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第二章
記念日
しおりを挟む「はぁ?」
俺は、最高潮に不機嫌な一言で翌朝も始まった。
それもこれも、コイツのせいだ。
「だから、ね?昨日、僕はちゃんと罰も受けたでしょ?あれ、ほんとにヤバかったんだよ?二度とこっちに戻れないかと思った」
「でも、癖になったんだろ?」
テヘヘ、と笑って頷く唯人。
昨夜のアレが大変お気に召したらしい。
あまりの気持ちよさに目覚めて是非ともまたヤリたいらしい。
俺は心配で心配で、唯人が目覚めるまで一睡もしてないのに。
コイツは、スッキリした顔で元気いっぱいに起きると同時に信じられないことを当たり前のように提案してきた。
「却下」
「えー?なんでー?僕、他にもたくさん用意して」
ギラリ、と睨みつけてやる。
「うっ、ごめんなさい…」
すごすごと引っ込む唯人。
バカに付き合ってらんねぇ。
「朝ごはん作るんだから、邪魔すんな、ぼけ」
徹夜明けの身体を引きずって、フラフラと台所へ行こうとすると唯人に腕を引き寄せられ抱き締められた。
「ごめんね、僕のせいで寝てないんでしょ?家事は全部やっていくから唯人は寝てて?朝ごはんもテーブルに用意しとくから」
俺の仕事、一応ハウスキーパーだけどな。
とは言わずに、お言葉に甘える。
「ん、じゃよろしく」
俺は、自分の部屋のベッドにダイブして、そのまま深い眠りについた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
何か聞こえる。
唯人?
「わぁー、やっぱりカワイイ…天使だ。ふふっ」
何を言ってんだか、全くいつもの唯人だと聞き流して、二度寝しようと寝返りをうつ。
「……?」
何か違和感。
「ひゃあ、スカートめくれちゃうよ、健吾♡やらしいなぁ、もう、絶景♡」
急に意識が浮上してパチッと目を開ける。
ガバっと起き上がると、カメラとスマホを両手にした唯人がヘラヘラ笑ってる。
「あ、目覚めた?健吾。もう夜だよ?とりあえずご飯食べる?」
いつもの唯人だ。
寝すぎたか…
ん?
自分の姿をマジマジと見る。
「これ…なんだよ」
「カワイイよね?男の娘♡やっぱり健吾、よく似合って」
思い切り良く唯人の身体を蹴り飛ばした。
「あうっ!!」
床に転がる唯人。
心無しか悦んでる変態は放っておきたい。
「寝てる間に、また勝手にこんなこと…」
「鏡だけ!鏡だけ見てよ!すごいんだから!」
目をギラギラさせながら姿見を俺の前に持ってくる。
「…誰だコレ」
鏡の中の俺は、バッチリメイクも施されて、どこぞの千年に一度のアイドルばりにかわいかった。
「ねっ!?すごいでしょ?やっぱり僕の思った通りだよ!健吾は芸能人よりカワイイって!」
大興奮の唯人は無視するとして。
俺も見惚れる位にカワイイ。
「やべぇ、こんな娘と付き合いたい…」
鏡の中の俺を見ながら不思議な気持ちになってくる。
「ねぇ、それ浮気?健吾と付き合うのは僕だけでしょ?」
何かバカが喋ってる。
とりあえず、気に入った俺は、そのままで夜ご飯を食べることにした。
短いスカートの下の足がスースーする。
ニーハイソックスって長いけど冬の寒さは凌げねぇだろな。
今は暖かいからいいけど。
そんなことを考えながら、唯人の作ったビーフシチューを食べる。
「うふふっ、ふふっ、ぐふっ」
ずっと唯人が照れながら笑ってる。
気色悪い。
「こんな美人とビーフシチュー食べられるなんて、ほんとに僕は幸せ者だなぁ」
加山○三?
テーブルの下を覗くんじゃない。
絶対領域…とハァハァしてる。
「…出かけても、いいけど…」
俺の呟きに唯人がバッと俺を見る。
「ほんと?ほんとに?いいの?」
小さく頷く。
ぶっちゃけ、この娘は俺も好き。
可愛すぎて、みんなに見てもらいたい位に。
「少しくらいなら…」
「やっっったあぁぁぁぁぁっ!!!!」
俺も、相当に変態だな。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「いらっしゃいませー」
夜のコンビニって、こんなに明るかったか?
ノリノリの唯人の車で、わざわざマンションから離れたコンビニまで来た。
家の近くは、なんとなく気が引けて。
知り合いに会いたくないし。
男の娘ってバレるんじゃないかとビクビクして、俺は家を出てからずっと挙動不審だった。
「何にする?お酒でも買っちゃう?」
唯人は最高に楽しげだ。
俺は短過ぎるスカートの裾を引っ張って、とりあえず頷く。
喋ると男ってバレるし。
「じゃーあー、コレとー」
「あれ?王子?」
不意に掛けられた声に息を呑む。
絶対に振り返りたくない。
この状況では。
そういえば、と今いる場所を思い出す。
なんで気付かなかった、俺。
「あれ?タカヒロくんと、吉田くん?」
呑気な唯人の声に、絶望しかなかった。
「おー、王子じゃーん!これから久しぶりにタカヒロのことで飲むんだ。王子は?ん?あれ?そっちの女のコは?」
吉田は、いい奴だけど絶対的にバカだ。
空気読むとか出来ない奴。
「え?まさか王子…おい、アイツ知ってんのかよ」
タカヒロが小声で焦ったように王子に囁くのが聞こえてる。
大学時代から頭の回転の早いタカヒロ。
聞こえてるよ、ここにいるよ。
「ん?健吾ならここにいるけど?」
そう、唯人も絶対空気読まないもんな。
さあっと血の気が引いていく。
「「はあ?」」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
場所を移して、タカヒロの家。
今は、飲食店の経営をしてるというマンションは、とんでもなく豪華だった。
「ひぇーっ!ヤバ!なんだここ。タカヒロ、超金持ちじゃん!すご!」
俺が絶賛すると、タカヒロは満更でもなさそうに笑ってる。
ムウ、と唯人が面白くなさそうにブツブツ言ってるのは無視。
「別に僕だって広いところに引っ越すことだって出来るけどさ…」
なに対抗意識を燃やしてんだか。
「ま、とりあえず飲もうぜ」
買って来た大量の酒やツマミをおっしゃれ~なローテーブルに置いて、皆胡座をかいて座る。
もちろん、俺も。
「ちょ、ちょ、ちょっと!健吾、だめ!」
慌てて唯人が上着を俺の膝にかける。
心無しか、タカヒロまで顔を背けてる。
「あっはっはっ!そんな格好してても健吾なんだから誰も気にしねぇって!過保護だなー、王子は!」
吉田だけ爆笑してる。
あー、なんかいたたまれない。
とにかく、皆でゴクゴク飲んで食べることにした。
「それにしても、いつもそんな格好してんの?」
冗談のように軽いけど、直球なタカヒロの質問に、しどろもどろになる。
「んなわけねぇだろ。たまたまだよ、たまたま」
いや、どんなたまたま?と自分にツッコむ。
「いやいや、どんなたまたまだよ、お前。そこまでガッツリ化粧までして。普通にびっくりするわ。まさか、あの王子が女と浮気してんのかと思って焦るだろ。危うくお前に電話するとこだったわ」
普通に恥ずかしい。
タカヒロ、優しいし常識人だから。
俺、頭のおかしい変態と思われてるよな?
学校の先生が言ってた、後悔先に立たずってこういうことか。
調子に乗って出かけたりすんじゃなかった。
「健吾が寝てるうちに、全部僕がやったんだよ。完璧でしょ?」
「王子、ヤベぇとは思ってたけど、想像以上だな」
タカヒロはドン引きしてるし、吉田は笑ってる。
「でも、お似合いだよー!美男美女カップル爆誕!て感じ」
「やっぱり?僕もそう思うんだよねー」
吉田と唯人って、なんだかんだと息が合ってる気がするのは気の所為か。
なんとなく和気あいあいとする二人が面白くない。
俺の様子を見てタカヒロが吉田に耳打ちする。
「あ!そうだった…健吾、その…ごめん!」
急にガバっと吉田が頭を下げる。
少し前まで金髪だったのに、今は黒く染めたんだなぁ、なんてぼんやり考えてたから、俺はビクッとする。
「今更だけど、その、オレ、金に困ってて、それで、王子に…」
ああ、とようやく思い出す。
ギャンブルで金欠の吉田に、唯人が金をやる代わりに俺の情報を貰ってたってやつか。
「あー、もういいよ。こうして付き合ったんだし。今となっては、良いきっかけを作ってもらったくらいに思ってる」
ぱあっ!と吉田の顔に笑顔が戻る。
「だよな!こうして女装して仲良く歩くくらいだし、お前ら超お似合いだから結果的に良いことしたよな?!あースッキリしたわ。あの狭い寮の健吾の部屋に盗聴器とかカメラ何台も仕掛けてたの悪かったなーってずっと胸につかえててさぁ?絶対オナニーとか見られてたじゃん?オレなら無理ー」
がふっと吉田の口が大きな手で押さえつけられた。
タカヒロだ。
「おっまえ、空気読め!バカ」
ありがとう、タカヒロ。
でも、一歩遅かった。
「あ、いや、過去のことは、もう僕たちは付き合って…」
唯人が、また言い訳しようとしてる。
また、嘘を隠す為の嘘を付くつもりか。
俺は、膝の上着を投げ捨てた。
「どーいうことか、じっくり説明してもらおうじゃねぇか、クッソ変態王子」
唯人の目がハートになってる。
「僕の女王様がいる♡ーーあがっ!」
頭突きで、コイツのおかしな頭が治るといいな。
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