きらきら王子とハウスキーパー生活

にじいろ♪

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第一章

同級生だった僕たち

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今では25歳になる僕と健吾は、元々同級生だ。

大学?違うよ。
高校の同級生。

健吾は勿論、全く覚えてない。
覚えてるはずがない。
僕のことなんて。

高校生の頃の僕は、背が高いだけの根暗で地味な奴だった。
黒縁の度がキツい眼鏡をかけて、いつも猫背で俯いて教室の隅で本を読んでいた。
人見知りで内気で、話も下手で。
友人を自分から作ることも出来ずに、1年生の二学期まで、僕は毎日一人だった。
それが辛くて辛くて。
もう学校なんて辞めようと思いながらも気弱な僕は、ぼっちだなんて親にも言えず、ただ黙って毎日重い鞄を背負って学校に通っていた。

二学期も終わる12月も末頃、僕はとうとう体調を崩して学校を休んだ。
学校に行こうとしたら、お腹が痛くて歩けなくなったんだ。
多分、ストレスだったんだと思う。
一人ぼっちで苦しい思いだけの学校を休めて、僕は心底ほっとした。
でも次の日、病院へ行って医者から問題無いと太鼓判を押されてしまった。
仕方なく、いやいやながら遅れて学校へ行った。
本当はもっと休みたかったが、心配した親が学校まで送ってくれるというのを断れなかった。
憂鬱な気持ちのまま、ノロノロと教室へ向かう。
そうしてようやく教室へ入ると…そこには、誰も居なかった。

なぜだか、僕はその時、ひどく落ち込んだ。
全員から拒絶されてるような気持ちになって。
しんと静まり返った教室の中、もうこの世界に自分しか居ないんじゃないか…と、中2病みたいな発想になっていた。

『カタン』

教室の隅っこの自分の席に座る。
窓の外をただ、じっと眺める。
空は晴れ渡っているけど、僕はこの世界にたった一人取り残されている…
誰も、僕のことなんていらないし、視界にも入らない。

クラスメイトの名前を僕は覚えているけど。
きっと、皆は僕の名前すら知らない。

深いため息をつく。
もう、どうでもいい。
僕の世界は、今までも、これからも、何もかもが灰色だ。

「おーい!次、移動教室だぞ?行かねーの?」

突然、ガララッと教室の戸が開いたと思うと、小柄な男子が顔を出した。
途端、急に僕の灰色の世界に色がついた。
彼の周りから、静まり返った暗い教室が、どんどんと色鮮やかに染められていく。

「っ!あっ、えっ?」

僕は慌てて、ワタワタと次の授業を確認する。
手元を見ようにも、彼から目を離せなくて彼をチラチラ見ながらだから余計に分からない。
教科書が手から滑り落ちていく。

「今朝、変更するってセンセが言ってたらしいぞ。俺、遅刻して今来たから知らなくてさ。やっべーよな。ほら、とりあえず教科書持って行くぞ!」

彼はそう言うと、バタバタと走って教室から出て行った。
とりあえず僕も次の授業の教科書を持って急いで教室を出る。
でも、もう彼は先に行ってしまって居ないだろう。
だって、僕のことなんて誰も…


「準備おっせーよ!ほら、早く行こうぜー」

廊下に出ると、すぐ近くの柱に寄りかかって彼が待っていた。

「あのセンセ、超きびしーじゃん?一人より二人の方が怒られるのも分散されるって!」

そう言って笑う顔から、目が離せなかった。
こんなに眩しい笑顔を向けられたことなんて生まれて一度も無かった。

移動教室では、当然とっくに授業は始まっていて、先生から二人でしっかり怒られた。
憂鬱過ぎて聞いて無かったが、職員室で僕はちゃんと他の先生から予定変更を教えられていたらしい。
僕は、生まれて初めて先生からゲンコツされた。
痛かったし恥ずかしかったけど、彼、松林健吾と一緒という嬉しさの方が勝っていた。

健吾は皆の人気者で、いつも皆の輪の中心にいたから、こんな僕から彼に話しかけることなんて出来なかったけど。

次の休み時間、さっきの怒られた様子が面白かった、と僕に声をかけてくれたクラスメイトがいた。
僕には、なんと奇跡的に二人もの友達が出来た。

二人は、いわゆるオタクだった。
美少女ゲームやら、アニメやらの話が繰り広げられていて僕はせっかく出来た友達の話について行く為、勧められるままに特に興味も無かったアニメ本も買って勉強した。

その本の中で、松林健吾に良く似たキャラを見つけた。
小柄で黒髪で、まん丸で光輝く目。
明るく天真爛漫な性格の男の子だった。
僕の目は、そのキャラに釘付けになった。


僕は、元々、女の子が好きだ。
小学校も中学校も、好きになるのは、かわいい女の子。
優しくてふんわりした雰囲気の女の子が好きだった。
アイドルも可愛いと思うし、なんなら巨乳もいい。

それなのに。

僕は、それから、その男の子のキャラの絵を見ながら一人で抜くようになった。
頭の中では、その黒髪のキャラは松林健吾本人になって、僕を好きだと耳元で囁く。
健吾は耳たぶが弱くて、僕がチロりと舐めると喘ぐ。
全身が敏感で快感に弱く、僕を求めて止まない。
ゆっくりと両脚を開いて僕を誘う健吾はいやらしくて最高だ。

「はっ、あっ!健吾っ健吾っ!」

妄想の中の健吾のナカに僕の煩悩を注ぐ。
実際はティッシュの塊になるだけだから、毎回虚しさが募るが止められなかった。
僕は、ゲイになったのだろうか。
しばらく悩んだが、どうせ彼に告白なんて出来ないんだから悩んでも無意味だと開き直った。
妄想の中では僕は健吾を貪れる。
僕を止めるものなど無く、増々、健吾にのめり込んでいった。
アニメ本から徐々にBL本までも読み漁って健吾に似たキャラを探しては、その相手役に自分を投影して妄想の中で犯し抜く日々。


僕と彼は別の世界に生きているんだ。
いつも沢山の友人に囲まれて明るく笑う松林健吾。
きっと彼は僕の名前なんて知らない。
それでいい。
この世界はそう出来ている。

あれから、ただ僕は彼を目で追うだけで一度も話しかけることなく卒業した。
だが、彼の進学先は、こっそり盗み聞きして知っていた。
彼は声が大きいから、おそらくクラス皆が知っていただろうけど。

彼と同じ空間にいたい。
彼の吐いた息が吸いたい。
ただ、それだけで僕は同じ大学へと入学したんだ。
僕は教育学部、健吾は文学部。
文学部なんて柄じゃないのに、と友人に言われると、その大学で一番入りやすそうだったから、と健吾はあっけらかんと言っていた。
そういうところも健吾らしくて好きだ。

少しでもいいから彼と近付きたい。
あの輪に入って笑い合いたい。
高校の卒業式を終えて、僕は一大決心した。

つまり、見た目を変えることにした。
恥ずかしいけど、いわゆる大学デビュー。
髪を明るく染めて流行りの髪型にしてもらい、分厚い黒縁眼鏡をコンタクトにした。
しかも、少し明るい茶色に見えて黒目も大きくなるカラーコンタクト。
服装は、ネットで調べたものを参考に、〇ニクロで揃えた。
入学祝いに兄と姉が奮発して贈ってくれた時計だけは、学生にしては高価な物だった。


「王子~」

大学に入るとすぐに、そんなあだ名を付けられた。
僕の見た目が王子みたいだと騒がれた。
でも、何も良いことなんて無かった。

化粧の濃い女の子が、ぐいぐいと身体を寄せて来て苦しい。
清楚系に見える女の子も、やたらに胸を押し付けて来る。
今までそんな経験の無い僕は、断ることも、逃げることも出来ずに、ただ笑って流されていた。
女のコが好きなはずなのに全然嬉しくない。

「カフェ入ろうよー」

女の子達は、おしゃれなカフェが好きだ。
皆、大して歩いてないのに、疲れたとかなんだとかで、すぐにカフェに入りたがる。
僕は、両親からの仕送りと家庭教師をやりながら、贅沢をしなければ生活出来る程度のお金しかなかった。
それなのに、彼女達は僕のことをなぜか金持ちと信じているようだった。

「わたし、新作飲みたいー」

奢られる前提で話を進められながらも、僕はただ笑っていた。
彼女達とカフェに入れば、数千円は飛ぶ。
当時の僕には、それはかなり痛い出費だった。
しかも、何の興味も無い話を延々と聞かされて、ただただ気を遣い、常に笑顔でいなくてはならない。

「ねぇ、王子ぃ~♡」

彼女達に囲まれながら、僕は逃げ出したくてたまらなかった。
こんな人達に、お金を使いたくない。
誰か、誰か助けて…

「あー?あれ、噂の王子じゃね?」

そこに居たのは、僕の神様、松林健吾だった。


「うひょ、ほんとに女子引き連れてんなー。俺達、これからマッ〇行くんだけど、王子も行かね?」

昔からの友人のように声をかけてきた。
大学に入って、いや高校のあの日以来、一度も話したことは無かったのに。

「健吾、王子はマッ〇食わねーんじゃね?」

周りの友人達が健吾をたしなめる。
僕の周りの女の子達も、同調する。

「そーよぉ、王子はマッ〇なんかー」

ずっと何かつかえて塞がっていた僕の喉が、初めて開いた気がした。

「行きたいな」

僕は、おそらく初めて自分の気持ちをそのまま言えた。
周りが皆、驚いた顔をしてる中、健吾は嬉しそうに笑った。
その笑顔から光の粒子が弾けて飛ぶ。

「ほーら、王子行くってよ。お前らは?」

健吾の問いかけに、僕の周りでたじろぐ女の子達は明らかに戸惑っている。
僕は彼女達から半歩だけ離れて健吾に近付く。

「僕は彼らと行くから、君たちはカフェに行ったら?僕、もうカフェには飽きたんだ」

僕の言葉に、女のコ達が顔を見合わせて黙っている。
なんだか、とてもスッキリした。

「ーーっく、あははっ!!」

大きな口を開けて健吾が笑う。
周りの友人達も「いいじゃん、王子!」と口々に僕に声をかけてくれた。

僕は、女のコ達と別れて、健吾達と一緒に連れ立ってマッ〇へ行った。
ふわふわして、まるで天国を歩いているような夢見心地だった。


それからも、変わらず女の子達は僕の周りに居たけれど、僕は健吾を見かけると必ず近付いて声を掛けるようにした。
太陽のように明るい健吾に近寄るのは、とても勇気がいった。
でも、そのお陰で、たまに彼らのグループに混ぜてもらえることもあった。
カラオケ、ボーリング、マンガの立ち読み…

それでも僕はレギュラーじゃなかったから。
健吾に今度こそ忘れられないように、何度も何度も名前を教えた。

「王子じゃなくて、唯人だよ。名前で呼んでよ」

僕は、健吾の前では、まるで本当の王子さまのように余裕たっぷりに振舞った。
コミュ障の僕は心の中では、神様健吾様!といつも大騒ぎで汗だくだったけれど。
笑顔で握り締めた掌の汗がひどくで、よくノートがグシャグシャになった。

あれは大学3年の学祭の時。
健吾がこんなことを言っていた。

「あー、就活かー。俺、働けるかなー。何も資格取ってねぇし。誰か養ってくんねーかなー」

それは、軽い冗談として、仲間内で流されて終わった。
僕も一緒になって笑っていた。
けれど、僕の中では、その瞬間から夢を叶えるための計画が組み立てられ始めた。

いつか、僕が健吾を養いたい。
彼と一つ屋根の下で暮らしたい。
それ以上は望まないから、だから…

その目標の為に僕は寝る間を惜しんで勉強し、調べて調べて、出来る限りの努力をした。
教員免許も取れる見込みになっていたから、更にあらゆる資格に挑戦し、地元で最も給料の高い学校へと就職した。
年収は、最初の年から600万だった。
毎年上がっていく給料に加えて、株なども積極的に勉強を重ね、更に収入を増やしていった。
僕の家族も、今の僕の成長ぶりに喜んでくれている。
全ては健吾のお陰だ。

健吾の就職が上手くいかなかったのは、酷いようだけれど僕にとっては幸運だった。
心から神様に感謝をした。
辛い思いをさせて健吾には悪いけれど、それは僕とのいつかの為の布石。
そのいつかの為に、僕はお金を稼いでは貯めた。
僕の外見や金を目当てに寄ってくる女性は全てきっぱり断った。
そうして、3年目で待ちに待ったチャンスが訪れたんだ。
僕は歓喜で叫び出しそうだった。


健吾の為なら、僕はいくらお金を遣っても平気だ。

健吾と暮らせるとなった時から、僕はこれまで貯めてきたお金を一気に使い始めた。
全てが二人での新しい暮らしに必要な物だから、二人暮らしを想像しながらの買い物は、これまでの人生で一番楽しかった。
運転免許だけ持っていたけれど、やっぱりどうしても健吾を乗せたくて初めて車も買った。
彼に似合うと思って買った車は、やっぱり良く似合っていて、そして助手席に健吾が乗っていることが夢のようで、僕は泣きたくなった。
この思い出だけで生きていけるとさえ思った。

でも、正直でまっすぐな彼に、僕は、いくつかの嘘をついてしまっている。
嫌われたくなかった。
出来れば、好かれたい。
同じ空間に居られるだけで良かったはずなのに。
僕のことを好きになって欲しいとさえ、いつの間にか醜い僕の浅ましい欲望は膨れ上がって。
それに…どうしても、彼と暮らしたかったから僕はたくさんの嘘を重ねてしまった。

バレる訳にはいかない。
健吾には絶対に。
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