王道を書いてみたい

ひこ

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一章 入学

先生とケーキ

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沢田に案内をされながら、無事に社会科第三室にやっと着いた。着くまでの沢田との書記の話は少し疲れたけど。学園に関わる役割とは聞いているが、どんなものか不安だ。緊張しながらもドアを開けることにした。

「おぅ、敦と………誰?」

「酷いです!!沢田信明ですよ。中学のときに僕のクラスの担任していたじゃないですか」

「悪いなぁ、他の事で記憶がなくなるからな。次は名前を覚えとくよ」

 変な言い方にも気になったが、急な名前呼びにも驚いた。いや、あんまり気にしないし名前の方を言って欲しい方だが、まぁいいか。

「これから、二人で大切な話をするから沢田は下校するように」

「それは無理なことです!!僕は笹木様に境本の案内を頼まれているのから……」

「書記には俺が伝えとくから。『帰れ』」

「……分かりました。さようなら」

 沢田は何も躊躇いもなく帰っていた。え、先までしつこいほどに周りをうろちょろといたのに。笹木から頼まれていただけで本当は嫌だったのか。微妙に傷つくなぁ。なんか、先生も雰囲気が違うように見えていたような。もう一度確認してみたら、陽気な表情に戻っていた。

「はぁ、おまえもよく大変な事を巻き込まれるよな。そういう、星に生まれたのか?」

「幼馴染み以外で大変な事は起きたことはありませんでした」

「……敬語」

「えっ、うん。起きていなかったよー」

「棒読みかよ」

 先生は棒読みで言葉を直した俺を可笑しそうに笑っていた。うん、俺が知っている先生だ。複雑な心境から安心へと変わり、先生との一対一の話をすることにした。

「外部代表副委員長は外部生の代表の一人の事を表す。学級委員みたいなものだ。2月に一回は集まるための会があるが、……そのときに教えればいいか。よし、説明終わり。お菓子いるか?」

「いやいや、説明終わるの早くないで、すかっ……」

「よし、敬語の罰としてケーキを食べさせてやろう」

「それは罰じゃない!? いや、痛いのは嫌だけど」

「素で話したから、紅茶も追加でプレゼントだな」

「……先生がマイルドな件に関して」

  先生は俺と会話を挟みながらケーキと紅茶の支度を始めていた。最初から準備していたような手順でやっていることに疑問なのだが。今までのあれもあるから言わせてもらうけど、テンポよく話を流されることが多いような気がする。これが台本のあるストーリーなら俺の意思を考えて欲しいレベルだ。別に先生とケーキを食べたくないわけではないし、甘いものは好物だけど。

「俺のお気に入りのお店から取り寄せた特製チーズケーキとミルクティーを召し上がりな」

「……良い匂いですね。ケーキとか色々とあるみたいですが、先生はお菓子が好きなんですか?」

「お菓子は大の好物だ。将来はお菓子の家を食べることを夢としている。はぁ、一日あれば食べきれるのか試したいものだ」

「……大それたような夢をお持ちで」

 色々と残念な本性を現してきている先生を放置しながら、ケーキを口へと放り込む。口の中にふんわりとチーズの風味が広がり、ほろりとした口当たりの生地はしっとりと濃厚。
チーズの甘みと滋味ある味わいがゆっくりととろけていく。一言言えば、「滅茶苦茶美味しいですね!?」と発言をしているぐらいに美味しい。あれだよ、ケーキの宝石箱やぁという感じだよ。

「ミルクティーも一緒に飲んでみろよ」

 先生の言う通りにミルクティーを飲むと、喉越しから後味がさっぱりとして甘美となる。紅茶は家庭科しか飲んだことがなくて嫌な記憶があるが、これなら飲めるし飲みたいと思う。

「アッサムの良い茶葉が手に入れたところだったからタイミングはバッチリなときに来たな」

「はい、来て良かったです。こんな美味しいもん初めてだなぁー。先生の見た目とは違う趣味を知れて、今日の疲れが取れました!」

「まだ、敬語が多いな?」

「えっと、善処させてもらいます」

「ハハッ、あんまり気を使わなくてもいいぞ。今回は交流みたいなものだ。……委員会の重要なことを忘れたと言うのもあるが」

「交流、……忘れた? 」 

「外部代表副委員長について、大事なことを教えようと思ったが忘れてしまった」

 お菓子に吊られていたが、一番重要なことを頭から抜けていた。先生は記憶さえも抜けていた。俺を呼んで来た意味は何だったのか。沢田を追い出した意味などは。俺は苦笑して考えることを諦めた。
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