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家族が増える
しおりを挟む目を開けると、そこは家の中だった。
でも私の家じゃない。
とても居心地の良いフカフカしたベッドに、シンプルだけど趣味の良いインテリア。
なんだか美味しそうな匂いまで漂ってくる。
落ち着くけれど、何かおかしい。
体を起こすと、ベッド横にサイドテーブルがあり、ガラスの水差しとコップもあった。
恐る恐る匂いを嗅ぐが、爽やかな柑橘系の香りがする。
聖魔法で毒物を鑑定するが入っていないようだ。
周りを見回して、だれもいない。
とりあえず喉がカラカラなので、勇気を出して水を飲む。
おいしい!僅かに酸味のある柑橘類が入った果実水だった。
こんなにおいしい果実水は、王都でもお目にかかったことがないわ!
そんなことを考えていると美味しそうな匂いが気になってお腹もぐうぐうなり始めた。
ダンジョン近くの街を出てから、もうずいぶんと携帯食料しか食べてない。
味も最悪で、お腹は空きっぱなしだった。
勇者たちは隙あらば体を触ろうとしてくるし、嫌味や嫌がらせばかりで夜もあまり眠れなかった。
だから、久しぶりにベッドで寝た体は、軽くスッキリしていた。
それにしても…
ここはどこかしら?
私は、ダンジョンの最下層で魔人に捕らえられたはず。
本当に美しい魔人だった。
私の聖魔法も効かず、勇者たちは一刀で斬殺された。
役に立てず後悔の念が押し寄せてくるが、実は少しほっとしている。
このダンジョンでの任務が終われば、私は勇者と結婚するよう国王から言われていたのだ。
あんな最低な奴と結婚しなくて済んだことが、不幸中の幸い。
そんなことを思ってしまうくらいには、最低な勇者だった。
そっとベッドから降りて、この部屋のドアを薄く開ける。
私の目に、驚きの光景がうつった。
スケルトンが、台所で料理してる。
しかも、隣にあの魔人がいる!!!
心臓がバクバクとなって、口から出そうになり慌てて押さえる。
全身から脂汗が出てくる。
どうしよう、魔人の巣に連れて来られたんだ!
私はこれから、食べられるの?!
どこか逃げ道はないかと後ろを振り返ろうとすると、呑気な声が隙間から漏れ聞こえた。
「ほーら、ギア?もう少しお野菜は小さく切って?」
優しいお母さんのような声に私の思考は止まる。
「えー?このくらい大丈夫でしょ。そのうち煮えるってー」
そう笑って魔人が返事をしている。
「だめよー?人間の女の子なんだから喉に詰まらせたら大変でしょ?倒れた後なんて、余計に具合いが悪いかもしれないし」
スケルトンは、エプロン姿で鍋を混ぜている。
「わかったよ、ジョエル…これくらい?」
魔人が切った野菜を見せると、スケルトンは嬉しそうな声を出す。
「やれば出来るじゃない!これで、いつお婿さんに行っても大丈夫ね!」
そんなことを言って、魔人の肩を叩いてる。
魔人は赤くなって
「なっ!!!お婿さんなんて無理に決まってるだろ!ほら、鍋こげちゃうよ!」
スケルトンを押し返している。
「あ、こっちのお肉も良い感じよ。そろそろ、あの子を起こしてみたら?」
スケルトンがこちらを向いた。
急に振り向かれて私は焦ってベッドに潜り込む。
どうしよう!!!
なんだか平和な光景に、ついついぼんやり見てたから全然逃げれてない!
ドアがノックされて、そろりと魔人が入って来た。
私の方に近づいてくる。
汗が額から落ちる。
私、死ぬのかな。
涙が自然とこぼれた。
すっと、涙が暖かい指に拭われた。
その指の優しさに驚いて、思わず目を開けてしまう。
「目が覚めた?」
笑顔の魔人に、もう一度意識を失いそうになった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
目を覚ました聖女さん?は、あわあわとしている。
とりあえず落ち着くように頭を撫でる。
この人は、武器を持ってない。
この人の杖?は、最下層の宝箱に収納しといた。
みんなが嫌がる聖魔法の杖らしいから。
この子もダンジョンの外に放り出しといても良かったけど、武器もない意識を失った女の子を外に放り出しておくのは流石に気が引けた。
それに、なんだろう。
この子の世話をしたいと思ったんだ。
じっと僕を見る目に、少しドキドキして手を離す。
「お腹、空いてない?」
彼女は、ぶんぶんと首を振ったが、お腹がグゥグゥ鳴っていて思わず笑った。
やたらに汗をかいているのも心配だし、顔も真っ青。
彼女の手を引いて、リビングへ連れていく。
ジョエルと僕で作った料理が並ぶ。
「口に合うか分からないけど、食べてみて?お腹空いたでしょ」
ジョエルが声を掛けると、彼女は料理に手をかざしてから、恐る恐る一口食べた。
青ざめた顔が、徐々に色を取り戻す。
頬がふんわりと色付く。
「おいしい!」
そう叫ぶと、驚くスピードで次々と料理を平らげていく。
ジョエルも隣でびっくりしてる。
余りの勢いに僕がクスッと笑うと、彼女は手を止めて一度僕の方をみて顔を赤くして俯いた。
「ごめんなさい、しばらくまともな物を食べてなかったから…」
消え入りそうな声でそう言うと、フォークを置いてしまった。
僕は、笑って申し訳なかったと、彼女にフォークをもう一度渡した。
「僕も一緒に食べるから、好きなだけ食べて?ね?」
そう言うと、彼女は頷いて今度はゆっくりと食べ始めた。
僕も、パクパクと食べる。
次々に二人の皿の上の物が消えて、ジョエルは作り続けてくれる。
いつもの光景。
そこに彼女がいるだけで、なんだか僕は楽しくて、いつもよりたくさん食べた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
勇者御一行による被害状況。
4階までが特に勇者たちに十分対応しきれず多くの被害が出てしまった。
みんな、まさか勇者が本当に入ってくるなんて思わなかったんだ。
すっかり忘れていたし、あまり身体も動かず、避けれなかった。
その結果、少なくとも5人が怪我をした。
もちろん、重症ではない。
どれもちょっとした切り傷だ。
マイティを除いて。
マイティは、そこまで深くは無いものの刺し傷があり、最も重症だった。
今回、誰かの血が流れたことが悲しい。
魔素溜まりで一応はみんな治ったけれど、魔素の量は減っているから、治るまで時間もかかった。
ちなみに、一部には踏み荒らされた畑もあった。
そこは、協力すればあと3日程でなんとか戻るだろう。
それより何より。
ギアだ。
ギアが、聖女を家に住まわせた。
これには、緊急会議が開かれた。
「どうするったって…なあ?」
俺がヒグに話を振ると、ヒグは目を逸らす。
マイティも目をそらす。
そんな俺たちに、ピイが大声をあげる。
「聖女の聖魔法で、うちらみんな、やられちゃったらどうすんの?!」
セイラも合わせる。
「そうよ!勇者の切り傷どころじゃないのよ!私たち消滅するんだから!」
こいつら、意見合うことなんて、あったんだな。
そんなことを、ぼんやり考えていると。
2人の矛先が俺に来た。
「「ちょっとカイ!!!聞いてるの?!このまま聖女をダンジョンに置いておくなんて出来ないでしょ!!!」」
2人で声を合わせて俺に詰め寄る。
あーめんどくせ。
なんとかやり過ごそうとしていると、ドアが開いた。
そこには、ギアと噂の聖女。
聖女は、恐る恐るといった感じでギアの後ろにくっついてる。
おや、ずいぶん仲良くなれたんだな。
ギアも、満更でも無い顔しちゃって。
俺も胸の中があったかくなる。
ギアは、決心したように、俺たちに向けて話し始めた。
「彼女は、レシア。皆も知ってる通り、聖女だ。でも、彼女はここで、僕達のことをもっと知りたいと言ってくれてる。僕は、もう少し、彼女に僕の家にいてもらって皆のことを知ってもらいたいと思ってる。みんな、どうかな?」
黙りこくる皆の中で、初めに口を開いたのはピイだ。
「ギア、あのね。私たちは魔物なの。ギアは人間だから平気だけど、聖魔法は私たちを消すのよ」
セイラも同調した。
「そうよ、ギア。あなたの願いは叶えたいけれど、私たちは…」
そう言う2人に、レシアが恐る恐るギアの後ろから話しかけた。
「ギアから聞いた、ギアの美人なお姉さんというのは、お2人のことですか?」
途端に二人の表情が輝いた。
「なに?その話、詳しく教えてくれる?」
「まあ、間違いはない、わね?」
聖女に急に近付く2人に、レシアはたじろぎながらも精一杯答える。
「えっと…ギアには、強くてかっこいいお兄さんたちと、美人な2人のお姉さんがいると聞きました。みんなとても優しくて心のきれいな人達で…ここにいる皆さんが、ギアの大切な家族だと」
レシアが、ピイとセイラにぎゅうぎゅうに抱きつかれて苦しんでいる。
俺は、ギアに笑って親指を立ててやる。
ギアも、親指を立てて、ニコッと笑う。
ギア、なかなか上手く立ち回るようになったもんだ。
俺なんかより、よっぽど女の扱いに長けてる。
結果、満場一致でレシアは家族に迎えられた。
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