美醜逆転〜男だけど、魔術師(男)に惚れました

にじいろ♪

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第一章

変わったイケメン

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僕は、ほんの少しだけ後退って、その大きい男の人を観察していた。

この人、すごい長身で、前の世界じゃ見たこともないような物凄いイケメンなのに…なんだろう。

ちょっと?いや、かなり?変わった人かもしれない。
なんだか、会話が出来てるような出来て無いような。
元々、僕も、あんまり人と話すことは苦手だし友達だって、ほとんどいなかったから人のことは言えないんだけど…
でもなぁ…

今も、目の前のイケメンは真っ赤になった顔を両手で抑えながらブツブツと物凄い早口で捲し立てるように何事か呟いている。

うーん…怪しい。

宗教の儀式か何かだろうか…?
やっぱりこの人、怪しさしか無い。
僕、子豚みたいだからって供物にされないよね…?

「最高の夢…神様、ありがとう…真面目に無償の布教活動…参加して良かった…あんな、罵ったりしてごめんなさい、これからも崇拝致します…」

挙げ句、突然ビターン!と倒れて洞窟の硬くてゴツゴツした地面を、そのままゴロゴロと大きく左右に転がり始めた。

え、大丈夫…?
時々、奇声?発してるよね?

「ああ神よ…!夢なら、さめないで!」

とか。

「もう!この夢の中で死にたい!」

とか。

えー…えー…どーしよ。
異世界らしき所に来た不安と、初めて見つけた人を捕まえたい一心で着いて来ちゃったけど…
僕は、相当にヤバめな人を捕まえてしまったらしい。

でも、外は雷と豪雨。というか台風か嵐。
とてもじゃないけど、この中を再び歩いて別の人や建物を探すなんて無理。
見つかる前に僕が死んじゃう。

とりあえず雨が止むまでは、ここにいないと。
いや、すっかり暗くもなっているから明日の朝までは、ここにいるしかないと腹をくくる。

とりあえず、この変なイケメンさんは放っておいて自分のことをしよう、と視界から転がる巨体を外す。

これ以上、このおかしな異世界人に付き合ってると僕が風邪ひくわ。
とりあえず、冷たくて体温を奪う、びしょびしょで重たく身体にへばり付く泥だらけスーツをよいしょ、と脱ぎ始める。

これだってキャバ嬢に少しでも良く見えるように、いつもの倍のお金を出したのにな…あのキャバ嬢に安物って指さされてバカにされたっけ。
ふと、そんなことまで思い出して、悲しさと悔しさが再び込み上げる。
でも、涙までは出なかった。
こんな非常事態に、泣いてる暇なんて無いから。
それに、物凄いイケメンなのに僕よりおかしな人もいるって分かったし。

とりあえず無心になって焚き火の近くで体に張り付いた服も肌着も全部思い切りよく脱いで行く。
裸は寒いけど冷たい服を着てるよりは遥かにマシだ。

脱いだ服は、とにかく思い切って水を絞って火の近くの岩なんかに、どうにか引っ掛けて干す。
シワッシワになっちゃうな、このスーツ…
でも、もうこの世界ではそんなコト関係無いんじゃないだろうか。
これまでとは違う、全く新しい世界での暮らし。
もしかしたら、物語のような楽しい出来事が僕を待ってるかもしれない。

少しだけ、気持ちが浮上してくる。
脱水と干す作業を終えて焚き火で身体を暖めながら、異世界での安物スーツを眺める。
なんとか、明日には乾いてるといいなー。


しばらくそうしていたが、さすがに岩の地面が冷たくて足が冷えてくる。
靴も泥まみれでグチョグチョだったから岩にひっくり返して掛けたから、僕は裸足だ。

ふぅ、と周りを見渡して、あのイケメンの出した謎のマットを見つけて近づく。
触ると、うん、普通のマットっぽい。
僕は、ぽすん、と座ってみた。
…ぽかぽか温かい。
不思議に温かく、とても上質そうなマットだった。
これなら、なんとか今晩は眠れそうだ。

ふと、イケメンの方を見ると硬い地面に、まだ泥だらけの黒い服を身体に巻き付けたまま体育座りで僕の方を凝視していた。

気の所為かな…
そのきれいな顔から、涎?鼻血?みたいなの、なんか垂れ流してない?
やっぱり、さっき急に倒れて転がってたから、どこかぶつけたんだ。
ケガしちゃってるのかな。
心配になって、そっと近付く。

「なんか、色々出てますよ?えっと、大丈夫ですか?」

イケメンは、更に前かがみになって、何故か必死に股間を抑える。

「ひぇっ?!でっでっ出てました?!」

真っ赤になって、アワアワ言ってる。
…は?押さえるの、そこ?

「いや、顔です、顔。鼻血みたいなのとか口から涎とか、なんか色々出てますよ?あー、僕、何も持って無いなぁ…何か、拭くものあります?」

聞きながら、彼の荷物の方に視線を送ると、彼はほっとしたように血や涎まみれのイケメン顔を上げた。

「よ、良かった!まさか、こんな汚れたモノは例え夢の中でも貴方様には見せられませんから!!」

相変わらず、何の話をしているのやら僕にはついて行けないけれど、とりあえず曖昧に笑っておく。

彼は、急いで自分のびっしょり濡れた服で顔面をゴシゴシと拭いてる。
ただ、顔面が泥水で濡れただけだ。
こいつ…まさか、こんなにイケメンなのに…バカなのか。
はぁ…と溜息を吐いて、いや、でも命の恩人だものな、と自分に言い聞かせて彼を見る。

「あの、とりあえず服を脱いで下さい。乾かさないと本当に風邪ひいちゃいますから」

色々と言いたいこともあるけれど、まずは暖を取らせた方がいい。
そもそも、この人が用意してくれた焚き火だし。

それに、このまま服を脱がないでいたら、絶対に朝には死んでる。
さっきから尋常じゃないくらいにガタガタと震えてるし…

「へっ?!はっ!?あっ…そういうパターンですか…それ、つい二日前、妄想したやつです!ありがとうございます!」

なんか、よく分からないことを早口で言いながらも、今度はようやく納得したのか、いそいそと服を脱ぎ始めた。
もう考えるのが疲れた。
異世界人て、みんな、こんな感じ?
生きていけるかな、僕…

「はい、全部脱ぎ終わりましたね。じゃあ僕も寒いから、貴方の出してくれたマット、あそこで寝ていいですか?僕、もう疲れたから先に寝ますね」

マットを指さして返事を待たずに、さっさと戻って横たわる。
あー、疲れた。
もう、いろんなことが起きすぎて、僕のキャパオーバーを更に超えてしまってる。
朝まで寝たら、少しは回復するかな…
と思って目をつぶろうとした瞬間、光の速さで全裸になったイケメンが、僕の隣に全力で頭からスライディングしてきた。

「うわっ!!えっ!?はぁ?」

ズササーッと大きな音がしたものの、マットは全くズレていなかった。
いやいやいや、どんな仕組み?これ。

「せっかくの夢ですので、ご一緒させて頂きます!!」

顔面、マットに擦れて真っ赤だけど?
…この人、情緒大丈夫?
こわい。こわすぎる。

さり気なく反対を向いて僕はマットの端っこに寄って目を閉じる。
忘れよう。今、見たことは一旦、忘れよう。

………眠れない。
一度体が冷えきってしまったから、いくら温かいマットがあっても、全裸では、やっぱり洞窟で寝るのには肌寒い。
あのイケメンはどうしているんだろう、とゆっくりと振り返ると…
薄暗い中でも分かるくらいに、バッキバキに目を血走らせたイケメンが僕のことを瞳孔開いた瞳でガン見してた。
心臓止まる、っていうか口から飛びてた気がする。

はい、見なきゃ良かった第二弾。

えっと…なんだろ、このホラー感…?
見なかったことにしたい…けど、この寒いままじゃ眠れないし…風邪ひいたら困るし…
うーん…としばし逡巡してから、エイヤッと勇気を出して声をかける。

「えっと…寒く、ないですか?その…もし、嫌じゃなければ人肌で温め合いません…か?僕と、なんて嫌かもしれませんけど…」

僕が提案すると、イケメンはまた顔を抑えて、ごにょごにょと独り言を始めた。

「やった…こんな美しい人と2人きりで温め合う…まさに夢で見たまんまの展開…ぐふぅっ」

ぐふぐふ笑いながら割と大きくガッツポーズしてる。
へぇ、異世界にもガッツポーズってあるんだ…
そーか、そーか、そーかせんべい…

僕は心を無にして、そっと彼の近くへ寄る。
そんな僕をずっとガン見してるけど、彼は逃げる素振りもないから、とりあえず了承されたとみなそう。
こっちも命かかってるから、多少は図々しくいく。
ま、男同士だし何事も考え過ぎないほうが上手くいったりするっていうし。

彼に触れる寸前まで近寄ると彼の身体がビクゥッ!!と大きく跳ねた。
吹き出る鼻血は、この際無視しよう。
僕の髪に掛かってるけど、もう気にしない。
彼はイケメン過ぎて鼻の粘膜が弱いタイプなんだろうと解釈する。
近寄ってから、マジマジと彼を観察してみる。

薄暗いから、いまいち良く分からなかったけど、このイケメン、ものすごく綺麗な体をしてる。
無駄な脂肪なんて全く無い引き締まった筋肉。
細マッチョってやつか。
モテるんだろーなーこういうの。羨ましい。
腹筋割れてるし。
あまりの見事さに、思わず腹筋をそっと指先で触る。

「ひぃんっ!!!」

口を抑えながらイケメンがぷるぷるしてる。
まるで童貞みたいな反応が、なぜかかわいい。
こんなクッソイケメンが、多少おバカでも、そんな訳ないけど。

「えっと…痛かったですか?気持ち悪かった?ごめんなさい…あまりにかっこいい筋肉だから、ついつい触っちゃいました」

てへへ、と誤魔化すように笑う。
イケメンは何故か、胸を抑えて息も絶え絶えだ。

「ご尊顔が眩しすぎて苦しい」

会話が通じないのは、スルーしとく。
通じてるようで、実は言葉が通じて無いのかもしれない。
寒さに耐えられない僕は、一気に正面からギュッと彼に抱きつく。
やっぱり冷えてるなー、お互いに。

そう思いながらぎゅうぎゅうしてると全身が少しずつ温かくなってくる。
はぁ、と安堵しかけるが…彼の身体の一部がものすごく暖かいことに気付く。
というか、熱いくらい。
睡魔に流されて微睡む僕は無意識に、その暖かいものを両腿で挟んでいた。
まるで筒状のホッカイロや湯たんぽのようだ。

「はぁ…あったかーい」

イケメンの体が、さっきからガチッと固まってる気がするけど、もうこの人のリアクションをいちいち気にしていられない。
どうせ明日の朝までの付き合いだし、と多少気持ちを割り切って両腿をスリスリしながら眠りにつこうとすると、急にガバッと細マッチョイケメンに抱きしめられた。

「くぅっ!!!神に祝福を!!!」

なんで神様を祝福出来るの、この状況で。
でも、しっかり彼の腕に抱きしめられたら前よりも全然暖かい。

「あー、気持ちいい…あったかい…おやすみなさい…」

そう言って目を閉じると唇に冷たくて柔らかいものが当たった。
目を開けると、超絶ドアップなイケメン。

「へ?今、なにしたの?」

ちょっとイラっとした僕の声に、イケメンは青ざめる。

「ふあっ?!ごっごめんなさい!調子にのりまひた!」

あっ噛んだ。

ずざっとマットから降りて、ゴツゴツした岩場にスライディング土下座をしてる。
この人の習慣なのかな、スライディング。
あと、もしかして土下座も。
おかげで、せっかく温まってきた体が、また寒い。
あの湯たんぽも無いと足が冷たい。
もう口なんて、細かいことに拘ってたら死ぬ。

「はぁ…怒ってないですよ?気になって聞いただけだから。戻ってきて、さっきの続きをしましょう」

早く身体を温めて、早く寝てしまいたい。
パァーっと顔を輝かせたイケメンが、またマットにズサァッと滑り込んできた。
ハァハァ息切れもひどいし、持病あるの?
もしくは犬?大型犬みたい。

「…なんか、かわいいなぁ」

思わず、イケメンの形の良い白銀の頭をなでなでする。

「うん…きれいだなぁ…なんて美しい…」

疲れ果てた僕の口からは、無意識にするりと本音が溢れていた。
これも、異世界に来たせいかも。

頭を撫でられた彼は、呆然として私をじっと見ている。

「…とりあえず、ほら、くっつきましょう」

僕が横になって両手を広げると恐る恐る抱き締めて来た。
というか、まさかと薄っすら思ってはいたけど…
視線を少しだけ下げたら確認出来てしまった。
僕の湯たんぽって、彼の巨大で長大なモノでした。
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