41 / 66
生きていく街
よんじゅういち
しおりを挟む
学園目前になって、また行きたくないとぐずる百花と、行っちゃやだーと我儘を言う果穂をどうにか宥め、さてどこで時間を潰そうかな、と辺りを見渡す。
この辺は僕は初めて来たから何があるかよくわかってない。
ちょっと歩くか。
「……」
「果穂いつまでむくれてるの」
「……」
「3人は学校行っただけだからまた帰ってくるよ、今日はちょっとだけだし」
「ほんとお?」
「ほんとほんと」
「……じゃあがまんするう」
僕の首にぎゅっと抱き着きながら、まだ寂しそうな声を出す。
その背中を宥めるようにぽんぽんしながら歩く。
まだ学園に向かう生徒もいる。
僕と同じように送ってくる親もいた。
どこの世界でも子を心配する親は変わらないんだなあ。例外もそりゃいるけど。
「あ、果穂見て、薔薇園だ」
いいかおりがすると思ったら。
へー、学園のすぐ隣にこんな場所が。
生徒が見てたりするんだろうか。
部外者が覗いてみていいものかな、学園内じゃないから大丈夫だろうか。
「おはないっぱい、きれいねえ」
「綺麗だねえ」
「ここもようせいさんたくさんいるね」
「へえ」
たくさんいるんだ。
まぁそうだよね、精霊様だって綺麗なとこが好きだよね。
ちょっと見てみようか、と果穂に声を掛けると、うんうんと首を縦に振る。
「お邪魔しまーす」
「しまあす」
誰に言うとでもなく、何となく軽く頭を下げて薔薇園に入る。精霊がいると聞くと無言で入りづらい。
入ると更にすごかった。
赤白ピンク紫オレンジ、更には青い薔薇まで綺麗に咲いていて圧巻である。
自然の花畑とは違い、明らかに手入れのされた園庭。
向こうの世界にいた時はこういうところ来たことがなかったけど、こうやって実際に来てみると圧倒されてしまう。
「へー、こんななってんだ、噴水もベンチもある」
ここでゆっくりする人も居るんだろうな……
隣が学園だというのに音が気にならないのは何か特別な魔法でも掛かってるんだろうか、僕には分からない。
あっちにも行こうか、と果穂に言うと、首を横に振られた。
どうした、と訊く前に、何か音がする。
誰かいる?
そっと覗いてみると、制服を着た女の子が啜り泣いていた。
……これは声を掛けた方がいいやつか、放っておいた方がいいやつか。
いや知らない男に声掛けられても気持ち悪いよな、誰かに絡まれてるとか困ってるならともかく、1人でこっそり泣きたいとかあるだろう。
そう思ってゆっくりUターンしようとしたところで、誰かいるんですか、と声を掛けられてしまった。
……気まずい。
「……すみません、綺麗だなって見てただけなんですけど、人が居るとは思わなくて」
「いえ、誰でも入れるところにいる私が悪いので……」
まだすん、と鼻を鳴らしているのに僕を責めない。
……これはハンカチのひとつでも渡すべきだろうか。
少なくともこのまま帰るのも最低だろうなと思い振り返ると、長いプラチナの髪を垂らした、色素の薄い消えそうな女の子が赤い目をして座っていた。
あー、そんな顔してたらやっぱり放っておくことが出来ない。
「えーと、覗いちゃってごめん、そんなつもりじゃなかったんだけど」
「あ、ありがとうございます……」
ハンカチを渡すと、おずおずと受け取り、そっと涙を拭った。
「その制服、隣の学園のだよね、行かなくて大丈夫?」
「あ、も、もうそろそろ行きます……」
「行きたくない理由とかがあれば別に……」
「いえ、ただの自己嫌悪なので……」
「自己嫌悪?」
「気にしないで下さい、私ネガティブで……涙脆いだけなんです、すぐに泣くのって鬱陶しいじゃないですか、だから1人になれるところにきたつもりだったんですけど」
見つかっちゃいましたね、と苦笑する。
心配してくれてありがとうございます、と僕に頭を下げて、そのまま薔薇園を出ていってしまった。
綺麗な子だったな、まさにファンタジーといえば、といった感じの。精霊様ってああいう感じなんだろうか。
「ごめん、果穂、ハンカチ渡しちゃった」
「んーん……」
そのままハンカチ持って行かれたのに気づいてしまった。
知らん男のハンカチより子供用のものの方が安心かもと思って……
「どうしよっか、どっかでお茶でもするか?」
「ううん……かほちょっときもちわるい……」
「気持ち悪い?食べすぎたかな?食べてすぐ抱えて歩いちゃったからかな……ちょっと横になる?」
ベンチに座って、果穂を横にさせる。
小さい子はすぐ熱を出すから心配はしたが、熱はないようだ。
入学式が終わるまでここでゆっくりさせておこう。
この世界にも一応医者は居るようだけど、出来るだけ診てもらいたくない。
どこから果穂のことが洩れるかわからないから。
精霊のお陰で果穂が体調を崩すことはそうそうないと思ってたんだけど、万全ではないということなのだろうか。
「うーん……」
「大丈夫か、吐く?」
「ううん、だいじょぶ……もうよくなるよ」
「?そうか……」
はあはあと荒い息が落ち着いてきて、その内すうすうと穏やかな寝息に変わった。
果穂の言葉の通りよくなったようだ。
精霊の見える果穂の世界はどうなってるのだろうか。
この辺は僕は初めて来たから何があるかよくわかってない。
ちょっと歩くか。
「……」
「果穂いつまでむくれてるの」
「……」
「3人は学校行っただけだからまた帰ってくるよ、今日はちょっとだけだし」
「ほんとお?」
「ほんとほんと」
「……じゃあがまんするう」
僕の首にぎゅっと抱き着きながら、まだ寂しそうな声を出す。
その背中を宥めるようにぽんぽんしながら歩く。
まだ学園に向かう生徒もいる。
僕と同じように送ってくる親もいた。
どこの世界でも子を心配する親は変わらないんだなあ。例外もそりゃいるけど。
「あ、果穂見て、薔薇園だ」
いいかおりがすると思ったら。
へー、学園のすぐ隣にこんな場所が。
生徒が見てたりするんだろうか。
部外者が覗いてみていいものかな、学園内じゃないから大丈夫だろうか。
「おはないっぱい、きれいねえ」
「綺麗だねえ」
「ここもようせいさんたくさんいるね」
「へえ」
たくさんいるんだ。
まぁそうだよね、精霊様だって綺麗なとこが好きだよね。
ちょっと見てみようか、と果穂に声を掛けると、うんうんと首を縦に振る。
「お邪魔しまーす」
「しまあす」
誰に言うとでもなく、何となく軽く頭を下げて薔薇園に入る。精霊がいると聞くと無言で入りづらい。
入ると更にすごかった。
赤白ピンク紫オレンジ、更には青い薔薇まで綺麗に咲いていて圧巻である。
自然の花畑とは違い、明らかに手入れのされた園庭。
向こうの世界にいた時はこういうところ来たことがなかったけど、こうやって実際に来てみると圧倒されてしまう。
「へー、こんななってんだ、噴水もベンチもある」
ここでゆっくりする人も居るんだろうな……
隣が学園だというのに音が気にならないのは何か特別な魔法でも掛かってるんだろうか、僕には分からない。
あっちにも行こうか、と果穂に言うと、首を横に振られた。
どうした、と訊く前に、何か音がする。
誰かいる?
そっと覗いてみると、制服を着た女の子が啜り泣いていた。
……これは声を掛けた方がいいやつか、放っておいた方がいいやつか。
いや知らない男に声掛けられても気持ち悪いよな、誰かに絡まれてるとか困ってるならともかく、1人でこっそり泣きたいとかあるだろう。
そう思ってゆっくりUターンしようとしたところで、誰かいるんですか、と声を掛けられてしまった。
……気まずい。
「……すみません、綺麗だなって見てただけなんですけど、人が居るとは思わなくて」
「いえ、誰でも入れるところにいる私が悪いので……」
まだすん、と鼻を鳴らしているのに僕を責めない。
……これはハンカチのひとつでも渡すべきだろうか。
少なくともこのまま帰るのも最低だろうなと思い振り返ると、長いプラチナの髪を垂らした、色素の薄い消えそうな女の子が赤い目をして座っていた。
あー、そんな顔してたらやっぱり放っておくことが出来ない。
「えーと、覗いちゃってごめん、そんなつもりじゃなかったんだけど」
「あ、ありがとうございます……」
ハンカチを渡すと、おずおずと受け取り、そっと涙を拭った。
「その制服、隣の学園のだよね、行かなくて大丈夫?」
「あ、も、もうそろそろ行きます……」
「行きたくない理由とかがあれば別に……」
「いえ、ただの自己嫌悪なので……」
「自己嫌悪?」
「気にしないで下さい、私ネガティブで……涙脆いだけなんです、すぐに泣くのって鬱陶しいじゃないですか、だから1人になれるところにきたつもりだったんですけど」
見つかっちゃいましたね、と苦笑する。
心配してくれてありがとうございます、と僕に頭を下げて、そのまま薔薇園を出ていってしまった。
綺麗な子だったな、まさにファンタジーといえば、といった感じの。精霊様ってああいう感じなんだろうか。
「ごめん、果穂、ハンカチ渡しちゃった」
「んーん……」
そのままハンカチ持って行かれたのに気づいてしまった。
知らん男のハンカチより子供用のものの方が安心かもと思って……
「どうしよっか、どっかでお茶でもするか?」
「ううん……かほちょっときもちわるい……」
「気持ち悪い?食べすぎたかな?食べてすぐ抱えて歩いちゃったからかな……ちょっと横になる?」
ベンチに座って、果穂を横にさせる。
小さい子はすぐ熱を出すから心配はしたが、熱はないようだ。
入学式が終わるまでここでゆっくりさせておこう。
この世界にも一応医者は居るようだけど、出来るだけ診てもらいたくない。
どこから果穂のことが洩れるかわからないから。
精霊のお陰で果穂が体調を崩すことはそうそうないと思ってたんだけど、万全ではないということなのだろうか。
「うーん……」
「大丈夫か、吐く?」
「ううん、だいじょぶ……もうよくなるよ」
「?そうか……」
はあはあと荒い息が落ち着いてきて、その内すうすうと穏やかな寝息に変わった。
果穂の言葉の通りよくなったようだ。
精霊の見える果穂の世界はどうなってるのだろうか。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
【完結】平民聖女の愛と夢
ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。
追放された聖女は旅をする
織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。
その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。
国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。
異世界召喚された巫女は異世界と引き換えに日本に帰還する
白雪の雫
ファンタジー
何となく思い付いた話なので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合展開です。
聖女として召喚された巫女にして退魔師なヒロインが、今回の召喚に関わった人間を除いた命を使って元の世界へと戻る話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる