美醜逆転〜男だけど、魔術師(男)に惚れました

にじいろ♪

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第一章

どちらにしても地獄なら


「はあ、僕は、これからどうすればいいんでしょうか…」

目の前には、これまで暮らして来た世界と全く異なる世界へ来てしまって悲嘆に暮れる世にも美しい神子様。
悲嘆というものは、こんなにも光輝くものだろうか。

「僕、ここへ来て、リアムさんしか会ったことないので出来れば、どこか人がたくさん居るところまで案内して頂けませんか?この世界のことをもっと知りたいし…あ、僕なんかを連れて行くのは、すごく迷惑だとは思うんですけど…」

涙ぐみながら、上目遣いでお願いしてくる全裸の神子様。
こんなにも魅力的な方を、たくさんの人に会わせる…?
私以外の人間、つまり私より遥かに美しい人々に?

「こういうのって、チート?とか、無いのかな…僕、何の能力も無さそうなんですけど…そういうのを調べてくれるような所って無いですかね?ゲームとかだと、教会?いや、ギルドかなぁ。あ、この世界に冒険者ギルドってあります?」

尊様の能力など、小さな子供でも、ひと目で分かる。
この類まれな美しさは、どんな魔法にも武力にも勝る。
当然国王でさえもイチコロ間違い無しなのだから、尊様が望めばこの国の全てを手中に収めることすら可能だ。

「あ!とりあえず服着ないと!すっ、すみません、こんなもの見せられて、気分悪くなっちゃいますよね…」

恥ずかしげに頬を染めて、たわわな果実を隠し、ワタワタと岩に干した服を取りに行く後ろ姿を見つめながら、私の中に恐ろしい悪魔が舞い降りるのを感じていた。
服を身に着けても隠しきれない美しさ。

尊様は、まだ何も知らない。
そのことが、甘い毒のように私の心を蝕む。

このまま、ありのままを伝え、尊様を連れて王都へ行けば…神子様を冒涜した罪で私はもちろん何の罪のない両親も処刑される。
私は受けて当然の罰だが、両親は醜い私を愛情を持って育ててくれたのに、この上ない苦痛と不名誉な死を与えられるのだ。

それに、私のこれまでの苦労も水の泡になる。
一応は王都の魔術師だが、この容姿のせいで職場の厄介者だ。
辞めろ、邪魔だ、消えろ、と何度言われたか分からない。
暴力を振るわれたことも一度や二度ではない。
それでも魔術師として働くことを名誉だと喜ぶ両親の為にと必死に辛い仕事を引き受けて、身を粉にして働いて働いて、ようやくこれまで生きてきた。
その全てを失うのだ。

そんなことを考えてから、そんなものは言い訳だ、と自嘲する。
本当は、私が一番辛いのは生まれて初めての恋を失うことだ。
この国の他の者、特に王族を見れば私がいかに醜いかを尊様が知ってしまう。
今は、この世界に来て、私が初めて見る人間だから何か勘違いしているようだが、全てを理解してしまえば私のことなど二度と見てくれはしないだろう。
それどころか、私を汚らわしい悪魔と罵るかもしれない。
あの澄んだ瞳に暗い侮蔑の色を乗せられたら耐えられない。
その瞳を想像するだけで、全身が震え冷たい汗が背中を流れる。


「…ましょう」

自分のものとは思えない声が聞こえた。
きっと、この時に私は魂を悪魔へ売り渡した。

「え?なんですか?よく聞こえなくて」

「急いで出発しましょう。この辺りは非常に危険ですから私から決して離れないように。ご安心下さい、私は尊様のような方にお会いしたこともありますし、この世界のことも全てお教えします。これからの生活が困らないようにご協力致しますので、まずは大きな街へ向かいましょう。新しい服や必要な物を買わなくてはいけません」

ペラペラと嘘ばかりを並べて自信有りげに語る己の口が恐ろしい。

私は、神子様を騙すという許されざる罪を冒す。
だが既に昨夜のうちに地獄へ堕ちることは確定しているのだ。
ならば、これ以上、罪を重ねても堕ちるところは同じ。
こうなったなら、とことん堕ちてやろう。

「ほんとですか!初めて会ったのがリアムさんで良かったー!神様に感謝しないとですね!よろしくお願いします!」

屈託のない満面の笑みで頭を下げられた。
丸い乳房が、服の内で、たゆたゆと揺れる。
この乳房を誰にも取られたくない、触られたくない。

「いえいえ、頭は下げないでください。私は困った人を助けることを信条としていますので。少しでも困ったことがあれば何でも仰って下さい。私は魔術師ですので、お役に立てることも多いと思います」

「魔術師さん?!って、魔法が使えるんですか?なんか、かっこいいですね!すごいなぁー」

私の、たった一つの特技を褒められて有頂天になる自分をどうにか抑える。
鼻がフヒフヒするのは許して欲しい。
両親以外に褒められたことなど無かったのだから。

「魔術師の仕事の多くは、体内の魔力を魔石など様々な物に込めることです。魔力が無い者でも、その魔力を使い生活することで、この国の民の暮らしは格段に良くなったのです」

私の魔石はゴミ同様の扱いだが。

「へぇー!立派な仕事をされてるんですね!尊敬するなぁ」

きらきらと輝く瞳で見つめられると、嬉しさと罪悪感と愛しさで胸がぐちゃぐちゃになる。

「…尊様、ありがとうございます…はぁ、愛しい…ゴホン。では、私の魔術の一部をご覧に入れます。さぁ、掌を出して下さい」

「はっ、はいっ!えっ、凄い!魔法見せてくれるんですか?!やばっ!」

小さくて丸く柔らかな掌に私の細くゴツゴツした掌を合わせる。
これだけで既に昂ぶった私は、達しそうに気持ちいい。
思わず、にぎにぎと揉んで感触を確かめる。
こんなに柔らかくしっとりとして、滑らかで…

「…はっ!つい、何てことを!すっ、すみませんでした!」

「?あ、大丈夫です。これも魔法の準備?なんですよね?」

尊様は何も疑わない。
その甘い事実が、私を加速させる、墜落させる。
私の胸には闇の魔力が渦巻いていく。
全身が焼き尽くされる程の、熱く暗い魔力が。

「ええ、勿論です。目を閉じて、私の言う通りに唱えて下さい」

「はい!頑張ります!」

健気に目を閉じる尊様。
悪魔が天使、いや神の子を騙そうとしている。
今なら堕天使の気持ちが分かる。
どんな罰でも甘んじて受けよう。
生きて羽をもがれるなど、あまりに軽い。

二人の掌をぴったりと合わせて、そこへ白く淡く光る魔法陣を発動させる。

「私達は」

「わ、わたしたちは」

尊様が懸命に追従する。
合わせた掌の感触と懸命さが愛しくて、また鼻血が出そうだ。

「永遠に」

「とわに」

興奮が抑えられない。
もう鼻血は流れ出ている。
神よ、私は貴方を冒涜する。

「互いを愛し慈しむことを誓います」

「たがいを愛し、いつくしむことをちかいます?」

真っ白な魔法陣が大きく光り、私は空を見上げた。
鼻血と涙が溢れるのを止められない。

「あの…終わりました?」

恐る恐る目を開けて尊様が尋ねてくる。
私の鼻血と涙にぎょっとしたようだ。
細かいことは気にしないで欲しい。
元より醜いのだから、これくらいで私の顔面に大差は無い。

「…はい、終わりました。どうでしたか?」

尊様は、うーん、と悩んでから

「なんか…セリフが…まるで結婚の誓いみたいで、恥ずかしかったです」

頬を赤らめて仰った。

私はボフッと鼻血を盛大に吹いて倒れた。
私の伴侶が美し過ぎるから。

そう、伴侶になった。
先程の魔法陣で。
尊様の首元には、既婚を示す蔦の文様。
私の首元にも、同じモノが示されているはず。
それだけで、私に生きている意味が与えられた。


少し落ち着いてから、二人で出発の準備をした。
両親へのプレゼントの為にと奮発して買った特別製の温マットは、魔法陣の中へと丁寧に仕舞う。
これは尊様との思い出の品になった。
記念品として大切に保管せねば。
いつか両親と会えることがあれば、もっと良い物を買ってあげよう。
もし、また生きて会えることがあれば…

馬に荷物を括り付けて、尊様を後ろから抱えるようにして座り手綱を握る。
最高…役得が過ぎる。

「馬から落ちると怪我をしますから、しっかり私の腕に掴まっていて下さい」

「ひゃっ高いぃっ!!ゆ、ゆっくり、おねがいしましゅっ」

可愛すぎるだろう。
しゅって、なんだ。
私の愚息が反応しないほうが無理だ。
けれど、この状態ではまずい。
私は無心を心がけ、とにかく前を向いて馬を歩ませた。

が、何事も予想の斜め上を行くのが、麗しの尊様。

「い、いたい…も、無理ですぅ…」

涙目で、愛する方にそんなことを言われれば恋の奴隷は直ぐ様、馬から降りるのは当然。

「ごめんなさい…僕、馬に乗るの初めてで。こんなにお尻が痛いなんて知らなかった…ぐすっ…」

「それは仕方のないことです、尊様。気にすることはありません。こちらの世界に来た方は皆様、同じですから。私の配慮が足らずに辛い思いをさせてしまい申し訳ありませんでした」

優しく涙を拭い、さり気なく臀部を撫でる。
丸くて柔らかくて、最高のさわり心地だ。
このお尻マットを発売してもらえないだろうか。
全財産を投げ売って土下座してでも買う。

「ひゃっ!あ、ごめんなさい。ヒリヒリしてて、触るだけでも痛いんです…」

尊様、いや神は、何度私をお試しになっているのだろうか。
それならば受けて立とう。
私は、もはや悪魔そのもの。
怖いものなど無い。

「それは大変…このあたりでは、小さな傷から命に関わる病気もあります。私に治癒の心得がありますので、お任せ下さい」

「わぁ、リアムさんって、何でも出来るんですね!では、お言葉に甘えていいですか?」

「…ふぅっ、はぁっ…もちろん、全てお任せ下さい」

私は、これ以上無く薄気味悪い笑みを浮かべたのだろう。
誰もが逃げ出す笑みにも、尊様は逃げ出さなかった。

私の言葉を信じ、きらきらと輝く笑顔で私を見つめて下さる。

私はこれから、その信頼を裏切るのに。
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