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第三章
鉄拳制裁
しおりを挟む「………ハァーーーーっ」
久しぶりに、うちのバーに健吾が来たと思ったら、重い溜息ばっかりついて、カウンターで、どんより。
このバカップル、うちのバー潰そうとしてる?
「だから、何があったわけ?話してごらん?」
健吾の好きなナポリタンを作って前に置くと、匂いにつられて健吾が前を向く。
目の下には隈。
寝てないな、これ。
「俺…なんかもう、自信なくなっちゃって…」
「なに?あのバカと付き合ってく自信?」
ぐ、と押し黙る健吾。
ビンゴかー。まあ、そりゃそうか。
「ふぅん、バカとケンカでもしたの?」
「ケンカ…は、してないです。ケンカなんか出来ないし。アイツ、マジで何するか分かんねぇし…また周りに迷惑かかると思うと、何も言えないっていうか…」
はーーぁっと、また溜息。
こりゃ重症だわ。
「うーん…コミュニケーション不足はカップルが別れる原因、第一位よねぇ。健吾は別れたいと思ってるの?」
「いや…別れる訳にはいかないです。俺が別れるなんて言ったら、アイツ」
想像してみる。
あー………
「最悪、自殺するわね」
「でしょ?誰彼構わず巻き込んで、騒動起こして自殺する、よな…」
遠い目をしてる健吾。
ねぇ、アタシを巻き込んでる自覚は無い、のよね?
「ま、とりあえず話してごらんなさい。少し気が楽になるわよ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「とりあえず、アイツのモノをちょん切ってしまいなさい」
アタシからの結論は、それだった。
「いや、さすがに、それは…」
健吾も、結局はバカに弱いから、こうなるのよ。
恋は盲目なんだから、全く。
「唯人は、もう人間じゃないわ。アンタを取られる妄想に取り憑かれたモンスターね」
「モンスター…確かに」
ここまで好きな相手を追い込んで、どうしたいんだか。
あのバカ根暗異常者。
「…よし、アタシに任せなさい。とりあえず健吾は、それ食べたら、うちの二階で寝なさい。あのバカも、うちなら安心するだろうから」
「え?でも…そこまでしてもらうわけには…」
健吾は案外、常識人なのよね。
だから、アイツ相手に悩んじゃうんでしょうけど。
「いいから、そのナポリタン食って、さっさと上行って寝てろ」
「…はい…」
低めの声で一喝すると、すごすごと健吾が二階へ上がっていった。
ハァ…と、こっちだって溜息をつきたくなる。
余計な仕事増やしやがって。
こっちだって、色々忙しいっていうのに。
なんだか、放っておけない。
あの二人に、どこかで自分を重ねてしまう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「アカネママ~っ!健吾来てるよね?」
どうせGPS付けてんだろ、健吾に。
「来てるわよ。すごい寝不足みたいだったから、今、二階で寝かせてるわ」
タバコをふかして、酒を出して座るよう促す。
「え?寝不足?おかしいなー、昨夜は早く寝たはずなのに…」
頭をひねるアホバカ根暗異常者。
「あんたねぇ…病院行ったら?」
ポカンとするアホバカ。
無駄に顔面だけキラキラさせやがって、やってることは完全に常軌を逸してる。
「え?なんで?僕は健康だよ?何をしても健吾は僕から絶対離れないって約束してくれたおかげで、心も身体もスッキリと」
バキッ
正面から、顔面を殴った。
がターンっ!と椅子ごと、盛大な音を立てて後ろへ倒れた。
ま、死にはしないでしょ。
「があっ!かっ!な、なに?なんで?」
鼻血を出して現状理解出来ていない唯人の前に回って、顔に煙を吹きかける。
「自分の胸に聞いてごらん?それで思い当たらないなら、アンタは健吾と付き合う資格ないよ」
唯人は、俯く。
肩をワナワナと震わせて。
「…っ、そんなの、そんなの僕が一番良く知ってるよ…健吾と付き合う資格なんて、最初から僕には無かったんだから」
ほんと、拗れてるわー、コイツ。
「資格が、無いから、無理やり作ったんだ。それなのに、邪魔してくる奴がいるから…全部捏造して、健吾とアイツらの仲も引き裂いて、それで、それで」
「健吾が全部許してくれたって?」
ぱあっと鼻血を垂らしながら笑う。
「そうなんだ!健吾は天使だから、そんな僕でも一緒にいてくれるっ…ゴフッ」
もう一発、左頬を殴る。
他に客いなくて良かったわー。
「ひいっ、なん、で?ちょ、まって」
「アンタは、そうやって助けを求める人の手を取ったことあんの?」
唯人の髪を掴み上げる。
「け、健吾なら、求められる前に…」
「健吾以外よ」
視線が大いに逸らされる。
でしょうね。
「そうやって踏みにじって来た人への罪悪感を、健吾一人に背負わせて苦しませて、悲しませて。アンタは健吾を不幸にさせてんのよ。自分だけ幸せになって、愛する人を不幸にして、それで満足?」
唯人の目が、ウルウルと潤んで涙が溢れた。
「ぼ、僕が、健吾を不幸、に?」
「そうよ。アンタのせいで、健吾は今、不幸のどん底。人が自殺する時って、そんな時なんじゃないの?」
そう言えば、唯人は身体の力を抜いて床にべしゃ、と倒れ込む。
「僕、僕、いつも、自分が幸せなことしか、考えてなかった…のか…」
ブツブツ呟く唯人の顔を手拭いでゴシゴシ拭いてやる。
手間かかる、ほんと。
「健吾に…謝らなきゃ…」
「謝るのは、健吾だけ?」
え、と戸惑うバカ。
コイツの頭の中にいるのは、いつも健吾だけだから思いつきもしないんだろ。
「他に…?えっと…」
しばらく考えて、ようやく思い当たったらしい。
「そうか、僕、健吾の大切な友達を傷つけたんだ…それで健吾の心まで僕が傷つけたのか…」
ようやく気が付いたらしい。
「そうか…そうか…なんで気付かなかったんだろ、そんな簡単なことに…」
ボタボタと涙をこぼしながら、唯人が絞り出すように言葉を続ける。
「なんで、失うまで気付けなかったんだろ、こんな大事なこと…」
泣きながら笑う唯人。
「僕、健吾と別れるよ」
アタシは息をのんだ。
バキィィィーーっ!!!!
まだ殴られていなかった右頬が形を変えて、唯人が反対側へ吹っ飛ぶように倒れたから。
「ーーっ!!?はがっ???」
目を回す唯人。
きつく拳を握り締めて立ち尽くす健吾。
身体がブルブルと震えていた。
「ーーっ、おっまえはーーっ!!!そうやって死にそうな顔して言えば助けてもらえると思って!俺が離れていかないと思って、何度も、何度も、そうやって…!!!」
健吾の頬を涙が伝う。
ほんとの涙は美しい、と思った。
「け、けん、」
「二度と俺にその顔、見せんな」
健吾は、床に放り投げていた荷物を背負ってドアへと向かう。
「ヒッ!!そ、そんな、ぼ」
「俺たち、別れたんだろ?」
冷たい健吾の声と視線で、唯人がヒュッと息を止める。
こっちも、真っ青になってブルブルと震えている。今にも倒れそうだ。
「じゃあな」
バタン、とドアの閉まる音と共に唯人は泣き崩れた。
「自業自得ね」
ふぅ、とタバコの煙を吐いたけれど、気持ちは晴れなかった。
コイツらには、うまくいってほしかった。
「とりあえず、明日は仕事休みなさい」
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