出来損ないの下剋上溺愛日記

にじいろ♪

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闖入者の帰り道

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ザアザアと強く雨が降る中、私達は家路を急いでいた。

「全く散々だ!!あんなクズのところなんか行くんじゃなかった!!」

歩きながら先頭のサンが喚き散らす。

「サン、俺ら皆····呪われたのかな?」

「本当に村に戻れないのか?呪いを村に持ち込んだら大変なことになるぞ」

「村長に黙って来たから、こんなことになったんだ。サンがブレイブを連れ戻すなんて言い出したせいで」

ギリっとサンが後ろを振り返って後ろの連中を睨み付ける。皆、雨で濡れてげっそりとしている。こんな筈じゃ無かった。
ブレイブのことだから家を造っているはず。そこにしばらく居座ってブレイブを扱き使って美味い肉を食べ、憂さ晴らしをするつもりだったのだ。

「お前らだって、ブレイブを村へ連れ戻して、恩を売って死ぬまで扱き使ってやろうって言ってただろ!村長が勝手にアイツを村から出したから私達は困ってるんだぞ?!」

「それは······でも、あんな綺麗な相手といるなんて、なぁ。羨ましいなぁ」

「忌み婚儀なんて、ブレイブと同じ醜男だとばっかり思ってたからさ。それなら喜んで村に戻ってくると思ったんだよ」

「あれじゃあ、帰りたくなくなるよな。両想いみたいだったし」

「サン、残念だったな」

まるで私が振られたような言い回しに、ただでさえ思い通りに行かずにイライラとした感情が逆撫でされ、頭に来た。

「·······そういえば、野生の大熊がこの辺りには居るとか聞いたな」

「ああ、なんでも群れで居るらしいぞ。危ないから早く帰ろう」

ふふっとサンは笑い出す。

「野生の大熊が群れで·····流石のブレイブも食われるかもな」

「いや、普通は近付かないだろ」

「いくら木偶の坊でも、そんな命を捨てるようなことはしないさ」

なぁ、と互いに笑い合って雨の中を進む。雨が少し小降りになって来た。
雲の切れ間も見えて来た。

「ふぅん、命を捨てるようなこと、ね」

「なんだよ、サン。それより早く帰ろうぜ」

皆、疲れて足元がフラフラだ。そもそも帰り道なんて考えて無かった。
ブレイブのところで泊まるつもりだったのだから、準備も何もしていない。

「······寄る所が出来た。お前らも疲れただろ?少し休もう」

「休む場所あるの?やった!」

「限界だったんだよなー。早く休みたいよ」

雲が切れて空は明るくなってきた。
サン達を後押しするように。

「この私を敵にしたら、どうなるか。木偶の坊に出来ることが、私に出来ない筈が無い」

サンは仲間を先導し、脇の獣道へと歩みを進めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ブレイブさん、これどうですか?」

「すごくっ良い、ですっ」

ブレイブさんが頬を染めて僕を見詰める。その瞳は潤んで目元が紅く染まっている。

「本当に?良いですか?」

「あぁっ、最高っですっ」

「もっと言って下さい」

「すっごく、良いっああっ、素晴らしいですっ!」



「やっ、やっ、やったーーーっ!!」

ブレイブさんのお墨付きを貰って、僕は完成した織物を高く掲げた。
糸紡ぎから、織り機もブレイブさん協力の元、立派な物を創り上げ、更には織り機で、遂に布を織ることに成功したのだ!!

「こんなに素晴らしい織物は初めてです。あのサンよりも美しい仕上がりです。アルトさんの心の美しさが現れていますね」

べた褒めされて、僕はそれはそれは鼻を高く高く天井に届く程に伸ばした。

「ありがとうございます!これもブレイブさんのお陰です!これでブレイブさんの服を作りたくて····」

「えっ、俺の、ですか?」

「だっ、ダメでしたか?迷惑でしょうか」

「迷惑だなんてっ!!夢なんじゃないかと思ったんです!まさか、この俺に愛する人から服を贈られる日が来るなんて······ぐすっ」

ブレイブさんは泣き出した。やだ、もうかわいい。その涙を全部飲ませて欲しい。

「そんな大袈裟なぁ、僕の作る服なんて大したこと無いですから」

ガシッと強く両手を掴まれた。強い。うん、軽く骨が軋む位には強い。

「パッカ村では、愛する人から糸から紡いだ服を贈られることが最上級の結婚の申込みなんです!!何よりも誇りとされる事です!!この俺が、この俺がっ、まさか、こんなに美しいアルトさんから、そんなっ、うわぁぁぁああっ」

大泣きし始めたブレイブさんの頭を撫でて優しく抱き締める。手が少しだけ痛いのは気の所為だ。

「ブレイブさん。じゃあ、改めて服が完成したら、結婚の申込みをさせて下さい。もう愛してますけど」

チュ、と頬に口付ければ、ブレイブさんが更に大泣きした。
うん、その涙を全部飲みます。飲ませて下さい。
僕らは慰め合って愛し合って暮らして行くんだ、と額を擦り付けた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「アルトっ!!無事だったか!!」

「えっ?!父さん?!兄さん達?!うわっ母さん!!」

僕達が出会ってから、一年程が過ぎていた。
僕は丁度、二枚目のブレイブさんの服を完成させたところだった。
僕の服も作ったから、今は肌触りの良い白い織物の上下の衣服を着て過ごしている。
これはブレイブさん曰く『アルトさんが神の遣いにしか見えなくなる服』らしい。うん、まだ頭を打った後遺症はあるらしい。

「どうしたの?!急に!リマ村で何かあった?!」

久しぶりに見る家族に僕は驚きと嬉しさが隠しきれない。父さん達は元気そうだけど、母さんは顔を青褪めさせて今にも倒れそうで3人の兄さんに支えられている。左右と後ろから。どんな状態?

「いや、リマ村ではなくて、その·····」

父さんは言いづらそうにブレイブさんをチラチラと見遣る。
新しい倉庫を造っていたブレイブさんが手を止めて、僕の家族に歩み寄った。

「はっ、初めまして。ご挨拶が遅くなりました。アルトさんと暮らさせて頂いてます、ブレイブと申します」

父さん達は顔を見合わせて戸惑っている。母さんは頬を染めてブレイブさんをうっとりと見詰めている。兄さん達からも離れた。え、身体は大丈夫なの?
乙女のような表情に少しイラっとする。父さんに後で告げ口しよ。

「こ、こんなに格好良い青年が忌み婚儀·····?」

一番上の兄さんがポロッと零す。それは僕も同意見だ。

「ブレイブさんは、狩りも上手いし、家も建てられるし、料理もすっごく上手いんだよ?!」

「なっ、はっ、初めまして!こちらこそ、いつもアルトがお世話になっております!アルト、お前まさか、この方にご迷惑をお掛けして·····」

父さん母さんの顔が曇る。狩りも料理も何もかもブレイブさんに任せているなんて、確かにあり得ないことだ。僕は自分の不甲斐なさに俯いてしまう。
スッと大きな背中が僕の前に進み出た。

「とんでもありません。アルトさんは織物の天才です。先日、山道で出会った旅商人にアルトさんが織った作品を見てもらったら、相場の3倍で買い取りたいと言われました」

「まあ、本当ですか?!アルトが?」

「すごいじゃないか、アルト!」

父さん達が口々に僕を褒めてくれる。母さんも、元気を取り戻したらしい。こんなの初めてだ。
父さん達は、いつだって僕の味方をしてくれていたけれど、何かで秀でたことなど、今まで無かったから。

「う、うん。これも全部ブレイブさんのお陰なんだ。蚕も道具も、皆、ブレイブさんが用意してくれて」

「いえいえ、アルトさんが器用だから出来たんです。俺では織り機さえ壊す始末ですから」

互いに褒め合い称え合う僕達を、父さん達は微笑ましそうに見守ってくれていた。ブレイブさんがハッと気付いて父さんに声をかけてくれた。僕はブレイブさんしか目に入って無かったから助かった。

「とにかく、家に入って話しましょう。狭い家ですが、どうぞ」

父さん達を新しく建てた大きな家へ案内する。最初の家も住心地良かったけれど、この家は僕が十五人位、悠々と横になれる。家の中には僕専用の織り機部屋まである。

「これは何だ?!こんな大きくて立派な家は見たことが無いぞ?!まさか草じゃないのか?!」

「大きな木で造っているのかしら?こんなに薄く木を切れるなんて信じられない!!隙間も無くて頑丈で雨も入らないわ」

僕は嬉しくなって、ブレイブさんが建てた家の説明をして回った。

「本当にこれを、たった一人で?」

「そうだよ、ブレイブさんって、本当に凄いでしょう!!」

兄さんも口を開けて眺めている。僕は役に立って無いけれど、胸を張る。

「アルトさん、皆さんに座って貰いましょう」

「あ、そうだった!みんな、どうぞ」

大きな机を囲んで床に座る。床には僕の作った敷物もあってお尻も痛くない。皆、これも絶賛してくれた。
ブレイブさんが、特製の香り高いお茶と、甘い根菜蒸しを皆の前に出す。この組み合わせが抜群に美味しいんだ。

「わぁ、美味い!!」

「この根菜、甘いわぁ~っ!最高!」

和気あいあいとお茶を囲んで話して和んでいたら、ブレイブさんが咳を一つした。
あ、と皆で顔を見合わせて座りなおす。

「そうだ、アルト。パッカ村から人探しの依頼が旅商人を通じて来たんだ」

「人探し?ここに住んでる僕達に関係ある?」

ブレイブさんと顔を見合わせる。ここに尋ねて来る人なんて居ないんだから。

「それが·····半年程前に、ここにパッカ村の者が尋ねて来なかったか?」

父さんの言葉にブレイブさんがピクリと肩を揺らした。きっと思い出したんだろう。だって僕も思い出したから。

「うーん······来た、かな」

「来たのか!そうか、それなら話が早い。村長も、ここへ来たか定かでは無かったらしいからな」

「·····どういうこと?」

「そのパッカ村の者達が半年前から行方不明になって、村人総出で捜索しても見つからないらしい」

「え、そうなの?まさか」

ブレイブさんの手を机の下でギュッと握る。掌が冷たかった。

「ここに尋ねて来てから、どこかへ行くと言って居なかったか?」

「······ううん、何も。少し話して、すぐに帰って行ったから」

「そうか·····ブレイブさんも、何か知らないか?君の出身の村から尋ねて来たんだろう?何か言って無かったかい?」

「······何も。何も言っていませんでした」

父さん達は少し残念そうに肩を落とした。

「そうか·····一体、どこへ行ってしまったんだろうなぁ。まさか、獣に襲われてしまったんだろうか。かなり大人数の若者だというから、全員が居なくなるなんて考え難いけれども」

「そうねぇ。この辺りも野生の獣は出るから、もしかしたら、そんなこともあるかもしれないわ。アルトも十分気を付けてね?ブレイブさんにご迷惑掛けちゃだめよ」

母さんは、もう完全にブレイブさんを信用しきっているようだ。父さん、良いのか。

「パッカ村の者は力が弱く狩りが出来る者は俺以外には居ませんでした」

ブレイブさんが説明すると、父さん達は信じられないと驚いていたが、ブレイブさんの話を聞けば良く理解したようだった。

「野生の獣に負けるなんてアルト位かと思っていたけど、そんなこともあるのかもなぁ。旅商人以外で村人同士の交流も無いから分からないものな」

兄さん達が神妙に頷いている。ウンウン、と僕も一緒に頷く。
本当に分からないものだ。たった山二つで。

「今日は泊まって行く?ねぇ、ブレイブさん、皆を泊まらせても良いですか?」

「勿論です。皆さん、どうぞ大したもてなしは出来ませんが寛いで行って下さい」

「あら、それは悪いわ。少し走ればすぐに帰れるもの」

母さんが、あっけらかんと言い放った。あんなに兄さん達に支えられていた人間とは思えない。

「ハハッ!母さんはアルトが元気で、こんなに立派な人と幸せに暮らしてるのが分かって、すっかり健康になったんだ」

「アルトが元気でいてくれることが、一番だからな。ブレイブさん、至らない弟ですが、どうぞ宜しくお願いします」

「それは、父さんの台詞だろう?」

ワハハハ、と笑い合う。
明るく楽しい僕の家族。今はもう、僕の家族はブレイブさんだけれど、こうして父さん達と笑い合える日がまた来るなんて、と涙が滲む。
笑い過ぎた振りをして涙を拭うと、ブレイブさんが僕の背中を撫でてくれた。温かい。

「さて、それじゃあ帰るぞ。あぁ、ブレイブさんにパッカ村の村長から伝言があるんだ。『振り返るな』だそうだ。良く意味は分からないが、君は分かるかい?」

ブレイブさんは一度目を瞑り、再び瞼を開くと、大きく頷いた。

「ええ、分かりました。ありがとうございました」

「それなら良かった。さあ、帰ろう」

「ご馳走様でした。いやぁ、快適過ぎて帰りたくなくなるよ」

「本当ねぇ。また来ても良いかしら?あらいやだ、お邪魔だわね。新婚だもの」

ふふっと母さんが意味ありげに笑うから、僕もブレイブさんも居心地悪く俯く。
母さんが、ブレイブさんと僕の所へスッと近付き、小声で囁いた。

「ブレイブさん。アルトは身体が小さいから、加減してやって下さいね?」

「かっ、母さん!何てことを言うんだよ!やめてよ!」

僕は真っ赤になって母さんをポカポカと叩く。母さんは、僕よりずっと身体が大きくて強いから、これくらいじゃあビクともしない。

「あの、ご心配無く·····加減して貰ってるのは、自分の方ですから·····」

ブレイブさんが、これまた真っ赤な顔で正直に答えている。僕は顔を抑えて天を仰ぐ。何この羞恥心仰ぎまくる状況。

「えっ、えっ?まさか、アルトの方が?え、嘘でしょ·····やるわね、アルト」

母さんがニヤリ、と笑って僕を小突いて来る。最悪だ。そっちの事情は知られたく無かった。特に母親には。

「はいはい、母さん。いい加減にして帰るよ。ほら、二人の邪魔しないの」

兄さん達が左右と後ろに付いて母さんを押し出してくれた。兄さん達、ありがとう。色んな意味での涙を流しながら見送った。

家に静けさが戻る。
僕はブレイブさんに向き直った。

「少し、話しましょうか」

「······はい」
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