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殲滅
しおりを挟む僕から見たダンジョン村のみんなは、とてつもない善人だ。
僕がこのダンジョンに来る前に見ていた人間の方が、余程魔物だった。
そんなことを考えながら、マイティの話を考える。
人間が平和だから、魔素が減って…のところで疑問が湧く。
本当に人間たちの暮らしが平和なのか。
僕が知る限り、人間は強欲で常に人の物を欲しがり、汚くて、意地悪で、平気で人を殴る存在。
あんな人間が本当に平和に暮らしてる?
悪いことをしてる奴らなんて、山ほどいるはずだ。
人間が争い無く暮らしてると信じてる皆の方が、よほど平和だ。
マイティの話をウンウンと聞きながら、さっき隠された剣の方を盗み見る。
きっと、あれはヒグが僕の為に作ってくれた剣。
しばらく前に、ヒグが家にこもって、長い間何かを作ってたことは知ってる。
「まだ言えねえが、楽しみにしてろよ」
少し前にヒグに会った時は、そんなことを笑いながら僕にそう言っていた。
でも、結局、何も渡されないままだった。
きっとあれが、そうだったんだ。
「だからな?ギア。もう少しすると勇者たちがここに来る。お前はどうする?」
マイティに聞かれて、僕はニッコリ笑って答える。
「僕もマイティと一緒に戦って、やられた感じにして倒れるよ。そうだなー、あの岩山あたりに飛ばされたようにしてジャンプして隠れようかな」
剣のある岩山をさす。
マイティは僕を疑うことなんてしない。
「そうだな、万が一倒れたあとにギアが刺されたりしたら大変だ。それがいい」
マイティも、笑顔で頷いて了承してくれた。
ここのみんなは、本当に善人なんだ。
今までも僕に必要と思う物は、全て用意してくれた。
食べ物も、服も、履いたことのない靴だって。
商人になって欲しい、と山のような教材を持ってきてくれた時は驚いたけど嬉しかった。
僕の将来を考えてくれる皆の気持ちが嬉しくて、僕はまだ言えてないんだ。
僕の本当の気持ちを。
みんなは僕の言うことを全て良い方に解釈して、いちいち感動する。
それに、僕が笑顔を見せると、みんな骨抜きになる。
ちょっと心配になってしまうくらい僕のことを好きでいてくれる。
僕だって、ここにいる皆が本当に大好きだ。
カイに出会えなければ野垂れ死んでいた僕は、このダンジョン村の皆のおかげで生きてこれた。
本当に感謝してもしきれない。
だから、皆の善良さに付け込む人間や勇者たちが許せない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ひーっ、しっかし、気色悪いところだぜ」
ダンジョン内は、ほんとに薄暗くて辛気臭い。
息をするだけで気分が悪くなる。
特別な装備を纏い、守護やら付与やらを山程された俺達だから平気だが、生身の人間なら5分と経たずに倒れてるだろう。
数多の魔物を倒しながら、我ら勇者様御一行様はダンジョン内を進んでいく。
手応えのある魔物なんて一匹もいない。
「俺たち、強くなり過ぎたな!!!」
そんなことを仲間達と言い合う。
「いやー、こんなとこでやられるなんて、前のクズ勇者がヘボ過ぎたんだろ」
笑っていると、聖女が口を挟む。
こいつ、美人だけど空気読めねえんだよな。
「先代の聖女様がおっしゃってたわ。子供のような魔人が現れた途端、勇者たちが灰と化したって。貴方達も油断しない方がいいわ」
真面目な顔で、水をさす。
あーあ、俺、このダンジョン制圧したらコイツとじゃなくて、やっぱり姫と結婚しよ。
この魔人のダンジョンを制圧して成果をあげれば国王に認められ聖女との結婚も許される。
だが俺は、こんな聖女じゃなくて姫を狙ってる。
物静かで、清楚で、笑顔がめちゃくちゃかわいいんだ。
ここで成功すれば、あの姫との結婚だって許されるだろう。
これまでみんな、このダンジョンに入ることすら出来なかったんだから。
それを俺たちは成し遂げた。
ぐふふ、と姫とのあんなことやこんなことを想像していると、魔物と遭遇した。
「さて、剣の錆にしてやるぜ」
戦士が前に出て、斬り掛かる。
あっという間に倒れて、俺達はさっさと前に進む。
「ほーんと、手応えねーなー」
「魔物も、少なくね?」
各階に5体くらいしか魔物はいなかった。
なんだか美味そうな食べ物の匂いがするところもあったが、周りを見ても食べ物なんかあるはずもない。
魔物の幻惑だな。
腹減ったなー、早く地上に戻って酒と肉が食いたい!
そう言い合って、もう最下層だ。
「最後のボスよ!気を抜かないで!」
聖女が言ってる。
それ、勇者のセリフだろ。
ほんと、コイツ空気読まない。
「はいはーい、適当にやっつけるぞー」
勇者、戦士、僧侶はやる気なく進んだ。
どうせ、余裕で勝つんだから。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
とうとう、勇者たちが来た。
ニヤニヤダラダラと、こちらに聞こえるように嫌な冗談を言いながら歩いて来た感じの悪い人たちだった。
蔑むようにマイティを見た後に、その隣にいる僕を見てみんな固まってる。
「は…人間?」
勇者らしき真ん中の人がポロリとこぼす。
「あれが、魔人?」
「すげー、きれー」
他の奴らも、呆然とブツブツ言っている。
女の人が、ハッとして勇者達に声をかける。
「なにしてるの!戦闘準備!」
勇者たちは、慌てて剣やら杖やらを持ち直して、体制を立て直す。
「魔人よ!俺たちが来たからには好きにはさせないぞ!目にもの見せてやる!」
「え?魔人?」
僕は勇者の言葉に驚いて声を出してしまった。
マイティに止められる。
いけない!喋っちゃダメだった。
「なんだ?お前、喋れるのか?」
勇者たちが訝しむ。
僕は急いで首を横に振って否定する。
聖女が僕を観察している。
「どうやらこの魔人…私たちの言葉を理解しているようね」
やばい、どうしよ。
マイティが、僕の危機を察して、前に躍り出た。
「くっ!キマイラだ!ここのボスか!」
穏やかなマイティが戦うところなんて僕は初めて見た。
マイティは、勇者たちの前を華麗にステップを踏みながら僕にウインクする。
あっ、そうだった。
僕も、さりげなく前に進み、やられるんだった。
戦士の前に進むと戦士は怯えながらも僕に斬り掛かってきた。
もちろん斬られる前にジャンプして予定通り岩山まで飛んで隠れた。
あとは、岩山から様子を伺う。
マイティも上手く倒れた。
さすがだなー。
「おい、俺たち、魔人もやっつけたぞ!」
「やったなーーー!!!アハハハ!!!」
「なんてことなかったな!いや、俺たちが強すぎたか!」
そんなことを言い合って笑っている。
勇者が、ニヤニヤしながらマイティのところに近付く。
「こんな立派なナリしてて弱いなんてなー、笑えるぜ」
そう言って、あろうことかマイティの腹を剣で刺したんだ。
マイティは、目を開いたが、僕の方を見て、来るなの合図をする。
でも、ごめん、マイティ。
僕はもう…出てたよ。
「なっ!?魔人!!!生きていたのか!」
勇者たちが驚き固まる。
聖女は、何やら呪文を唱える。
いや、僕、ただの人間だよ?
君たちと同じ、ね?
頭の中はやけに冷静で右手に持った剣も驚く程に軽い。
ちょうど僕の右手にぴったりだ。
ヒグ、素敵なプレゼントをありがとう。
ヒグに心の中で御礼を言いながら僕は高く飛び空を斬った。
勇者たちが胸や頭から切断され一斉に倒れた。
その近くでは聖女が僕に魔法か何かかけてるみたいだけど、何も効果が無い。
「聖魔法が効かない!?まさか!魔人や魔物には重大なダメージがあるはずなのに!」
僕の後ろに倒れてるマイティが苦しみ始めた。
僕は聖女さん?の所に近づいて手を掴んだ。
「マイティが苦しんでるから止めてくれる?」
笑顔で言うと、彼女は意識を失って倒れた。
一応、支えたよ?
女の子には優しくって、いつもセイラに言われるから。
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