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序章

1 黒歴史は唐突に

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 この恋は、きっとそう遠くないうちに終わる。

 尊敬が憧れを兼ねるように、この恋は敬愛を兼ねている。

 そしてきっと、少しばかり年月が経てば、甘やかな思い出に変わっていくのだろう。これはそういう恋だ。

 けれど……けれど、今だけは、この焦がれるような思いに身を委ねていたい。


 吐息に乗せて、言葉を紡ぐ。

 ――――あなたが好きです。









 ローラは、そこまで読んで、ドン引きした。


「あ、あの!返してください!!」


 なのでうっかり取り上げていたノートを奪い返されてしまった。


「……ローラ、ひどいです。」
「……ひどいのは、アンタの頭の中じゃない?」
「失礼な!というか、オタクのネタ帳を取り上げるなんて許されることじゃないですよ!分かってます!?」
「…………oh…アンタの国のって文化よく分かんないわ。」


 ローラは、小動物のように震える薄い水色の髪をした少女を見つめる。瞳の色も同じく薄い水色。儚げ、といえば聞こえは良いが、中肉中背で影が薄い。


 取り立てて特徴のない、何処にでもいる普通の少女だ。強いて特徴をあげれば、あまり喜怒哀楽を表情に出すタイプではなく、常に無表情がデフォルトである、ことぐらいだった。


「………てか意外だわ、アンタも恋してるのね。」 


 ローラはそう言って、向かいの椅子に座った。寮の談話室には今、二人だけしかいない。


「そりゃ……私だって、花も恥じらう乙女ですから?恋の一つくらい、しますよ。」


 そう言って、ノートを胸元に抱く少女は、わずかに頬を薄く染めて、確かに可憐だった。


「へー、そういうの興味ありませんって顔してるのにね。ね、相手は誰?」
「言いません。それに、告白しようとか、そんな大それたこと思ってません。」
「へえ~?やってみなきゃ分からないじゃない!」


 ローラは雑に友人をけしかけた。しかし、本当に思っているのも事実だ。


「……これ聞いてもそんなこと言えます?私が好きな人は、あまねくんです。」
「へー!アマネくん!アマネくんねー!あま…ぶははははははは!?まじ??ぶあっはっはっ!!!」
「笑いすぎです。」
「っっひーーー!!!だ、だって、アマネクンって……あの、のことでしょう!?あんたやっぱり面白いわ!」


 腹を抱えて笑い転げる友人に、雪凪せつなはどんよりとした視線を送る。


「さっきも言ったでしょう?告白とか、大それたこと思ってないって。」
「あーーー、まあ、相手が魔王様ならねえ。いや、むしろやってみてくれない?怖いものが見たい。」
「…………。」


 友人の完全に面白がっている言動に、別に怒ったりはしない。だって自分でも、「私って、意外とミーハーだったんですね……」なんて思っていたから。


「にしても、ちょっと乗り遅れてるわよ、アンタ。に告白するブームはとうに過ぎ去って、世間では2ndシーズンが始まってんのよ。ほんと、流行に疎いからそんななのよ。」


 ローラは、薄水色の少女の眉間を指でこついた。 


「失礼な。私はそれなりに流行はチェックする方です。だから、同級生や先輩方の熱烈なアタックを全てその美しい微笑みで跳ね除け、僻みややっかみなどで攻撃してきた者もいつのまにかその配下に置き、完全無欠、完璧超人の名を欲しいままにし、下々を従え覇道を歩む様からだなんてちゅうn……愛称で親しまれるようになった学園の王子様、周宗治郎そうじろうくんを取り巻く昨今の情勢など完璧に把握しています!」
「え、うるさ。」
「全く、私を舐めないでいただきたい!!」
「じゃあ何で今更そんな雲の上の上の上の上の存在のアマネ様に初恋奪われちゃったりしてんのよ。」
「……初恋だなんて、なんで知ってるんですか……。」 
「ふん、馬鹿ねえ。初恋は叶わない物なのよ。」
「ぐっさりきました。いえ、別に叶えるつもりもないですけど。……聞いてくれます?」
「勿論!アンタの恋バナとか、めっちゃくちゃ面白そう!」


 にっこり、と同性から見ても魅力的な笑みを、ローラは浮かべた。


「ふ……では……少し長くなりますよ?文字数で言うと三千字ぐらいでしょうかね……。」
「え、なが……もっと簡潔にしてよ。」
「留学生会、同郷、笑顔、刺さる、無理。」
「そんな検索ワードみたいなので分かるかい!」
「もう!ワガママなのはボディだけにして下さい!……いた、いたたたたたた!!ごめんなさい、話します、ちゃんと話しますから手を離してください!!」
「…………ふん、わかればいいのよ。わかれば。」


 ええと……じゃあ、やっぱり三千字ぐらい使わせて下さいね?だって、私の生い立ちに軽く触れないと、多分伝わらないんですもん!




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