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一章 入学
保健室
しおりを挟む頭に柔らかくそして目覚めようとしているのにまた眠らせようとするものがある。はっきり言えば、枕である。体を無理矢理起こして、眠たげな瞼を開ける。そこは学校施設の一部である保健室だった。此処だけは他のところと同じような設計か。
「てか、俺あのまま眠っていたのかよ!?」
誰もいないであろう保健室で自分自身に突っ込みを入れる。室内に響くだけで響いて、空しさが半端ない。ちょっと、泣きそうだ。
「……うるせぇな」
掠れている声が耳元から聞こえた。まさか、俺以外にも保健室にいたのか。先程の叫びが恥ずかしくて赤面する。人がいても駄目だった。
「なんだお前。……ネクタイとバッチからして一年生か。はぁ、今からやるの?」
銀髪のウルフカットをしたお兄さんがもう一つのベッドから顔を出してきました。シャツのボタンが二個ぐらい外れていて、肌が直接見えてエロい。男性なのにエロいというのも始めてだ。てか、ネクタイとかTシャツなど何故着てない。
「平凡顔で好みじゃないけど、嫌な夢を見たしいいよ?」
銀髪のお兄さんはベッドから起き上がると、俺を倒して床ドンみたいな体制になる。頭が追いついていなかった俺は現状を理解しないでいた。
「えっと、何をやるんですか?」
「何って? ――セックスに決まっているだろう」
「えっ、待て!?俺はその方向には興味ないから!!」
俺は意味がわかると慌てて相手を押し倒す。先程は反対の体制になってしまった。銀髪のお兄さんは呆れたように、「じゃあ、何故此処にいる」みたいな目をしている。
「保健室は怪我や病気の人が使うものです!!」
「あぁー、そんな使い方あったな。忘れてた」
「いやいや、普通の一般常識ですから!」
必死に突っ込んでいると、銀髪のお兄さんは少し笑って頭を撫でてきた。撫でられる意味が分からず、相手が飽きるまで触り続けられた。
「はは、初対面のやつにそのまま頭撫でられるなよ」
「えっ、一瞬のことだから……対処できなかった」
「うわぁ、素直だな。本当、純粋で無垢な瞳しているなお前。まるで動物みたいだ」
動物を可愛がるような黄色の目と触っていく手触りにクラクラと頭が混乱し始めた。このまま、この人に甘えれたらどんなにも快楽なのか。脳内でそう浮かべながら、甘さと優美な香りに落ちそうに……。
「お前ら、此処は保健室ということを忘れていないか?」
図太い声が上から聞こえてきた。それと同時に頭がはっきりと冴えた。俺、一体何をしようとしていたんだ。咄嗟に離れてベッドの隅へと逃げる。カーテンが開けられると、そこにはホストっぽい人が立っていた。
「……もう少しで落ちていたのに邪魔すんなよ。せっかく、手に入れようとしていたところだったのにさ」
「お前のその才能を無駄に使うじゃねぇよ!!……はぁ、若者が駄目になっていた所だった」
「駄目になってよかったけどな。……その方が楽しいだろう?」
「お前なぁ!?」
二人の奇妙な会話に置いてけぼりな俺はただ困惑していた。同性愛に偏見とかはなかったが、いざ襲われると恐怖で体が縮まりそうだ。体が動けなかったことも今だに分からない。あの時、逆らってはいけないと思ってしまった。
「怖がらないでいいよ? ――皆、俺の言う通りになるからさ」
黙っていた俺の考えていることを読み取られたのか、銀髪のお兄さんは薄暗い笑みを浮かべていた。こんなにも考えが読めない人間は始めてだ。鈍感な俺でもこの人は危険だと直視する。
「先生にも邪魔されたし、そろそろ移動するか。俺の名前は双葉灰音。次、会うときまでに覚えとけよ。……お前とはまた会うだろうからな」
「おい、こっちにはお前と話があるだが!?」
「先生、see you again」
「お前、学校にちゃんと来いよ!!」
双葉灰音はベッドから立ち上がると、先生を通り抜けて一瞬のうちに消えていった。先生は溜め息を吐きながら、隅っこにいる俺の方に振り向いた。
「すまんな。アイツが此処を利用としているなんて知らなかったんだ。襲われた恐怖もあるんだし、先に寮へ行って休んだ方がいい」
先生が申し訳なそうに謝っている。俺は慌てて、無理に笑顔で対応する。
「先生のせいじゃないので気にしないでください。蹴り飛ばさなかった俺が悪いので大丈夫です」
俺は足を蹴るようのふりを見せて、現状のことを誤魔化そうとする。人を心配するのはいいけど、心配されるのは嫌いだ。
「そっか。無理だけはするなよ」
「心配してくれてありがとうございます。早くクラス見ておきたいので行ってもいいですか?」
「……俺がお前のクラス担任だ。そろそろ行くとするか。気分が悪いときは言えよ」
「はい」
先生は俺の強がりを理解したのか、それ以上のことを言わなかった。黒いスーツを着ているけど、ホストっぽく見えるけど優しい人だとわかる。やっぱり、見た目で人は決まらないよな。
「はぁ、またアイツを捕まり損ねた。……あとで教頭に怒られそうだ」
あと、苦労人だということも分かった。
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