだよ、今夜はヴェルとキルケで寝てくれ」
キルケは今日群れを、家族を失った。そんな彼女に夜を一人で過ごせというのは酷な話だ。だから俺とヴェルは宿まで来る道すがら、少し後ろを歩くキルケに聞こえないようにそっと話してこうすることを決めていた。

「そうだよっ、キルケちゃん! 今日は私と一緒に寝ようよっ!」
「え、でもっ……」
キルケが俺を見る。
その目からは俺に対する申し訳なさが読み取れた。
自分が大変な不幸に見舞われて間もないっていうのに、俺に気をつかうなんて。
キルケは優しいな。
「俺のことは気にしなくていい。今夜は二人でゆっくり休みなよ」
俺がそう言ってもキルケはすぐには返事をしなかった。
だが少し考えたあと、こくりと頷いた。
「ありがとうございます。ではそうさせてもらいますね」
キルケは嬉しそうに笑った。
別にお礼を言われるようなことじゃないんだがな。
「んじゃ、今日のところはおやすみ。また明日」
「おやすみーっ」
「おやすみなさい」
こうして、長い一日が終わった。
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