きらきら王子とハウスキーパー生活

にじいろ♪

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第一章

退職からの同居生活

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俺は、3年働いた職場を今日で去る。
俺の手には、小さな花束。
千円くらい?なんて値踏みする自分も何だかな。
最後の挨拶にも、みんな忙しくて誰も集まらない。
忙しくなくても同じか。

笑顔の所長から玄関で花束を渡された。

「これからも頑張って下さい。じゃあ、お疲れ様でした」

この一言で、鍵とか名札とか、諸々返却して終わった。
職場から外へ出ると、少し気持ちは軽くなった。
ああ、もうココへは来なくて良いんだ。
そう思うと、何か枷から抜け出せたような感覚になる。
少しだけ軽くなった足取りで、そのまま寮へ向かうと、既に引越し作業は始まっていた。

「あ、健吾ー!もういいの?」

唯人が元気に手を振っている。
なんだよ、俺より元気じゃん、あいつ。

俺は、手元の花束と唯人を見比べて笑うしかなかった。

「さて、やっちゃいますかー」

唯人や引越し業者のテキパキとした仕事振りを見て、俺に足りなかったのはこれか、なんてぼんやり考えてる間に、わずか6畳の我が城、古くて狭いワンルームは片付いた。
荷物が無くなると、なんだか部屋が広く感じて胸がソワソワした。
薄汚れた壁を眺めると、いろんな思いが込み上げる。


「では、荷物は新居へお送りしますね」

業者さんは、さっさと進めていく。
浸ってる場合じゃない。
俺も、唯人の車の助手席にちゃっかり乗せてもらって向かう。

唯人ってば、超かっこいい車乗ってんじゃん。
なにこれ、スポーツカー?
詳しくないから、さっぱりわかんねぇわ。
そして、運転する唯人は男の俺から見ても、めちゃくちゃカッコイイ。

思わず盛大な溜息がもれる。

「唯人はいいよなー、こんなかっこいい車乗ってて。俺なんか、チャリもねーもん」

笑って運転する唯人を盗み見る。
男の俺から見ても、ほんときれーな顔。
まつ毛長ぇー。肌きれー。
こりゃ、女はほっとかないだろ。

ふっとこちらを見た唯人と目が合う。

「そんなことないよ。つい見栄張っちゃったんだ。でも…健吾にそう言ってもらえるなら、買って良かった」

ドキッとした。
なぜだか、唯人の流し目があんまりにも色っぽくて。

「!!…そそそういうことって、あるよな!わかるー。あ、でも俺は見栄張っても何も買えないけどなー?貧乏って、つらいわー」

笑いにして、なんとか照れた顔を隠す。
どうした、俺。
退職と引っ越しでメンタル不安定なのか?

「ここだよ、我らの新居」

車を駐車場に停めて、おっしゃれ~なマンションへと入って行く。
何階建て?数え方もいまいち分からん。
ドキドキと鳴る心臓を押さえながら、唯人にくっついてエレベーターに乗り込む。
俺の持ち物は古びたリュックだけ。

「夢みたいだな、健吾と一緒に暮らせるなんて」

きれいな顔を、ほんのり染めて唯人が、そんな冗談をかましてくる。

「ははっ新婚さんみたいだな、それ」

俺も唯人に乗っかって、冗談めかして笑う。
やたらにドキドキする胸は、新しい生活への緊張だ。
普通だ、普通。

新しい生活は、俺だって楽しみ。
あまりに好条件過ぎる新しい職場だ。
クビになれば住む所と職を同時に失う。
うっし!気合い入れていかないとな。

唯人の家が、どんなに散らかっていようとも。
覚悟をしてドアが開くのを待った。
唯人が開いた扉の先には果たして…


引っ越し業者さんが優秀で、既にほとんどの荷物は運び込まれていた。
唯人が、全部手配してくれていたらしい。
それよりも、この部屋…

「え、めちゃ綺麗だし、広くね?」

そこは、まだ新しくて広々とした3LDK。
いくら地方でも、それなりにするよな、ここ。

「うん、ほら、前に住んでたとこが恐くなっちゃったからさ、実は…思い切って引越したんだ」

ふんわり笑ってるけど、金持ちはいいよなー。
引っ越し直後だから、あんまり生活感が無くて綺麗なのか、と納得する。
きらきら王子様の汚部屋を期待してたんだけどな。
唯人の物も、全然片付いてるじゃん。
シンプルな部屋だけど、なんか落ち着くナチュラルインテリア?ってやつ。

「まったく、女が原因で引っ越しとか…イケメンも辛いよなー。俺には一生関係ない苦労だわ」

話しながら自分の荷解きをしていく。
俺の荷物なんて大した量も無いから、二人でやればすぐ終わった。

「なあ、でもほんとにいいのかよ?彼女とか部屋に連れて来るのに、俺がいたら気い遣うんじゃねぇ?」

唯人が黙った。んん?あれ、もしかして地雷?

「僕さ…つい最近彼女に振られたばっかりだから、しばらくは誰とも付き合うつもりは無いんだよね…」

ダンボールを見つめながら俯いて話す唯人。
やべ、まさかの傷心中だった…空気読め、俺!
相手は雇用主だぞ!

「そ、そっか。まあ、もし彼女出来たら言えよ?その時は、俺どっか出て行くし」

「ダメ」

急に被せる勢いで拒否したかと思えば、真剣な表情で唯人が俺を見つめてくる。

「どこにも行かないで」

異常に必死な表情の唯人。
はあ?この俺が空気読んでるのに、なんだよ。
どうしたよ、急に。

「へ?あ、行くって言ったって、近くのコンビニとか漫喫で時間潰すくらいだと思うけど?ほら、彼女が帰るまで…」

「ああ…そういうことか」

唯人がホッと息をついている。
うーん、と無い頭をひねる。よじる。つねる。
あ、あれか?一人になるのが恐いってことは…

「もしかして、唯人って、この前言ってたストーカーとかに今も狙われてんの?」

イケメンだから、もはや何でもありえるな。
唯人は、また俯くと少し考える素振りをしてから、ゆっくりと頷いた。

やっぱり!俺はハウスキーパーとガードマンも兼ねてるってことか!だから、あんな好条件だったのか!

「分かったよ、唯人。俺に出来ることがあれば言ってくれ。こう見えても実は腕っぷし強いし、なんでも協力するから、な?」

俺は身体は小さいし、本当は全然強くもないから正直恐いけど、通報くらいは出来るし、大声も出せる。
同居人になることのメリットを今のうちにアピールしておかないと、解雇されたら、今の俺に生きていく術は無い。

唯人の表情は、それでもまだ暗い。
あー、悪いこと聞いちゃったな。
俺、さっきから地雷踏みっぱなしなのか?
そーっと、顔色を伺うと、何か、ぶつぶつ呟いているような…

「…ほんとに?」

唯人が、ゆっくり顔を上げながら聞いてきた。
瞳孔開いてない、よな?

「ほんとに、なんでもしてくれる?」

「あー、うん、もちろんだ。ほら、困った時はお互い様、だろ?ただ、俺に出来ることだけな?」

力無いし、ストーカーの撃退とかは実際は無理だから。俺も怖いし。

「ありがとう。嬉しいよ。ほんとに、健吾に来てもらって良かった」

ようやく唯人が笑った。
あー、やっべ、いきなり関係悪化しなくて良かったー。
ここから叩き出されたら、マジでホームレス一直線だし。

「さて!じゃあ、飯にしよーぜ!俺、作るから材料買いに行こう」

俺は、貧乏暮らしのおかげで、すっかり自炊が得意になった。
大学の頃も居酒屋でバイトしてたし、普通の物なら大抵作れる。

「何食いたい?」

スーパーで二人で買い物をする。
唯人は、にっこにこで、カゴを片手に俺にくっ付いてくる。

「健吾が作ってくれるなら、何でもいいよ」

「あー?お前、それ彼女とか奥さんに言っちゃいけないセリフ、ナンバーワンって知らねーの?『何でもいい』が、一番嫌われんだぞ?」

唯人の、にっこにこの笑顔に、ピシッとヒビが入る。
急に明らかにオロオロしだしたよ、コイツ。
変わってんなー。

「知らなかった…僕、ほんとに健吾に作ってもらえるなら何でも嬉しいから…健吾も…僕のこと…嫌いに、なった?」

「は?俺はなんねーだろ、別に。でも、何が食べたいか、しっかり言ってもらう方がハウスキーパー的には楽だな」

しゅんとしたイケメン。
あーあ、周りの視線がいてーわ。
あいたたた。
いや、冗談言い合ってるだけですけど?

「じゃあ、今日は和食にすっか」

ぱあっと唯人の顔が明るくなる。
キラキラ粒子を撒き散らしてまーす。
ご注意下さーい。

「うん!僕、和食大好き!やった!」

はいはい、イケメンの笑顔ねー。
周りが拝んでるわ。
なんだよ、こいつらもストーカーの一種か?
唯人を連れてくると、いろいろめんどくせーから、今度からは絶対一人で買い物に来よう。


「はー、疲れたー」

買い物が終わって家に帰って来ただけなのに、謎の疲労感。
余計な事を考えると疲れる。

新居の慣れないキッチンだけど、ちゃんと分かりやすく物が配置されてる。
それなりに作れそうだな、と確認する。

「じゃ、作るからそっちで待ってろ」

「僕も手伝う!」

気付けば、ぴったり隣に唯人がいる。
こいつ、こんなキャラだっけ?
いつもキラキラ王子オーラだったのに、なんだかゴールデンレトリバーみたいな大型犬に見えてきた。
俺が無類の犬好きで良かったな。

「いやいや、唯人は料理出来ないんだろ?いいよ、無理しなくて」

唯人が、ピシッと固まる。

「あ…そうだった。ごめん…でも、ほら、僕もこれから覚えたいから!教えてくれない?」

「あー、まあ料理出来るとモテるしな。って、これ以上モテてどーすんだよ!」

思わずピシッと肩を叩いてツッコミを入れる。
てへへ、と笑いながら唯人がさり気なくエプロンを付けて、俺にも渡してくる。
俺も笑いながら受け取ったエプロンの紐を背中に回して…
ん?これ、俺用?てか、お揃い?

「これ、俺の?」

「あ、うん。似合うかと思って」

何なの?何でイケメンって、そんな心遣いの塊なわけ?
自信無くすわー。
誰にでも優しいって条件がイケメンの教科書にでも載ってんの?
そんな教科書あるんなら、小学生のうちに配布してくれよ。

「あー、用意してくれたんだ、サンキュ。シンプルで使いやすそうだな」

お揃いのグレーのエプロンを付ける。
シンプルだけど、よく見ると刺繍がポケットにワンポイントで…ん?名前?
これ、俺の名前入ってね?
KENGO…いや、もうよそう。
これ以上、エプロンについて触れるのは、きっと雇用主の地雷だ。

「さってと、今日のメニューは豚汁、焼き魚、だし巻き卵、ほうれん草のおひたし、山盛り飯だ!OK?」

「大好き!全部好物!じゃあ、僕、大根切るよ」

こういう気楽な男飯っていうのも、いいよなー。
ノリの良い音楽をスマホで流しながら、ワイワイ冗談を言い合いながら作る。
こうして作れば、少しくらい失敗したって美味しく感じる。



「できた!」

いやいや、唯人くん。
君、普通に料理出来るじゃん。
野菜も切るの早かったし。
手さばきも味付けも完璧。

「おーいしーーいっ!!健吾って料理上手いんだね!」

女子アナの食レポ並に感激しながら向かいの席で食べてるけど。

「唯人さ、お前、普通に料理出来るじゃん」

あ、と箸が止まる。
あ、じゃねーよ。

「ほら、料理が出来ないっていうより、料理が出来る時間が無かったんだよ。だから、僕の帰りに合わせて作ってくれるとありがたいなって。僕、いつも残業で帰りが遅いからさ」

「あー、そっか。そういえば、残業ばっかりって言ってたもんなー。大変だよな、先生も」

ぎこちなく笑う唯人を見ながら、ふと違和感を覚える。
だが、そこには触れずに、普通に会話をすすめる。
俺達は、あくまでただの雇用関係だ。
問題を起こさず上手くコミュニケーションが取れれば、それでいい。
深すぎず浅すぎず。

二人で楽しくテレビを観て笑いながら過ごした。
風呂は、俺に先に入らせて、唯人は部屋で仕事をしてたらしい。
家でも仕事とかって、先生も大変なんだな。

風呂から上がって、二人で盛り上がりながら酒を飲んでゲームして、日付が変わる頃には、それぞれの部屋に解散した。

そうなんだよ。
ちゃんと俺用の部屋もある。
俺専用のベッドにごろんと転がる。
この高そうなベッドも唯人が用意してくれたもの。
何年もせんべい布団で寝てたから、柔らかくて肩凝り治るかも。
他のインテリアもカーテンもシンプルで新品。
俺が前の部屋から持ってきた薄汚いカーテンは、雑巾にして捨てよう。

「扱い良すぎて、なんか恐くなるわ」

こんなんで仕事って言えんのか。
呟いて、でも考えるのは無駄、と一瞬で眠りについた。
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